第769話 真相は内緒にしてた方が平和ですね

 昼休みは誰も食堂から動かずに終わり、午後のプログラムが行われる大会議室に全員で移動した。


 今から行われるののは国際会議ではお馴染みのオークションだ。


 国際会議ではあらゆる分野での出品が認められたが、テイマーサミットにおけるオークションではテイマー系冒険者に役立つ物のみ出品が認められている。


 オークションの進行はお決まりになっている茂が担当する。


「定刻になりましたのでオークションを開催します。オークショニアは私、芹江茂が行います。どうぞよろしくお願いいたします」


 茂の挨拶に参加者達が拍手で応じた。


「しげっちなのよっ!」


『(*´艸`)待ってたぞしげっち』


「ゴルゴン、ゼル、茂さんを公の場でそんな風に呼んじゃ駄目です」


 (ゴルゴンとゼルのことはメロに任せておけば安心だわ)


 自分がツッコむよりも先にメロがツッコんでくれたため、藍大はメロに感謝した。


 ゴルゴンとゼルのしげっち発言により、会場内ではしげっちという言葉があちこちで聞こえる。


 優月は藍大の服を引っ張った。


「おとうさん、しげっちってよんじゃだめなの?」


「身内だけの時なら良いんだけど、外で会議みたいな場の時は茂さんって呼んであげような」


「うん!」


「よしよし。優月は良い子だな」


 藍大は素直な優月の頭を撫でて褒めた。


 会場が静かになったタイミングで茂が再び口を開いてルール説明を行った。


 国際会議に参加した者はルールを知っているが、この手の機会に初参加の日本人参加者が複数いたのでルール説明は大事だ。


 ルールを破ったら次からテイマーサミットに参加できなくなると聞けば、誰もルールを破ろうとはしない。


「ここまでで質問のある方はいらっしゃいますか?」


 挙手する参加者はいなかったため、茂は早速1つ目の商品を紹介することにした。


「最初に紹介するのは東洋の魔神が出品するシャングリラ産食材詰め合わせです。美味しい料理を作って従魔との仲を深めたい方は要注目です。こちらは100万円からスタートします」


 藍大だけでなく”楽園の守り人”としても今回のオークションでは商品を出すことになっている。


 最初に食材詰め合わせが出てくるようにして場を盛り上げることを狙ったのだが、参加者は目の色を変えて挙手し始める。


『500万!』


『800万!』


「1,000万!」


「1,200万!」


「1,500万!」


 一気にスタート価格の15倍になった。


 価格UPは10万円が最小限度なのだが、現状だと200万円以上はそれぞれの宣言した価格で差が開いている。


 藍大が水、木、日曜日のシャングリラダンジョンの1階~地下4階までで200万円の価値になる程度の詰め合わせを用意したのだが、まだまだ値段は伸びそうである。


「2,000万!」


「2,500万!」


「3,000万!」


 外国人テイマー達の手が挙がらなくなっているのはまだ1つ目の商品だからだ。


 こんなにポンポンと価格を跳ね上げられるのは余裕のある日本人テイマーぐらいである。


 そして、3,000万円と言ってのけたのは真奈だ。


「おめでとうございます。日本の向付後狼少佐が3,000万円で落札です」


 真奈が宣言した後に誰も続かなかったので、茂は真奈の落札を宣言した。


 会場内からの拍手を集めた真奈は企んでいる笑みを浮かべながら拍手に応じた。


「マスター、少佐は何を一体企んでると思うですか?」


「多分、リル達がいつも食べてる食材を手に入れたこととそれらを使ってガルフ達の喜ぶ顔を見れると思ってニヤけてるんだ」


「真相は内緒にしてた方が平和ですね」


「そうだな。メロは賢いぞ」


 藍大が出品した食材だが、現在では逢魔家の食卓に出て来る機会は少ない。


 それではリル達がいつも食べていると思っているだろう真奈に水を差してしまうから、メロは黙っていることにしたのだ。


 流石は仲良しトリオで一番気遣いのできるメロである。


「次の商品は”楽園の守り人”のゴッドハンドと”近衛兵団”のスライム男爵がタッグを組んで作成したポーションサウナキットです。屋内で熱した薬石に熱湯をかけるだけでそこがポーションサウナに早変わりします。しかも、ポーションの等級は5級、4級、3級と必要に応じて変えていただければ長く使用いただけることでしょう。特別価格2,000万円からスタートします」


「2,500万!」


「3,000万!」


「3,500万!」


「4,000万!」


「4,500万!」


 シャングリラ産の食材の時よりももっとハイペースな競り合いになった。


 前回の国際会議ではビアンキ姉妹が使い捨ての3級ポーション風呂の素を出品したが、そのインパクトをあっさりと塗り替えてしまう物が出て来て五色のクランが本気を出しているようだ。


 その一方、ジュリアはとても悔しそうな顔をしている。


 来年までチヤホヤされるだろうと思っていたが、ポーション風呂の素を上回る商品が出て来たと悟ったからこその反応なのだろう。


 最終的には6,000万円と宣言した重治が競り落とした。


「おめでとうございます。日本の腹黒王子が6,000万円で落札です」


 外国勢が簡単に手の出せない金額になってしまうと日本勢の資金力が物を言う戦いになる。


 これだからオークションというやつは恐ろしい。


「次の商品は日本の死皇帝から人体模型の的です。こちらは死皇帝が死体変換の力を使った時に失敗してしまい、アンデッド型モンスターにはならなかったものの攻撃して完全に消滅しない限り徐々に再生して繰り返し使える的となりました。訓練向けにどうぞ。特別価格300万円からスタートします」


 (呪いの人形の在庫処分?)


 藍大は茂の説明を聞いてそのような感想を抱いたけれど、壊れにくい訓練用の的には需要があるらしい。


『500万!』


『600万!』


『700万!』


『800万!』


『1,000万!』


 日本人テイマーは参戦しなかったが、外国人テイマーにとっては使い減りしにくい的は人気である。


「おめでとうございます。I国の蔦姫が1,000万円で落札です」


 ジュリアの二つ名はソフィアがこっそり根回ししたこともあり、妹蔦教士から蔦姫に変わっていた。


 その影響で少しずつではあるがソフィアに対する付属品扱いが改善されていたりする。


 今までは魔神軍からの出品が続いたが、五色のクランや外国のテイマーからの出品に流れが変わった。


 それらが終わって茂は最後の商品について読み上げ始める。


「いよいよ最後の商品となりました。出品者は東洋の魔神です。これが今日の目玉と言っても良いでしょう。アダマンタイト包丁ですが、ただの包丁ではございません。ボタン操作で三徳型とパンスライサー型、ペティナイフ型に切り替わります。ミスリル製調理器具と違って破壊不能ではありませんが便利で切れ味の鋭い包丁です。特別価格1,000万円から始めましょう」


 変形機能付きのアダマンタイト製包丁はドライザーが余ったアダマンタイトで作ったけれど、”楽園の守り人”のメンバーでは藍大以外に使いこなせる者がいなかった。


 藍大はミスリル包丁を使うから、アダマンタイト包丁はこれをきっかけに従魔のために料理を作ろうと思う人に買ってもらおうと出品した経緯がある。


『1,200万!』


『1,500万!』


『2,000万!』


『3,000万!』


「5,000万!」


 外国勢も最後の商品を落としてやろうと気合を入れたが、3,000万円の次が5,000万円だったことで手が出せなくなった。


 5,000万と宣言したのは白雪だったが、それを超える宣言をする者がいた。


「7,000万円!」


 そう宣言したのは雑食帝だった。


 変形機能がある便利で切れ味の鋭いアダマンタイト包丁はあらゆる雑食を作るのに役に立つと思ったのか、雑食帝から放たれるプレッシャーはすごかった。


 結局誰もその後に続くことはなく、雑食帝が7,000万円で落札した。


「ありがとうございます! これで美海に雑食を作ってもらいます!」


 料理人だけあって美海は調理器具にも拘りがある。


 美海には自分と従魔達が料理でお世話になっているから、雑食帝は彼女にアダマンタイト包丁をプレゼントするのである。


 オークションはこれにて終了し、その後は情報交換会という名の打ち上げだ。


 2日間を通して色々とツッコミどころはあったけれど、会議の進行が邪魔されることなく無事に最後まで進められたのは喜ぶべきだろう。


 国内外のテイマー系冒険者にとって、今年のテイマーサミットは間違いなく参加するだけの価値があったイベントだった。

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