第766話 カッコつけてるんだけど負けフラグ立ってない?

 優月とユノのペアが勝った後、茂が参加者達に声をかける。


「第二試合で戦いたい人は挙手して下さい」


「『はい!』」


 我こそはと手を挙げたのはマルオとルドラだった。


「同時だったのでマルオ君とチャンダさんは1階に降りて戦闘準備に移って下さい」


 茂の指示に従ってマルオとルドラはそれぞれ自分の従魔を連れて1階へと降りた。


 マルオはローラに戦ってもらうつもりであり、ルドラはルーデウスに戦いを任せるつもりらしい。


 ルーデウスはコカナイトからコカキングに進化していた。


 コカナイトの時は硬化した卵の殻を鎧のように纏うコカトリスという見た目だったが、コカキングになった今は殻が威厳たっぷりな衣装のように変化して頭の上には冠が乗っている。


 変化はそれだけでなく、コカナイトの時は飛びたくとも飛べなかったのに対し、コカキングは空を飛べる。


 ようやくルーデウスは空を飛びたいという願いを叶えたらしい。


 レベルも100に到達しており、ルドラがいかにルーデウスの育成に力を入れたのかがわかる。


 その一方、ローラはベルヴァンプのままだが研鑽を積んだことで強さは増しているように思える。


『魔神様の一番弟子の胸を借ります』


「OK。そーいうスタンスなら俺達もちゃんとしないといけないですね」


 双方の準備が整ったと判断して茂は戦闘開始の合図を出す。


「模擬戦第二試合始め!」


「どこからでもかかって来て良い」


 ローラが指をクイクイとやると、ルーデウスが空へと飛び上がる。


『ルーデウス、本気を見せるんだ!』


「ピヨ!」


 ルーデウスは<紫雷羽根サンダーフェザー>で雷を纏わせた羽根の雨をローラに向けて放つ。


「遅い」


 ローラは血で創り出した2本の剣で羽根を受け流しながら距離を詰め、ルーデウスの喉元に2本の剣を突き付けた。


『参りました』


「ピヨ・・・」


 ルドラが降参してルーデウスは悔しそうに鳴いた。


 それでも今の自分では歯が立たないと察したから潔く負けを認めている。


「そこまで! 第二試合、勝者は日本の丸山武臣&ローラ!」


 ルドラの降参宣言を受けて茂が勝負の決着を知らせた。


「ふーん、やるじゃん」


『キレのある動きだったね』


「大したものである」


 サクラとリル、ブラドはローラの動きが良かったと評価した。


 戦闘のプロではない藍大もすごい動きだったと思っていたが、実際に戦うサクラ達は自分達ならどう対処するか考えながらローラの戦いぶりを見ていたらしい。


「マスター、こんな感じでどう?」


「ばっちりでしょ。これなら逢魔さんの一番弟子を名乗っても恥ずかしくない」


「ご褒美ほしい」


「ここでは不味いから後でね」


「わかった」


 ローラにとってご褒美とはマルオの血のことだ。


 大勢の前でローラが自分の血を吸うのは見た目がよろしくないと判断し、マルオは後であげるから今は待つようにローラに告げた。


 だとしても、折角戦ったのにご褒美がないのは悲しいから、ローラはマルオをお姫様抱っこして2階まで飛んだ。


「女子力(物理)が高いですね」


 ボソッと感想を漏らしたのは理人だった。


 (その点で言うと我が家も変わらないんだよな)


 舞やサクラ、仲良しトリオ、リュカは藍大を軽々とお姫様抱っこできる力の持ち主だ。


 だからこそ、マルオがローラにお姫様抱っこされて2階に戻って来たことを普通に受け入れていた。


 まだまだ時間に余裕があるので茂が参加者達に声をかける。


「第三試合で戦いたい人は挙手して下さい」


「「「・・・『『はい!』』・・・」」」


 今度は一斉に参加者達の手が挙がった。


 僅かに他より早かったのは美鈴だった。


「黄さん、少しだけ早かったけど誰と戦いたいとかある?」


「鱗操士同士ですから等々力さんと戦ってみたいです」


「私ですか? わかりました」


 沙耶は美鈴が目立たない自分を選ぶとは思っていなかったので目を丸くした。


 しかし、挑まれた勝負で逃げる訳にもいかないし逃げる理由もないから沙耶は承諾して1階に移動した。


 美鈴が沙耶と鱗操士同士の戦いを希望したのは他の日本のテイマー系冒険者よりも勝率が高いと判断したからだ。


 しれっと優月とユノのペアより弱いと思われていることを悔しく思う沙耶だけれど、優月とユノは第一試合で実力を発揮して自分達が親の七光りではないことを証明した。


 今はそれを真摯に受け止めて鱗操士内でのマウントを取ろうとする美鈴を倒すことに集中するべきなのだろう。


 沙耶と美鈴は1階に降りてそれぞれ戦わせる従魔を召喚する。


『【召喚サモン:トッティ】』


『【召喚サモン:ファル】』


 沙耶が召喚したのは背中に要塞を背負ったリクガメと呼ぶべきモンスターだ。


 種族名はフォートレストータスであり、ランドトータスが2回進化した結果がこの姿である。


 名前や見た感じの通り、AGIを捨ててでもHPやSTR、VITが高めの種族なのだ。


 その一方、美鈴が召喚したファルという従魔はリザードマンと呼ぶには違和感のある見た目をしていた。


 右腕と右脚に赤い蛇の模様があり、左腕と左脚には青い蛇の模様がある。


 そして、普通のリザードマンにはないはずの悪魔の翼が背中から生えていた。


 藍大はファルの見た目からピンと来るものがあってモンスター図鑑で調べた。



-----------------------------------------

名前:ファル 種族:ウァラク

性別:雄 Lv:85

-----------------------------------------

HP:2,000/2,000

MP:2,000/2,000

STR:2,000

VIT:2,000

DEX:1,500

AGI:2,000

INT:2,000

LUK:1,500

-----------------------------------------

称号:美鈴の従魔

   ダンジョンの天敵

アビリティ:<格闘術マーシャルアーツ><火炎拳フレイムフィスト><氷結拳フリーズフィスト

      <闘気鎧オーラアーマー><痛魔変換ペインイズマジック

      <自動再生オートリジェネ><全半減ディバインオール

装備:なし

備考:俺の拳は砕けない

-----------------------------------------



 (カッコつけてるんだけど負けフラグ立ってない?)


 ファルの備考欄に書かれた内容を読んで藍大は苦笑した。


 <痛魔変換ペインイズマジック>でダメージがMPに変換され、<自動再生オートリジェネ>でMPがある限り自動で再生するから拳が砕けないと言えばそうなのかもしれない。


 もっとも、それはあくまで<全半減ディバインオール>で防げる範囲の話なのだが。


 沙耶と美鈴の準備が済んだと判断して茂は戦闘開始の合図を出す。


「模擬戦第三試合始め!」


「先手はいただきます! ファル!」


「はぁぁぁぁぁ!」


 ファルは左腕に冷気を纏わせてトッティに殴りかかる。


 甲羅に攻撃をしても効果が薄いだろうと判断し、ファルはトッティの顔面目掛けて拳を振り抜いた。


 トッティの顔面に自分の拳がヒットした瞬間、ファルはアダマンタイトでも殴ったような感覚に陥った。


 手応えがないどころか自分にダメージが跳ね返っており、おまけにトッティの<自動反撃オートカウンター>で砲撃を至近距離から浴びせられて後ろに吹き飛ばされた。


 殴られたトッティはケロリとしており、今何かやったかと目だけでファルを煽っている。


「ファル、一撃でだめなら何度でも攻撃すれば良いの!」


 美鈴のアドバイスを受けて再びファルはトッティに接近して<格闘術マーシャルアーツ>の補正を受けた拳や蹴りを放つ。


 しかしながら、ファルの攻撃はトッティにほとんどダメージを与えられずに終わる。


 <自動反撃オートカウンター>のせいでむしろファルの方が受けたダメージ量は多いだろう。


「トッティ、遊んでないで倒しちゃってー」


 今まで指示を出さなかった沙耶だが、これ以上は時間の無駄だと判断してトッティに指示を出した。


 トッティは吹き飛ばされたファルに追い打ちをかけるように<魔攻城砲マジックキャノン>を放った。


 威力を調整していたからHPを削り切るなんてことはなかったが、ファルがこれ以上戦えないのは火を見るよりも明らかだった。


「そこまで! 第三試合、勝者は日本の等々力沙耶&トッティ!」


 ファルが倒れたままであることから茂が勝負の決着を知らせた。


「目立たない方の等々力さんもやるじゃん」


「地味に強いですね」


「ちょっと! 目立たない方とか地味は余計ですよ!」


 勝っても存在感のなさでいじられてしまうのは沙耶だから仕方ない。


 その後、何試合か行って時間が来たので模擬戦のプログラムは終了した。

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