第765話 おうまけはテイマーかいにてさいきょう!

 昼休憩が終わって午後のプログラムが始まる。


「午後は参加者同士の模擬戦を行います。ここから先の進行並びに審判は国際会議と同様に日本のDMUの芹江ビジネスコーディネーション部長にお任せします」


「こんにちは。DMUの芹江です。早速模擬戦を行いたいと思います。最初に戦いたい人は挙手して下さい」


「『はい!』」


 一番早く手を挙げたのは優月とルーカスだった。


 優月は昼休憩の時から模擬戦をやりたいと言っていたが、午前はおとなしくしていたルーカスも模擬戦を楽しみにしていたらしい。


「そうしましたら優月君とペナーさんは1階に降りて戦闘準備に移って下さい」


「がんばろうね、ユノ」


「頑張る」


 優月とユノがやる気満々で1階に降りていくのを見て心配になった白雪が藍大に近づく。


「逢魔さん、優月君とユノちゃんは模擬戦に参加しても大丈夫なんですか?」


「問題ありません。私が時々優月達のレベルアップに付き合ってましたから、十分戦えるはずです」


「そうですか・・・。どうしてもまだ子供なので心配になるのですが、見た目で判断してはいけないようですね」


「まあ、もしもピンチの時は私達が模擬戦を終わらせますから」


 藍大がそう言えば優月に万が一の事態が起きることはない。


 そのように判断して白雪はそれ以上何も言わなかった。


 実際のところ、ユノは既にLv85まで成長している。


 ドラゴン型モンスターは希少なだけあって能力値も高く、Lv85でもその能力値と称号がうまくかみ合えばLv100になったモンスターとだって渡り合える実力がある。


 ユノだけに強くなってもらうのは嫌だと言ったため、優月は藍大から覚醒の丸薬と覚醒の丸薬Ⅱ型を貰って三次覚醒者になっている。


 覚醒の丸薬Ⅲ型はまだ早いから、せめてユノがLv100になってからにしようと藍大に止められており、現在は三次覚醒の段階に留まっているのだ。


 竜騎士の二次覚醒で得られた力はドラゴン融合、三次覚醒で得られた力は従魔とのテレパシーである。


 藍大が二次覚醒で留めずに三次覚醒まで許可した理由は二次覚醒による力がドラゴン融合だったからだ。


 優月の場合、ユノが最初の従魔なのでそれが基準となり、ユノのような成長性のあるドラゴンでなければテイムしない。


 ユノは優月を独占できる時間が長いことはウェルカムなので、優月の方針に賛成している。


 その結果、優月はドラゴン融合を使うことがなく三次覚醒で会得したテレパシーの方だけ使っている。


 優月達のことはさておき、1階に降りたルーカスは従魔を召喚した。


『【召喚サモン:フワン】』


 ルーカスが召喚したのはハゲワシの爪と蛇の尻尾を持つ黒い牛だった。


 藍大は初めて見るモンスターだったのですぐにモンスター図鑑で調べる。



-----------------------------------------

名前:フワン 種族:ハンババ

性別:雌 Lv:100

-----------------------------------------

HP:3,300/3,300

MP:3,000/3,000

STR:3,400

VIT:3,200

DEX:2,800

AGI:2,800

INT:2,800

LUK:2,800

-----------------------------------------

称号:ルーカスの従魔

   ダンジョンの天敵

   到達者

   酪農家の守護者

二つ名:

アビリティ:<破壊突撃デストロイブリッツ><紫雷角サンダーホーン><蛇尾鞭スネークウィップ

      <猛毒噛ヴェノムバイト><紫雷波サンダーウェーブ><重力踏グラビティスタンプ

      <自動再生オートリジェネ><全半減ディバインオール

装備:なし

備考:ルーカスのために一肌脱ごうかしら

-----------------------------------------



 (優月達にとって手強そうな相手だな)


 藍大はフワンのステータスを確認してそのように評価した。


 何が手強いかと言えばフワンがタフなことだ。


 フワンの攻撃系アビリティの威力はどれも強いけれど、ユノはそれらを防げるだけの力がある。


 それよりもユノの攻撃がどこまで通じるかが重要なのだ。


 藍大が優月とユノにどう戦うだろうかと期待半分心配半分な視線を送る一方、ユノは人の姿からドラゴンの姿に戻って臨戦態勢になっていた。


 体のサイズは訓練室の広さを考慮した本来よりもずっと小さなものにしている。


 双方の準備が整ったと判断して茂は戦闘開始の合図を出す。


「模擬戦第一試合始め!」


『先手必勝だ! フワン、GO!』


「モォォォォォ!」


 ルーカスの簡潔な指示を受けたフワンは<破壊突撃デストロイブリッツ>で先手を取らんと突撃する。


「ユノ!」


「うん!」


 それに対するユノは<衛星光刃サテライトエッジ>を発動し、8つの光の刃を自分の周囲に回転させながらフワンの突撃を紙一重で避けた。


 ユノの体が紙一重で避けたならば、当然だがユノの周囲を回転する光の刃がフワンの体を斬りつける。


 最初のすれ違いざまの攻防ではフワンだけがダメージを負うことになった。


『マジか。フワン、”大災厄”と戦うぐらいのつもりで戦え! 相手はただの子供とその従魔じゃない!』


「すごい」


「まさかこれほどとは・・・」


 (優月とユノを舐めたら駄目だとわかったか)


 藍大は自分の子供とその従魔のすごさをルーカスや他の参加者達にわかってもらえてドヤ顔になった。


 ルーカスから注意されたフワンは自分の体を傷つけられて怒っていたが、それでも怒りで我を忘れたりはしない。


 今も冷静にユノの動きを観察してルーカスからの指示を待ちつつ<自動再生オートリジェネ>で傷を癒している。


 ユノは優月からテレパシーで指示を受け、フワンに向かって突撃する。


 優月の声による指示が出てから攻撃を仕掛けるものだと思い込んでいたため、ルーカスの指示が遅れてしまう。


『<紫雷波サンダーウェーブ>だ!』


「モォ!」


 突撃するユノに広範囲に向けたアビリティを使えば避けられまいと判断してのことだが、その考えは甘いとしか言えない。


 ユノは使用するアビリティを<吸収王城ドレインキャッスル>に切り替えてフワンのアビリティを無傷で吸収した。


「ユノ!」


「任せて!」


 フワンとの距離を詰めながら<吸収王城ドレインキャッスル>を発動していたため、ユノは至近距離から<極光吐息オーロラブレス>をフワンに命中させることに成功した。


 フワンは<紫雷波サンダーウェーブ>で押し切るのは不可能だと考え、アビリティを<紫雷角サンダーホーン>に切り替えてダメージを負うのは覚悟して攻撃しようとしたけれど、MPを吸収して惜しみなく使うユノの一撃に威力負けしてしまったのだ。


 <極光吐息オーロラブレス>によってフワンの体は凍り付いてしまい、HPも大幅に削られた。


 それだけの結果を出してもユノは余裕そうに振舞っており、いつでも第二射を放てる準備すらしている。


 この状況を打開するのは厳しいと判断したルーカスは諦めた表情になった。


『降参する』


「そこまで! 第一試合、勝者は日本の逢魔優月&ユノ!」


 ルーカスの降参宣言を受けて茂が勝負の決着を知らせた。


 優月は茂の発言を受けて腕を組んで背筋をピンと張る。


「おうまけはテイマーかいにてさいきょう!」


「最強!」


 優月の決め台詞にユノも決め顔で便乗した。


 優月の決め台詞を聞いて魔王軍が黙っているはずがない。


「流石は優月君! 立派だった!」


「カッコ良いよ優月君!」


「次世代も安泰です!」


 それ以外の参加者達は驚きを隠せていなかった。


「信じられますか? まだ子供なんですよ?」


「テイマー界のプリンス爆誕」


『油断しなくても勝てる気がしません』


『魔神様に好きな時に指導してもらえるのは羨ましい』


『優月君とユノちゃんは策士ですね。見事としか言えません』


 CN国をシンシアと共に世界で2番目に強い国にしたルーカスが負けたのだから、こんな反応がポンポン出て来るのも当然である。


 優月と人型に戻ったユノはご機嫌な様子で2階に戻って来た。


「おとうさん、ブラド、かったよ!」


「勝った!」


「よしよし。ちゃんと見てたぞ。流石は俺の子と許嫁だ」


「よくやったのだ。吾輩は最初から勝つって信じてたのである」


 藍大が優月とユノの頭を撫でて褒め、ブラドは自分の判断に間違いはなかったとドヤ顔で言ってのけた。


 その後ろではサクラとリルがひそひそ話していた。


「ブラドってばフワンが攻撃した時にオロオロしてたよね?」


『サクラ、そこは触れないのが優しさだよ』


 さも最初から不安なんてなかったみたいな態度のブラドだが、優月とユノが絡むと心配性になるらしい。


 何はともあれ、模擬戦のプログラムは優月とユノの勝利で盛り上がったのは間違いない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る