第762話 しょうがないさ。真奈さんだもの

 テイマー系冒険者同士の自己紹介が終わり、藍大は次のプログラムの説明に移る。


「次のプログラムは従魔探しです。皆さんには事前にアンケートに答えていただきました。そのアンケートには皆さんがまだ知らなくともこんな特徴のモンスターがいたらテイムしたいという希望を答えてもらってます。それを発表して心当たりのある方からそのモンスターの情報を共有してもらえば、自身で掌握してるダンジョンでそのモンスターを召喚できますよね? 戻ってからテイムしてもらおうという企画です」


 藍大の説明を聞いて何人かの冒険者が目を輝かせた。


 どうやらこのプログラムにかなり期待しているらしい。


「今から回答順にアンケート結果をスクリーンに映しますので、心当たりのある方は挙手して共有して下さい。なお、答えるのが恥ずかしい方のことも考慮し、匿名で回答をいただきました。最初はこちらの回答です」


 スクリーンに映し出されていたのは”私がまだ見ぬレアなモフモフ”という日本語の文字だった。


 しかも、丁寧なことにその下には備考として自分が見たことのあるモフモフを列挙している。


 アンケートは回答者が使う国の言語で回答してもらい、その下に他の参加国の言語で記される形式である。


 この時点で最初に回答した者は特定できてしまうだろう。


 まったくもって匿名にした意味がない。


 参加者達が備考欄に記されたモンスターの種族名を順番に目で追っていくために時間を費やしていると、真奈が我慢できずに口を開く。


「皆さん、私が見たことのないモフモフをご存じないですか?」


 (自分からバラしちゃったよこのモフラー)


 早く教えてくれと言わんばかりに目を輝かせる真奈を見て、リルは藍大に頭を擦り付ける。


『ご主人、天敵1号が企画の趣旨をガン無視してるよ』


「しょうがないさ。真奈さんだもの」


『そっか。天敵1号だもんね』


 チート主人公に対して回りが○○だから仕方ないと言い聞かせるのと同様にリルは自分に言い聞かせていた。


 真奈は匿名だと自分の本気度が伝わらないと思って名乗り出た訳だが、その期待に応えてみるかと手を挙げる者が現れたのはそれから数分後のことだった。


 手を挙げたのはルドラだった。


「待ってました! チャンダさん、どんなモフモフですか?」


『ウガルルというライオンによく似たモンスターです。鬣が嵐に遭ったようなボサボサな感じでして、体の色は暗い緑でした。画像は魔神様に今お送りしますので、スクリーンに映し出していただきたいです』


「わかりました。これですね」


 藍大はルドラから送られて来た画像をスクリーンに映し出した。


 それを見て真奈は目を輝かせてエアーモフモフし始める。


『主人、落ち着いて。あっ、駄目だこれ。聞こえてないや』


 ガルフはエアーモフモフしたらヤバいと思って真奈に声をかけたが、残念ながらガルフの声は真奈の耳に届いていないようだ。


「ウガルル、確かに私は出会ったことがないモフモフのようですね! サミットが終わったらすぐにテイムします! ご協力いただきありがとうございました!」


『ウガルル、君は見つかってはいけない存在にロックオンされちゃったよ』


「ガルフ、嫉妬しちゃったの~?」


 悲しそうな表情のガルフに真奈がニコニコしながら応じると、ガルフは違うんだと首を横に振る。


『別に嫉妬なんてしてない。近い内にウガルルは主人の恐ろしさを知ることになるんだって思って同情しただけ』


「ツンデレ?」


『違うってば。話聞いてよ主人』


「よ~しよしよしよしよし」


「クゥ~ン・・・」


 真奈にモフられてガルフの尻尾は下がりっぱなしだった。


 今日も今日とてガルフは苦労狼である。


 ガルフが真奈にモフられている間に藍大は次のアンケートの回答をスクリーンに映し出した。


 2番目にスクリーンに映し出されたのは”私が食べようと思わないだろう虫型モンスター”という日本語の文字だった。


 虫型モンスターを求める人物はこの会場内において雑食帝のみだ。


「そもそも虫型モンスターを食べようと思わない」


 虫嫌いなサクラは藍大の横でぽつりと呟いた。


 サクラを含む一般的な判断基準ではそうだろうけど、雑食帝の判断基準では虫食べられる。


「どうですかどうですか? これは食べられないだろうって虫型モンスターを目撃した方はいませんか?」


 (クセの強いメンバーは最初から匿名にしなくても良かったか)


 藍大は連続して匿名を希望しないクセの強い冒険者のアンケートの回答が出たため、人によっては匿名にもできるぐらいの設定にしても良かったかもしれないと反省していた。


 勿論、匿名の方がありがたいと考える者もいるから藍大の配慮は考え過ぎという訳ではない。


 最初の2人の自己主張が激しいだけである。


 真奈の時とは違って今度はジュリアがすぐに手を挙げた。


『マウントモスというモンスターはどうでしょうか? オフホワイトのマンモスのように見えるんですが、耳の部分が翅で鼻が触覚なんです。あれを食べようとは思いません。写真はすみませんが撮ってません。私、虫型モンスターの写真を撮る習慣がありませんので』


 新種のモンスター報告で情報料を貰おうとするか、それこそ好きでもなければ虫型モンスターをわざわざ撮影しようとする者は少ないだろう。


 それゆえ、ジュリアになんで写真を撮っていないんだと責める者はいなかった。


 雑食帝もそれは同じだが、写真がなくても彼は全く落ち込んだりしなかった。


「ビアンキさん、ありがとうございます。その情報だけでも私にとっては価値あるものです」


『・・・いえ、こちらこそ大したお力にもなれず申し訳ございません』


 ジュリアは雑食帝に嬉しそうな笑みを浮かべながらお礼を言われ、本当に申し訳なさそうに応じた。


 真奈と雑食帝という強烈な冒険者の回答の後、藍大は3番目の回答をスクリーンに映し出して苦笑した。


 そこには”ビジュアルの良い植物型モンスター”と記されていたからである。


 藍大はチラッと蔦教士の3人を順番に見たが、重治はポーカーフェイスでムハンマドとジュリアは視線を藍大と合わせないようにしていた。


 (どっちもビジュアル重視かよ)


 心の中で藍大はツッコんだが、ムハンマドとジュリアの望む見た目は異なる。


 ムハンマドは幼女を求めているし、ジュリアは主従関係としてイケメンを従えたいのだ。


 またしても業が深い冒険者からの回答が来てしまった訳である。


 ちなみに、ムハンマドの隣ではノッコがすごい形相で彼を睨みながら見上げている。


 私だけじゃ飽き足らずまだ体の小さい植物型モンスターを欲しがるかと目が訴えているのだ。


 ムハンマドは藍大とだけではなく、ノッコとも視線を合わせないように必死である。


 ムハンマドの頑張りが功を奏した訳ではないだろうが、泰造に心当たりがあったようで手を挙げた。


「自分が見たのではありませんが、スクーグスローというモンスターのことをご存じですか?」


 (それを持木さんが言っちゃうの?)


 スクーグスローは黒部ダムダンジョンの”ダンジョンマスター”になってしまったクダオが嫁としてダンジョンに召喚したモンスターだ。


 泰造が以前所属していた”リア充を目指し隊”の元クランマスターが召喚したということで、複雑な感情を抱いていたはずだが泰造はそれを口にした。


 実際のところ、泰造が微妙な気持ちになる対象はクダオであってスクーグスローではない。


 それならば、モテたい気持ちならば人一倍強かったクダオがそのルックスを目当てに召喚したスクーグスローを紹介しようと考えた訳である。


「スクーグスローなら私も写真を持ってます。今、ら・・・魔神様に送りますね」


 泰造に補足する形で口を開いたのは美鈴だった。


 クラスメイトだったことを理由に藍大を呼び捨てにしようとした美鈴を見て、サクラがピクッと反応した。


 それを素早く察知した美鈴は周りに併せて藍大ではなく魔神様と言い直した。


 聴講していた茂はサクラのおかげで美鈴が余計な問題を起こさずに不発で終わったのでホッとしたらしい。


 それはそれとして、スクーグスローの写真がスクリーンに映し出されるとムハンマドが一言述べる。


『お姉さん属性、ナイスですね!』


 そう言った直後にムハンマドの頭はノッコにお仕置きだと言わんばかりにしばかれた。


 この後もアンケートの回答とそれに対する情報が共有され、参加者達は従魔探しのプログラムに大満足だった。

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