第761話 天敵1号は煩悩の数だけ従魔がいるんだ

 藍大と優月の自己紹介が終わってからは日本のテイマー系冒険者が順番に自己紹介する。


「丸山武臣、死霊術士です。従魔の数は5で、誇れる点は道場ダンジョンの13階を突破したことです」


「神田睦美、人形士です。従魔の数は3で、誇れる点はロボットに搭乗して戦うロマンを実現できることです」


「茂木泰造、粘操士です。従魔の数は5で、誇れる点は一度触れたスライムなら大群の中にいても見分けられることです」


 (何それすごい)


 魔神軍の自己紹介を聞いて藍大が興味を持ったのは泰造のアピールポイントだった。


 泰造の従魔が藍大の知っている3体から2体増えていたけれど、その事実よりも泰造のアピールポイントの方がインパクトは強かったのだろう。


 スライム限定でテイムできる粘操士ならそれぐらいできると思ってはいけない。


 現に同じ粘操士であるE国のグレースは泰造のアピールポイントを聞いてあり得ないと目を見開いている。


 自己紹介は真奈をはじめとした五色のクランに移る。


「赤星真奈、調教士です。従魔の数は108で、誇れる点は私がテイムした全ての従魔の名前を1分以内に暗唱できることです」


「赤星リーアム、調教士です。従魔の数は54で、誇れる点はモフモフを吸うことで図鑑に頼らなくてもそのモフモフの体調を把握できることです」


「青空理人、釣教士です。従魔の数は6で、誇れる点は従魔と一緒に釣りに行くので常に大漁なことです」


「菊田結衣、調教士です。従魔の数は6で、誇れる点はマロンの動画再生数がこの前3億回を突破したことです」


「有馬白雪、鳥教士です。従魔の数は10で、誇れる点は従魔が私と一緒に映画やドラマを撮影できるぐらい芸達者なことです」


「黒川重治、蔦教士です。従魔の数は13で、誇れる点は従魔を指揮すれば栄養のない土地を豊かな土壌に変えられることです」


 (真奈さんとリーアム君のアピールポイントがヤバい)


 藍大がそう思うのも無理もない。


 何故なら、それができて何が良いのかわからないからだ。


 1分以内に全ての従魔の暗唱ができなくても問題ないし、モフモフ従魔の体調は吸うという特異的な方法よりもビースト図鑑で確認した方が確実だろう。


 リルは藍大の膝の上で震えている。


『天敵1号は煩悩の数だけ従魔がいるんだ』


「それぐらいいないと真奈さんのモフ欲を満たせないんじゃないかな」


 藍大が真奈の名前を口にすると、真奈がニッコリと藍大の方を見て笑った。


 どうやら真奈は自分の名前に反応してリルが自分に興味を持ってくれたと思っているようだ。


 恐るべき察知能力である。


 理人達のアピールポイントも十分すごいのだが、真奈とリーアムのせいでどうしても2人に意識が向いてしまう。


 リルに天敵認定されるレベルのモフラーはやはり格が違うらしい。


「伊藤狩人、蟲士です。従魔の数は7で、誇れる点はありとあらゆる物を食べるのでサバイバル能力が高いことです」


「等々力沙耶、鱗操士です。従魔の数は6で、誇れる点はフロアボスの隣でダンジョン資源を採集しても気づかれないことです」


 (雑食帝のアピールポイントがいつも通りな件について)


 ありとあらゆる物を食べるとは、食べられるとわかれば見た目が食欲をそそらなくても食べることを意味する。


 つまりは雑食だからどこでも食料不足になりにくいということであり、それがいつもの雑食帝だということだ。


 沙耶のアピールポイントも普通にすごい隠密性だけれど、雑食帝のキャラの強さに霞んでしまっている。


 目立てていないという意味では彼女もいつも通りであると言えよう。


「全員分の自己紹介をしてから質疑応答だと整理できなくなるので、ここで一旦質疑応答の時間とします。前半のメンバーに質問がある方は手を挙げて下さい」


 真っ先に手を挙げたグレースを藍大は指名した。


『皆さん、自己紹介ありがとうございました。持木氏に質問があります。一体どうやれば一度触れたスライムなら大群の中にいても見分けられるようになるんですか?』


「スライムへの愛がなせる業です。スライムという種は融合の可能性が多様であり、強化のルートも他の種よりも多いです。モフラーがモフモフと戯れるのと同じようにスライムと触れ合えば自然とその境地に辿り着けます」


 (泰造さん、ヤバい領域に入ってますね。スララーと呼んだ方が良いですか?)


 知らぬ間に泰造がスライム版モフラーになっていたため、藍大は新たに言葉を作っていた。


 大半の参加者はマジかこいつという目で泰造を見ていたが、モフラー達は泰造もフィールドは違えど境地に至ったかと嬉しそうな表情をしている。


 業が深い者達にしかわからない世界なのだろう。


 グレースは泰造と同じぐらいになるにはまだまだ自分は甘かったと反省していた。


 帰国して意識の変わったグレースを見て、友人のキャサリンがどんな反応をするかが気になるところである。


 グレースの次に手を挙げたのはムハンマドだった。


『黒川さんに質問です。EG国の砂漠でも緑を増やせると思いますか?』


「私は従来不可能とされたことを可能にできるのが従魔の力だと考えてます。一般的に無理だ無謀だと言われることであっても、トライ&エラーを繰り返せばEG国の砂漠でも緑は増やせるのではないでしょうか」


 (リアル俺理論じゃないですか)


 藍大は掲示板の俺理論の正体が重治だと知っているから、ムハンマドに対する重治の回答が俺理論の回答っぽく聞こえた。


 後のプログラムのことも考えて一度質問を締め切り、今度は海外組の自己紹介に移った。


『シンシア=ディオン、調教士です。従魔の数は96で、誇れる点はモフモフの声を聞くことで図鑑に頼らなくてもそのモフモフの体調を把握できることです』


『ルーカス=ペナー、調教士です。従魔の数は48で、誇れる点はモフモフ従魔の抜け毛を使って自作したモフモフパジャマがあることです』


(ディオン姉弟は似た者同士だったか)


 弟がモフモフを吸えばモフモフの体調がわかると言えば、姉はモフモフの鳴き声で体調を理解できると言った。


 嗅覚と聴覚という違いはあるが、モフモフを五感頼りに診察できるという点で共通する点ではやはり姉弟なのだろう。


 その一方、シンシアの陰に隠れて今まで目立っていなかったルーカスもかなり業が深そうなモフラーだった。


 モフモフ従魔の抜け毛を集めてモフモフパジャマを作り、それによってモフモフに包まれる幸福を味わっているのだとしたらかなりのモフラー上級者である。


 リルが警戒している以上、少なくともルーカスは天敵予備軍には入っているに違いない。


 次は泰造に質問したグレースの番だ。


『グレース=エバンズ、粘操士です。従魔の数は12で、誇れる点はスライムと協力したゲリラ戦術です』


 スライムという多少なら変形ができる従魔を操って行われるゲリラ戦術が上手くいけば待ち伏せという点ではかなり手強いのだろう。


 障害物がある場所で力を発揮しそうである。


 この後は藍大の教え子達の番に移る。


『ルドラ=チャンダ、鳥教士です。従魔の数は4で、誇れる点は従魔と協力して空と地上から攻める戦術です』


『ムハンマド=アジール、蔦教士です。従魔の数は5で、誇れる点はEG国の砂漠化の進行を止めたことです』


『ジュリア=ビアンキ、蔦教士です。従魔の数は5で、誇れる点は”西洋の聖女”のスキルに並ぶ回復手段を会得したことです』


『マリッサ=ライカロス、調教士です。従魔の数は7で、誇れる点は従魔と仲良しで毎日いつも一緒に寝てることです』


『インゲル=ハンセン、調教士です。従魔の数は5で、誇れる点は基本的ではありますが従魔同士の連係戦術です』


 (ライカロスさん、真奈さんにロックオンされてるぞ)


 モフランドやモフリパークにいる従魔は基本的に真奈の自宅には来ないから、真奈はモフモフ従魔と一緒に寝ようとするならばガルフ達にお願いしないといけない。


 しかし、マリッサはそんなことをしなくても一緒に寝ている口ぶりだったので、真奈から羨ましそうな視線を向けられたのである。


 最後は美鈴だ。


『黄美鈴、鱗操士です。従魔の数は3で、誇れる点を強いてあげるならば持久戦が得意なことです』


 (他と比べて地味だな。その点言えば等々力さんに優位性がありそうだ)


 目立たないアピールポイントだとしても、同じ鱗操士の沙耶の方が冒険者としての生産性は高そうに聞こえる。


 藍大がそう思ってチラッと沙耶の方を見たら、目立たないようにこっそりとガッツポーズをしていた。


 沙耶も藍大と同じように思ったらしい。


 その後、質疑応答を経てプログラムは次の内容に進んだ。

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