第760話 リル君のツンいただきました
1週間後の月曜日、藍大はサクラとリル、ゲン、ブラドに加えて優月と人化したユノを連れてDMU本部にやって来た。
「優月もユノも緊張してなさそうだな」
「うん! たのしみ!」
「優月は私が守る!」
「その調子である」
優月はワクワク全開であり、ユノは何があっても優月は自分が守ってみせると拳を握る。
そんな主従の様子を見てブラドはこれなら大丈夫そうだと安心している。
完全に目線が保護者である。
「リル、今日は主のすごさを周りに思い知らせよう」
『そうだね。ご主人がNO.1だもんね』
「あんまり張り切らなくて良いからな?」
サクラもリルも世界のテイマー系冒険者が集まるテイマーサミットで藍大が世界一であるとアピールする気満々だ。
何かやらかしそうな気配を察知して藍大は程々で良いんだぞと止めに入る。
藍大達がDMU本部に入ると茂が藍大を迎えに来た。
「あっ、しげっちだ! おはよう!」
「おはよう優月君。それに藍大達もおはよう」
逢魔家の子供達は茂をしげっち呼びするのがデフォルトだ。
茂も優月達から茂おじさんとは呼ばれたくないからしげっち呼びを認めている。
「おはよう茂。もう大会議室に行った方が良いか?」
「いや、まだ早い。藍大達が会場に早くいるとそれより遅く来た人達が委縮しちゃうから、俺の部屋で時間を潰そう」
そう言って茂は藍大達を自分の仕事部屋に連れて行った。
茂の部屋に来て優月とユノは嬉しそうにしている。
「ユノ、ここがしげっちのへやだよ!」
「国際会議では定番の場所だね!」
「おい、藍大」
「なんだよしげっち?」
「お前がしげっち言うな。優月君とユノちゃんに余計なことを吹き込んだのは誰だ?」
自分の部屋が観光名所みたいな認識をされているので茂が藍大に訊ねた。
ぶっちゃけ訊くまでもないが一応確認は大事なのだ。
「ゴルゴンとゼルだな。昨日ひそひそ話してたのを見た」
「やっぱりか・・・。優月君もユノちゃんもここはそんな楽しいところじゃないぞ?」
「そうなの? リルはここがいちばんDMUでたのしいばしょっていってたよ?」
「リル?」
ゴルゴンとゼルが自分の部屋を観光名所扱いしているとは思っていたが、リルまでそう思っているとは予想外だったので茂はリルにジト目を向けた。
しかし、リルは動じることなく堂々としていた。
『いつもこの部屋で食べる国際会議のお弁当が楽しみだもん。嘘は言ってないよ?』
「それはまあ、そうだな・・・」
茂はリルの言い分を聞いて頷いてしまった。
リルにとって国際会議よりもその昼休みにここに来て弁当を食べることの方が楽しみだ。
その様子は見ていればわかるので納得してしまったのである。
「今日も昼はここに来るんでよろしく」
「他の参加者と飯食えよ」
「それは夜の懇親会でやるから良いんだよ。大体、俺が作った料理にみんな注目するから食べにくいんだ」
「確かにそうだな。藍大メシは美味いから仕方ない」
藍大の言い分を聞いてそれでは落ち着けないから仕方ないと茂は納得した。
なんだかんだで茂は藍大に甘い。
これも幼馴染だからなのだろう。
さて、時間も適当に潰せたので藍大達は大会議室へと移動した。
藍大達が部屋の中に入ってすぐに魔神軍のメンバーが挨拶にやって来る。
「逢魔さん、皆さんもおはようございます!」
「「おはようございます」」
「おはよう。あの、わざわざ大きな声で挨拶しなくて良いからね? 別に体育会系じゃないし。会場内の注目を集めちゃってるし」
マルオと睦美、泰造の挨拶のせいで会場内の注目を一気に集めてしまい、会場内にいた参加者達が列になって藍大に挨拶に来た。
「逢魔さん、おはようございます! リル君、私が来ました!」
「おはよう! 僕もいるよ!」
『私も来たぞ!』
『おはようございます。どうぞそのままUターンして下さい』
「リル君のツンいただきました」
『「いただきました」』
『ご主人・・・』
挨拶してから冷たくあしらってもそれは我々の業界ではご褒美ですぐらいの感覚でいる天敵1号~3号に対し、リルは打つ手がないと思って藍大の後ろに隠れる。
「よしよし。俺がいるから大丈夫だぞ」
藍大はリルの頭を撫でて落ち着かせた。
リルは藍大に撫でてもらったおかげで落ち着きを取り戻したらしく、体の震えが止まった。
真奈達は後ろが待っているのでおとなしく横にずれた。
その後ろには雑食帝と下半身も人の姿になったディアンヌがいた。
「逢魔さん、おはようございます。みなさんもおはようございます」
「おはようございます。あれ、ディアンヌさんは人化を覚えたんですか?」
「そうなんです。雑食を布教するのに虫型モンスターってだけで警戒されることもありますから、ディアンヌが<
(サクラ、良かったな。これでディアンヌを警戒しなくても大丈夫だぞ)
サクラも虫型モンスターの見た目を苦手としているので、ディアンヌが<
サクラはディアンヌのことを嫌っている訳でもなく、恋愛相談に乗ったこともある仲ではあるからディアンヌが人型になってくれたおかげで話しやすくなったと言えよう。
雑食帝とディアンヌの後に並んでいたのは白雪だった。
「逢魔さん、皆さん、おはようございます」
「おとうさん、このひとテレビのひと?」
「そうだぞ優月。女優の有馬白雪さんだ。ほら、ゴルゴン達が見てるドラマにも出てるだろ?」
「すご~い! ほんものだ~!」
優月が自分を見てテンションが上がってくれたことを嬉しく思い、白雪は微笑みながらしゃがんで優月に挨拶する。
「おはよう、優月君。お父さんにはいつもお世話になってます。有馬白雪です」
「おうまゆづきです! こっちはユノです!」
「おはようございます。優月の婚約者のユノです」
(おっと、ユノが有馬さんに嫉妬してるな?)
ユノは優月の腕を抱いて優月は私のものだとアピールしながら白雪に挨拶した。
白雪は笑顔のままユノを安心させようと話を続ける。
「ユノちゃん、大丈夫です。私は貴女の優月君を奪ったりしませんから。優月君、とっても可愛い婚約者さんですね」
「うん!」
「・・・それなら良いの」
白雪が敵ではないと理解したらしく、ユノは白雪に対する警戒度を下げた。
その後も全参加者が藍大達に挨拶をしたことにより、藍大達が席に着けたのはそれから10分後のことだった。
参加者全員が席に座っていることを確認し、藍大の司会でテイマーサミットを始める。
「皆さん、本日はお集まりいただきありがとうございます。皆さんにとって実り多き時間にできるよう円滑な進行にご協力下さい。これより第1回テイマーサミットを始めます」
藍大の開会宣言を受け、参加者達はお互いの顔を見て余計なことをしないこと、連れて来た従魔達に余計なことはさせないようにと合図した。
この一体感は国際会議の冒頭に似ているかもしれない。
余計なことをする人がいないのはありがたいことなので、藍大はその一体感を好意的に受け止めた。
「さて、最初のプログラムは自己紹介です。皆さんの知名度は高いように思いますが、知らないこともまだまだあるはずです。それを考慮して私からのリクエスト付きで自己紹介をしてもらいます」
そう言って藍大は大会議室のプロジェクターに自己紹介のテンプレートを映し出した。
そこには名前と職業に加え、従魔の数や自分が他のテイマー系冒険者に負けないと思う点と記されていた。
「では例として私の自己紹介を行います。逢魔藍大、従魔士です。従魔の数は17で、誇れる点は私のパーティーはどんな敵が相手でも常勝無敗であることです」
「逢魔さんまじかっけぇ」
「「「・・・『『さすまじ』』・・・」」」
マルオがぽつりとつぶやいた後、参加者達が口を揃えて藍大を称えた。
「とまあこんな感じでお願いします。次は息子の優月に紹介してもらいましょう」
藍大に言われて優月が笑顔を浮かべながら立ち上がった。
「おうまゆづき、りゅうきしです。じゅうまはユノだけです。ぼくのとくぎはドラゴンにすかれることです」
優月が自己紹介した直後、会場内の参加者が固まった。
本当にそうなのかという視線が藍大とブラドに集まったため、藍大は優月の自己紹介を補足する。
「優月は”ドラゴンの友達”の称号のおかげでドラゴン型モンスターから好かれやすい体質です」
「「「・・・『『さすゆづ!』』・・・」」」
この自己紹介によって優月も藍大と同じく常識外れなのだと知れ渡った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます