第755話 そんなこともあろうかと録画しといた

 マディヴァルキリーが出現しなくなった通路には、藍大達の道を塞ぐように巨大な立方体のブロックが安置されていた。


「邪魔だね~。壊す?」


 安置されたブロックの意味を特に考えることなく、舞はすぐに壊そうかと提案した。


 それに待ったをかけたのはリルだった。


『舞、壊しちゃ駄目だよ。これ、壊したらその後で僕達が困るギミックだもん』


「なるほど。舞なら障害物を見てすぐに壊そうとするから、ブラドはそれを狙ったのね。流石ブラド。舞のことをよくわかってる」


「エヘヘ、仲良しだからね」


『断じて仲良しではないのである!』


 (とか言ってるけどどっちも食いしん坊だし、なんだかんだ仲が良いと思うぞ?)


 テレパシーで抗議するブラドに対して藍大は仲良しだろうと心の中でやんわり反論した。


 それはそれとして、今は目の前のギミックをどうにかすることが先決だ。


「リル、このギミックはどんな仕掛け?」


『ギミックの名前はチェーンブロック。ダンジョン内に最低3つ以上仕掛ける必要があって、正しい方法以外で壊すとそれ以降のブロックの強度が増すんだって。このブロックは一撃を与えてから3秒以内にそれと同程度の衝撃を与えて壊さないといけないよ』


「同程度ってことは二度の攻撃に差があり過ぎると駄目なんだな?」


『うん。どうする? 誰が壊す?』


 この場にいる全員が正しくブロックを壊せるだけの実力があるから、どうやってというよりも誰がやるかという点でリルが訊ねた。


「私がやる」


 名乗り出たのはサクラであり、サクラはそのまま<深淵支配アビスイズマイン>で2本の深淵のレーザーを同時に射出してブロックを壊した。


 器用なサクラの対応で難なく1つ目のブロックを壊した後、次に現れたブロックは正八面体で下の端が地面から少し浮いていた。


「リル、今度はどんな仕掛け?」


『ブロックを壊すだけの力をぶつけたら、その衝撃がぶつけた相手に反射されるんだって。それに耐え切るとブロックが壊れるらしいよ』


「それなら私がやる~」


 頑丈さで言えば装備も含めて舞が一番なので、舞の立候補に誰も対抗しようとはしなかった。


 戦闘モードになった舞は正八面体の正面にある角目掛けてミョルニルをフルスイングする。


「壊れろゴラァ!」


 ミョルニルが触れた瞬間、ブロックが粉砕した。


 衝撃が反射したのか自分の目にはわからなかったので、藍大はリルの判定を聞くことにした。


「・・・リル、今のはセーフだと思う?」


『大丈夫だよ。衝撃が反射したけどミョルニルによって再びブロックにその衝撃が反射したのが見えたから』


「何その高度な攻撃。全然わからんかった」


「ドヤァ」


 舞は達成感からドヤ顔になった。


 藍大はちょっぴりヒヤッとしたけれど、舞が問答無用でブロックを壊さないでいてくれたことに感謝した。


 3つ目のブロックは球体であり、このブロックは僅かに隙間風の音が聞こえるぐらいしか通路との間に穴がなかった。


『この球体が最後のブロックみたいだね。このブロックに一旦触れた後、ルーレットが回り始めるからいつ壊すかによって壊した後にブロックの中から出現するモンスターが変わるみたいだよ』


「これが最後って言ってたけど、ルーレットを回さずに壊すとどうなるんだ?」


『壊したパーティーが入口に強制的に転送されてやり直しだってさ』


「舞をメタってるじゃん」


「もう、ブラドってばそんなに私のことを意識してたんだね~」


『意識じゃなくて警戒なのだ!』


 舞の発言を受けてブラドはテレパシーで反応するが、その声は残念ながら藍大にしか届いていない。


『今回は僕が壊すよ』


「頼んだ」


 藍大が許可を出した後、リルは一旦ブロックに触れてルーレットを回し始めた。


 ルーレットにモンスターが表示されるのかと思いきや、ブロックが虹の七色に順番に光り、その速さは余程DEXが高くなければ狙った色のタイミングでブロックを崩せないレベルだった。


『お肉出て来~い!』


 リルは食べられるモンスターが現れることを期待して<雷神審判ジャッジオブトール>を放った。


 雷撃がブロックを壊した直後、ブロックの中から百足黒龍と呼んでしまいそうなモンスターが現れた。


 しかし、よく見てみると四本脚で百足のように見えてしまうのは体から伸びていた鱗のせいだとわかった。


 サクラが一瞬その見た目に身構えたが、すぐに巨大百足ではなく百足っぽい鱗の黒龍だとわかってホッとしていた。


 藍大は現れたモンスターを確認するべく、モンスター図鑑を視界に出して敵の正体を調べ始めた。



-----------------------------------------

名前:なし 種族:ウシュムガル

性別:雄 Lv:100

-----------------------------------------

HP:3,500/3,500

MP:3,000/3,000

STR:3,000

VIT:3,000

DEX:2,000

AGI:2,000

INT:3,000

LUK:2,500

-----------------------------------------

称号:特攻野郎

   到達者

アビリティ:<破壊突撃デストロイブリッツ><緋炎吐息クリムゾンブレス><大地隆起ガイアライズ

      <隕石雨メテオレイン><幻影噛ファントムバイト><拒絶リジェクト

      <自動再生オートリジェネ><全半減ディバインオール

装備:なし

備考:なんもかんもぶち壊してやる

-----------------------------------------



 (”掃除屋”でもフロアボスでもないのに強めだな。まあ、食べられるから良いか)


 藍大も食いしん坊ズ程ではないが、テイムする気がない場合はモンスターを食べられるかどうかで判断している。


 リルもウシュムガルを鑑定して食べられるモンスターとわかっているからか、尻尾をブンブンと横に振っている。


「リル君が喜んでるってことはこのモンスターは食べられるんだね?」


「正解。ウシュムガルLv100。ドラゴン型モンスターで壊すのが得意だ」


「ぶち壊してやるぶち壊してやるぶち壊してやるよぉぉぉぉぉ!」


 藍大が簡潔にウシュムガルについて説明したら、ウシュムガルが破壊衝動に従って<破壊突撃デストロイブリッツ>を発動した。


 巨体が突っ込んで来たけれど、藍大達は舞が雷光を纏わせたミョルニルを振りかぶった時点で自分達に攻撃は届かないと確信した。


「ぶっ飛べ!」


 雷光だけでなく、ヤールングレイプルとメギンギョルズ=レプリカで強化されたミョルニルの一撃を受けてウシュムガルの体は後方に大きく吹き飛んだ。


「クリティカルヒット!」


「舞は何処まで強くなっちゃうんだろうね」


『ご主人のフルコースを食べればもっと強くなると思うよ』


「メギンギョルズを手に入れたらもっと強くなるはずだ」


「うわぁ」


 引いているのはサクラだけでリルは舞が強いことを喜ばしいと思っている。


 いや、サクラも藍大を守る観点で舞が強くなることを喜んでいるけれど、物理攻撃では勝てる気がしないのでもしもハグされたらどうしようと関係ないことを考えて引いているのだ。


 ひっくり返ったウシュムガルはまだ僅かにHPが残っていたが、舞はもう一度殴ってきっちり仕留めた。


「みんな~、終わったよ~」


 ウシュムガルを倒した舞はゆるふわな雰囲気に戻って笑顔で藍大達の前に戻って来た。


「お疲れ様。まさか二撃で仕留めるとは思わなかったよ」


「一撃目が綺麗に決まったからね。自分でも良いスイングができたって思ってたんだ。あぁ、録画をお願いしておけば後で見返せたのに・・・」


「そんなこともあろうかと録画しといた」


「藍大すご~い! 私と以心伝心だね!」


 舞は自分が言わずとも藍大がその望みを先読みしていたことでご機嫌になり、藍大に笑顔で抱き着いた。


「舞だけは良くない。私も」


『僕も忘れちゃ駄目だよ』


「よしよし。愛い奴等め」


 サクラとリルが自分に甘えて来たため、藍大達は家族サービスの時間に突入した。


 舞達が満足した後、ウシュムガルを解体して魔石以外を収納リュックにしまったタイミングでゲンが憑依を解除して藍大の前に姿を現した。


「主さん・・・」


「わかってるさ。魔石をおあがり」


 ゲンは藍大の手から魔石を貰って飲み込んだ。


 その結果、ゲンの甲羅がまた一段と硬くなった。


『ゲンのアビリティ:<破壊滑走デストロイグライド>がアビリティ:<自動破壊オートデストロイ>に上書きされました』


「・・・ゲンさんや、物理攻撃まで自動化しちゃったのかい?」


「満足」


 <破壊滑走デストロイグライド>はゲンの意思で動かなければいけなかったが、<自動破壊オートデストロイ>は自動で敵と定めた者を破壊するように突撃するからゲンは楽ができると嬉しそうに言った。


 ゲンが再び<絶対守鎧アブソリュートアーマー>を発動した後、藍大達は通路の先へと進んだ。

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