第753話 えっ、嫌だ。ロキ様は子供達の教育に悪いもん

 3月5日の未明、藍大と舞、リルは伊邪那美は夢の神域に来ていた。


「久し振りに呼び出された気がする」


「私も一緒に呼び出されて良かったよ」


『大丈夫だよ。舞は立派な戦神だもん。呼ばれないはずないよ』


「その通りなのじゃ!」


 背後から聞こえた声に振り返ると伊邪那美がいた。


 すかさず藍大は伊邪那美に訊ねる。


「伊邪那美様、今日は何でここに呼ばれたんだ? まだ他の神様がいないみたいだけど」


「他の連中が来るのはもう少し後じゃ。その前に軽く打ち合わせをしておきたくての」


「打ち合わせ? 一体今日は何を話すつもりで集まるんだ?」


「今日の議題は神の復活と神器について進捗確認と事例共有じゃな。ぼちぼちここに着ぐるみで来れる神も増えておるし」


 伊邪那美の説明を受けて神様会合の内容を把握し、藍大は打ち合わせるべき事項を思いついた。


「マグニ様の件について口裏を合わせようってことか」


「正解じゃ。一応、マグニを保護したことは既に他の神々にも知らせておるが、目覚めたことについてはまだ話しておらなんだ。とりあえず、今日は目覚めたというところまでは話すつもりじゃが、ロキが引き取りたいと言っても断るのでそのつもりでいてほしいのじゃ」


「俺はそれで良いぞ。舞も折角会えた父親とまだまだ話したいことはあるだろうし」


「うん。もしもロキ様に連れて行かれたら、お母さんも一緒に行くに決まってる。優月達も少しずつ慣れて来たんだもん。また離れ離れは嫌だな」


『というかロキ様なら何か策を練って舞のお母さんを拉致するとかやりそうだよね』


「「「確かに」」」


 リルの予想を聞いて藍大達はあり得ると頷いた。


 何を考えているのかよくわからないロキのことだから、とりあえず攫ってみたとかやりかねないので警戒すべきだと藍大達が思うのは当然だろう。


「まあ、地下神域にいる限りマグニも愛も攫われることはあるまい。もしもロキが余計なことをしたら、舞が殴ると脅しをかけといた方が良いじゃろうな」


「そうだな。余計なことをさせないように釘を刺すのは大事だ」


「私も賛成だよ~」


『僕も』


「うむ。ではそのようにしようぞ。打ち合わせは以上じゃ」


 伊邪那美がそう告げた直後、オルクスやガネーシャが夢の神域に現れた。


 ガネーシャは完全復活したため、象の着ぐるみではなく二足歩行の象を人寄りにした外見に変わっていた。


「やあ、新しい戦神ですね。私はI国の死神オルクスです」


「はじめましてなんだな。IN国の商売を司るガネーシャなんだな」


「オルクス様とガネーシャ様ですね。はじめまして。戦神の逢魔舞です。夫の藍大がいつもお世話になってます」


 (舞が大人っぽい対応してる!?)


 藍大は舞なら間延びした口調で挨拶するのではと思ったが、キリッとした表情で応対した舞を見て珍しいものを見たと驚いた。


 びっくりしたのはリルも同じらしい。


『舞がご主人の奥さんしてる。今日はお祝いだね』


 少し訂正しよう。


 驚いてはいるがめでたいことだとも思っているため、これはお祝いすべきだと食いしん坊的観点でコメントした。


 それから猫と狼、隻眼のゴリラ、豹、アシカの着ぐるみが次々に現れた。


 順番にバステト、ロキ、ヘパイストス、西王母、セドナだ。


「セドナ、ここに来るのは初めてじゃろう? 自己紹介するのじゃ」


「おけ。ウチ、セドナ。CN国で海神やってるんでよろしくー」


 (セドナ様が思ってたより軽い!)


 ガネーシャとは別のベクトルで神とは思えない口調のセドナの自己紹介を聞き、藍大は心の中でツッコミを入れた。


 流石に初対面の神にいきなりツッコむ訳にはいかないから、あくまで心の中に留めている。


 セドナの自己紹介が終わってすぐにロキが口を開く。


「なあ伊邪那美、マグニ目覚めた?」


 (いきなり来たか)


 ロキの質問が早速来たので打ち合わせしといて良かったと藍大はホッとした。


「やっと目覚めたのじゃ。やはりダンジョンの中で無理矢理維持してた神域よりも妾達の地下神域の方が回復に専念できたようじゃぞ」


「マジか。寝たきりのマグニが目覚めるとか良いなぁ。俺も地下神域に行ってみたいな」


『えっ、嫌だ。ロキ様は子供達の教育に悪いもん』


「だな。優月達には会わせたくない」


「私もそう思う」


 ロキの発言に対して誰よりも先にリルが拒否した。


 藍大と舞の意見に賛成して頷くとバステトとセドナが腹を抱えて笑い始める。


「ニャハハ、ざまあなのニャ! 大草原不可避なのニャ!」


「プクク、マジウケるんですけど~!」


 その他の海外の神々は笑いこそしないがロキを擁護する者は誰もいなかった。


「日頃の行いが悪いんだな」


「日頃の行いですね」


「日頃の行いだな」


「日頃の行いね」


 これにはロキも驚きを隠せなかった。


「なん・・・だと・・・? 品行方正を絵に描いたような俺が断られた・・・だと・・・?」


「何処からどう見ればそうなるのか全くわからないのじゃ」


「寝言は寝て言おうぜロキ様」


「私、頭がそんなに良くないけどロキ様は品行方正とは真逆だと思う」


『ロキ様、全然自分を客観的に見れてないよ』


 日本勢はロキにかわいそうな者を見る目を向けた。


 ロキ以外の海外の神々に至っては何言ってんだこいつという視線を向けている。


「酷いんじゃね? あんまりじゃね? 俺ってそんなに軽薄に見えるの?」


「「「・・・「「うん」」・・・」」」


 ロキの問いに満場一致で頷いた。


 ガーンとショックを受けている振りをしているが、実のところロキはそんなにショックを受けていない。


 伊邪那美が各国の神々の復活や事例共有の話を振り始めた時にはケロッとした表情になっていた。


 国の神々の話を聞いてわかったことがあった。


「ふむ。藍大の神獣であるリルに力を授けた神々の回復がそれ以外の神々に比べて早いのじゃ」


「確かに、儂もここ数日の力の戻りが早くなったように感じるぞ。クロノスはここ最近ずっと力が順調に回復してると言っておったわい」


「それな。俺も着実に力を回復できてるぜ」


「リル達が神の名を冠するアビリティを使えば使う程、力を授けた神々が力を回復できるってことじゃろうな」


 ヘパイストスはドライザーが<鍛冶神祝ブレスオブヘパイストス>を使って装備を作ったおかげだろう。


 クロノスとロキについても、リルが<時空神力パワーオブクロノス>と<知略神祝ブレスオブロキ>を頻繁に使うからその恩恵を得ているようだ。


「いやぁ、リルには頭が上がらないね」


『それなら僕の家族に一切余計なことをしないでほしいな。頭が上がらないんだからそれぐらいのお願いは聞いてくれるよね?』


「・・・ど、努力する」


『努力じゃ駄目だよ。約束してくれないなら僕はもう<知略神力ブレスオブロキ>を使わない』


 リルの発言を聞いてロキは唸った。


 リルは藍大と一緒に行動していることが多いから、日常生活やダンジョンで<知略神力ブレスオブロキ>を使うことが少なくない。


 それによってかなり力が戻って来たロキとしては、重要な回復リソースをここで手放したくないのである。


「それは困る。わかった。この場で俺の名において約束しよう」


『嘘ついたらヤールングレイプルとメギンギョルズ=レプリカも手に入れた舞が本気で殴るからね』


「ひぇっ、トールの神器集めがリーチじゃん!? リルの家族に余計な手出しはしないと約束させていただきます!」


 ロキは舞が自分に確実にダメージを与えられるようになっていると知り、リルと約束をした。


「皆の者、今の言葉を聞いたな?」


「聞いたんだな」


「聞きました」


「聞いたニャ」


「聞いたぞ」


「聞いた」


「聞いちゃったよー」


 他の神々の前で言質を取られた以上、ロキはリルとの約束を破れない。


 破ってしまった場合、ロキは力ある神々に対して完全に信用ならない存在と認定され、誰からも力を借りられなくなってしまうからだ。


 現存するどの神も1柱だけいればなんでもできるなんて神はいないのだから、周囲からの協力が得られなくなる状況は好ましくないだろう。


 とりあえず、リルのおかげでロキがマグニや愛にちょっかいをかけられなくなったのは収穫である。


 藍大達以外は神器関連でも芳しい成果が出ていなかったため、事例共有も大したものはなかった。


 (ロキ様に釘を刺せたのが一番の収穫だな)


 それでも、藍大がそう思ったようにロキが余計なことをしないというだけで心はとても穏やかになったため、今日の神様会合は参加した甲斐があったと言えよう。


 これにて会合は終了して藍大達は夢から醒めて朝を迎えた。

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