第752話 聞くに堪えなくて止めた。後悔はしてない

 通路の先には闘技場があり、その中心には翼を生やした獅子が待ち受けていた。


 獅子はメカメカしい付け爪を装備していた。


『待ち侘びたぞ。我が名はヴァプラ。この爪で貴様等を切り裂く者だ』


「付け爪にロマンを感じるのはさておき、ライオンが自前の爪じゃなくて装備に頼るってのはどうなんだ?」


 ヴァプラの尊大な名乗りに対して健太が素直な感想をぶつけた。


 見た目はほとんど獅子だというのに自分の爪を使わずに装備に頼って良いのかと思うのは彼だけでなく、司達もそうだそうだと頷いた。


『我が爪は最強だ。その最強な爪に最強な武器を加えれば最早誰も太刀打ちできまい。どんな雑魚が相手でも全力で切り裂くのが我の流儀である』


「最強、ねぇ・・・」


「井の中の蛙大海を知らずって言葉を贈りたい」


「Lv100とは思えないぐらい馬鹿だね」


「筋肉の前にはそんな玩具は通じない」


「浅はかなり」


 ヴァプラの頭の悪い発言に対して司達は何を馬鹿なことをと冷たい視線を向けた。


 それがヴァプラにとっては侮辱でしかなく、怒りで体をプルプルと振るわせた。


「その身で理解するが」


「煩い」


 パンドラが<停止ストップ>を発動したことでヴァプラのセリフが途中で切れると同時にその動きが止まった。


「愚かなヴァプラよ、せめて苦痛なく仕留めてやろう」


 マージが<紫雷光線<《サンダーレーザー》>で眉間を撃ち抜けば、ヴァプラは倒されたと感じることなく力尽きた。


「僕達の出番はなかったね」


「それな。パンドラさんがイライラからやむなしだけど」


「聞くに堪えなくて止めた。後悔はしてない」


 健太がチラッとパンドラの顔色を伺いながらそう言うと、パンドラは堂々と自分に悪いと思うところは何もないと言わんばかりに言葉を返した。


 藍大のパーティーを差し置いて最強を名乗るとは片腹痛いと思っており、そんな世間知らずの口は早く塞ぐに限ると行動したのである。


 実際、最強とは程遠い実力であっさりパンドラとマージに倒されてしまったのだが、ヴァプラは口だけの”掃除屋”だったと言えよう。


 ヴァプラの解体を済ませた後、その魔石はマージに与えられた。


 それにより、マージの<暗黒沼ダークネススワンプ>が<深淵沼アビススワンプ>へと上書きされた。


「ふむ。強化できてホッとしたぞ」


「腐ってもLv100だったってことだね。後は素材として少しでも高く売れれば上等だよ」


「間違いない」


 マージとパンドラのやり取りを聞いてツッコむ者は誰もいない。


 司も健太もアスタも同様の考えだからだ。


 ヴァプラを倒した後、上がった鉄格子の先の通路を進んで司達はボス部屋に辿り着いた。


「フロアボスはヴァプラより賢いと良いね」


「そうだな。それと今度は俺達もきっちり戦わんと」


「確かに。パンドラ、相手にもよるだろうけど最初は僕と健太だけで戦わせてね」


「わかった。2人でも十分やれそうなら手出しはしない」


「ありがとう」


 パンドラは司と健太が自分達の腕が鈍らないようになるべく手を出さないでほしいと言われて素直に受け入れた。


 派遣された自分達はあくまで司達の足りない戦力を補うためにいるのであり、司達の腕を鈍らせるために同行している訳ではないからだ。


 アスタが扉を開いて部屋の中に入ってみたところ、鹿の頭部に首から下は大きな鳥という見た目のモンスターが司達を見て翼を広げて体を大きく見せた。


 フロアボスを視界に捉えるや否や、パンドラは目の前の敵を司と健太だけで倒せそうか調べ始めた。



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名前:なし 種族:ペリュトン

性別:雄 Lv:100

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HP:2,500/2,500

MP:3,000/3,000

STR:2,000

VIT:2,000

DEX:2,500

AGI:3,000

INT:3,000

LUK:2,500

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称号:9階フロアボス

   到達者

アビリティ:<幽霊爆弾ゴーストボム><剛力突撃メガトンブリッツ><拘束絶叫バインドスクリーム

      <体力吸収エナジードレイン><無音移動サイレントムーブ><霊体化ゴーストアウト

      <自動再生オートリジェネ><全半減ディバインオール

装備:なし

備考:究極の恐怖を味わってもらおう

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「9階の称号持ちはなんでこう自信家なのかな」


「パンドラ、何か言った?」


「なんでもない。敵はペリュトンLv100。霊体になって無音で忍び寄ったり動きを止める絶叫とか使って来るから注意してね」


「わかった。健太、援護を頼むよ」


「任せとけ」


 パンドラからペリュトンの情報を貰い、司は健太に援護を任せてペリュトンと距離を詰める。


 健太はペリュトンが司に攻撃する暇を与えまいとエネルギー弾を連射する。


 実体弾ならば<霊体化ゴーストアウト>で避けられるが、エネルギー弾だとそれでは躱せない。


 健太の連射の間隔が狭くて全て避けるのは難しいと判断し、ペリュトンは<幽霊爆弾ゴーストボム>を発動する。


「ペリュゥ!」


 ミニサイズのペリュトンの霊体が現れてエネルギー弾と衝突し、それによって派手に爆発が生じる。


 爆発で司の視界は塞がれてしまうが、その前にペリュトンがいた場所目掛けてゲイボルグ=レプリカを投擲する。


 勿論、ただ投擲しただけでは<霊体化ゴーストアウト>ですり抜けられてしまうので、槍士の四次覚醒で会得した風を付与する力も使って霊体になっても躱せないよう工夫するのを忘れない。


 ゲイボルグ=レプリカには投擲時の分裂と触れた者のVITを30秒間30%カットする効果がある。


 司が槍を分裂させて広範囲を攻撃できるとは思っていなかったため、ペリュトンはその油断で分裂したゲイボルグ=レプリカに当たってしまう。


「ペリュア!?」


「驚いてる暇はないよ」


 <霊体化ゴーストアウト>を使っていたのに何故と驚くペリュトンに対し、司はゲイボルグ=レプリカを左手に呼び寄せ、右手に持ったアラドヴァル=レプリカを続けて投擲する。


 驚いて初動が遅れてしまい、ペリュトンは急いで避けたものの躱し切れずにアラドヴァル=レプリカがペリュトンの脚を掠った。


 VITが30%カットされている今、掠っただけでもアラドヴァル=レプリカのダメージは無視できない。


 切った痛みと焼く痛みを同時に受けた後、ペリュトンは体が痺れるのを感じた。


 それでも<全半減ディバインオール>のおかげで麻痺からすぐに復帰したため、今度は自分が反撃する番だとペリュトンが大きく息を吸い込む。


「ペリュゥゥゥゥゥ!」


「うっ!?」


 ペリュトンの<拘束絶叫バインドスクリーム>により、司は自分の体が自由に動かせなくなったことに気づいた。


「ペッペッペェ」


 ざまあみろと言わんばかりに笑い、ペリュトンは司に<剛力突撃メガトンブリッツ>を仕掛ける。


 マージとアスタは司を助けた方が良いのではとパンドラの方を向くが、パンドラは問題ないと首を横に振る。


 何故なら、その時には既に健太が実体化したペリュトンの顔目掛けて岩の刃を発射していたからだ。


「ペッ、ペリュア!?」


 どうして健太が動けるんだと思った時にはペリュトンの額に岩の刃が突き刺さり、そのままペリュトンは墜落した。


 健太は種明かしだと言わんばかりにニヤリと笑い、耳から耳栓を取り出した。


「フッフッフ。甘い、甘いぞペリュトン。お前が大きく息を吸い込んだ時点で俺は耳栓をしてたのさ」


「ペリュッ」


 クソッと悔しがるペリュトンだが、<拘束絶叫バインドスクリーム>の効果が切れて動けるようになった司の接近に気づくのが遅れて立ち上がれなかった。


「逃がさないよ」


 司は2本の槍を使って乱舞を放ち、それらの槍の効果でガリガリとペリュトンのHPを削っていく。


「これで終わりだ」


 ズドンと健太がエネルギー弾をペリュトンに放てば、力尽きたペリュトンは仰向けに倒れて動かなくなった。


「ふぅ、討伐完了」


「お疲れしたー」


 司と健太は拳をコツンとぶつけて勝利を喜んだ。


「健太が耳栓してたのは見えたから、最後まで手を出さなくて正解だったよ」


「音で攻撃してくるタイプの敵に備えて持ってたんだ。いやぁ、俺って用意周到!」


「すぐに調子に乗るんじゃない」


「わ、わかったから尻尾ビンタは止めよう。な?」


 パンドラが尻尾ビンタの構えを取れば、健太のドヤ顔は焦った顔に早変わりである。


 その後、ペリュトンの解体を済ませてアスタが魔石を取り込み、<全半減ディバインオール>が<全激減デシメーションオール>に変化した。


 多摩センターダンジョン9階のテストプレイは無事に終わり、司達は気分良くシャングリラへと帰った。

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