第749話 絶対食べなきゃ! お肉~!

 翌日、藍大はブラドに頼まれて増築されたばかりの道場ダンジョンの13階にやって来た。


 北都府が日本の領土になったことで、中小クランは国内のダンジョンに挑む勢力とDMUが仲介する海外派遣に参加する勢力に二分された。


 それに伴って”楽園の守り人”と三原色クラン、白黒クランは前者の冒険者達を飽きさせぬようにダンジョンの増築や改築ラッシュに突入している。


 ”楽園の守り人”としてクラン外部の冒険者が入れるダンジョンの中で主に力を入れているのは道場ダンジョンと多摩センターダンジョンの2つだ。


 特に道場ダンジョンは中小クランの冒険者達にとって登竜門的位置付けがされているから、適度に増築が必要なのだ。


 今回ブラドが増築したのも”ゲットワイルド”が道場ダンジョン11階を突破し、12階に挑み始めたからである。


 遠くない内に12階を突破する可能性があるクランがいるならば、その先を用意するのがブラドのやり方だ。


 今日の藍大のお供は安定のゲンに加え、リュカとルナの母娘、ミオ、フィアが選ばれた。


 他のメンバーもテストプレイに参加したいと言ったけれど、ブラドが独断と偏見で藍大のお供を決めた。


 (ブラドの奴、強過ぎるメンバーを外したな)


 舞とサクラ、リルに加えて仲良しトリオも外したあたり、それぐらいしなければあっという間に13階が踏破されてしまうと思ったのだろう。


「ルナ、今日は私に成長した姿を見せてね」


『うん!』


「ミーも出番が来たから張り切るニャ」


『フィアも!』


「よしよし。油断せずに頑張ろうな」


 やる気十分な従魔達を率いて藍大達は早速探索を開始した。


 それからすぐに藍大達は最初の敵モンスターを発見する。


「何あれ? 卵?」


「ハイドラゴンエッグLv95。硬い卵の中に引き籠ったまま成長した飛べない龍だ」


 リュカの疑問に藍大が即座に答えた。


 ハイドラゴンエッグは大きな卵から四本脚と尻尾が飛び出し、視界は目の部分に穴があって確保されている見た目だ。


『ご主人、ハイドラゴンエッグって美味しいの?』


雑魚モブモンスターとしてはかなり上位の味らしい」


『絶対食べなきゃ! お肉~!』


 (ルナはやっぱりリルの子だよ)


 掛け声が父親リルそっくりなところを見て藍大は微笑ましく思った。


 ルナが<大気衝撃エアインパクト>を放ったことにより、ハイドラゴンエッグの卵に罅が入った。


『まだまだいくよ!』


 繰り返し<大気衝撃エアインパクト>を受けたことにより、ハイドラゴンエッグの卵の罅が全体に回って割れた。


 殻で守られていた部分が剥き出しになると、他のドラゴンに比べて鱗が柔らかそうだった。


 それゆえ、ルナが<翠嵐砲テンペストキャノン>を上から放ってとどめを刺した。


「隠された弱点を浮き彫りにさせる戦い方ができてる。成長したね、ルナ」


「クゥ~ン♪」


 リュカに褒められてルナは嬉しそうに鳴いた。


「次はミーの番で良いかニャ?」


『その後ろにもいるからフィアもやるよ』


 倒したハイドラゴンエッグの後ろからハイドラゴンエッグが4体現れたため、ミオとフィアが嬉々として2体ずつ倒した。


 神の名前を冠するアビリティを使えばLv100に満たない雑魚モブモンスターを倒すことなんて造作もないことである。


『ルナがLv91になりました』


 あっという間にハイドラゴンエッグの死体が5つになり、藍大はそれらをサクサク収納リュックの中にしまい込んだ。


「お疲れ様。みんなよくやった」


「ニャア♪」


『エヘヘ♪』


『ワフン♪』


 藍大に頭を撫でられてミオ達は嬉しそうに甘えた。


 その後も度々ハイドラゴンエッグが現れたが、今度はリュカも参戦して討伐速度が上がった。


「遅い!」


 リュカが獣人形態で<深淵拳アビスフィスト>を放ってとどめを刺すと、ぞろぞろと現れたハイドラゴンエッグが打ち止めになった。


『ルナがLv92になりました』


 ハイドラゴンエッグはAGIが低いから戦闘が殻を割って倒す作業になっている。


 これだけでは12階を突破した冒険者達には物足りないのではないかと藍大が考えていたその時、通路の奥から別種のモンスターの集団が飛んでやって来た。


 その見た目は半竜半人の乙女だが、角と翼が生えて体の一部が鱗に守られているなんてレベルではなく、全身が鱗で覆われていて二足歩行の竜に近かった。


 辛うじて女性的な丸みがあるから半竜半人と呼べるのであり、手にはトライデントを握っている。


「ドラゴンメイドLv95。13階の素早さ担当はこっちらしい」


「ミーの出番が来たニャ!」


 ミオは<運命神罠トラップオブノルン>を発動してそれらを迎撃する。


 何もないはずの場所がドラゴンメイド達の通過によって爆発が連鎖した。


『ルナがLv93になりました』


 地面に墜落したドラゴンメイド達を見てミオはドヤ顔を披露する。


「ニャッハッハァ! ミーの強さがわかったかニャ?」


「よしよし。ドラゴンメイドの迎撃はミオに任せるぞ」


「お任せニャ!」


 藍大に頭を撫でてもらってミオの機嫌は更に良くなった。


 その先に進むと開けた場所になっており、中心には岩の塊が数珠繋ぎになった存在が宙に浮いたまま待機していたため、藍大はすぐに調べてみた。



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名前:なし 種族:メテオビーズ

性別:なし Lv:100

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HP:2,500/2,500

MP:2,500/2,500

STR:3,000

VIT:3,000

DEX:2,000

AGI:2,000

INT:3,000

LUK:3,000

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称号:掃除屋

   到達者

アビリティ:<破壊突撃デストロイブリッツ><重力牢獄グラビティジェイル><豪雨爆弾レインボム

      <混乱霧コンフュミスト><麻痺乱射パラライズガトリング><落穴ピットホール

      <自動再生オートリジェネ><全半減ディバインオール

装備:なし

備考:君は宇宙を感じるか?

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 (アビリティ自体はあんまり宇宙を感じないけど)


 メテオビーズの体が全て隕石で構成されているから宇宙をアピールしているようだが、アビリティ欄を見る限りはそんなに宇宙要素がないと藍大は感じた。


 それでもなかなか嫌らしいアビリティを揃えているのは間違いない。


 重力で押さえつけたり触れたら爆発する豪雨で攻撃するのも面倒だが、<混乱霧コンフュミスト><麻痺乱射パラライズガトリング>で正常な動きをできなくさせつつ<落穴ピットホール>で落下ダメージを狙うのも効果的だ。


 メテオビーズの鑑定ができないとこれらの情報はわからないため、中小クランの冒険者達にとって厄介な”掃除屋”と言えるだろう。


「メテオビーズLv100。直接攻撃も間接攻撃も揃えた敵だ。油断しないように」


「だったら私が動きを封じる。”動くな”」


 リュカが<強制行動フォースアクション>でメテオビーズの動きを封じた。


 リュカの能力値はメテオビーズのそれを上回っているため、メテオビーズは<強制行動フォースアクション>を無理やり解除できずにいる。


「ニャハハ、動けないならただの的ニャ!」


『的当てする~!』


『ルナもやる!』


 動けないメテオビーズにミオの<螺旋水線スパイラルジェット>とフィアの<緋炎吐息クリムゾンブレス>、ルナの<翠嵐砲テンペストキャノン>が命中した。


 (どう考えてもオーバーキルです。ありがとうございます)


 藍大はミオ達の容赦ない攻撃であっという間にHPが削られたメテオビーズに心の中で合掌した。


『ルナがLv94になりました』


 伊邪那美のアナウンスが聞こえた時、メテオビーズを構成する隕石は既に数珠繋ぎだったものからバラバラになっていた。


「お疲れ様。完封勝利だったな」


 戦利品を回収する前に藍大はリュカ達を順番に労った。


 特にリュカは派手な見せ場はなかったけれど、メテオビーズの動きを完全に封じていたので藍大は念入りに褒めた。


 自分の頑張りをしっかりと見てもらえたリュカは嬉しそうに藍大に甘えたのは言うまでもない。


 リュカ達を労った後、メテオビーズの解体と回収を済ませて魔石はリュカに与えられた。


 リュカの髪がサラサラになると同時に伊邪那美のアナウンスが藍大の耳に届く。


『リュカのアビリティ:<深淵鉤爪アビスクロー>とアビリティ:<深淵月牙アビスクレセント>、アビリティ:<深淵拳アビスフィスト>が<深淵武術アビスアーツ>に上書きされました』


『リュカはアビリティ:<母親闘気マザーオーラ>を会得しました』


『リュカはアビリティ:<千里眼クレヤボヤンス>を会得しました』


 リュカのアビリティが一気に更新された。


 <深淵武術アビスアーツ>は深淵を纏わせて戦う格闘術であり、物理攻撃が聞かない相手にも攻撃が通るだけでなく、様々な肉体攻撃が深淵で強化される。


 <母親闘気マザーオーラ>は家族が傍にいる時に発動できるバフアビリティだ。


 新出の2つのアビリティを見て藍大は再びリュカの頭を撫でた。


「リュカ、これからもよろしくな」


「頑張る」


 やる気満々のリュカだけれど、今は藍大に撫でてもらうのに集中していた。

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