第748話 ボス、作ってほしいものがあるんだって?

 マグニも目覚めたばかりだから話を聞くのはここまでとなってこの場は解散した。


 藍大達はそれからすぐにドライザーを呼んで地下神域に戻って来た。


『ボス、作ってほしいものがあるんだって?』


「その通り。舞がメギンギョルズを手に入れられるようにその前段階の帯かベルトを作ってほしいんだ。素材は好きな物を使ってもらって構わない」


『ふむ。そういうことならお任せあれ』


 藍大が収納リュックから使えそうな素材を全て地下神域に並べていくと、ドライザーは全てに目を通して素材をピックアップしていく。


 選び抜かれた素材はミドガルズオルムの鱗とユミルの胸骨、リルの毛だった。


 リルの毛は藍大が毎日ブラッシングした時に抜け落ちたものであり、無理矢理刈った訳ではない。


 誤解を招かないように補足するが、いつか自分の毛が素材になるかもしれないから取っておいた方が良いと言ったのは他でもないリルだ。


「選び終わったか?」


『うむ。これらで作ってみようと思う』


「よろしく頼む」


「お願いするね~」


 藍大に続いて舞も自分の装備を作ってもらうのでお願いした。


 ドライザーは頷いてから<鍛冶神祝ブレスオブヘパイストス>を発動する。


 それにより、選び抜かれた素材が光の中で合成されて1つのベルトのシルエットへと変わった。


 光が収まってできたベルトは白銀色の鱗が覆い、正面の部分には狼の顔のマークが掘られたものだった。


『すごいよドライザー! メギンギョルズ=レプリカだって!』


「マジか!」


「すご~い!」


「一気にレプリカまでいくとは・・・」


『これが、これこそが、”土神獣”の力である!』


 リルの鑑定結果に藍大と舞、サクラが驚いているのを見てドライザーはとても得意気にポーズを決めた。


 てっきりメギンギョルズ=レプリカの前段階の装備ができると思っていたのだから、ドライザーがドヤるのも無理もない。


 ドライザーをチヤホヤした後、藍大はリルにメギンギョルズ=レプリカの効果を訊ねた。


 その効果はシンプルで装備した者のSTRとVITが1.5倍になるというものだった。


 神器ではないから破壊不能や自動装着、舞専用になるという効果は付かなかったけれど、身に着けるだけで舞が強くなるのだから優れたアイテムだと言えよう。


「よくよく考えると、メギンギョルズ=レプリカを装備した舞に抱き着かれたら私達のみが危ない。林檎みたいに軽く握っただけで砕けそう」


「むぅ、そんなことにはならないもん。その辺のコントロールは以前に比べてできるようになったもん」


 サクラが真剣な表情で舞の力を警戒するものだから、自分は安全だと舞はムッとした表情で反論した。


 舞もサクラも自分にどっちの味方なのかと目で訴えたので、藍大はどう答えればこの場が収まるか素早く頭を回転させた。


「舞が力のコントロールを頑張って来たのはよくわかってる。サクラも避けるべき事態にならないように注意してくれただけなんだよな?」


 藍大に有無を言わせぬ笑みを向けられたままそう言われれば、舞もサクラもこれ以上言い争ったりしない。


 2人がじゃれ合うだけでも軽く台風が起きるレベルの被害が出るから、笑顔だけでそれを未然に防いだ藍大にリルは流石ご主人と尻尾を振った。


 そうしている内に地下神域に司達がやって来た。


 シャングリラダンジョン探索から戻ってきた足でここまで来たらしい。


「藍大、僕達もドライザーに武器を更新してもらっても良い?」


「ドライザーさえ良ければ構わんぞ。ドライザー、神器のレプリカ作った後だけどやれるか?」


『問題ない』


 藍大とドライザーのやり取りを聞いて司達が首を傾げた。


 首を傾げる4人に代わってパンドラが質問する。


「ドライザーがまた何かすごい装備を作ったの?」


「正解。舞にメギンギョルズ=レプリカを作ってくれたんだ」


「へぇ、すごいね。一足飛びでレプリカまで作っちゃったんだ?」


『ボスの期待を上回ってこその”土神獣”だろう?』


「なるほど。確かにそうだね」


「「「「いやいやいやいや」」」」


 ドライザーがやってのけた神器のレプリカ作成の話を聞いても通常運転のパンドラに対し、司達は待て待てと手を顔の前で横に振った。


「どうかした?」


「パンドラ、もっと驚こうよ」


「そうね。今の話を聞いてテンションが変わらないって逆にすごいわ」


「せやで。もっとちゃんとリアクションせな芸人にはなれへん」


「いや、パンドラは芸人じゃないだろ」


 未亜のボケに対して健太はすかさずツッコんだ。


「それなら僕をもっと驚かせてほしいな。地下14階を突破した翌日には地下15階を突破したら驚くかも」


「へぇ、司達は遂に地下14階を突破したのか」


「うん。本当はパンドラ達が本気を出せばあっさりデルピュネに勝てたんだろうけど、それだと僕達がパンドラ達のいない時に倒せる実力がないまま地下15階に挑むことになる。だから、パンドラ達に待っててもらったんだ」


「そうだな。派遣してるパンドラ達がいなくても十分戦えないとしんどくなる。司達の判断は合ってると思うぞ」


 司の言う通り、本来であればパンドラ達がその気になれば地下14階で足踏みするはずはないのだ。


 しかし、レンタル従魔の力だけで下の階層に進めば後々実力不足で困るのは自分達だから、パンドラ達には歯がゆい思いをさせることになっても自分達の成長を待っていてもらった訳である。


「ということで、ドライザーには司達の装備を更新してもらいたいんだ」


『任せてくれ。誰からやる?』


「それじゃ僕のトリニティトライデントからお願い」


 ドライザーが訊ねたところで司がすぐに前に出た。


 司はゲイボルグ=レプリカとトリニティトライデントを使っているが、ゲイボルグ=レプリカに対してトリニティトライデントが釣り合っていないと感じていた。


 作ってもらった当初は十分やっていけると思ったけれど、強いモンスターとの戦闘を重ねることで神器のレプリカとそれ以外の違いもよくわかるようになったのである。


「あっ、そうだ。これも使って」


『アスタヴァルか。良いだろう』


 司は以前藍大から譲り受けたが使う機会がほとんどなかった槍を収納袋から取り出した。


 アスタヴァルは藍大達が倒したアスタロトが使っていた槍だけれど、トリニティトライデントの方が切れ味も効果も強かったので収納袋の肥やしになっていた。


 トリニティトライデントとアスタヴァル、ミラリカントの嘴を使ってドライザーが合成した結果、赤銅色がベースの槍ができあがった。


『やったね! アラドヴァル=レプリカだよ!』


「これでゲイボルグ=レプリカに並んだ。ありがとう、ドライザー」


『Sure』


 何故か無駄に発音の良い英語でドライザーが返事をしたが、司は2つ目の神器のレプリカを手に入れてツッコミがお留守になっている。


 アラドヴァル=レプリカはトリニティトライデントと違って属性の使い分けができなくなった代わりに、穂先で斬ると焼くの同時攻撃に加えて麻痺の追加攻撃ができるようになった。


 攻撃すればするだけ麻痺効果が増していくこともあり、相手の動きを鈍らせるという点で優秀な槍だ。


 その後、ドライザーは休むことなく麗奈と未亜、健太の武器、それに加えて4人の防具も更新した。


 麗奈のクエレブレヘッズは藍大の放出したピュートーンの顎等も使ってピュートーンヘッズになった。


 未亜のクエレブレブレスも麗奈と同様にピュートーン素材を使ってピュートーンブレスに更新された。


 健太のマルチコッファーは何種類ものデルピュネやラプラス、ミラリカントの素材を使ってバリアブルコッファーに変わった。


 そして、4人が着ていたお揃いのレザーアーマーはミラリカントの羽毛やスフィンクスの毛皮で補強してリペルレザーになった。


「これだけ装備を強化したら地下15階は楽勝だよね? 苦戦とかしないよね?」


「パンドラ、わざわざフラグ立てんでもええやん」


「そうだぞパンドラ。ワザと足引っ張るつもりはないんだからお手柔らかに頼む」


「何弱気になってんのさ。明日もキリキリ働いてもらうよ」


「「頑張らせていただきます」」


 そうじゃないと尻尾ビンタしちゃうぞと尻尾を構えると、未亜も健太も背筋を正して応じた。


「ドライザー、お疲れ様」


『このぐらい全然へっちゃらだ。また何かあったら呼んでくれ』


「頼りにしてるぞ」


『お任せあれ。では、持ち場に戻らせてもらう』


 ドライザーはクールに持ち場に戻った。

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