第63章 大家さん、舞の神器探しを手伝う

第747話 この子が俺の子か

 3月2日の日曜日、藍大と舞、サクラ、リルは伊邪那美に連れられて地下神域に移動した。


 マグニが目を覚ましたという知らせを受けて藍大達が地下の神社に行くと、その中の一室では上体を起こしたマグニとそれに付き添う愛がいた。


「この子が俺の子か」


 舞を見たマグニは色々と思うところがあって複雑そうな表情だった。


 自分の子供がここまで大きくなってくれたことは嬉しいが、自分が倒れていたことで愛が自分に付きっ切りで舞が放置されていたことを申し訳なく思っていたからである。


「私が舞だよ。はじめまして」


 舞はマグニとどのように喋れば良いかわからず表情が硬い。


「そうか。はじめましてだな。俺のせいで本当に申し訳ない。俺はマグニ。舞と呼ばせてもらうが、血縁上は舞の父親だ。もっとも、父親らしいことなんて何一つできなかった駄目な父親だが」


 マグニは舞と話せて嬉しい反面、立派に育ってくれた舞に何も父親らしいことができず、むしろ迷惑だけかけてきたことを本当に申し訳なく思った。


「体調はどうなの?」


「うむ。この神域は神気に満ちているおかげで病み上がりでも苦しくない。ここは素晴らしい所だな」


「そうじゃろう、そうじゃろう」


 伊邪那美は自分の神域を褒められてドヤ顔を披露した。


 実際のところ、完全復活した神が5柱と半分以上力が戻った神が1柱、更には神を冠する植物が多く育っている地下神域は現時点で地球上のどこよりも神にとって居心地が良い場所だ。


 ほとんどの力を失っていたマグニも寝ているだけで目を覚ませるぐらいには力を取り戻せたのだから、N国にあった自分の神域とは比べ物にならないのだろう。


 マグニは舞から視線を横にずらして藍大のことを見た。


「君が魔神、逢魔藍大か。時折夢で君達の活躍を見てた。舞のことを支えてくれて本当にありがとう」


「礼の言葉は受け取っておくけど義務感からそうした訳じゃない。俺は舞のことが好きで一緒にいるんだ。そこんところは間違えないでくれ」


「藍大~!」


 マグニにビシッと言う姿がとても素敵に思えて舞は藍大に抱き着いた。


 その姿を見てマグニはクスッと笑った。


「何か面白いことでも言ったか?」


「いや、舞に抱き着き癖があるところは愛と母娘なんだなと思ってな」


 マグニのその発言を受けて藍大達の視線が愛に向かう。


 正直、静かな愛がこんな元気に抱き着くところなんて想像できないのだ。


 藍大達の勘違いに気づいたマグニは慌てて補足する。


「違うぞ。愛は舞のように元気にではなく静かに甘えて来るんだ。すぐに抱き着くところが似てると思ったんだ」


「・・・照れる」


 愛はマグニに自分の抱き着き癖について暴露されて一見照れているように見えないけど照れていた。


「舞の抱き着き癖は遺伝だったんだね。可愛いもの好きなだけかと思ったけど、そうじゃなかったんだ」


「サクラもハグしてほしいの?」


「遠慮しとく」


 サクラのその言葉の後には力一杯抱き着かれたくないからという一言が隠れていた。


 伊邪那美はそろそろ良いだろうと判断して口を開く。


「マグニよ、起きて早々に悪いが妾の疑問に答えてほしいのじゃ」


「問題ない。普通に喋れるぐらいには回復してる。俺が答えられることなら何でも訊いてくれ」


「それは重畳じゃな。では、マグニはどうやって愛と出会ったのかのう?」


「愛が旅行でN国に来てた時、偶然俺が神域を展開してた場所に来たんだ。愛は生まれつき神気を感じやすい素質を持ってたらしく、俺のことを見つけたんだ」


 伊邪那美の質問に対するマグニの答えを聞いて藍大は気になったことを愛に訊ねる。


「愛さん、由緒正しい巫女の家系だったりする?」


「私の知る限り、立石家はごくごく普通の家系。巫女の家系だったら良かったのにと思ったことは何度もある」


 愛の回答で舞も特別な血を引いているという可能性は消えた。


 そうだとすれば、愛が神気を感じ取りやすかったのは突然変異なのだろう。


「次の質問じゃ。お主はどうやって人間の愛と子供を作ったんじゃ? 正直、妾達のような神という存在はどこの地域にいても子供を作るだけのエネルギーを残せるような状況ではなかったはずなんじゃが」


「根性だ」


「は?」


「根性と言ったのだ。自分を好いてくれた女を抱けるんだぞ? 命を懸けて子作りしたに決まってるだろう」


 (根性論かよ。まあ、なんとなくそんな気はしてたけど)


 正直、トールやマグニという神から理論的な説明が出て来るとは思っていなかった。


 何故なら、舞もそうだからである。


 その気になれば大抵は力技でどうにかしてしまう舞の父親ならば、根性で子供を作ったと言っても頷けた。


 それはそれとして、マグニの答えを聞いてサクラは閃いたような表情をしている。


 マグニの経験からどんなことを閃いたのだろうか怖くなり、藍大はサクラに聞けずに無言でリルの頭を撫でて心を落ち着かせた。


 リルも藍大と同様にサクラを怖がって藍大に身を寄せている。


 ちなみに、当事者の舞は根性でできたなら納得とでも言いたげな表情だ。


 やはり親子である。


「次の質問に移るのじゃ。メギンギョルズの在り処に心当たりはないかのう?」


「メギンギョルズ? ミョルニルではなく?」


「メギンギョルズじゃ。そもそも、舞は既にミョルニルとヤールングレイプルを保持しておるぞ」


「・・・舞、本当なのか?」


「本当だよ。ほら」


 マグニに訊ねられた舞はこの場にミョルニルとヤールングレイプルを出現させて身に着けた。


 舞が2つの神器を手にしたのを見てマグニは目を見開いたまま固まった。


「マグニ、しっかりして」


「俺でも親父からミョルニルを引き継ぐので精一杯だったのに」


「驚く気持ちはわかる。でも、今は娘の成長を喜ぶべき」


「・・・そうだな。嬉しいことに違いはない。親父も復活して舞を見たらきっと喜ぶだろうな」


 トールの話題が出て来たことで、藍大は思い出したようにリルを紹介する。


「リルはトール様から力を与えられて<雷神審判ジャッジオブトール>が使える」


『ワッフン、僕は”風神獣”なんだよ』


「え゛?」


 リルのことをただのフェンリルではないと思っていたマグニだが、まさかトールの力を得た”風神獣”であるとは思っていなかった。


 変な声を出したマグニに藍大は補足する。


「他にも”土神獣”のドライザーと”水神獣”のミオ、”火神獣”のフィアも俺の従魔だ」


「・・・俺が眠ってる間に世界のパワーバランスはおかしくなったらしい」


 額に手をやるマグニを見て更に舞が追加で教える。


「私、戦神だけど”暴食の女帝”でもあるよ」


「私は”色欲の女帝”。主は七つの大罪を冠する皇帝と女帝全てを味方にしてる。ついでに言えば、”ダンジョンキング”と”ダンジョンロード”も主の従魔」


「・・・愛?」


 本当にそうなのかと言葉にできないぐらい驚いて訊ねるマグニに対し、愛はその通りだと頷いた。


「軽く10回は世界を救えるだろ」


「とっくにそれ以上世界を救ってる」


「娘と義理の息子達が強過ぎて泣きそう」


「私の胸で泣いて良いよ」


 マグニが自分の力を圧倒的に上回る戦力を有する藍大達のことを知って泣きたくなると、愛はここぞとばかりに両手を広げてマグニを抱き締める。


 (うん、母娘だわ)


「母娘だね」


『母娘だよ』


 藍大とサクラ、リルの意見が一致した。


 伊邪那美はどこまでも話を脱線させる訳にはいかないから口を挟む。


「オホン、そろそろ話を元に戻してほしいのじゃ。マグニ、メギンギョルズがどこにあるかわからぬのか?」


 質問されてマグニは愛から離れて答える。


「すまん。俺は親父が実態を保てなくなった時にミョルニルを引き継いだ。ヤールングレイプルとメギンギョルズはその時に一緒に姿を消したからわからん。結局俺も寝たきりになってミョルニルは舞に引き継がれた。があれば舞なら巡り合うんじゃないか?」


「縁の問題なら私の領分」


「そうだな。まずはドライザーにレアモンスターの素材で帯かベルトを作ってもらうところからスタートしよう」


「ん? どういうことだ?」


 サクラと藍大の発言の意味がわからずにマグニが首を傾げる。


 そんなマグニに舞が説明する。


「サクラは運命を操作できて、ドライザーは優れた装備を作れるんだよ。だから、ドライザーが作った装備を身に着けてダンジョンで武の祠を1回か2回見つければメギンギョルズをゲットできるかもしれないの」


「親父、娘が3つの神器をすぐに揃えそうだぞ・・・」


 マグニはこの場にいないトールに舞なら神器を揃えられそうだと報告した。


 その表情は驚き疲れたものになっていたが仕方のないことである。

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