第743話 全ては雑食帝のお導きのままに

 雑食に屈した”偉大なるA国”のメンバーはA国西部にいるメンバーを次々に”雑食道”に屈服させた。


 この勢いでいけばすぐにA国民第三勢力である”偉大なるA国”は”雑食道”に置き換わることだろう。


 バッタ味の強いバッタチョコの効果はすさまじく、二度と食べさせられたくないから彼等はそれはもう必死に働いた。


「狩人、お前A国を乗っ取る気か?」


「そんなつもりはないけどやりようによっては乗っ取れるよね」


 美海がジト目で質問したのに対して雑食帝はサラッととんでもないことを言った。


「狩人さん、西部の制圧が終わったみたいです。オブジェもなくなって西部の現政府軍と革命軍は”偉大なる雑食”に寝返ったそうですよ」


「あれ、彼等は”偉大なるA国”じゃなかったっけ?」


 研志の報告を受けて雑食帝はクラン名が変わってることに首を傾げたが、研志はそれで合っていると首を縦に振った。


「満足に食べられてる者は少なかったみたいなので、俺がバッタチョコよりも初心者向けの携帯雑食を与えたら傘下に入った彼等が”偉大なる雑食”を名乗り始めました」


「なあ、なんで布教してんだよ?」


「結果的にそうなっただけです。そもそも俺が雑食以外携帯してる訳ないじゃないですか」


「おい、マジでA国を乗っ取ることになりそうじゃね?」


「そうなったらそうなったということにしましょう。きっとDMUがなんとかしてくれるはずです」


 美海は面倒な後処理をDMUに丸投げするつもりの雑食帝に先程よりも強めのジト目を向けた。


 同時刻、日本では何かを察して胃が痛くなったDMU本部長がいたようだが今は放置しておこう。


 上陸して3時間でA国西部は”雑食道”と”偉大なる雑食”によって掌握された。


 その掌握速度は感染爆発と呼んでも異論が生じない程である。


 第四勢力の登場に三つ巴だったA国民達は混乱し、同じく三つ巴だったマルファスとウボ=サスラ、グラーキも放置できないと次々に配下のモンスターを差し向けた。


 送り込まれて来たモンスターの中には雑食帝の興味がそそられるモンスターもいた。


「チャームマンティスLv60。これはテイムしようか」


 雑食帝がそう言ったのは紫色の蟷螂のモンスターを見たからだ。


 生物を引き寄せるフェロモンを放ち、うっかり無警戒に釣られてしまった者の首を刎ねて捕食する特性を持つ。


 雑食の食材を狩るのに便利そうだと思ったのだろう。


「狩人様、捕まえたよ」


「ディアンヌは仕事ができるね。ありがとう」


 ディアンヌが糸を操ってチャームマンティスを捕獲したため、雑食帝はディアンヌの頭を撫でてからチャームマンティスの頭にインセクト図鑑を被せた。


 インセクト図鑑に吸い込まれたチャームマンティスはすぐに召喚される。


「【召喚サモン:リリィ】」


 呼び出されたリリィは瞬時に雑食帝に媚びるように近づいた。


 テイムされたから自分が殺されるとは思っていないけれど、少しでも良い待遇を得ようというつもりである。


「下っ端、狩人様に媚びても無駄。序列はお前が一番下。まずはお前の有用性を見せてみろ」


 ディアンヌにそう言われたリリィはフェロモンを一定方向に向けて飛ばした。


 その数分後、巨大な黒い塊が空を飛んで雑食帝達の前にやって来た。


「旦那様、リリィがウボ=サスラをここに呼び込んだようです」


 クラウスはそれからすぐに鑑定結果を雑食帝達に伝えた。



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名前:なし 種族:ウボ=サスラ

性別:なし Lv:100

-----------------------------------------

HP:2,700/2,700

MP:2,000/2,500

STR:2,300

VIT:2,100

DEX:2,500

AGI:2,500

INT:2,500

LUK:2,000

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称号:大災厄

   蠱毒のグルメ

   鉄の胃袋

   到達者 

アビリティ:<熔解刃メルトエッジ><爆発触手エクスプロードタッチ><破壊突撃デストロイブリッツ

      <体分裂砲スプリットキャノン><痛魔変換ペインイズマジック><自動再生オートリジェネ

      <全半減ディバインオール><異形グロテスク

装備:なし

備考:捕食は我の役割だ

-----------------------------------------



「触れるな危険だね。それで、食べられるのかな?」


「狩人、言ってること矛盾してるってわかってるか?」


 クラウスの説明を聞いた後、雑食帝が真っ先に訊ねたのは<爆発触手エクスプロードタッチ>を会得しているウボ=サスラを食べられるかどうかだった。


 これには美海もノータイムでツッコミを入れた。


 自分でも危険だとわかっていて何故食べようとするのかと言いたくなるのは当然である。


「ウボ=サスラ自体に毒はございません。調理法さえわかれば食べられるでしょう」


「よろしい。やる気が出て来たよ」


 食べられるモンスターが相手だとやる気が出るのは食いしん坊ズと一緒だが、その対象が雑食限定という点では食いしん坊ズが一緒にしないでくれと抗議するに違いない。


「pぉきじゅhygtfrですぁq」


「なるほど」


「狩人さん、ウボ=サスラが何を言ってるかわかるんですか?」


「いや、さっぱりわからないことがわかった」


「えぇ・・・」


 雑食帝と研志が漫才を繰り広げているところにウボ=サスラは<熔解刃メルトエッジ>を放った。


「ビーゼフ、迎撃!」


 ビーゼフは指示に従って<剛拳砲弾フィストシェル>でウボ=サスラの攻撃を弾き飛ばした。


 その攻撃は1回で終わらずに左右連続で放ったので、2発目の攻撃がウボ=サスラの体に直撃した。


 派手な爆発音が生じると共にウボ=サスラは爆散したが、その破片がすぐに1ヶ所に集まってまとまり始める。


 爆散したのはウボ=サスラが<爆発触手エクスプロードタッチ>で<剛拳砲弾フィストシェル>を受け止めたからだ。


 <痛魔変換ペインイズマジック>と<自動再生オートリジェネ>、<全半減ディバインオール>があるからダメージなんて恐れる必要がないとウボ=サスラが思い切ったのである。


 集合して再生しようとしたウボ=サスラは雑食帝達にとってはチャンスでしかない。


「そうはさせない」


 ディアンヌが蜘蛛の巣を発射して集合しようとしたウボ=サスラの破片をその場で固定した。


「さて、ここからは作業の時間だよ」


 雑食帝の言葉を受け、従魔達と研志が動き始める。


 ウボ=サスラの破片にはそれぞれHPが存在しており、それら全てのHPが0になればウボ=サスラを倒せるからである。


 破片になった挙句、蜘蛛の巣に捕らわれたウボ=サスラはそのままただ順番に破片のHPを削られて力尽きるのを待つしかなかった。


 力尽きたウボ=サスラの破片は黒から白になり、ブヨブヨしていた体質はゼリーへと変わった。


「黒いブヨブヨなら食べるのは大変そうだったけど、白いゼリーならいけそうな気がする」


「・・・いきなり生で食うのは止めろよな」


「わかってるとも。食べ方は慎重に探るさ」


 最早止められないと悟ったから、美海は食べるにしても食べ方を考えろと注意の方針を変更した。


 なんだかんだで夫の雑食を止めないあたり、美海も雑食に対して最低限の理解はあるようだ。


『俺達が倒せなかったウボ=サスラがあんな簡単に・・・』


『くっ、日本の冒険者はやはり別格か』


『全ては雑食帝のお導きのままに』


『『『・・・『『全ては雑食帝のお導きのままに』』・・・』』』


 ”雑食道”とウボ=サスラの戦いを見ていた”偉大なる雑食”の面々は膝を折って雑食帝を拝んでいた。


 他国が神話に登場する神を発見する中、A国は全く神を見つけられずにいた。


 A国は神に見放されたのかと陰鬱な雰囲気だったけれど、たった今の出来事のおかげで”偉大なる雑食”は希望の光を雑食帝に見つけた。


 彼こそが神の遣わした偉大なる雑食帝なのだと思わずにはいられなかったのである。


「おい、A国人が狩人のことを拝み始めたぞ」


「狩人様の素晴らしさが伝わったのね。良いことだわ」


 美海の顔が引き攣る一方でディアンヌの表情はとても誇らしげだ。


「狩人さん、今ならみんな喜んで雑食を食べてくれるのでは?」


「そうだね。ここは心をがっちり掴むためにライトなメニューから布教してみよう」


 雑食帝と研志はとても良い笑顔で受け入れられ易そうな携帯雑食を収納袋から取り出し、膝をついて祈る人達に配って回った。


 この日、ニュースも新聞も”雑食道”一色だったのは当然のことと言えよう。

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