第741話 マスターがモンスタートレインされたのよっ

 冒険者双六を初めて30分、藍大達は中盤戦に入っていた。


 藍大の駒は騎士として装備を着々と更新しつつも懐には余裕があった。


 パンドラの駒は薬士としてポーションを作りまくって儲かっているが、ポーションの作り過ぎで精神を病んでいる。


 ゴルゴンの駒はオーディションを受けて冒険者と女優の二足の草鞋を履いている。


 ゼルの駒は魔法をぶっ放し過ぎて素材が残らず貧乏な冒険者ライフを余儀なくされた。


「アタシのターンだわっ」


 ゴルゴンが賽子で6を出した。


 駒を6つ進めたマスにはイベントと記されていた。


 これはイベントマスであり、現在の職業に応じてイベントが発生する。


 イベントマスは双六にいくつも設置されており、回数を重ねる毎にイベントが変わっていくのだ。


『ドラマのオファーだって。奇数を出せば脇役、偶数を出せば主役ってすごい差があるね。ゴルゴンはどっちかな?』


 これが現実ならば間違っても監督に賽子で決めてほしくない二択だ。


「リル、当然アタシは主役なのよっ」


 自信満々に賽子を振ったところ、ゴルゴンが出した目は3だった。


「なんでなのよっ」


『(´^ω^`)クソワロリッシュフォーエバー』


 床を叩いて悔しがるゴルゴンを見てゼルが煽るように笑う。


 藍大とリル、パンドラはなんとなく奇数が出る予感がしてたからやっぱりかという表情になった。


「僕の番だね」


 そう言ってパンドラは賽子を振って5を出した。


「結婚マス?」


「そうなのよっ。みんなからご祝儀を貰えるんだからねっ」


 ゴルゴンの説明を受けて藍大はゴルゴンとゼルと一緒にご祝儀として3万円を支払った。


『相手はミオかな?』


「違うって言ったらミオが暴れるからミオって答える」


『(*´罒`*)素直じゃないね』


「ゼルは何か知ってるのか?」


 藍大はパンドラの言葉に素直じゃないと言ったゼルは何を知っているのか気になって訊ねた。


 顔文字だけでは伝えきれないから、ゼルはホワイトボードにパンドラとミオのイチャイチャしてる時を目撃した話を書いた。


 それを読んでゴルゴンがニマニマと笑う。


「パンドラとミオはラブラブだわっ」


「・・・ほっといてよ」


 パンドラはこの話題では敵わないと思ったのか、ムスッとした表情でゴルゴンから視線を逸らした。


「まあまあ。夫婦仲が良いのは良いことだぞ」


「そうだね。健太と未亜みたいにしょうもないことで喧嘩するより絶対に良いよね」


「比較対象としてどうなんだ?」


「それもそうだね」


 健太と遥は喧嘩しないし、未亜と遥も喧嘩することはない。


 青島家で喧嘩をするのは健太と未亜だけだ。


 そして、パンドラに喧嘩両成敗だとお仕置きされるまでがワンセットである。


 喧嘩の内容はかなりどうでも良いことだから、毎回お仕置きするパンドラがジト目なのは言うまでもない。


「さて、今度は俺のターンだ。・・・宝箱マスだってさ」


 藍大が出した賽子の目は2であり、止まったマスには宝箱の絵が描かれていた。


「宝箱の中身はアイテムカードの山から1枚引いて決めるのよっ」


「サクラの力を借りずに宝箱を開けることになるとは」


『ドキドキするね』


「だな」


 藍大達はいつもサクラのLUK∞の力で宝箱をカタログギフトのように使っていた。


 冒険者双六とはいえ、宝箱から何が出て来るかわからない状態は新鮮なので藍大とリルはドキドキした。


 アイテムカードを1枚引き、それをひっくり返すと転職の丸薬という文字と丸薬の入ったフラスコの絵が描かれていた。


「1か2が出ると調教士、3か4が出ると鳥教士、5か6が出ると蔦教士なのよっ」


「従魔士はないのか」


「マスターと同じ従魔士に転職した実績は世界中どこを探してもないから転職先から除外したんだからねっ」


 一部ゲームだから許されているシナリオもあったが、ある程度は現実のことも考慮しているようだ。


『ご主人、1か2を出してね。1か2だよ』


「約束はできないけどやってみよう」


 リルは藍大の駒に調教士になってほしいようだ。


 藍大はリルの期待する視線を受けながら賽子を転がした。


 コロコロ転がった賽子は2で止まった。


『流石はご主人! 信じてたよ!』


「よしよし」


 藍大はリルの頭を撫でつつ職業カードを騎士から調教士にチェンジした。


「リル、調教士ってモフラーが多いけどそれでも良かったの?」


『パンドラ、それは言わないお約束だよ』


 パンドラの口から耳にしたくない4文字のワードが飛び出すと、リルはそんなこと言わないでよと咎める。


 パンドラもそれ以上リルの機嫌を損ねるつもりはなかったから、わかったと頷いてこれっきりにした。


 ちなみにテイマー系職業に転職したとしても、バトルマスでテイムできないとずっと従魔なしで進まなければいけない。


 転職したからと言ってそのまま従魔がセットで付いて来る訳ではないのだ。


 次はゼルのターンだ。


 ゼルは賽子を振って4の目を出してバトルマスに止まった。


『( っ・∀・)≡⊃決闘デュエル!』


 意気込んで振ったゼルの賽子は6の目で止まってしまった。


「マスターがモンスタートレインされたのよっ」


『ご主人、テイムのチャンスだよ!』


 ゼルに一番近かったのはその1つ後ろのマスにいた藍大だったから、藍大は駒を1つ前に進めてバトルマスに移る。


 テイマー系冒険者の場合、バトルマスは通常のマスとは異なる。


 1が出るとテイムに失敗して1回休み。


 2が出るとオーガを倒して1万円貰う。


 3が出ると戦闘から逃げたため何もなし。


 4が出ると最初の従魔をテイムする。


 なお、転職したタイミングでは従魔と一緒ではなかったが、調教士と鳥教士と蔦教師で最初の従魔は決まってる。


 従魔達は登場の機会を待っているのだ。


 5が出るとオーガ”希少種”を倒して5万円貰う。


 6が出るとこのマス以外で最も近い者にモンスタートレインし、強制的にバトルマスに移動させる。


 流石にゼルに続いて藍大も6を引く訳にもいかず、4よ出てくれと祈りながら賽子を振ると4が出た。


 調教士の最初の従魔はシャドウウルフ。


 鳥教師の最初の従魔はコッコベビー。


 蔦教師の最初の従魔はドランクマッシュ。


 残念なことにクレセントウルフはテイムできないようだ。


『ワフン、やっぱりご主人はテイマーの姿が一番お似合いだよね』


「ご機嫌だな」


『そりゃご主人がウルフ系モンスターをテイムしたんだもん』


 自分じゃないウルフ系モンスターが藍大の駒にテイムされても良いらしい。


「マスターが強化されてしまったのよっ」


『ハァ━(-д-;)━ァ...ヤッチマッタゼ...』


 藍大の駒が強化されたことは対戦プレイヤーとして喜べないから、ゴルゴンとゼルの反応は至極もっともである。


 その後も藍大達は賽子を振って駒を先に進めていく。


 更に30分後にはゴールが近づいて来た。


 藍大の駒は調教士として着実に従魔を増やして一大勢力になっていた。


 パンドラの駒は薬王と呼ばれるぐらい薬士界ではその名を知らぬ者に成長した。


 ゴルゴンの駒は戦う女優の第一人者になっており、国内外にファンがたくさんできた。


 ゼルの駒は頭がおかしいぐらいの威力を放つ代わりに一度の攻撃でMPがほぼ尽きるロマン砲を放つ危険人物認定された。


「次は僕のターンだ。・・・よし、ゴールした」


 パンドラが賽子を振って6を出したことによりゴールした。


 ゴルゴンとゼルなら一番乗りすれば大はしゃぎするのだが、パンドラはクールに喜んだ。


 パンドラの後に続いたのは藍大であり、その後にゴルゴンが続いてビリはゼルだった。


「製作者なのに勝てないなんて嘘なのよっ」


『(゜.゜) ソンナバカナ… 』


 落ち込んでいるゴルゴンとゼルに対して藍大は声をかける。


「冒険者双六、結構面白かったぞ」


「でしょっ!?」


『ε=ε=(ノ≧∇≦)ノそう言ってくれると思ってた』


 落ち込んでいたのは一瞬ですぐに立ち直った2人は藍大に抱き着いた。


「よしよし。愛い奴等め」


 藍大はゴルゴンとゼルを受け止めてその背中をポンポンと叩いた。


『アナログなボードゲームだけど楽しめたよね』


「でも、細かくやろうと思えばもっと凝れるからPCゲームにしても良いのかも」


「目指せゲームクリエイターなのよっ」


『d(*>v<*)bやってできないことはない!』


 パンドラの発言がゴルゴンとゼルに火をつけてしまったらしい。


「本格的にゲームを作るなら健太にも相談すると良いぞ。あいつ、大学時代に色々手を出してたからその辺の知識もあるはず」


「わかったわっ」


『((o(▽ ̄*)oワクワクo(* ̄▽)o))』


 藍大はゴルゴンとゼルが本気でやりたいならと後押しすると、2人はすっかりPCゲーム制作者の目になっていた。

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