第740話 まだ本気を出してないだけなんだからねっ

 G島攻略の翌日、A国に突如グラーキが現れたと報道された。


 世界のどの国からもグラーキの目撃証言はなく、落ちて来た隕石にグラーキが便乗して地球に降り立ったのではないかと報道番組では報じられている。


 グラーキはクトゥルフ神話では隕石と共に飛来したとされていることから、その説が極めて濃厚というのがどのテレビ局でもクトゥルフ神話の専門家が主張していた。


 報道番組の内容がどうあれ、藍大達は自らA国を助けるために動くつもりはない。


 リルとオフのパンドラを撫でていると茂から藍大に電話があった。


『藍大、今大丈夫か?』


「大丈夫。グラーキの話?」


『それに関連する話だ。一部ニュースでは報道されてない情報を伝えるために電話した』


「表に出せないような内容か?」


 茂の口振りから事態がややこしくなっているのではと藍大は予想するが、茂はそれを肯定した。


『正解。マルファスとウボ=サスラに加えてグラーキが参加して三つ巴になってるんだが、実はA国人も三つ巴の戦いになってるらしい』


「ん? A国人にも第三勢力が登場したの?」


『おう。現政府軍と革命軍に加えて選民思想者とでも呼ぶべき勢力が現れた。隕石とグラーキは地球をリセットして選ばれた人類だけを生かすために宇宙から遣わされたと主張してるらしい』


「うわぁ、遂に頭おかしくなったか」


 従魔ではないモンスターが人間の事情を考えて宇宙から遣わされたなんて発想はどこから出て来たんだと藍大は嫌そうな表情になった。


『俺もそー思う。ただ、日本とCN国はこの状態を放置する訳にもいかなくなった。頭のおかしい思想が世界に広がると間違いなく無駄な争いが生まれるからな』


「なるほど。だから表に出せないし、表に出てしまう前に潰してしまうつもりなのか」


『その通りだ。CN国はプリンセスモッフルがA国の内戦鎮圧に介入する。日本からは実績を考慮して”雑食道”を派遣することになった』


「A国でも雑食が布教される・・・だと・・・?」


 茂の発言に藍大は驚きを隠せなかった。


 確かに雑食帝はR国の内戦を雑食で終わらせた実績がある。


 それによって今のR国は豊かさはまだ取り戻せていないけれど、雑食が普及して飢えによる死者が限りなく減っている。


 その功績から雑食教なるものがR国では発生しており、雑食帝が教祖扱いされている。


 当の本人は教祖扱いされることに興味はなく、雑食は逃避ではなく冒険だなどとコメントを残してそれ以降は特に触れていない。


 そんな雑食帝がトップの”雑食道”がカオスなA国に行けば、ちゃっかり雑食を布教させてしまうのではなかろうかと藍大は思った訳だ。


『まあ、今は藍大達に頼み事はないんだが、ひとまず現状と今後の方針は連絡させてもらったわ』


「わかった。なんて言ったらいいかわからんけど、俺達はいつも通りに動かせてもらう。それじゃ」


 藍大が電話を切るのを待ってゴルゴンとゼルが藍大の前にやって来た。


「マスター、お話は終わったのよね?」


『(o-_-o) 話してもおけ?』


「電話は終わったぞ。2人はどんな用事だ?」


 藍大はゴルゴンとゼルだけで話しかけて来たことに不安を感じた。


 仲良しトリオで話しかけて来たのなら、メロという頼りになるストッパーが暴走を止める手伝いをしてくれる。


 だが、藍大に話しかけたのはゴルゴンとゼルだけである。


 藍大が不安に思うのも仕方のないことだろう。


「実はアタシとゼルが新しいゲームを作ったんだからねっ」


『⸜( ´ ꒳ ` )⸝一緒にやろーよ』


「新しいゲーム? どんな?」


 娯楽大好きな2人が作ったゲームと聞いて藍大は興味を持った。


 まさかPCゲームを作ったとは思っていないが、そこそこ作り込んだ何かが出て来るんじゃないかと期待しているのだ。


「ジャーンなのよっ」


『( ³ω³ )冒険者双六』


 ゴルゴンとゼルは藍大に手作りのボードゲームを披露した。


 (冒険者ライフを体験できる双六ってことか。理解した)


 ビジュアルから藍大は大まかな方向性を察した。


 今日はダンジョンに行く予定もなかったため、藍大は冒険者ゲームをプレイしてみることにした。


 ゲンはリビングで寝ているが、それ以外のメンバーは地下神域で元気に遊んでいるから、プレイヤーは藍大とゴルゴン、ゼル、パンドラだった。


「リルはやらないのか?」


『僕はゲームでもご主人と戦いたくないんだ。だからご主人とチームが良いな』


「愛い奴め。それならリルは俺とチームでやろう」


『うん!』


 可愛い理由でゲームをやらないリルの頭を藍大はよしよしと撫でた。


 ゴルゴンがカードの束をシャッフルしてから藍大に差し出した。


「1枚引いてほしいわっ」


「OK。騎士が描かれてるってことは職業カードか」


「そうなのよっ。引いた職業カードが覚醒した職業技能ジョブスキルなんだからねっ」


 藍大が騎士になった以外は、パンドラが薬士でゴルゴンが拳闘士、ゼルが魔術士だった。


 最初からレアな職業技能ジョブスキルの職業カードが出なかったのはゲームバランスが崩れずに済んで良かったと言えよう。


「所持金は0円スタートだけど、それぞれ装備は初心者用の物を持ってる想定なんだからねっ。さあ、順番に賽子を振って大きい目が出た順番に駒を動かしていくのよっ」


 賽子を振った結果、ゴルゴン、パンドラ、ゼル、藍大の順番だった。


「アタシのターンなのよっ」


 一番手のゴルゴンが賽子で1を出した。


 駒を1つ進めたマスにはダンジョンで装備が壊れて1回休みと記されていた。


「まだ本気を出してないだけなんだからねっ」


 悔しそうに言うゴルゴンの隣でパンドラが賽子を振って4を出した。


 そのマスにはバトルと記されていた。


「バトルマスなのよっ。賽子の数によって結果が変わるんだからねっ」


 1が出ると装備が壊れて1回休み。


 2が出るとゴブリンを倒して千円貰う。


 3が出ると戦闘から逃げたため何もなし。


 4が出るとゴブリンを倒したが原形を留めていないので報酬なし。


 5が出るとオークを倒して5千円貰う。


 6が出るとこのマス以外で最も近い者にモンスタートレインし、強制的にバトルマスに移動させる。


「6は現実でやったらキレられるやつじゃね?」


「ゲームだから許してほしいのよっ」


『(゚∇^*) 許してニャン♪』


「・・・マスによってはメリットがあるから良いか。ゲームだし」


 ゴルゴンとゼルが折角作ったゲームであり、あくまで現実ではないことから藍大は不問とした。


「もう一度賽子を振れば良いんだね。・・・良かった。2だ」


 同じゴブリンを倒すでも2と4では報酬の有無という違いが生じる。


 それゆえ、パンドラは千円貰えてホッとした。


 次はゼルのターンだ。


 ゼルの出した目は4でバトルマスであり、もう一度振った賽子の目は1で1回休みとなった。


『( ´•д•`; )嘘やん』


「フッフッフ。ゼルもアタシと一緒に休めば良いんだわっ」


『( ; -᷄ ω-᷅)ゴルゴンより3つ先だけどね』


「ぐぬぬ・・・」


 ゴルゴンとゼルは1回休みになった者同士で小さな争いをしていた。


『やっとご主人の番だね!』


「そうだな。・・・おっと5だ。バトルマスよりも先か」


 藍大の止まったマスはギャンブルマスだった。


 奇数を出せばマディドールを倒して5万円を貰える。


 偶数を出せばドランクマッシュに酔わされて5万円払う。


 序盤で一気に稼ぐか一気に借金をするかの勝負マスである。


「リル、振って良いぞ」


『奇数出すよ~』


 リルが振った賽子は3が出て藍大は5万円を貰えた。


「おぉ、ナイスだリル!」


『ワッフン♪』


 現実では5万円なんて端金扱いできる大金持ちな藍大だが、ゲームは現実とは別物なので大喜びした。


 リルも藍大の役に立てたことでドヤ顔になっていた。


 ゴルゴンが休みなのでパンドラのターンが回って来た。


「3だね。ダンジョンで見つけたモンスターの情報料で1万円貰えた」


「パンドラは着実に稼いでるな」


「次のアタシのターンで本気出せばすぐに追い抜かせるんだからねっ」


『(⌒-⌒)フッ、最後に勝つのは私さ』


 製作者2人は置いていかれて焦っているが、それでも全然余裕だと自分達に言い聞かせていた。


「あっ、俺も1万円ゲットだ」


 藍大が2を出してパンドラと同じマスに止まると、ゴルゴンとゼルが貧乏は嫌だと若干弱気になっているけどこればかりは運である。


 冒険者双六はまだ始まったばかりだ。

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