第738話 ご主人、ルナは親の七光りじゃないんだよ

 2階に移動した藍大達はボス部屋の扉を開けてダンスホールに入った。


 そこには雨雲で構成された巨人と雷雲で構成された巨人が1体ずつ待ち構えていた。


「レイニージャイアントとサンダージャイアント。それぞれLv75。どちらも中ボスだってさ」


「ほほう。中ボスで2体とは時間稼ぎするつもりであるな」


「ブラドもそう思う?」


「うむ。1階で吾輩達を止められなかった”ダンジョンマスター”がダンジョン改築の時間を稼ぐために用意したのであろう」


『ボス、レイニージャイアントはお任せ下さい』


『それならルナがサンダージャイアントをやるの』


「わかった。エルとルナに任せる」


 やる気満々のエルとルナを見て、藍大はそれぞれの意思を尊重した。


 レイニージャイアントが両腕を前に出してアビリティを発動しようとした瞬間、エルがそれをインターセプトするべく攻撃する。


『凍り付きなさい』


 エルが素早く<氷河時代アイスエイジ>を発動した結果、レイニージャイアントは両腕を前に突き出した姿のまま氷像になってしまった。


 体が魔石以外全て水分で構成されているレイニージャイアントは凍らせてしまえば勝ちなのである。


『ルナもやっちゃうよ~』


 サンダージャイアントが両腕を上げて雷を落とすが、ルナはそれを難なく躱して<輝狼爪シャイニングネイル>を放つ。


 サンダージャイアントの体が真っ二つになるが、雷雲で構成されるサンダージャイアントの上半身と下半身はすぐに元通りにくっついてしまう。


「ルナ、斬って駄目なら潰しちゃえ」


『うん! それっ!』


 藍大にアドバイスを貰ったルナは<深淵支配アビスイズマイン>を発動し、深淵の球体にサンダージャイアントを閉じ込める。


 それだけで終わるはずもなく、ルナは深淵の球体を一気に圧縮してサンダージャイアントを潰しにかかった。


 深淵の球体の中では雷がバチバチと鳴っていたが、それでも能力値の差でサンダージャイアントはルナの攻撃を跳ね返すことができずに雷が消えて静かになった。


 戦闘が終わったことを告げたのは伊邪那美のアナウンスである。


『ルナがLv86になりました』


「エル、見事な判断だった。ルナも相手の特性に応じて戦えたのは偉いぞ」


『恐縮です』


『ワッフン♪』


 藍大はエルとルナを褒めた後、敵2体が唯一遺した魔石をそれぞれに与える。


 魔石を取り込んだことでエルのボディの光沢が増し、ルナの体はモフみが増した。


『エルのアビリティ:<破裂咆哮バーストロア>がアビリティ:<破裂光線バーストレーザー>に上書きされました』


『ルナのアビリティ:<輝狼爪シャイニングネイル>がアビリティ:<聖曲刃ホーリーククリ>に上書きされました』


 (エルのアビリティはシンプルに強そう。ルナは若干リルと違う方向性か?)


 エルとルナの上書きされたアビリティの名前を聞いて藍大はすぐにモンスター図鑑で確かめた。


 <破裂光線バーストレーザー>はレーザーそのものに破壊力はないが、照射された部分がその後すぐに破裂して大ダメージを与えるアビリティだ。


 広範囲向けの<破裂咆哮バーストロア>では狙い撃ちができなかったが、今回の強化で威力が向上して狙撃可能になった。


 <聖曲刃ホーリーククリ>は聖なる光を帯びた斬撃を飛ばし、途中で曲がるせいでガードしづらいアビリティだ。


 リルの扱う斬撃とは異なる方向性に向かっていると藍大が考えるのも当然と言えよう。


「エルもルナもまた強くなったな」


『まだまだ強くなります』


『ルナももっと強くなるよ』


「勿論だ。どっちも伸び代しかない」


 藍大はエルとルナの成長に期待していることを告げた。


『期待に応えられるよう頑張ります。ボス、ドライザー先輩とそろそろ交代でしょうか?』


「そうだな。ドライザーも交代するのを楽しみにしてるだろうから、エルには悪いけど交代してもらうぞ」


『承知しました。では、お先に戻らせていただきます』


 エルに言われて藍大は従魔士の力でドライザーとエルの位置を入れ替えた。


『私が来た』


「・・・ゼルがまたネタを仕込んだか」


 ドライザーがポーズを決めて登場したのを見て藍大はその原因をすぐに察した。


 また、ゼルの取り揃えているネタの数に驚きもしたが、それと同時にドライザーがエルと位置を交換されるとわかって呼び出されるまでにネタを披露できる準備を済ませたことにも驚いた。


『ボス、このような登場の仕方はお嫌いか?』


「お好きでござる」


 このやり取りは藍大とドライザーのお約束なので仕方がない。


 思わず好きだと言ってしまう力が働いているのかもしれない。


 エルに代わってドライザーが現れた後、藍大達は3階へと進んだ。


 3階もいきなりボス部屋であり、扉を開くとダンスホールの中心にはモーニングスターとライオンの頭を模したヘルムを装備した悪魔が待機していた。


「アロケルLv80。こいつも中ボスだ」


 アロケルは藍大に自分の正体を当てられてフッと笑った。


「ほう。我を知るか。いや、そんなことよりも我が騎獣に相応しき狼がいるではないか」


『ルナはお前なんかの騎獣になんかならないよ!』


 怒ったルナは<聖曲刃ホーリーククリ>を放った。


「甘い、甘いやー。甘げぇぇぇぇぇ!?」


 モーニングスターに炎を纏わせてルナの放った斬撃を弾こうとした悪魔だったが、<聖曲刃ホーリーククリ>の軌道が曲がって弾き損ねた結果、ノーガードな状態でその斬撃を体に受けてしまった。


 余裕ぶっていたところで大ダメージを負ったせいか、なんとも情けない声を出してしまっている。


『ルナの背中に乗って良いのは家族だけなんだからね!』


 ルナが連続して<聖曲刃ホーリーククリ>を放つと、相性の悪い攻撃を受けて怯んだ所に次々に命中し、アロケルは一方的にやられて力尽きてしまった。


『ルナがLv87になりました』


『ワフン、失礼な敵はお仕置きするに限るの』


「流石はルナだな。よくやった」


「クゥ~ン♪」


 藍大に頭を撫でられてルナは嬉しそうに鳴いた。


 つい先程までは不機嫌だったけれど、大好きな藍大に撫でてもらったことですぐに機嫌が良くなったようだ。


 ルナの機嫌が直ってから解体を済ませ、魔石はドライザーではなくルナに与えられた。


 ドライザーが次に現れた敵を倒してその魔石を貰いたいと言ったからである。


 藍大の手からルナが魔石を飲み込むと、ルナの目が翡翠色へと変わった。


『ルナのアビリティ:<大気槌エアハンマー>がアビリティ:<大気衝撃エアインパクト>に上書きされました』


『ルナが称号”風聖獣”を会得しました』


『ルナが称号”風聖獣”を会得したことで称号”風神獣の子”が消失します』


 (称号が消失することもあるのか)


 今までありそうでなかった称号の消失という現象を知って藍大はモンスター図鑑で調べた。


 元々、”風神獣の子”は”風神獣”であるリルの子供であることを記念する称号であり、それが次に”風神獣”になることを約束していた訳ではなかった。


 今回の強化でルナは4つの条件を満たして自力で”風聖獣”を会得したため、”風神獣の子”の称号は不要だからなくなったのである。


 (それにしても、いつの間にかルナが”風聖獣”の会得条件を満たしてたとはな)


 藍大は”風聖獣”の称号を会得する4つの条件を指を折りながら思い出した。


 1つ目は能力値平均が2,000以上であること。


 2つ目は言葉を話せること。


 1つ目と2つ目の条件は早い段階でクリアしていた。


 3つ目は強力な風属性のアビリティを2つ以上会得すること。


 この条件は<翠嵐砲テンペストキャノン>と<大気衝撃エアインパクト>を会得したことで満たされた。


 4つ目は聖なる力を帯びたアビリティを1つ以上会得すること。


 これは<聖曲刃ホーリーククリ>を会得したことで満たされた。


 確かに条件を満たしていると藍大が振り返っていると、ルナが藍大に誇らしげにアピールする。


『ご主人、ルナは親の七光りじゃないんだよ』


「そうだな。ルナは立派に自分で条件を満たしたもんな」


『ワフン、”風聖獣”さんだよ♪』


「愛い奴め。帰ったらきっとリルもリュカもびっくりするぞ」


 ルナは藍大にわしゃわしゃと撫でられて嬉しそうに藍大に身を委ねた。


 ブラドはルナが”風聖獣”を会得したことでピンと閃いた。


「主君、これはルナのためにお祝いが必要ではなかろうか?」


「そりゃお祝いするさ。しないはずがない。今夜はご馳走だ」


「うむ! 実にめでたいのだ!」


 ブラドの心の中はご馳走を食べたい気持ちが半分を締めているが、ルナを祝おうという気持ちも半分ある。


 食欲優先なところはあるが、なんだかんだで家族をお祝いしたいという家族思いなブラドである。


 ルナだけじゃなくてブラドもご機嫌になり、藍大は早く帰ってご馳走の準備をせねばとルナ達を連れて上の階に移動した。

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