第736話 伊邪那美様、お主も悪よのう
翌朝、藍大は朝食後に伊邪那美に声をかけられた。
「藍大よ、G島に行かぬか?」
「いきなり何事? G島って大地震の時に島民が全員亡くなって無人島になったって話だったと思うけど」
以前は日本から最も近いリゾートなんて言われたG島は元々A国に属していたが、無人島になったことでA国から見捨てられて現在は無所属だ。
大地震の後、一度A国が少しでも使える物は回収してしまったため、今となってはゴーストアイランドになってしまっている。
「実はの、あそこに1つだけダンジョンがあるようなのじゃ。日本は妾達の結界があるから問題ないが、スタンピードが起きてからすっかりモンスターの島になっておるからそろそろ奪還しておきたいのじゃ」
「行くのは別に良いけどなんでこのタイミング?」
「それはA国が隕石のせいで大変なことになっておるからじゃ。今なら島を取り返したとしても文句を言われまい。仮に言って来たとしても、自国の本土すら守れずにいる国が偉そうなことを言うなと押し切れるであろう?」
「伊邪那美様、お主も悪よのう」
「何を言うのじゃ。A国の尻拭いをするんだからノープロブレムなのじゃ」
若干お約束に乗り切れていない伊邪那美だが、それにツッコミを入れる前にルナが藍大の膝の上に飛び乗った。
『ルナも行きたい!』
『僕も行きたいけど偶にはルナに譲るよ。ルナ、ご主人のことをしっかり守るんだよ?』
『うん!』
ルナが藍大に同行するということで、リルは家に残ってリュカとゆっくり過ごすようだ。
本当のことを言えば、昨日はバレンタインデーでA国がどうなっていようが”楽園の守り人”は平常運転だ。
リルは昨晩リュカにたっぷり甘えられて疲れが残っているようだから、藍大もリルのためを思ってルナを連れて行くことにした。
アビリティの成長度合いやダンジョン潰しに必要なメンバー選定の結果、藍大はルナとブラド、エルを連れて行くことにした。
なお、ゲンはいつも通り藍大に憑依していくし、エルが魔石で強化できたらドライザーと交代予定である。
ドライザーはいないもののゲンとエルに憑依してもらい、小さくなったルナを抱えて藍大はG島へと飛び立つ。
ブラドはそれに並んで飛び、しばらくしてから分体と本体で入れ替わった。
「ふむ。本体で外を飛ぶのは久し振りなのだ」
「地下神域で飛ぶのとは違う?」
「そうであるな。吾輩的には地下神域の方が人目を気にせず飛べるから良いのだが、出不精になるのは良くないから今は本体なのだ」
「それにここには舞がいないもんな」
「うむ! はっ、違うのだ! 主君、謀ったな!?」
藍大の誘導にうっかり乗ってしまったブラドは慌てて否定するけれど、舞がいないからハグされるリスクがないと思っているのは間違いない。
「ブラド、うっかり本音が出ちゃったな」
「主君、今の発言はなかったことにしてほしいのである」
「仕方ない。いつも優月とユノが世話になってるから聞かなかったことにするよ」
「恩に着るのだ」
ブラドは藍大が話の分かる主人で良かったとホッとした。
もしもこの話が舞にバレれば、舞がしょんぼりして優月が自分と舞の仲が悪いと思って悲しそうな表情になる。
優月を悲しませたくないブラドは藍大に自分のケアレスミスを黙っていてもらわねば、決して自分が舞と仲が悪くないとアピールするために舞にハグされなければならないので、藍大の配慮に感謝した訳だ。
『ご主人、G島が見えて来たよ』
「おっ、本当だ。なんかうじゃうじゃ見えてるのはモンスターか?」
「ふむ。まずは島の掃除からしなければならないようであるな」
藍大達がG島に着陸しようとすると、G島にいたモンスター達が藍大達を見て攻撃を仕掛ける。
「鬱陶しいのだ!」
ブラドが<
藍大が着陸したらルナが元のサイズに戻る。
『ご主人、ルナもいっぱい狩って来るね』
「行ってらっしゃい」
ルナは元気に走り出していった。
それからすぐにあちこちでモンスターが空高く飛んでいくのが見え、ルナがどこで戦っているかの目印になった。
藍大達が降りたのは空港の滑走路であり、空港自体は既に瓦礫の山になっていた。
「資源は有効活用すべきである」
ブラドはそう言って<
そのおかげで見晴らしが良くなり、周囲にはモンスターの死骸しか見えなくなった。
藍大はエルに<
ブラドにはルナが倒したモンスターの回収を任せた。
『ルナがLv83になりました』
ルナのレベルアップなんておまけもありつつ、藍大達は着陸して30分でダンジョンを除いてG島の制圧を終わらせた。
それを知らせてくれたのは伊邪那美のテレパシーだった。
『藍大、G島に結界を張ったのじゃ。これでG島も藍大のものじゃぞ』
(ありがとう。でも、別にG島が欲しかった訳でもないんだよな)
プライベートリゾートはシャングリラリゾートがあるから十分であり、そもそもそこまで移動しなくても地下神域がある。
地下神域も”楽園の守り人”にとっては子供達の遊び場やピクニックや花見の会場になっているため、これ以上リゾート地があっても仕方ないと藍大は考えている。
(”迷宮の狩り人”か”近衛兵団”に貸し出すのもありかな)
自分達に使い道はないけれど、傘下のクランに任せるのもありかもしれないと藍大は勝手なことを考えてみた。
『ご主人、ルナがダンジョン見つけたよ。早く行こう?』
「よしよし。慌てなくてもダンジョンは逃げないぞ」
ルナが尻尾をブンブン振っているので、藍大はルナの頭を撫でて落ち着かせる。
ブラドはダンジョンに行くので本体から分体に戻り、藍大はルナの背中に乗ってダンジョンに向かう。
エルとブラドがその後ろを飛んでついて行く。
ブラドが瓦礫を素材として回収してしまったため、G島には何もなかった。
1つだけ残っていたのは無人島にあるとは思えない程立派なDIGホテルという名称のホテルだった。
「ブラド、このホテルをリフォームした?」
「うむ。ダンジョンに繋がる部屋以外を解体して作り直したのだ。どうせ吾輩のダンジョンになるのだから、ぼろっちい見た目のダンジョンは嫌だったのだ」
「なるほどな。それで、どの部屋がダンジョンになってたんだ?」
「男性スタッフ用の更衣室である。主君、女性スタッフ用じゃなくて残念だったな」
悪戯っぽい笑みを浮かべてそんな発言をするブラドに対し、藍大はとても良い笑顔で応じる。
「そっか。ブラドは舞達に喧嘩を売りたいんだな」
「否である! 断じて否である! 冗談なのだ!」
「そんなことないだろ? 七つの大罪のてっぺん目指したいって言ってたじゃないか?」
「一言も言ってないのである! 吾輩が悪かったからそれだけは勘弁してほしいのだ!」
仮にブラドが舞達に喧嘩を売ったとして、ブラドの勝率はどれほどあるだろうか。
残念ながら0%だ。
舞達が協力プレイをせずに1対1で戦った場合、舞とサクラが相手ならばブラドに勝てる見込みは欠片も存在しない。
舞と戦った場合、ミョルニルやオリハルコンシールドを使わなくとも舞はブラドをハグした時点で勝ちが確定する。
舞はどういう訳かブラド限定で意識の隙を突いてハグする技術を身に着けており、ブラドはここ最近舞のハグから逃げられた試しがない。
サクラと戦った場合、<
サクラと戦ってまともな勝負になるのは舞とリルぐらいだ。
触れればただじゃ済まない攻撃をするか、速さで視認できなくするかぐらいできなければサクラと戦うことすらできないのである。
仲良しトリオは1対1だと厳しいかもしれないが、3人で戦えばブラドも負けてしまう可能性はある。
ちなみに、女性スタッフ用の更衣室だと藍大が喜ぶという発言がどうして舞達に喧嘩を売ることになるかということだが、舞達では藍大を満足させられていないと思わせてしまうからだ。
藍大に許しを請うブラドにルナが前脚でポンポンと叩く。
『ブラド、ご主人が許してもルナが喋っちゃうから意味ないよ』
「・・・何が望みであるか?」
『ルナと食べたい料理が被った時、ルナに譲る権利5回分』
「それは横暴である! せめて1回にするのだ!」
『いやいや、そんなことないよ。でも、ちょっとだけかわいそうだから4回に負けてあげる』
「もう一声! もう一声頼むのだ!」
『それじゃあ3回ね』
「わかったのだ。吾輩も約束を守るからルナも黙っといてほしいのだ」
『しょうがないなあ』
(ルナが交渉上手になってる!?)
藍大は意外なところでルナの成長を感じていた。
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