【Web版】大家さん、従魔士に覚醒したってよ(書籍タイトル:俺のアパートがダンジョンになったので、最強モンスターを従えて楽々攻略 大家さん、従魔士に覚醒したってよ)
第735話 そして新たなフロンティアになるんですね、わかります
第62章 大家さん、マイペースに領土を増やす
第735話 そして新たなフロンティアになるんですね、わかります
2月14日のバレンタインデー、吐血のバレンタインから2年がたった今日、茂と志保はDMUの本部長室で頭を悩ませていた。
「A国が人魔入り乱れた内戦に入りましたね」
「完全に旧C国と同じルートですよ、これ」
何が起きたかと言えば、マルファスとウボ=サスラの勢力争いのせいで国内が滅茶苦茶になっているのだ。
それをどうにもできない政府とDMUに不満を爆発させた一部の国民が立ち上がり、今の政府とDMUを解散させて自分達で新しい指導者になると宣言した。
そのため、今のA国は人類が現政府軍と革命軍で争い、モンスターではマルファスとウボ=サスラが争うカオスな状況になっている。
しかも、マルファスとウボ=サスラが狡賢くてそれぞれ現政府軍と革命軍に力を貸したため、ただマルファスとウボ=サスラを倒せば良いという状況でもなくなった。
ウボ=サスラは条件を満たしたことで”大災厄”になっていることから、国民の団結なく争い続ければA国は旧C国のように滅亡してしまうだろう。
その一方、日本はフロンティアを完全に掌握して全てが北都府に統合された。
北都府は日本の領土なので、伊邪那美達の結界に守られてモンスターが侵入できなくなったため、日本は順風満帆と言えよう。
だからこそ、A国が旧C国と同じルートに入っていることが余計に悩ましいのだ。
A国への介入あるいは後始末についてCN国と協力しつつ、新たな”邪神代行者”の誕生を阻止しなければならない。
「吉田さん、エアーモフモフしないで下さい」
「こうでもしないとやっていられません。大国というのは何度私達の足を引っ張り、胃を攻撃すれば気が済むんでしょうか」
1月の志保ならば、エアーモフモフはモフモフ動画を見て羨ましくてやってしまう行為だった。
ところが、今の志保は精神的に不安な状態に陥ったことでエアーモフモフしている。
リルに天敵5号扱いされている志保だが、他の4人と比べて若干毛色が違う。
他の4人は生粋のモフラーだけれど、志保は癒しを求めてズブズブと沼に嵌り込んでしまった。
そういった意味では趣味ではなく依存症に近いのかもしれない。
時計を見て茂がそろそろかと思った瞬間、本部長室のドアがノックされる。
「本部長、モフランドからアルルちゃんをお届けしに来ました」
「お入り下さい」
アルルと聞いて無駄にキリッとした表情になる志保はもう手遅れなのだろう。
モフランドのスタッフがドアを開けてアルルを部屋の中に入れると、志保が両手を広げてアルルを出迎える。
「アルルちゃ~ん」
「キュ♪」
アルルも自分が必要とされるのは悪い気がしておらず、モフランドにいると他のモフモフにお客を取られてしまうかもしれないという焦りもある。
それゆえ、志保に呼ばれて出張するのはアルルにとっても十分メリットがあるのだ。
志保はアルルをモフモフして癒され、アルルもお得意様を独り占めできるこの出張契約はお互いに利のある関係と言える。
「吉田さん、ケルヴィンのぬいぐるみじゃ駄目なんですか?」
「芹江さんは大事なことを忘れてます。ぬいぐるみは動きませんし、どこまで似せても結局は偽物なんです」
「キュッ」
志保が決め顔で言った後にアルルもそうだそうだと言いたげに鳴いた。
「そうですか。まあ、吉田さんが元気になったから良しとしましょう。とりあえず、これからCN国とWeb会議ですよね。頑張って下さい」
「アルルちゃんがいれば百人力です。ね、アルルちゃん?」
「キュ~」
「それでは私はここで」
あくまでWeb会議は志保とCN国のDMU本部長の二者間で行われる。
茂は本部長室を出て自分の仕事部屋に戻った。
そのタイミングで茂に電話がかかって来た。
「もしもし、藍大?」
『A国の件、大変そうだな』
「そうなんだよ。A国はこのままだと滅亡ルートだからなぁ」
『そして新たなフロンティアになるんですね、わかります』
「縁起でもないこと言うなと言いたいところだけど、ぶっちゃけそんな予感。これから吉田さんとCN国のDMU本部長がその辺についてWebで話し合う」
藍大ならわざわざ騒ぎ立てるようなことはないし、細かく情報連携しておいた方が自分達としても対処がしやすいから茂は他の外部の人には言わないことも話している。
藍大も藍大でサラッと茂に重要な情報を伝えるから、藍大と茂のやり取りは世界の最先端の情報が飛び交っていると言えよう。
『そっか。まあ、俺達は出番が来ないように祈りつつバレンタインを楽しむことにする』
「気楽で良いな。待てよ? 藍大はチョコを貰うだけか? 作るのを手伝ったりしてないの?」
『チョコだけは自分達でやるって言うから舞達に任せてる。千春さんに相談して作ってるから大丈夫だと思うぞ』
「千春がサポートしてれば問題ないな。あいつが手伝って美味くないはずがない」
『おっ、惚気るじゃん。やっぱり2人目ができると違うねぇ』
「うっさい」
実は今、千春は茂の2番目の子を妊娠している。
妊娠10週目ということで、まだまだ生まれるのは先だが芹江家もまた家族が増えるのだ。
衛は弟でも妹でも自分が守るんだと既にお兄ちゃん意識がある発言をしたのを思い出して茂の頬が緩んだ。
『さて、そろそろ本題に入ろうか。A国なんだけど、隕石墜ちるってよ』
「・・・はい?」
『A国に隕石が落ちるってよ』
聞き間違いだと信じたかった内容は藍大が繰り返し同じことを伝えたことで間違いではないとわかった。
茂は胃薬を飲んでから電話に戻る。
「それは誰からの情報?」
『蘭だ。今朝起きた時に言ってた。どうやら予知夢でA国に隕石が落ちると知ったらしい』
「そいつはヤバいな」
蘭は藍大とサクラの子供で職業は占術士だ。
”死生有命の反逆者”の称号を持ち、<
茂も藍大の家に遊びに行った時、蘭の予言を聞いてそれが的中したからよくわかっているつもりだ。
『余波がどの程度かわからんけど、A国の状況が更にヤバくなるのは間違いないから伝えておこうと思ってな』
「蘭ちゃんに予知夢について直接聞けるか?」
『良いぞ。ちょっと待っててくれ』
藍大は電話の向こうで蘭を呼んで来て代わった。
『もしもし!』
「蘭ちゃん、こんにちは。元気だね」
『うん! わたしはいつもげんきだよ! しげっちはげんき?』
藍大の子供達は茂のことをしげっちと呼ぶ。
これは茂がおじさんと言われることに抵抗があったこととゼルの影響でそうなった。
「まあまあかな。それで、蘭ちゃんに隕石の夢についてお話してもらいたいんだけど良いかな?」
『良いよ! えっとねー、ぼうけんしゃとモンスターがごちゃごちゃになってたたかってるところにおおきないんせきがおちるんだよ!』
「確かに特徴からしてA国だな。蘭ちゃん、隕石の大きさはどれぐらいかわかる?」
『おっきいブラドとおなじぐらいだよ!』
蘭の話を聞いて茂は額に手をやった。
ぬいぐるみの分体ではなく、本体のブラドサイズの隕石が落ちて来ると聞けば無理もない。
これはすぐにでも会議中の志保に報告が必要な案件だと茂は判断した。
「教えてくれてありがとう。藍大に代わってくれるかな?」
『はーい!』
『もしもし、代わったぞ』
「念のための確認だけど、サクラさんは何もしてないよな?」
茂はないとは言えない可能性を潰すために訊ねた。
『何もしてないってさ。勝手にA国が滅んでくれるなら手を出さないって言ってた』
「スーパードライだな。うん、わかった。この話を急いで吉田さんに伝えるわ」
『よろしく。それじゃ』
「おう」
電話が切れてすぐに茂は本部長室に急いで向かった。
まだ会議中だったが、事前にメールで至急報告したい案件があると伝えていたこともあり、すんなり茂が本部長室に入ることができた。
茂は志保とCN国のDMU本部長にA国に隕石が落下する話をした。
ソースとして藍大の名前を出したことにより、志保とCN国のDMU本部長は無条件で信じた。
CN国は隣接するA国に隕石が落下するとわかったため、大急ぎで被害を最小限にするための行動に移った。
この日、蘭の予知夢通りに隕石がA国に落下してしまい、2月14日は呪われているのではなかろうかと掲示板で取り上げられたりしたのは別の話である。
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