第731話 幼女と呼んだらお仕置きします

 第一試合が終わって茂が参加者達の方を向く。


「これより第二試合に移ります。戦いたい人がいれば挙手して下さい」


『『はい!』』


 素早く手を挙げたのはEG国のムハンマドとI国のジュリアだった。


 模擬戦は競争でもあるから、手を挙げるのが速い者から順番に行う。


「アジールさんが僅かに速かったですね。どなたと戦いたいですか? 指名した相手が承諾すればその人と戦ってもらいますが」


『ジュリアと蔦教士対決をする約束なんです』


 ジュリアはムハンマドの発言に対してその通りだと頷いた。


 第一試合は調教士同士の模擬戦だったが、第二試合は蔦教士同士の模擬戦らしい。


 テイマー系冒険者同士の模擬戦が増えるようになってきたのは時代が変わっている証なのかもしれない。


「わかりました。それではアジールさんとビアンキさんは1階に降りて戦闘準備に移って下さい」


 茂は話がまとまったことを確認して2人に指示を出した。


 1階に降りてからムハンマドは早速従魔を召喚した。


『【召喚サモン:ノッコ】』


 ムハンマドが召喚したのは椎茸の帽子を深く被った幼女ではなく、松茸のベレー帽を被った軍服幼女だった。


 (進化しても幼女のままなのか)


 藍大はそんな感想を抱きつつノッコについてモンスター図鑑で調べ始めた。



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名前:ノッコ=アジール 種族:リカーエサソン

性別:雌 Lv:100

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HP:3,000/3,000

MP:3,200/3,200

STR:2,800

VIT:2,800

DEX:3,200

AGI:3,000

INT:3,400

LUK:2,800

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称号:ムハンマドの従魔

   ダンジョンの天敵

   永遠の幼女

   到達者

二つ名:デザートドクターの幼妻

アビリティ:<麻痺狙撃パラライズスナイプ><混乱狙撃コンフュスナイプ><不幸爆弾アンラッキーボム

      <格闘術マーシャルアーツ><中級回復ミドルヒール><中級治癒ミドルキュア

      <敵意押付ヘイトフォース><全耐性レジストオール

装備:マツタケベレー

   カクタスミリタリー

備考:幼女と呼んだらお仕置きします

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 (見た目幼女固定なのは辛いな)


 仲良しトリオは幼女だと藍大と結婚できないから妖怪魔石置いてけになってぐんぐん成長した。


 しかし、称号欄に”永遠の幼女”があると話は変わって来る。


 この称号がある限り、アビリティの強化や統合が行われても幼女の見た目から全く変わらないのだ。


 ”紳士淑女同盟”の変態紳士達がこの称号を知れば、是が非でも自分の推しに”永遠の幼女”を獲得させようとするだろう。


 ノッコ自身、”永遠の幼女”を手に入れてしまったことで幼女の姿から成長できないことを気にしているらしく、自分を幼女と呼ぶことは許さないと備考欄で警告している。


 藍大がチラッとムハンマドの方を見てみたところ、以前の幼女を連呼した彼とは違った。


 ノッコと結婚してムハンマドが落ち着きを取り戻したのかもしれない。


 ムハンマドを守るようにノッコがその正面に立った。


『ノッコ、今日も頼むね』


「お任せを」


 ノッコはムハンマドに言われてビシッと敬礼で応じた。


 ムハンマドがノッコをギリギリまで召喚しなかったのはサプライズ演出のためだろう。


 昨日もノッコは召喚されていなかったが、それは模擬戦で初めて披露したからである。


 ムハンマドとノッコが結婚したことはEG国ではよく知られている事実かもしれないが、日本や海外の国では取沙汰されなかったから今日初めて知る者ばかりだ。


 その一方でジュリアも従魔を召喚していた。


『【召喚サモン:バロン】』


 ジュリアが召喚したのは黒い騎士の装備を身に着けたアースエルフの男性だ。


「バロン、参上しました」


 藍大はバロンについてもモンスター図鑑で確かめる。



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名前:バロン 種族:アースエルフ

性別:雄 Lv:100

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HP:3,000/3,000

MP:3,200/3,200

STR:3,000(+100)

VIT:2,600(+100)

DEX:3,200

AGI:3,000

INT:3,000

LUK:3,200

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称号:ジュリアの従魔

   ダンジョンの天敵

   到達者

二つ名:妹蔦教士の妖精騎士

アビリティ:<剣術ソードアーツ><大地隆起ガイアライズ><螺旋魔砲スパイラルキャノン

      <茨牢獄ソーンジェイル><吸収蔦ドレインヴァイン><絶対注目アテンションプリーズ

      <脈動回復パルスヒール><全耐性レジストオール

装備:アダマントアーマー

   アダマントソード

備考:紳士的に戦わなければならない

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 (バロンはジュリアさんと結婚してないのか)


 ノッコはムハンマドと結婚していたが、バロンのステータスに苗字が表記されていないことからジュリアとバロンは結婚していない。


 もしかしたら付き合っているという可能性はあるが、それならば姉にコンプレックスを抱いているジュリアがバロンと常に一緒ではなかったというのがおかしい。


 ずっと一緒にいた方が自分にはこんな彼氏がいるんだとアピールできるのだから、召喚したままでいた方が良いはずなのだ。


 そうしないということは、恐らくバロンとジュリアは原因まではわからないけれど付き合ってすらいないのだろう。


 藍大がそれぞれの状況を比べているのはさておき、双方の準備が整ったと判断して茂は戦闘開始の合図を出す。


「模擬戦第二試合始め!」


『ノッコ、狙い撃て!』


発射ファイア!」


 開始早々にノッコが<麻痺狙撃パラライズスナイプ>を発動するのに対し、バロンは静かに笑みを浮かべて<吸収蔦ドレインヴァイン>で対応する。


 ノッコの攻撃はMPで創造された物なので、<吸収蔦ドレインヴァイン>で受け止めて回復に充てる。


『バロン、反撃して!』


「かしこまりました、お嬢様」


 (ジュリアさん、バロンにお嬢様呼びさせる方針に変えたの?)


 藍大はバロンの言葉を聞き取っていたため、ジュリアがバロンを彼氏ではなく執事にする方針に変えたのではないかと考えた。


「主は今のままが良いからそのままでいてね。でも、夜に主従プレイするのはありかも」


「サクラさんや、俺の考えてることを読まないでおくれ」


「前向きに検討することを善処するよ」


「それは読む気満々だって言ってるようなものだぞ?」


「主のニーズに迅速に応えるためだもん」


 何を言ってもサクラが言い返して来そうだから、藍大はこれ以上何も言わなかった。


 叱るように強い口調で止めるように言えば、サクラは間違いなく止める。


 そうだとしても、藍大はなんだかんだで家族に甘いからそのままにしたのだ。


『ノッコ、投げまくれ!』


「承知しました」


 単発の狙撃では防がれてしまうと考えた結果、ムハンマドは<不幸爆弾アンラッキーボム>で広範囲に攻撃してしまえと命じた。


 ノッコがその指示通りに攻撃すると、バロンは<茨牢獄ソーンジェイル>でその攻撃から自分の身を守った。


 何重にも重ねた茨の牢獄ではノッコの攻撃も貫通できなかったらしい。


『それでもだめなら接近戦だ!』


「かしこまりました」


『バロン、返り討ちにしなさい』


「お任せ下さい」


 ノッコは<格闘術マーシャルアーツ>を中心に攻撃する作戦に変更し、バロンはその攻撃を<剣術ソードアーツ>で防ぎつつ反撃した。


 一進一退の攻防が続き、ノッコがダメージを負ったと思ったら<中級回復ミドルヒール>で回復した。


 逆にバロンがダメージを受けたら<脈動回復パルスヒール>で回復した。


 (この試合、なかなか終わらないんじゃね?)


 そう思った藍大が茂にアイコンタクトをすれば、茂も同感だと頷いた。


 ノッコの拳がバロンの剣の腹を弾いて距離を取った瞬間、茂が試合終了の合図を出す。


「そこまで! 第二試合は時間の都合上引き分けとさせていただきます!」


 茂の言葉を聞いて両者とも攻撃を止めた。


 ムハンマドもジュリアも負けることはなくても勝てるビジョンも見えなかったらしく、あっさり茂の判定に従った。


 午後の部からはオークションがあるため、あと一戦するとオークションの時間が押してしまうことから少し速いが昼休憩の時間になった。


 会議2日目の今日も昼休みになった瞬間に藍大達が姿を消したのは言うまでもない。

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