第726話 国際会議は茂の部屋でお弁当を食べるのが一番の楽しみだもん

 日本以外の国の概況報告も終わり、昼休憩の時間に入った。


 その瞬間、藍大はリルの<時空神力パワーオブクロノス>で茂の部屋の前に転移した。


 藍大達がドアの前に到着したタイミングで茂がドアを開けた。


「なんだよ茂、俺達が今来るってわかってたのか」


「昼休憩の時間を把握してたからな。どうせ昼休憩になった瞬間に来ると思ったからドアを開けてみたんだ。まさかドンピシャで来るとは思ってなかったが」


「茂が胃痛以外で未来予知した・・・だと・・・?」


「おい、俺をなんだと思ってるんだ?」


 茂がジト目で訊ねると、藍大の代わりにリルが答えた。


『八王子の父じゃないの?』


「なんで占い師みたいな二つ名が俺に付けられてんだよ・・・」


『だって、胃痛のレベルでその後起こる厄介事や面倒事の大きさを予知してるでしょ?』


「・・・否定できない」


 リルの言い分を聞いて茂は言い返すことができなかった。


 藍大は声が聞こえたので周りを確認してから茂に話しかける。


「とりあえず、部屋の外にいると見つかるかもしれないから中に入れてくれ」


「そうだな。入ってくれ」


 茂も自分の部屋に藍大達以外の会議参加者を招き入れるつもりはないので続きは部屋の中で話すことにして藍大達を招き入れた。


 部屋に入ってドアを閉めるとゲンが<絶対守鎧アブソリュートアーマー>を解除して現れる。


「主さん、ご飯」


『そうだよご主人、お弁当にしよう!』


「よしよし。ちょっと待っててくれよな」


 来客用のソファーに座り、収納リュックから机の上に重箱を取り出すとリルが嬉しそうに尻尾を振る。


「毎回すごい弁当って重箱変えた? うわぁ、ユグドラシル重箱っておい」


「舞の両親を見つけたダンジョンの宝箱でゲットしたんだ。折角だから使ってみた」


『国際会議は茂の部屋でお弁当を食べるのが一番の楽しみだもん』


「その発言を聞いたら他の会議参加者が泣くぞ」


 リルの発言に茂は苦笑するしかなかった。


 それもそのはずで、日本以外の参加者にとって国際会議は少しでも役に立つ情報を集めて自国の今後に活かすための場である。


 だと言うのに退屈だと言われてしまえば、お願いだから残って下さいと他の参加者達が藍大達を泣いてでも止めにかかるだろう。


 そのぐらい藍大達から得られる情報は衝撃も大きければ価値も非常に高い。


 そっくりそのまま真似はできないかもしれないが、人間が神になり得ることやそのきっかけはダンジョンにあることが分かったのは大きい。


 神が存在する国は恩恵を得ている。


 日本は伊邪那美達の結界でモンスターの侵入を防いでいるし、I国も日本の後の発表によれば死者の数が一時期よりも急激に減少しているからだ。


 茂は他国の発表について訊きたいが、藍大達の昼休憩の時間は限られているので、まずは弁当を食べることにした。


 藍大が箸を止めたのを確認し、それから茂は藍大に訊ねる。


「藍大が聞いてて印象に残った報告をしたのはどの国だった?」


「IN国だな。ガネーシャ様が復活したってさ。ま、俺は伊邪那美様経由で知ってたけど」


「ちょっと待て。俺、そんな話聞いてないぞ?」


「そりゃそうだろ。IN国がガネーシャ様は9割程回復しましたって報告した直後に伊邪那美様がテレパシーで教えてくれたんだから。その後にルドラがたった今ガネーシャ様が復活しましたって言って会場が騒ぎになった」


「うん、俺その場にいなくて良かったわ」


 茂は藍大の話を聞き、カオスになっていただろうその場のことを想像して引き攣った笑みを浮かべた。


 藍大達からすれば復活おめでとうございますぐらいの感想だが、それ以外の面々からすればIN国との付き合い方を再考しなければならない。


 呑気な感想を抱いているだけで済むはずがないのだ。


「IN国への質問はどうやってガネーシャ様を復活させたかとか、他に神様を見つけたかとか神様関連のものばかりだったな」


「そりゃそうだろ。IN国側はなんて回答したんだ?」


「前者は商売を盛んに行うこと、後者はアグニ様を見つけたって回答してた」


「商売か。人口の多いIN国なら国民が一斉に売買すればぐんぐん回復しそうだ。アグニ様についてもフィアに力を授けてたもんな。納得した」


 茂は藍大経由でガネーシャやアグニの存在を認知していたので受け入れることが早かった。


 他国の参加者達はIN国の回答を聞き、やはり神様が司るものに関連した行動が求められるのだろうと仮説を立てた。


 それも事実ではあるものの、日本の神々は伊邪那美の用意したアチーブメントを藍大が達成するか食事で力を取り戻したため、完全な正解とは言えまい。


「IN国の次に気になったのはCN国かな」


「ほう、I国じゃないのか。一体どんな報告だったんだ?」


「遂にCN国もセドナ様って神様を発見して保護したらしい。その神様は神様会合にも姿を見せないから俺も初めて知った」


「ああ、藍大とリルが時々夢で呼び出されるやつか」


「それそれ」


 藍大から話を聞いていたこともあり、茂は神様会合なんて言葉で驚きはしなかった。


 茂も事前に知らされていれば胃が痛くならないこともあるのである。


「セドナ様ってイヌイット神話の神様だよな?」


「そうらしい。海獣の神様だってさ」


「海の哺乳類っぽいモンスターでモフモフっているっけ?」


「俺もモフモフマスターじゃないから知らん」


 転職の丸薬(調教士)を他の冒険者に与えたという点ではいまだに藍大をモフ神様とこっそり呼ぶ者もいたりする。


 しかし、モフ神様と呼ばれているからといって藍大がモフモフに詳しい訳ではない。


 実際、藍大のモフモフ従魔はリル一家とミオ、九尾白猫状態のパンドラぐらいだ。


 従魔士はテイムできるモンスターに縛りがないため、藍大がテイムするモンスターはあらゆるジャンルである。


 その状況ではモフモフだけ特別に詳しくなることはないだろう。


「まあ、その辺はま…、例のあの人の専門領域だな」


 茂は真奈と口にしようとした瞬間にリルからそれ以上は言ったらいけないという視線を向けられ、例のあの人と言い直した。


 茂はリルにもちゃんと配慮する紳士だった。


「それはそれとして、茂が気になってるI国だけど、フローラ様って花の神様を保護したらしい」


「花か。復活したら貴重な薬品の素材とか与えてくれそうじゃん」


「それな。会議でもその点はI国のDMU本部長が期待してるって言ってた」


「いずれI国が治療大国になったりして」


 茂が提示した可能性は実現性が高そうだ。


 ソフィア自体が回復特化であり、オルクスの巫女になってその力が増した。


 そこにフローラが復活すれば変わり種のポーションができるかもしれないと考えれば、I国が治療大国になる可能性を否定できまい。


『それでも最高の治療を受けられるのは僕達だけどね』


「リルの言う通りだ。サクラや仲良しトリオを超える治療は誰もできない」


 リルがドヤ顔で言うものだから、藍大はリルの頭をわしゃわしゃと撫でた。


 茂もサクラ達のアビリティを知っているため決して否定しなかった。


「IN国とCN国、I国以外で神様関連の報告はあったか?」


「神様会合の神々以外ではリル達四神獣に力を貸してくれた神だけ見つかったって報告を受けてる」


「そうなると今回は神様関連の話が充実してる訳か」


「まあな。復活した神様はガネーシャ様だけだが、保護された神々の報告は増えたと思うぞ」


 ガネーシャの復活で会場が沸いたものの、それ以外の国も着実に神と合流できたと聞いて茂はホッとした。


 日本だけが、正確に言えば藍大達だけが上手くいき過ぎると不要な恨みを買うからである。


「ところで、E国とD国、F国、T島国はどうなんだ?」


「E国はケルト神話の神の手がかりは見つけてる。T島国も少し進展あり。やらかしA国に同調してたD国とF国はあんまり進展してないから元気がなかった」


「こればっかりは人間の力だけではどうにもならないか」


 藍大達を除くと神を保護できたのは偶然な国ばかりだ。


 人間の力だけではどうしようもないことだってある。


 だからこそ、藍大達に助力を求めようとするのだが、藍大達が力を貸すとは限らない。


『ご主人、そろそろ楽しかった昼休憩終わっちゃうよ』


「夕方の懇親会まで我慢しててくれ。俺も周りの迷惑にならない限りでリルをマッサージするから」


『わかった〜。ご主人にマッサージしてもらって寛いでるね〜』


「頼むから会議にもちゃんと参加してくれ。藍大達の意見がないと進まない事柄もあるだろうから」


「へいへい」


 藍大は弁当箱を片付けてゲンに憑依してもらってから、リルと一緒に大会議室へと戻った。

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