第725話 言葉の選び方が過激じゃね? 事実だけど

 例年通り、1つ目のプログラムである各国の概況報告の発表は日本から始まる。


「日本ですが、去年だけで旧C半島国のモンスターを殲滅し、ここは日本に組み込まれました。現在は北都府と名称を変えられており、ダンジョンはDMUが保有するK1ダンジョンのみです」


 志保が北都府についてまとめたスライドをスクリーンに映しながら話す。


 そこにはモフモフ喫茶の写真もあり、シンシアとマリッサのモフラー2人が目を輝かせている。


 写真をスライドに載せている以上、志保がモフモフ喫茶に触れない訳がない。


「こちらはDMU北都府出張所内に設けてあるモフモフ喫茶です。”レッドスター”の赤星真奈氏に監修いただき、モフランドやモフリパークに行けない冒険者達を癒すために北都府出張所でモフモフと戯れられる施設を用意しました。他にも北都府に商機を見つけた会社の社員やその家族も癒されていると現地から報告を受けております」


『日本はモフラーに理解があって良い国だ』


『素晴らしい国です』


 シンシアとマリッサが流石は日本だと頷いている。


 藍大には2人の反応を見て志保がこっそりガッツポーズしているのが見えた。


 (同志に褒められて嬉しそうじゃないですか)


 そう思いながら藍大は何やってるんだかと心の中で苦笑した。


「次は旧C国についてですが、このエリアは日本でフロンティアと呼ばれております。昨日時点で残り10%のエリアのモンスターを倒し、ダンジョンを掌握できればフロンティアは完全に日本の統治下に入ります」


 先週の時点では残り20%だったけれど、1週間で白黒クランがそれぞれ5%ずつ担当区域の掌握を進めていた。


 志保がフロンティアについて現状を説明したことにより、参加国の全員が日本の領土拡大速度にざわついた。


 間に合えば自分達も領土を拡大したいと思っていたのかもしれないが、テイマー系冒険者が充実している日本に他国が追い付くのは至難の業だ。


 このままフロンティアは日本のものになるだろうとこの場にいる誰もが察した瞬間だった。


 それから、志保はフロンティアと北都府の掌握をどのように進めたのか、現れた”邪神代行者”や”大災厄”にどう対処したのか説明した後、藍大にバトンタッチする。


「それでは、神格関連の内容につきましては逢魔さんに発表をお任せします」


「こんにちは。逢魔です。神格関連の出来事を時系列に沿って説明します。まず、去年の3月に私が魔神になりました」


 それは全員承知しているのでうんうんと頷いた。


「それと同時に天照大神が完全復活しました」


 この時点で呆然とする者が何人か出て来た。


 こんなに簡単に神って復活するのかと勘違いしそうになり、そうじゃないだろうと首を横に振る者も少なくない。


「次に9月のA国要らない宣言をした日ですが、月読尊が完全復活しました」


『『『・・・『『さすまじ』』・・・』』』


 各国の代表が魔神様ショックを思い出して口を揃えた。


『ワフン、みんなご主人のすごさを思い知ってるね』


 リルがご機嫌なので藍大はその頭を撫でながら説明を続ける。


「その翌日に”邪神代行者”のアスタロトを倒した後、櫛名田比売様を保護しました」


『情報量が多過ぎる!』


『魔神様マジ半端ないです』


『日本だけ地球から独立してませんか?』


 サラッとアスタロトを倒したことも盛り込んだため、各国のDMU本部長が頭を抱え始めた。


 嘘ではないのは重々理解しているが、自分達に置き換えてみるとそれは現実的ではないからである。


 こんな風に簡単に言えるのは藍大だからだと彼等は自分に言い聞かせた。


「11月に私の正妻である逢魔舞が戦神になりました」


『日本というより”楽園の守り人”が別次元ですね』


『”楽園の守り人”が怖いです・・・』


 どんどん神が集まっていく”楽園の守り人”に恐怖を抱いて震える者が現れた。


 藍大は神化の杯について黙っているが、もしもその存在を公にしたら日本以外のDMU本部長は卒倒すること間違いなしだ。


 頭がおかしくなって藍大から神化の杯を奪おうと考える輩が出て来るかもしれないので公にはしないけれど、秘密にしていることで各国のDMU本部長の胃にダメージを与えずに済んでいたりする。


「最後に12月ですが、須佐之男命が完全復活しました」


『やだー、1年で5柱も神が復活&誕生してるじゃないですかー』


『我が国もほんの少しで良いからお力を貸していただけないだろうか?』


『魔神様、貴方様は何処まで行くおつもりですか?』


 藍大以外には成し遂げられない功績を聞いた結果、参加者達は現実逃避したり力を貸してほしいと頼んだりと様々な反応を示した。


 これに加えてマグニの保護と舞の誕生の秘密について黙っているのだから、彼等が全てを知った時にどんな表情をするのか気になるところである。


 藍大が担当する部分の発表を終えて着席するのと同時に志保が立ち上がる。


「以上で日本の報告は終了です。これより質疑応答に移ります。質問がある方は挙手して下さい」


 前回の会議と同様に日本以外の参加者全員の手が挙がった。


 志保は誰よりも早く手を挙げたI国のソフィアを指名した。


 ソフィアは多くの参加者が抱いている疑問を口にする。


『ランタ様に質問です。どうすれば神様になれますか?』


 先程の会話のようにランタ様と呼ぶあたり、彼女はあくまで藍大を様付けするのは止めないらしい。


 以前、神の力を取り戻すために何をすれば良いかと訊ねたことがあったため、ソフィアは切り口を変えて藍大と舞がどのようにして神になったのか訊ねた。


 その質問にどう答えるのかと参加者全員が藍大に興味津々な目を向ける。


 藍大は嘘をつくつもりなんてないが、馬鹿正直に答えるつもりもなかった。


「偶然ですね。私の場合は家族と伸び伸びダンジョン探索をした結果ですし、舞もダンジョンで手に入れた物がきっかけで神になりました」


『マイ様はアイテムを使って神様になったということですが、それについては教えてもらえないのでしょうか? また、それは誰にでも使える物なんでしょうか?』


 ソフィアが追加質問で鋭く切り込んだ。


 そこが訊きたいんだと参加者達も首を縦に振っている。


「どちらとも答えられません。そのアイテムを巡って戦いが起きる可能性があります。それは私を含めて他の神々も望んでおりませんので」


 藍大がこのように答えればそれ以上誰も聞けない。


 実際、伊邪那美達神様組は神化の杯について藍大の意見を支持している。


 今は人間同士が争っている場合ではないのだから、偶然宝箱から見つからない限り黙っているべきという判断である。


 志保は別の質問に移るべきだと判断してすぐに口を開く。


「その他に質問はありますか? では、E国のエルセデスさんどうぞ」


 ぴしっと手を挙げる参加者達の中から志保はキャサリンを指名した。


『魔神様に質問です。ホームページの動画を拝見しました。どうすればバティンのような”邪神代行者”を一方的に嬲り殺しにできますか?』


 (言葉の選び方が過激じゃね? 事実だけど)


 キャサリンが質問したのは藍大達が”楽園の守り人”のホームページに投稿したバティン討伐動画に影響されてのことだった。


 ドSなキャサリンとしては藍大達のバティンの倒し方に美学すら感じたようだ。


「自分を含めて味方が何をできるのか把握するのが大前提です。そこに敵の情報を加え、いかにして極悪非道な”邪神代行者”の心を折るか考えて行動すると動画のようになりました」


『僕達はご主人の指示があれば実力以上の力も発揮できるんだよ』


 リルは藍大の回答にドヤ顔で補足した。


 リルの得意気な顔が愛らしかったため、藍大はリルの頭を優しく撫でた。


『なるほど。やはり敵の心を折るのは敵の力を削ぐことにも繋がりますから大事ですね。それでは、普段からもっと他者の心を折る訓練を行うことにします』


 キャサリンの言葉を聞いてE国のDMU本部長は勘弁してくれと首を横に振った。


 その表情からこれ以上ドSになったらキャサリンに対処できないことが読み取れた。


 ソフィアの質問で時間を取られたこともあり、質疑応答に使える時間が過ぎて日本の発表は終わった。


 まだまだ質問したりなさそうな参加者達を見て、藍大は昼休憩になったらすぐに逃げようと決めた。

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