第724話 日本のDMU本部長って実は茂なんじゃね?

 1月11日の土曜日の朝、藍大はリルとゲンと共に八王子のDMU本部にやって来た。


 本当は戦神になった舞も連れて行くつもりだったが、舞に抱っこされていた薫が出発時間になっても舞から手を放さず行っちゃ駄目と言わんばかりの目で見るので舞は家に残ることになったのだ。


 茂や志保としては国際会議に藍大が来れない事態だけは避けたいから、舞の欠席を受け入れても藍大だけは必ず来てほしいと頼んだ。


 藍大もドタキャンするつもりはなかったから、集合時間の5分前にはDMU本部に到着した。


 応接室に通されてその中に入ると、茂がすぐに応接室に来た。


「おはよう藍大。来れて良かったぜ」


「おはよう茂。欠席するならちゃんと最初から欠席するって答えるから安心してくれ」


「それは安心できないんだが?」


「大丈夫だって。”邪神代行者”を倒せるのは俺達だけじゃないんだから。おっと、ごめんよリル。名前は呼んでないから怖がらなくて良いぞ」


 リルが真奈の名前が呼ばれるのではと警戒してブルッと震えたため、藍大は膝の上にいる優しくリルの頭を撫でた。


「扱いが完全に例のあの人じゃねえか。名前を呼んだからって居場所を探知して飛んで来ないだろ?」


『茂はわかってないよ。僕達にとって名前を呼んではいけないあの人がいかに脅威か全然わかってない。あの人は僕が名前を呼んだらどんなに遠くにいても察知するに決まってるよ』


「そんなことはない・・・とは言えないか。でも、怯え過ぎじゃないか?」


『モフラーにモフモフをデリバリーするなんて悪魔の所業をするような天敵だよ? 怖くないはずないよ』


 リルは志保が真奈からアルルを特別に派遣してもらったことを知り、真奈に対して今まで以上に警戒した様子を見せる。


 そのタイミングで応接室のドアをノックする音が聞こえる。


「失礼します」


『別の天敵が来ちゃった』


「よしよし、俺がいるから怖くないぞ」


 入室する志保にリルは顔を見せずに藍大のお腹に顔を埋めた。


「おはようございます、逢魔さん。リル君もおはようございます」


『おはようございます』


 リルは志保を警戒しても挨拶を無視するような真似はしない礼儀正しいフェンリルだった。


 藍大に背中を撫でてもらっているおかげで落ち着いていられるリルを見て、志保は会議の間モフモフと戯れられないことに気づいた。


「芹江さん、大変です。私だけ会議中にモフモフと触れ合うことができません」


「吉田さん、会議中にモフモフと触れ合ってる方が圧倒的少数派です。吉田さんだけじゃありません」


「同じ日本代表なのに私だけモフモフできないのは良くないと思います」


「開催国が会議を進行する以上、いつの間にかモフモフに夢中になって話を聞いてませんでしたってなりますよね? それは認められません」


 茂は志保がモフモフしている時に報告すべき事項があって報告したことがあったが、その報告は半分ぐらい耳に入っていなかったので志保がモフモフしながら会議に参加することを認める気はない。


「そんなぁ・・・。私もモフモフしたいです」


「ここでごねるなら今後二度とアルルの派遣を真奈さんにしないよう頼んじゃいますよ?」


「それだけは勘弁して下さい!」


 (日本のDMU本部長って実は茂なんじゃね?)


 2人のやり取りを見ていた藍大はそんな感想を抱いていた。


 その後、大会議室に行く時間になったから藍大とリル、志保は移動した。


 大会議室には国際会議参加者が既に集まっていた。


 A国はバティンをCN国に押し付けようとしたことから会議に参加する権利を剥奪されており、テイマー系冒険者を保有する国は全て参加する意思を表明している。


 それゆえ、参加国は日本とCN国、E国、I国、D国、F国、T島国、IN国、EG国、G国、N国の11ヶ国である。


 最初に開かれた国際会議とは参加国もかなり入れ替わったと言えよう。


 藍大達が入場したのを発見して近くにいたN国のインゲルとG国のマリッサがススッと藍大達の前にやって来た。


『『師匠、おはようございます!』』


「ハンセンさん、ライカロスさん、おはようございます」


『先日は間近でダンジョン探索を見学させていただきありがとうございました』


『覚醒の丸薬Ⅱ型を送っていただきありがとうございました』


「いえいえ。こちらこそ助かりました」


 インゲルにはオーロラダンジョンの案内をしてもらった。


 マリッサは直接関係していないが、ギリシャ神話のクロノスの力を授けてもらってリルが<時空神力パワーオブクロノス>を会得した。


 それらに対するお礼を藍大は手短に伝えた。


 本当はもっとしっかり感謝の言葉を伝えたかったけれど、インゲルとマリッサの後ろには他にも藍大達に挨拶に来た面々が並んでいたので仕方なくそうなったのである。


 2人も後ろに来ている人達のことを考え、用件が終わったらすぐに自分の席に戻って行った。


 次に並んでいたのはCN国のシンシアだった。


『おはようリル! 今日も素晴らしい毛並みだな! モフらせてくれまいか!?』


『次の方どうぞ』


『これがツンデレか!?』


『違います。天敵2号はお引き取り下さい』


 リルは<仙術ウィザードリィ>でシンシアを強制的にCN国の席に戻らせた。


 同じモフラーのマリッサは藍大にお礼を言うために来たとわかったから手出ししなかったが、シンシアはリルをモフりたい気持ちだけで並んでいたのでリルがそうするのも仕方あるまい。


 シンシアの後はIN国のルドラとEG国のムハンマド、I国のジュリアが簡潔に近況報告を行った。


 I国はビアンキ姉妹が冒険者枠で来日しており、ジュリアが自席に戻って行ってから姉のソフィアが藍大に話しかける。


『ランタ様、お久し振りでございます』


「・・・その変にかしこまった口調はなんですか?」


『神様に対して馴れ馴れしい口調なんてできませんからこのように喋っております』


 (どうしよう? 我が家じゃめっちゃフレンドリーに喋ってるんだけど)


 ソフィアの言い分を聞き、藍大は普段の伊邪那美達神様組に対する自分の態度を振り返ってこのままで良いんだろうかと思った。


 リルは藍大の腕の中から藍大を見上げる。


『他所は他所、家は家だよご主人』


「リルはエスパーかな?」


『ワフン、僕はご主人限定でエスパーだよ♪』


「よしよし、愛い奴め」


 藍大がリルを撫でているとソフィアが手を組んで祈りを捧げ始める。


「ソフィアさん、何やってるんですか?」


『神々の戯れが尊かったので祈りを捧げてしまいました』


「ちょっと何言ってるのかわからないですね」


『申し訳ございません。冗談です。そろそろ会議が始まりますので、後程お話しさせて下さい』


 悪戯っぽい笑みを浮かべてソフィアはI国の自分の席へ戻った。


 どうやら藍大が神になったからと言ってかしこまり過ぎてはいけないと判断したようだ。


 実際、かしこまったソフィアの口調を藍大は若干面倒に思っていたから彼女の判断は正しい。


 ソフィアが自席に戻ってから、藍大達も用意された席に座った。


 参加予定者全員が着席したのを確認すると、定刻になったので志保が開式の挨拶のために立ち上がる。


「皆様、今年もお集まりいただきありがとうございます。報告や議論の時間を多く確保できるよう円滑な進行にご協力下さい。これより第5回冒険者国際会議を始めます」


 志保の挨拶を受け、日本を除いた国々のDMU本部長達はお互いの顔を見て余計なことをしないこと、連れて来た冒険者達にさせないようにと合図した。


 去年を振り返ってみて、どの国も日本から引き出したい情報は山のようにある。


 それゆえ、どこかの国がやらかして本来得られたであろう情報が得られなくなる事態は避けたい。


 最悪の場合、藍大の不興を買って自国に不利益が生ずる可能性だってある。


 藍大に無礼を働いた者とその者が属する国には不幸が訪れる。


 それはA国とR国、旧C国が証明している。


 どうやってという手段はわからずとも藍大に不快な思いをさせれば何かしらの報復を受けるとわかっているため、どの国も余計なことはするんじゃないと他国に合図を出した訳だ。


 (他の国のDMU本部長達に奇妙な連帯感みたいなものを感じる)


 藍大はピリピリしている彼等を見てそんな感想を抱いていた。


 また変なことにならないと良いんだけどと思いつつ、藍大はリルの頭を撫でて気持ちを平常心を保った。

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