第61章 大家さん、転職テイマー達の成長を見守る

第723話 そんな国もありましたね

 年が明けて2031年の1月4日の午後、藍大と茂、志保はWeb会議を行うことになっていた。


 藍大は膝の上に小さくなったリルとルナを乗せてノートパソコンの前に座っている。


 ミーティングルームに入った時には既に志保と茂が待機しており、志保が画面に映っているリルとルナを見て身を乗り出す。


『逢魔さん、あけましておめでとうございモフ! 新年からとても素敵な状況ですね! 私もそちらに行きたいです!』


『天敵5号は来ないで下さい』


『天敵5号、来ちゃ駄目』


『明確な拒否!?』


 リルとルナが志保にこっちに来ないでくれとはっきり言ったことで志保はショックを受けた。


「あけましておめでとうございます。吉田本部長、諦めて下さい」


『吉田さん、アルルちゃんを吸い過ぎたんですよ。だからリルとルナに嫌われたんです』


「茂、どゆこと? 吉田本部長ってモフランドに行きまくってんの?」


『モフランドのプラチナ会員だぞ。でも、最近業務のせいで行けない時は真奈さんに許可を貰ってアルルをDMUに派遣してもらってたんだ』


「モフランドってそんなサービスしてたっけ?」


『俺が知る限り吉田さんへの特別対応かな。真奈さんが便宜を図ってくれたんだ』


『『天敵!?』』


 真奈という言葉に反応したリルとルナがブルッと震えた。


「よしよし、怖くないぞ。俺がついてるから」


『ご主人、大変だよ。天敵がモフモフをモフラーに派遣する悪魔になっちゃった』


『天敵怖い、天敵怖い』


「大丈夫だ。俺はそんなこと絶対しないからな」


「「クゥ~ン」」


 真奈の志保に対する特別対応を聞いてリルとルナはなんて恐ろしいことをするんだと怯えた。


 藍大はリルとルナが落ちつくように優しく頭を撫でた。


 そんな映像が映ればモフラーはじっとしていることができず、志保がエアーモフモフし始める。


『吉田さん、何やってるんですか?』


『何って気分だけでもモフモフしてるんです』


『重症じゃないですか・・・』


 モフラーの禁断症状が出てしまっている志保に対して茂は手遅れだと思った。


 リルとルナが落ち着いた後、藍大達は今日のWeb会議の本題に入った。


「茂、今日のこれは来週開催する国際会議の事前打ち合わせなんだよな?」


『その通りだ。去年も色々あり過ぎたから、日本の発表について藍大から意見を訊きたいのと意見交換のテーマについて事前に相談しておきたい』


「色々あったなぁ」


 藍大は自分が魔神になって舞も戦神になったことだけでなく、外国人冒険者をテイマー系冒険者に転職させて育てたり、シャングリラリゾートも開発したことを思い返した。


 それ以外にも薫と咲夜が生まれたり、魔神様ショックを起こしたりと数え始めたらきりがない。


『もうちょっと自重してくれても良いんだぞ?』


「自重すると千春さんにレア食材のお裾分けができなくなるぞ? それとシャングリラリゾートも開発しなかったら芹江家の遊び場が減る」


『自重せずに好きにやってくれ。俺は一向に構わん』


 茂はクルッと手の平を返した。


 自分の胃痛よりも千春と衛の笑顔を優先するあたり、茂は良い父親だと言えよう。


 志保はそろそろ良いだろうと判断して日本の発表内容について話を切り出した。


『逢魔さんが動けば日本が発展しますから、誰も逢魔さんを止めることはできませんよ。それで、北都府とフロンティアについて昨年末時点の情報をまとめたものを事前にお送りしましたがご覧いただけましたか?』


 そう言いながら志保が画面共有をしたファイルだが、これは茂が”楽園の守り人”の新年会の際にプリントアウトしたものを持ち込んだため藍大も既に目を通している。


「確認しました。フロンティアはあと少しで掌握できそうなんですね」


『その通りです。逢魔さんが真っ先に担当区域を統治されましたし、三原色クランと白黒クランが動いたことで中小クランも気合が入りました。そのおかげでフロンティアの掌握率は80%に届きました』


 三原色クランは既に担当区域の掌握を終わらせており、残り20%のノルマは”ホワイトスノウ”と”ブラックリバー”が10%ずつだ。


 これらが掌握できるのも時間の問題だろう。


 フロンティアが完全に日本の統治下になっていない状態でも、日本は世界で3番目の国土面積を持つ国になっている。


 今のところ1位がR国で2位はCN国だが、フロンティアの完全掌握とR国やA国の状況によっては国土面積ランキングが更に変わる可能性がある。


「日本の国土面積ってこんなに短期間で増えるんですね」


『そうですね。まさか私が生きてる間にこんなことになるとは思ってませんでした。というよりも、その一因は間違いなく逢魔さんですよ?』


『そうだぞ藍大。他人事のように言ってるけどお前のシャングリラリゾートも小さくない影響を周囲に与えてるんだからな?』


「いやいや、それを言うなら元を辿って旧SK国と旧NK国の南北戦争が起きたところが大きいでしょ」


『そんな国もありましたね』


『A国と旧C国に振り回された結果滅んだのだから、一番の被害者なのかもしれないな』


 今となっては過去の国家扱いされている旧SK国と旧NK国が話に出て来てしんみりした空気が藍大達の中に漂った。


 そんな空気をリセットしようと志保が別のファイルを画面に展開する。


『終わった国のことは置いておきましょう。北都府のモフモフ喫茶に関する資料は読んでいただけましたか?』


 (流石はモフラー。話題の変更先がモフモフじゃないか)


 藍大は志保のチョイスに心の中でツッコミを入れつつ応じる。


「読みました。政宗さんのモフモフ喫茶、徐々に利用客が増えてるみたいですね」


『そうなんです。北都府はダンジョンがK1ダンジョンのみになってしまいましたから、中小クランの方々がK1ダンジョンに挑んだ後で癒されに行くんです。他にも北都府に商機を見つけた会社の社員やその家族も癒されてるそうですよ』


『天門さんに有事の指揮能力はないことはパンドラさんの指摘で痛感してるから、モフモフ喫茶で現地にいる人達の心を掴んでほしいところだ』


「まあ、確かにパンドラから聞いて報酬のチョイスがミスってるとは思った。俺達だから1回目は許したけど、”ブルースカイ”や”ブラックリバー”みたいに厳しいクランを相手にやらかしたらヤバかったんじゃない?」


『本当にそれ。あの一件以来、天門さんにはレポートの中の自分の意見の比率を抑えて事実を多めにするよう指示したよ』


 茂は未亜達が政宗の護衛で北都府について行った時、政宗から追加依頼の報酬の提示はこれで行けると自信満々に言われて許可を出してしまった。


 その時は自分が着手していた案件の対応に追われており、政宗がそれまでに大きなミスをするような者ではなかったことからチェックが甘かったのだ。


 パンドラから電話が来た時の胃痛を思い出して茂は苦笑した。


「それで良いんじゃね? 知らんけど」


『うわっ、適当だな』


「そりゃ他人事だからな」


 藍大にとってDMUのレポート体制なんて正しく機能するならどうだって良いのだ。


 投げやりな回答になるのも仕方のないことである。


『ところで、逢魔家に関する変化についてはどこまで開示して良いでしょうか? 逢魔さんと舞さんが神様になられたことは周知の事実ですが、須佐之男命が完全復活したことと櫛名田比売様が地下神域にいらっしゃることまでは発表されますか?』


「そこまで話すつもりです。舞の両親については伏せさせていただきます」


『マグニ様と愛さんについては日本とN国の一部のみの秘密にするということですか?』


「いずれ開示することにはなるでしょうが、マグニ様はまだ目覚めてません。その状態でマグニ様を保護したと公表すれば面倒なことを言い出す者が出てくるかもしれませんから」


『承知しました。神様関連での面倒事は対処が難しいので逢魔さんにお任せいたします』


 志保は神話の存在にコネがある訳ではないから、その対応を藍大に任せている以上、情報の公開についても藍大の判断を優先すべきだと考えている。


 自分達の勝手な判断で神の怒りを買いたくないというのもある。


 日本の発表内容については一通り確認が終わり、その後は会議参加国と討論する内容について相談してからWeb会議が終わった。

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