第719話 ブラドも舞に憧れてフルスイングしたかったのか

 リルの案内に従って進むと水中のあちこちからフロストクリオネが現れ、氷の散弾を放つ。


「無駄」


 サクラが<百万透腕ミリオンアームズ>でフロストクリオネの攻撃を防ぎ、それらを空中へ引っ張り出す。


 水から出てしまえばフロストクリオネは何もできず、呼吸ができなくなってそのままぐったりして力尽きた。


『私は今何を見てるんでしょうか?』


 フロストクリオネの攻撃が自分達に届かず、急に宙に浮かび上がったと思ったら倒れてしまったのでインゲルは何が起きたのかわからず首を傾げた。


 藍大はサクラがやったことを正確に把握していたため、ドヤ顔のサクラの頭を撫でる。


「サクラ、お疲れ様」


「フフン」


 本来攻撃を目的としたアビリティではない<百万透腕ミリオンアームズ>だけれど、フロストクリオネ程度なら余裕で倒してみせる。


 フロストクリオネはLv85でインゲル達にとって手強い敵になるのだが、藍大達にとってはまだまだ雑魚モブでしかない。


『ご主人、フロストクリオネって食べられるんだよね?』


「確かに食べられるらしいけど美味しく食べるには手間暇がかかるらしい」


『そっか。それなら元々美味しいモンスター食材を料理した方が良いね』


「その通り。でも、この手の食材なら雑食帝が欲しがるだろうから帰国したらお裾分けしようかな」


 それは本当ですか逢魔さんと反応する雑食帝の声が藍大は聞こえた気がしたけれど、それは間違いなく幻聴である。


 日本で何かを感じ取ってウォーミングアップしているかもしれないが、今はとりあえず連絡できる状況にないので放置決定だ。


 何度か群れを倒したことで出尽くしたのか、ぱったりとフロストクリオネが出て来なくなった。


 そして、次の氷の小島に渡ろうとしたタイミングでリルがピタッと止まった。


「リル、次の小島に何かいるのか?」


『ご主人、次の小島は島じゃないよスライムだよ』


「・・・うわっ、マジだこれ。アイランドスライムLv85じゃん」


 リルに言われてモンスター図鑑で調べてみれば、氷の小島ではなくアイランドスライムという巨大なスライムだった。


 今は氷の小島に擬態しているが、自分の上に足を乗せた者の体をそのまま自分の体内に引き込んで熔かす習性を持つ。


 初見殺しの部類に入るのは間違いないだろう。


『僕達を食べようなんて甘いよ!』


 リルが<雷神審判ジャッジオブトール>で仕留めたことにより、小島に擬態した姿から元のポヨポヨした巨大なスライムの姿に戻った。


「擬態してた時の方が小さいんだな」


『びっくりだよね』


 びっくりなのはそんなモンスターを一撃で屠る貴方達ですと言わんばかりの視線をインゲルが藍大達に向けるが今更である。


 アイランドスライムの死体を回収し、藍大達は別の氷の小島から先に進む。


 何度かアイランドスライムと遭遇して倒した先は今までの小島とは異なり、広い氷の大地になっていた。


 少し進んだ場所には鷲の翼を生やしたミノタウロスがポールアックスを島に突き刺して仁王立ちして待っていた。


 藍大はすぐに敵の正体を調べる。


「ハーゲンティLv90。”掃除屋”だ。変身能力はあるけど近接戦闘が得意だから基本的に脳筋だな」


「次は私の出番だね~」


 舞はようやく自分が戦える相手を見つけたと嬉しそうに言った。


 やろうと思えばミョルニルの投擲で今までの雑魚モブモンスターを倒せたが、そうしないで舞がサクラやリルに出番を譲っていたのは”掃除屋”と自分が戦うためだった。


「お主、できるな」


「ほう、お前わかってんじゃねえか」


 ハーゲンティに声をかけられた舞は既に戦闘モードになっており、狂暴な笑みを浮かべながら応じてみせた。


「いざ尋常に勝負!」


「上等だゴラァ!」


 ハーゲンティが<破壊打撃デストロイストライク>を放つのに対し、舞は雷光を纏わせたミョルニルのフルスイングで迎え撃つ。


 壊れないミョルニルとハーゲンティが持っていたポールアックスでは耐久力の差があり、ポールアックスが粉々に砕けてしまった。


 ハーゲンティにとって不味いのはそれだけではなく、ポールアックスを砕かれた衝撃でハーゲンティは全身が痺れて動けなくなってしまった。


「動けぬ。ここまでか」


「正面から殴りに来たことは褒めてやる。あばよ!」


 舞が再びミョルニルをフルスイングすれば、ハーゲンティは力尽きて倒れた。


『素晴らしいです! まさに力こそパワーです!』


 (ハンセンさん、ちょっと頭が残念なことになってますよ)


 舞の雄姿を見てインゲルはテンションが上がっていた。


 転職する前は騎士だったから、騎士の舞が活躍する姿はインゲルにとってみることができて嬉しいものだったらしい。


 ハーゲンティを倒した舞はすっきりした表情で藍大達の前に戻って来た。


「藍大~、勝ったよ~」


「ナイスファイト。舞はやっぱり強いな」


「ドヤァ」


 藍大に褒められて舞は渾身のドヤ顔を披露した。


 その後、ハーゲンティの解体を済ませたタイミングでゲンがアビリティを解除して現れたため、藍大はゲンに魔石を与えた。


「感謝」


 それだけ言ってゲンが魔石を飲み込むと、ゲンが背負っている甲羅の光沢が増した。


『ゲンのアビリティ:<自動氷楯オートイージス>がアビリティ:<可変氷楯バリアブルイージス>に上書きされました』


 <可変氷楯バリアブルイージス>は<自動氷楯オートイージス>と同様に発動すれば自動で氷の楯が防御してくれる。


 それどころか攻撃に応じて楯の形が防ぐのに相応しい形に自動で変形する効果が追加された。


 ゲンのアビリティは相変わらずゲンが楽できるようにアップデートを重ねていると言えよう。


 ハーゲンティを倒した先には巨大な氷の樹が見えており、逆に言えばそれしか見えなかったので藍大達はそれを目指して進んだ。


 氷の大樹に近づいても一向にモンスターが現れないならば、残るフロアボスは氷の大樹なのだろう。


 そのように考えた藍大はモンスター図鑑で目の前の大樹を調べ始める。



-----------------------------------------

名前:なし 種族:ポーラートレント

性別:雌 Lv:95

-----------------------------------------

HP:3,000/3,000

MP:2,500/2,500

STR:2,500

VIT:2,500

DEX:1,500

AGI:0

INT:3,000

LUK:1,500

-----------------------------------------

称号:5Fフロアボス

   希少種

アビリティ:<氷果爆弾アイスボム><吸収根ドレインルート><猛毒茨ヴェノムソーン

      <悪夢草ナイトメアリーフ><痛魔変換ペインイズマジック

      <自動再生オートリジェネ><全半減ディバインオール

装備:なし

備考:丁度良いところに養分が来た

-----------------------------------------



 (持久戦狙いのステータスだが俺達を防ぎ切れるかな?)


 ポーラートレントの能力値とアビリティが持久戦向きだったため、自分達に持久戦を挑もうとは良い度胸だと藍大は笑みを浮かべた。


「敵はポーラートレントLv95。持久戦に自信があるらしいぞ。全力でやっちゃえ」


「覚悟するのである!」


 ブラドは<憤怒皇帝ラースエンペラー>でポーラートレントを爆炎で包み込んだ。


 しかし、ポーラートレントが氷で覆われているせいでブラドの攻撃の威力が軽減されてしまい、ポーラートレントの<痛魔変換ペインイズマジック>と<自動再生オートリジェネ>、<全半減ディバインオール>のコンボが発動する。


「ブラド、やるなら徹底的にやらなきゃ駄目」


 サクラはブラドに見本を見せてやると言わんばかりに<運命支配フェイトイズマイン>のレーザーをポーラートレント目掛けて放った。


 LUK∞の力はタフなポーラートレントでも耐えきれず、その体にぽっかりと風穴を開けられて力尽きた。


『あんなの絶対防ぎようがないじゃないですか』


 インゲルはサクラの本気を目の当たりにして震えた。


 舞の強さはあこがれの対象だが、サクラの強さは逆らってはいけない恐怖の対象としてインゲルに刻み込まれたらしい。


 ポーラートレントの回収を済ませた後、魔石は順番だからブラドに与えられた。


 サクラに力の差を見せつけられてしまい、もっと強くなりたいと願いながらブラドは魔石を飲み込んだ。


『ブラドのアビリティ:<剛力尾鞭メガトンテイル>がアビリティ:<破壊尾鞭デストロイテイル>に上書きされました』


 ブラドが新たに会得したアビリティを知って藍大はふと思った。


「ブラドも舞に憧れてフルスイングしたかったのか」


「愛い奴め~」


「違うのだ! 断じて否である! 騎士の奥方、ハグは止すのだぁぁぁ!」


 藍大との会話に気を取られたブラドは舞に後ろからハグされてしまい、逃げようとしたが逃げ出すことはできなかった。


 舞がブラドと戯れていると、リルがピクッと反応した。


 リルが何かを見つけたらしい。

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