第716話 N国行っちゃう?

 翌日、藍大達は朝食後にリビングに集まって上映の準備を行っていた。


 今はノートパソコンをプロジェクターに繋いだため、スクリーンにノートパソコンのデスクトップが投影されている。


 これらの機材はテレビ好きな仲良しトリオが大きな画面で映画を見たいと藍大におねだりしたことがきっかけで購入した。


 そのおかげで逢魔家では家にいながら映画館っぽい雰囲気を楽しめるようになっている。


 何故上映をしようとしているのかと言えば、それはN国のインゲル=ハンセンからDMU経由で動画が届いたからだ。


 インゲルは以前、海外からテイマー系冒険者に転職するべく日本にやって来たメンバーの1人であり、藍大達に動画を送って来たのは2つの理由があってのことである。


 1つ目は自分の現状を藍大に見てもらい、アドバイスを貰うことだ。


 2つ目は動画の後半で気になる存在が移っているのを見つけたから確認してほしいという依頼だ。


 現時点で藍大達はイレギュラーのスペシャリストなので、2つ目の理由についてはN国のDMUとしても意見を訊きたいとのことだった。


 準備が整ったところで仲良しトリオがはしゃぐ。


「作り物じゃないダンジョン探索動画はワクワクするのよっ」


「リアリティは大事です!」


『(*´艸`)ワクワク』


「ゴルゴンちゃん、メロちゃん、ゼルちゃん、上映中は静かに見るんだよ? 騒ぐようなら私に抱っこされたまま見てもらうからね」


 舞に注意された途端、仲良しトリオはスッとおとなしくなった。


 テンションに身を任せて舞にハグされるのは避けたいようだ。


「よし、それじゃあ流すぞ」


 リルを膝の上に乗せた藍大がボタンを押せば、インゲルが送って来た動画が再生される。


『師匠、お久し振りです。N国のインゲル=ハンセンです。今日は強くなった私達の姿を見て下さい。また、もっと強くなれるようアドバイスをいただけると嬉しいです。よろしくお願いします』


 画面上のインゲルはペコリと頭を下げた。


 それからインゲルはテイムしている従魔を順番に紹介していく。


 相棒のカイゼルは合宿の時にアールホースだったが、今では高貴な雰囲気の紫色の体表をしたマーキスホースに進化していた。


 カイゼルはインゲルにとても懐いており、甘えるようにインゲルに頬擦りする。


 インゲルの従魔はカイゼルだけではない。


 N国に戻ってから新たな従魔を2体増やしたようだ。


 2体目は雌のアムドゥスキアスのアイネ。


 音に関するアビリティで支援や回復を得意とし、見た目が薄い青色のユニコーンにそっくりである。


 3体目は雄のオルトロスのオスト。


 魔法系アビリティも会得しているため、近距離攻撃以外でも戦える。


 (全体的にハンセンさんの従魔はデカい)


 3体が横並びになって動画に映ったタイミングで藍大はそのような感想を抱いた。


 藍大と同じような感想を膝の上のリルも思っていたらしい。


『僕みたいに体の大きさを変えられないんだね』


「そうみたいだな。あのサイズじゃ家の中には入れられないだろう」


『カイゼルがインゲルに甘えてるのは亜空間の中で待機するのが寂しいからだよ』


「リルは体のサイズを変えられてマジで良かったな」


『うん』


 動画が始まっているのでリルは大はしゃぎせずに藍大に撫でられるがままになっている。


『従魔達の紹介も終わったところで今日挑むダンジョンについて説明します。このダンジョンの名前はオーロラダンジョンです。どの階層も常にオーロラがかかってる野外であることからそう名付けられました』


 インゲルが説明した通り、動画に映るダンジョンの天井は夜空にオーロラが見える幻想的なものである。


「ふむ。吾輩のダンジョンの方が綺麗だが、参考になりそうな内装であるな」


 ブラドは”ダンジョンロード”としてシャングリラダンジョンの地下18階を増築するにあたり、オーロラダンジョンの内装も参考にできそうだと藍大達とは違う目線で見ているようだ。


「ロマンティックな景色は何度見ても良い。後で地下神域でもオーロラ見たい」


 サクラはオーロラダンジョンの神秘的な景色をちょっぴり羨ましく思ったらしい。


 もっとも、羨ましく思ったのはムードが高ければ藍大といちゃついても邪魔が入らないからなのだが。


 普通の景色の中で藍大といちゃついていると邪魔が入るが、ムードが高い場所でいちゃついている場合、自分も邪魔しないでほしいから他の嫁達が藍大との2人の空間に割って入らない暗黙の了解になっている。


 景色が綺麗なことよりも藍大といちゃつく方が優先なのは舞達5人の総意だが今は置いておこう。


 インゲルの探索は4階から始まった。


 1階~3階の探索はカイゼル達にとって張り合いのないものだったらしく、それを映しても藍大が退屈するだろうからという理由でそうなっている。


 4階は空にオーロラが見える氷雪の大地と呼ぶべき内装である。


 出現する雑魚モブモンスターはLv70以上であり、カイゼルがLv80でアイネとオストがLv75の今、経験値稼ぎに丁度良い相手のようだ。


 藍大達が動画を見ていると、アイスゴーレムが2体同時に現れてインゲル達に襲い掛かる。


『アイネは<応援口笛エールホイッスル>。オストはそれを待ってから<火炎雨フレイムレイン>』


 アイネがインゲルの指示通りに味方の能力を高めるアビリティを発動し、オストが強化された状態で<火炎雨フレイムレイン>を放つ。


 アイスゴーレムが<火炎雨フレイムレイン>の熱で溶けて弱ったタイミングを狙い、カイゼルが<破壊突撃デストロイブリッツ>で粉砕した。


「良いコンビネーションじゃないか」


「この程度の雑魚モブにコンビネーションで勝つのは二流」


「サクラ、そりゃ手厳しくないか?」


「そう? みんなにも訊いてたらそんなこともないと思うけどどう?」


「一撃かな~」


『楽勝だよ』


「余裕なんだからねっ」


「マスターの指示がなくても瞬殺できるです」


『( *¯ ꒳¯*)1人でできるもん』


「吾輩だけで容易く屠れるのだ」


 それ以外のメンバーも軒並み余裕で倒せるとコメントするのを聞いて藍大は苦笑する。


「まあ、ハンセンさんの従魔と比べたらみんなの方が圧倒的に強いからそうなるか」


 藍大の評価を聞いてみんなドヤ顔である。


 ダンジョンデビューしていない蘭達までドヤ顔になっているのは微笑ましかったので、藍大は順番に蘭達の頭を撫でた。


 その後、アイスゴーレムだけでなくフロストレイス、ブリザードフラワーとも戦闘を行って倒していった。


 連携の取れた動きではあるが、舞が言うような一撃はカイゼル達から見ることができなかった。


 それでも探索自体は順調であり、”掃除屋”のアイスガーゴイルLv75が現れた。


 アイスガーゴイルは名前の通り石の代わりに氷で体が構築されたガーゴイルだ。


『強敵の気配がする。油断せずにいつも通りに戦うぞ』


 インゲルがカイゼル達に慢心せず戦うよう指示を出すと、カイゼル達は今までと同じように連携してアイスガーゴイルのHPを削っていく。


 雑魚モブモンスターよりもレベルが5も高いことから、カイゼル達は無傷ではいられない。


 だが、アイネの<回復歌ヒールソング>でHPを回復しながら戦ってどうにかアイスガーゴイルを倒した。


「勿体ない被弾も何度かあったけど、連携は本当に大したものだと思う」


「ハンセンさんがもっと場数を踏めば指示の速度も上がって敵の動きを封じられるんじゃない?」


「今の戦いを見て改めて主はすごいとわかった」


『ご主人が世界最高のテイマー系冒険者だよ』


 サクラとリルはインゲルの至らない所を見て藍大はやっぱりすごいんだとドヤ顔になった。


 藍大が照れながらサクラとリルの頭を撫でていると、メロが画面の一ヶ所を指差して口を開く。


「何かいたです!」


 藍大が動画を少し巻き戻してもう一度再生し直すと、インゲル達とアイスガーゴイルが戦っている先を黒髪の女性が通り過ぎて行くのが見えた。


「ズームしてもはっきりわからないな。これがハンセンさんの言ってた確認してほしい何かだろう。というかこれ、日本人じゃないか?」


「主、N国に派遣されてる日本人がいないかDMUに聞いてみれば良いんじゃない?」


「そうだな。誰も派遣されてない場合、舞のお母さんがオーロラダンジョンにいるなんてことがあるかもしれない。北欧神話が好きだって言ってたし」


「あれがお母さんかな?」


 舞は首を傾げるが藍大もあくまでその可能性があるぐらいにしか思っていない。


 そうだとしても、可能性があるなら確かめない訳にはいかないだろう。


「N国行っちゃう?」


「うん。行ってみたい」


 動画を見終えてから藍大は茂に電話をかけた。

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