第715話 主はコンシェルジュも好きなんだね

 昼食はフォカロルステーキとサラダ、スープ、パンだったが、食いしん坊ズがわんこステーキするものだから大変なことになった。


 夕食がフォカロルシチューであることを考えれば午後は地下神域で運動するべきだろう。


 実際、食休みが終わったら女性陣が地下神域で運動せねばと覚悟を決めていた。


 伊邪那美もその一員だったけれど、藍大は用事があったので伊邪那美を引き留めた。


「伊邪那美様、ちょっと良いか?」


「うむ。妾からも話があったので丁度良いのじゃ」


「もしかして、舞のお母さんの件?」


「その通りじゃ。絞り込んで調べてみたのじゃが、日本に舞の母親はいないようじゃな」


「マグニ様もいないよね?」


「そうじゃな。おらんかった」


 愛が日本にいないことは残念だけれど、それでも既に亡くなっているという悲しい結果報告にならなかっただけマシである。


 マグニも愛と一緒にいるかもしれないので、伊邪那美の調査には引っかからないだろうと藍大は予測していたがその通りだった。


「愛さんとマグニ様の捜索は外国の神様に協力してもらうしかなさそうだな。まあ、北欧神話の影響範囲内にいるんじゃないかとは思うんだけど」


「妾もそう考えておるのじゃ。しかし、ロキに調査を依頼してもちゃんと調べてくれるか怪しいのじゃ」


『僕がロキ様にちゃんとやってくれなきゃ口利かないって言うよ』


「それなら調査しそうだな」


「ロキはリルからの好感度が落ちるとショックのようじゃから、好感度稼ぎのチャンスはありがたいはずじゃ」


 藍大と伊邪那美の話にリルが加わると、どちらもそれならいけそうだと希望が持てた。


「この件は妾からロキに伝えておくのじゃ。それで、藍大の用件はなんじゃ?」


「リルが今日の探索でギリシャ神話のクロノス様の力を授かったんだ。そのお礼がしたい」


『ワフン、<時空神力パワーオブクロノス>を会得したんだよ』


 リルがドヤ顔で自分の新しいアビリティを自慢するのが可愛くて藍大はリルの頭を撫でる。


「なるほどのう。クロノスもリルに力を授けられるぐらいには力を取り戻したんじゃな。わかったのじゃ。ヘパイストス経由でお礼は何が良いか訊いておくのじゃ」


「ありがとう」


「うむ。そうじゃ藍大、ちょっと思いついたことがあるんじゃが良いか?」


「何かな?」


 伊邪那美から何か依頼されることがあっただろうかと思いながら藍大は返事をした。


「シャングリラリゾートに神を泊まらせることは可能じゃろうか?」


「神域から出られる状態なら可能だろうけど、オルクス様でも招待するの?」


「オルクスに限った話じゃないのじゃが、神にもリフレッシュが必要なのじゃよ。妾達は藍大の料理や神域があるから問題ないのじゃが、他の神達は今のところ仕事ばかりで疲れておってな。妾達が羨ましいと愚痴られたのじゃ」


「それで可能ならシャングリラリゾートに招待しようって考えたんだ?」


「正解なのじゃ」


 伊邪那美の言う通り、日本の神と海外の神では疲労度が違う。


 日本は伊邪那美と伊邪那岐、天照大神、月読尊の4柱が復活しており、須佐之男命もあと少しで完全復活できる。


 それどころか藍大や舞、四神獣もいるからかなり余裕がある。


 モンスターから国を守る結界を維持できてしまえば、毎日藍大の料理に舌鼓を打ったり健康の維持のために運動したりメロの神域菜園を手伝うだけだ。


 それに対して海外の神は完全に復活できている者が少ない中、冒険者を導いて国をモンスターからどうにか防衛しなければならない。


 じっくりと休む暇もなければ代わりに民衆を導いてくれる神もいないから、加護を与えられる者がいない神は特に大変だ。


 そんな神々に余裕ができた時、間違いなく寛げるシャングリラリゾートに注目が集まるだろう。


 そうであるならば、事前に招待する準備を藍大に頼んでおいた方がドタバタせずに済むだろうと伊邪那美は考えたのである。


「宿泊用のホムンクルスを増やせば問題ないな。後回しにすると忘れそうだし、この後ドライザーに準備してもらうか」


「良かったのじゃ。休みが待ってるとわかれば頑張れる者も多かろう。後で伝えておくのじゃ」


「了解」


 伊邪那美は話が終わったので夕食でしっかり食べれるように地下神域に運動しに行った。


 藍大とリルはドライザーを呼んで地下神域に移動した。


 その場には大量のエンシェントトレントの木材とミドガルズオルムの骨、ヒュドラフレームの核、リジェネスライムの皮、魔石たっぷりのバケツ、転職の丸薬(薬士)が用意してある。


『ボス、宿泊用のホムンクルスを作成すればよろしいか?』


「うん。よろしく頼む」


『お任せあれ』


 ドライザーは頷いて<鍛冶神祝ブレスオブヘパイストス>を発動し、薬士のホムンクルスを合成し始めた。


 薬士なのは疲れに効く薬を調合できた方が良いだろうという考えからだ。


 ちなみに、転職の丸薬(薬士)は奈美が自分の作りたくない物を量産させられそうになった時のために気合を入れて完成させたものだったりする。


 光が生じてその中で全ての素材が重なり、光の中で人型ロボットが形成されていく。


 光が収まるとどういう訳かホテルにいそうなコンシェルジュ姿の黒髪女性ホムンクルスが12体いた。


「ドライザーさんや、一体どうしてコンシェルジュなんだい?」


『ボスはコンシェルジュがお嫌いか?』


「お好きでござる。はっ、しまった!?」


 藍大とドライザーのこのやり取りはすっかりお約束となっている。


 そして、藍大はコンシェルジュ型ホムンクルスを好きと言ってしまったことに後悔した。


 嫌な予感がして後ろを振り返ってみると、いつの間にか藍大の後ろにサクラがいたのである。


「主はコンシェルジュも好きなんだね」


「サクラ、違うんだ。これはお約束で反射的に答えただけだから」


「大丈夫。わかってるから。今日の夜は楽しみにしててね」


 笑顔でそれだけ言ってサクラは運動しに舞達がいる所へ戻って行った。


 藍大の今夜が大変なことになると察し、リルは藍大を労わるように頬擦りする。


『ご主人、今夜も頑張ってね』


「・・・頑張る」


 藍大は少しの間リルをモフモフして気持ちを落ち着かせた。


 今夜のことは今夜の自分に任せようと丸投げし、藍大は完成したコンシェルジュ型ホムンクルスについてリルに鑑定結果を訊く。


「リル、鑑定結果を教えてくれ」


『わかった。コンシェルジュ型ホムンクルス。ヒュドラフレームの核を素材に使ったことでホムンクルス同士は思考を共有できるみたいだよ。護身術もできるし、調合もちゃんとできるから胃薬とか睡眠薬のオーダーメイドもいずれはできそうだよ』


「茂が聞いたら1体欲しがるかもな。あげないけど」


 DMU本部で茂が盛大にくしゃみをした気がしないでもないが、藍大は気にせずにコンシェルジュ型ホムンクルスの名前を決める。


 12体いるので十二支と黄道十二星座のどちらかから名前を付けようと決め、リルとドライザーに相談して後者を採用することにした。


「アリエスを宿泊スタッフ隊の隊長に任命する」


『謹んでお受けいたします、オーナー』


「オーナー?」


『勿論でございます。別荘の所有者は貴方様ですから』


 アリエスにオーナーと言われ、藍大は一瞬戸惑ったけれど説明を聞いて頷いた。


 別荘の管理から宿泊対応、調合まで任せられるアリエス達が完成したため、藍大はリルに頼んでアリエス達をシャングリラリゾートの別荘に連れて行った。


 調理メイド隊や騎士団、スタッフ隊のリーダーであるアルファ、ナイト1号、一郎との顔合わせを済ませた後、アリエス達は配置についた。


「ぼちぼち拡大した領地の使い方も考えないとな」


『急がなきゃいけない訳でもないんだし、良いアイディアが思いついたらでもいいんじゃない?』


「それもそうか」


 藍大はリルとそんな話をしてからシャングリラに戻り、夕食の準備をするまでの間はリルとダンジョン探索から戻って来たパンドラをモフモフしながらのんびりとした時間を過ごした。


 夕食の時間になり、食いしん坊ズは昼食の時よりもガツガツとフォカロルシチューを食べた。


 その食べっぷりは見ていて気持ち良いものであり、藍大はこれだけ喜んでくれるなら作った甲斐があったとニコニコである。


 そんな笑顔の藍大だが、夜に体力満タンの舞やサクラや仲良しトリオに襲われてしまえば全力で頑張るしかなかったのは言うまでもない。

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