第714話 挽肉にしてやろうかぁぁぁぁぁ!

 フォカロルを倒して舞は渾身のドヤ顔を披露する。


「ドヤァ」


「お疲れ様。流石は舞だな」


 藍大に褒められて舞は嬉しそうに笑みを浮かべた。


『ご主人、今日はフォカロルを美味しく料理してくれるんだよね?』


「そうだな。昼は簡単にステーキにして、夜はフォカロルシチューにでもするか?」


「やったねリル君!」


『やったね舞!』


 食いしん坊達は藍大の口からメニューの発表を聞いてとてもご機嫌である。


 フォカロルの解体を済ませた後、食材や素材は速やかに収納リュックにしまって魔石はサクラに与えられた。


 魔石を飲み込んだことで、サクラの髪がサラサラツヤツヤになった。


『サクラのアビリティ:<幾千透腕サウザンズアームズ>がアビリティ:<百万透腕ミリオンアームズ>に上書きされました』


 サクラが操れる透明な腕の数が大幅に増えた。


 <百万透腕ミリオンアームズ>を展開しておくだけでも強固な防壁になるというのは恐ろしい。


 サクラから褒めてほしそうな視線を感じたため、藍大はサクラの頭を撫でてその期待に応じる。


「サクラの髪はとても綺麗だな」


「髪は女の命だもん。主、髪が綺麗な奥さんはお好きですか?」


「お好きでござる」


 サクラからテンプレな質問を受けて藍大はその流れに乗って答えた。


 その一方で舞は自分の髪の毛を触り、サクラに負けないように頑張らなければと決意を新たにした。


 フォカロルのいたコロシアムから通路を抜けて進んだ先もまたコロシアムだ。


 そこにいたモンスター達を見て、サクラが藍大の服を掴む。


「ブラド、帰ったらお仕置きしてやる」


 サクラがそう言ったのはこの場にいる敵が虫型モンスターだったからだ。


「タクティクスドラゴンフライLv95。群体が1つのモンスターになってる珍しいタイプだな。フォーメーションを組んでドラゴンに化けて敵を怯ませるらしい」


「駆逐してやる! 1匹残らず駆逐してやるんだから!」


 サクラは<深淵支配アビスイズマイン>のレーザービームで薙ぎ払い、タクティクスドラゴンフライを殲滅した。


 舞とリルは虫嫌いなサクラがソロ討伐するだろうと判断して観戦するだけに留めた。


 殲滅作業を終えたサクラは藍大に抱き着いて甘えるので、藍大はサクラが落ち着くまでサクラの好きにさせてあげた。


 サクラが落ち着いてから戦利品の回収を済ませ、藍大達は通路の先へと進んだ。


 3回の雑魚モブ戦と1回の”掃除屋”戦を経て、藍大達の前にはボス部屋の扉が現れた。


 フィールド型の階層に比べて8階は移動距離が短いから、実力者が挑めばタイムアタックみたいなことになるだろう。


 もっとも、藍大達は実力だけなら申し分ないけど家族サービスの時間が長く、そのせいで最速タイムを出せずにいるのだが。


 それはさておき、休憩を必要とするような疲れもないので藍大達は早々に扉を開けてその中に入った。


 部屋の中はやはりコロシアムであり、その中央にはライオンの頭をした騎士が青白い機械仕掛けの馬に騎乗して待機していた。


 騎士は右手に馬上槍ランスを持ち、左手には何も持っていない代わりに左腕の籠手が盾のようになっている。


 藍大はフロアボスについて調べるべく、モンスター図鑑を視界に表示させた。



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名前:なし 種族:サブナック

性別:雄 Lv:100

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HP:4,000/4,000

MP:3,000/3,000

STR:3,500

VIT:3,500(+1,000)

DEX:2,000

AGI:2,000

INT:1,500

LUK:2,000

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称号:8階フロアボス

   戦闘狂

   騎士道精神

   到達者

アビリティ:<破壊突撃デストロイブリッツ><深淵刺突アビススタブ><深淵壁アビスウォール

      <格闘術マーシャルアーツ><闘気鎧オーラアーマー><賛筋昂耐マッスルインプライド

      <自動再生オートリジェネ><全半減ディバインオール

装備:アダマントメイル

   アダマントレフトアーム

   グローランス

   メタルホース

備考:いざ尋常に勝負!

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 (<賛筋昂耐マッスルインプライド>って良いのかこれ?)


 サブナックのアビリティ欄にあった<賛筋昂耐マッスルインプライド>の効果を確認して藍大は苦笑した。


 その効果とは、自身の筋肉を賛美することで気持ちを高ぶらせてSTRとVITを上昇させるというものだ。


「敵はサブナックLv100。武器攻撃と肉弾戦が得意でVITは装備込みで4,500だ。注意してくれ」


 藍大が注意した後、舞はリルに騎乗してサブナックと向かい合う。


 サブナックは舞とリルのコンビを見て嬉しそうに笑みを浮かべる。


「おい、決闘デュエルしようぜ!」


「上等だゴラァ!」


 舞の返事に反応するようにリルが走り出し、雷光を纏わせた舞がサブナックを殴ろうとする。


「速いな!?」


 完全なガードは無理だと判断するや否や、サブナックはアダマントレフトアームをミョルニルと自分の体の間に滑り込ませて<闘気鎧オーラアーマー>でダメージの軽減を狙う。


 舞の雷光を纏わせたフルスイングが強化されたサブナックを吹き飛ばし、反対側の壁に押し付けられた。


 その衝撃はコロシアムの壁に蜘蛛の巣状の罅を入れるだけに留まらず、アダマントメイルとアダマントレフトアームを粉砕してしまった。


 (アダマンタイトが粉々になった!? 戦神だからって強過ぎじゃね!?)


 舞の力を知って藍大は目を見開いた。


「あの力でハグされたら私も不味い」


「サクラさんや、心配するのはそこなのかい?」


「主、舞がサブナックを倒すのは時間の問題。そんなことよりも舞がうっかり力の制御をミスした時に備える方が大事」


 サクラは舞が勝つことを疑っていない。


 それは藍大も全く同じである。


 しかし、シリアスな表情で考えていることが舞のハグの力加減のことだというのはいかがなものだろうか。


 藍大とサクラがそんな話をしている一方、吹き飛ばされたサブナックはメタルホースから降りて地面にグローランスを突き刺すと両手を握って力み始めた。


「俺の筋肉は美しい。俺の筋肉は輝かしい。俺の筋肉は最強!」


 サブナックの言葉に応じるようにサブナックの体をオーラが包み込み始める。


 追い詰められたサブナックは<賛筋昂耐マッスルインプライド>を発動したようだ。


「筋肉大好き筋肉大好き筋肉大好き筋肉大好き!」


 サブナックの筋肉が盛り上がり、元々のサイズから徐々に膨れ上がっていく。


「筋肉だぁぁぁい好きぃぃぃぃぃ!」


 そう叫んだ瞬間、サブナックの体からオーラが散ってその体のサイズが元の2倍になった。


 このサイズではメタルホースには乗れないし、グローランスも小さくて玩具のようだ。


 だが、その懸念はすぐになかったことにされる。


 何故なら、サブナックがグローランスを地面から引き抜いてメタルホースを串刺しにしたことで、グローランスが今のサブナックに相応しいサイズと強度になったからだ。


「お前達は今、俺を倒す機会を完全に失った」


『じゃあもう一度試してみようか』


 リルが調子に乗った発言をするサブナックに応じた直後、リルに乗った舞は既にサブナックの正面に雷光を纏わせたミョルニルを振りかぶった状態で現れた。


「挽肉にしてやろうかぁぁぁぁぁ!」


 舞は四次覚醒で得た限界突破も発動してフルスイングを決めた。


 サブナックは舞の攻撃を受け、自分がいかに傲慢で愚かであったか理解した時には力尽きてしまった。


「藍大~、勝ったよ~」


『ご主人、倒した~』


 (落差が酷いけど気にしたら負けだな)


「ナイスデュエル!」


 正直な感想は心に秘めて藍大は舞とリルを労った。


 その後、戦利品を回収して魔石はリルのものになった。


 魔石を取り込んでリルのから感じられるオーラが強くなった。


『リルのアビリティ:<転移無封クロノスムーブ>がアビリティ:<時空神力パワーオブクロノス>に上書きされました』


「リルがまた神様に興味を持たれた?」


『ワッフン♪』


 藍大はリルの頭をわしゃわしゃと撫でながら<時空神力パワーオブクロノス>について調べた。


 その結果、時間と空間の操作が自在にできることが明らかになった。


 ただし、それは熟練度が伸びればの話なので今は好きな場所への瞬間移動と物の動きを止めるか加速させるぐらいしかできないがそれでも十分だろう。


「ヘパイストス様に後でお礼しないとな」


『僕もお礼を言う』


「よしよし。そうだな」


「クゥ~ン♪」


 リルは礼節を重んじるからやってもらったことに対するお礼はしっかりする。


 藍大はそれを理解しているので偉いぞとリルの頭を撫でた。


 8階のテストプレイでやるべきことは終わったため、藍大達は帰宅した。

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