第713話 僕、食べられないモンスターには容赦しないからね?

 孤児院から戻ってきた後、藍大は裕太に愛の情報とアルバムの写真を撮らせてもらった写真を伊邪那美に連携した。


 伊邪那美はそれを踏まえて絞り込み検索してみると言ったが、思ったよりも時間がかかりそうだった。


「主君、暇ができたのであれば多摩センターダンジョンの8階を増築したので試して来てほしいのだ」


「良いぞ」


「私も同行する」


 サクラがダンジョンに行くなら自分も行くと告げ、藍大は孤児院に向かったメンバーとサクラ、それにゲンを加えて多摩センターダンジョンに向かった。


 ちなみに、フロンティアの割り振られた地域については既に”楽園の守り人”担当分の制圧が終わっており、その分だけシャングリラリゾートの土地が広がっている。


 アウトドアエリアとグルメエリア、娯楽エリアに加えて新しいエリアをどうするかについては急ぎの話でもないので今は保留している。


 それはさておき、今は多摩センターダンジョン8階に集中するべきだろう。


 何故なら、8階は内装がコロシアムになっており、藍大達の目の前にはオファニムフレームLv95の群れが待ち構えているのだから。


「オラオラオラァ! がらくたにしてやるぜぇぇぇ!」


「舞には負けない!」


『僕の出番はなさそうだね』


「そうだな」


 舞とサクラが競うようにオファニムフレーム達を倒していくため、藍大はリルの頭を撫でながら2人の戦いを見守っていた。


 5分もかからずにオファニムフレーム達は全滅し、すっきりした表情で舞とサクラが戻って来た。


「終わったよ~」


「大したことなかった」


「お疲れ様。舞とサクラだからこんな簡単に終わったけど、ここの7階をやっとクリアできた冒険者ぐらいじゃしんどいと思うぞ」


 舞とサクラにとっては余裕でも、中小クランの冒険者達が挑めば苦戦を強いられるだろう。


 ブラドは7階をクリアして余裕そうに振舞う者に上には上がいるんだとわからせるために8階を増築したのだから、並の者が簡単に倒せるモンスターを用意しているはずがない。


 とりあえず、全てのオファニムフレームを倒したことで反対側の鉄格子が上がったため、藍大達は先へと進んだ。


 通路の先には先程と同様にコロシアムがあり、今度は道着を着て各種武器を持った二足歩行の猿型モンスターの群れが待ち構えていた。


「エイプマスターLv95。手に持った武器の扱いに長けた猿型モンスターだ」


『どうせなら食べられるモンスターが出てくれば良かったのに』


 リルはがっかりした様子で感想を述べる。


 エイプマスターは猿人と呼べなくもない見た目であり、リルも流石にその肉を食べようとは思っていない。


 自分達にビビるかと思いきやがっかりされてしまったため、エイプマスター達はムッとした表情でリルを睨んだ。


『僕、食べられないモンスターには容赦しないからね?』


「「「・・・「「ウッキィィィィィ!」」・・・」」」


 やれるものならやってみろとエイプマスター達が襲い掛かって来るが、リルは<雷罰審判ジャッジオブトール>で一網打尽にする。


『その程度で僕に勝てると思った?』


 (リルさんまじかっけえ)


 藍大はキリッとした表情のリルを見てカッコ良いと思った。


 もっとも、そんな表情も藍大の前に戻って来たら撫でてほしそうにするので元の愛らしい感じに戻っているのだが。


 リルを労ってから戦利品を回収し、藍大達は反対側の鉄格子が上がったので先に進む。


 レンガ造りの通路を進んでいると、先頭を歩いていたリルがピタッと止まった。


「リル、何か見つけた?」


『うん。舞とサクラに手伝ってもらいたいな』


「何をすれば良いかな?」


「どうすれば良い?」


 リルが見つけた何かは宝箱か隠し通路だとわかっているので、舞もサクラも自分にできることならすぐにやるつもりで訊いた。


『舞が右の壁にある正方形のレンガを攻撃するのと同時に、サクラには床の左側にある正方形のレンガを攻撃してほしい』


「『了解』」


 舞とサクラは3カウントでリルに指示されたレンガを攻撃した。


 それにより、藍大達の正面の床が動いて穴が生じ、その穴から宝箱がせり上がって来た。


『ぐぬぬ・・・。またやられたのである』


 ブラドの悔しそうなテレパシーが藍大に伝わって来た。


「リル、お見事。ブラドが見破られて悔しがってるぞ」


『ワッフン、ブラドが僕に宝箱探しで勝てる日は来ないよ♪』


『そんなことないのだ! 絶対に、絶対にいつか見つけられない宝箱を設置してやるのである!』


 (ブラド、リルには勝てないと思うぞ)


 藍大は絶対にやってやると意気込むブラドに心の中でコメントした。


 やる気になったブラドに悪いと思ったから口にはしなかったけれど、藍大にはブラドがリルを出し抜くビジョンがまるで見えなかった。


 それはそれとして宝箱だ。


 宝箱を見つけるまでがリルのターンならば、ここから先はサクラのターンである。


「主、今日はどうしようか?」


「偶にはサクラが欲しい物にしたらどうだ?」


「良いの?」


「勿論だ。前回は舞のリクエストに応えたんだし、次はサクラのリクエストに応じるよ」


「・・・わかった。それなら私が欲しい物を引き当てる」


 藍大から許可を貰ったサクラは欲しい物を決めて宝箱を開けた。


 宝箱の中には上品な紫色のネグリジェが入っていた。


 リルがすかさず鑑定し、その結果を見て同情する視線を藍大に向けた。


「リル? どうした? 何かヤバい物なのか?」


『ご主人、頑張ってね。宝箱の中身はトランスネグリジェ。とても丈夫で着た人の気分で好きな衣装に変わるんだって』


「Oh・・・」


 藍大はリルの同情する視線の意味を理解して言葉が詰まった。


 そして、サクラの方に恐る恐る顔を向けると良い笑顔だった。


「主、今夜からどんなコスプレにも応じられるからね」


「あっ、はい」


『ご主人、元気出して。いっぱいモフって良いから』


「ありがとう」


 藍大はリルをモフることで気持ちを切り替えた。


 通路を進んだ先には中心にリサイクルベースが置いてあるコロシアムだった。


「ブラドもリサイクルベースを取り入れたんだな」


『面白そうなギミックは取り込んでくのが吾輩のスタイルである』


 今はブラドの声しか聞こえないが、声の様子からしてきっとドヤ顔なのだろう。


 舞が何かを感じ取ったのかキョロキョロし始めた。


「舞、何か見つけた?」


「ううん。なんていうか、ブラドがドヤ顔してる感じがしたの。近くにいるならハグしなきゃって思ったんだけど」


『なんて勘をしておるのだ! 吾輩、普通に怖いのである!』


 舞の直感から口にした言葉を聞いてブラドの声は震えていた。


 流石にブラドがかわいそうだったので、舞の意識をこちらに戻してもらうために藍大はリサイクルベースにオファニムフレームとエイプマスターの素材を3分の1ずつ投入した。


 リサイクルベースが光り始めたので急いで離れたところ、それが粒子となって消えた代わりにヒッポグリフらしき存在が堂々とした態度で藍大達の正面に現れた。


 サクラのLUKからしてただのヒッポグリフではあるまいと藍大がすぐにモンスター図鑑で調べる。



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名前:なし 種族:フォカロル

性別:雄 Lv:100

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HP:3,000/3,000

MP:3,000/3,000

STR:2,500

VIT:2,500

DEX:2,000

AGI:3,000

INT:3,000

LUK:2,500

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称号:掃除屋

   到達者

アビリティ:<水支配ウォーターイズマイン><破壊突撃デストロイブリッツ><羽根嵐フェザーストーム

      <氷結咆哮フリーズロア><吹雪鎧ブリザードアーマー><形状変化シェイプシフト

      <自動再生オートリジェネ><全半減ディバインオール

装備:なし

備考:美味そうな肉が雁首揃えて待つとは大儀である

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「フォカロルLv100。リサイクルベースで出現したけど”掃除屋”だってよ。ついでに俺達のことを美味そうな肉って思ってるらしいぞ」


「食材風情がふざけんじゃねえぇぇぇ!」


「ぐぇっ!?」


 舞が雷光を纏わせたミョルニルを全力で投げた結果、それが命中して情けない声を出してフォカロルが地面に墜落した。


 憐れなフォカロルはその後立ち上がることはなく、藍大達を食べるつもりでいたのに自分が食材になってしまうのだった。

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