第708話 10が15になった程度で100には勝てる訳ないでしょ

 2階は予想外なことにいきなりボス部屋だった。


「まさかもう”ダンジョンマスター”の部屋じゃないよな?」


「それはないんじゃない? 早過ぎるよ」


「もしもこの先に”ダンジョンマスター”がいたら旧C国は無能の集まり」


『ご主人に迷惑をかけてる時点で頭悪いと思うよ』


「「確かに」」


 リルのコメントに舞とサクラがその通りだと頷いた。


 自分に迷惑をかける者は等しく無能とまでは藍大も考えていないけれど、面倒だとは思っているので藍大は苦笑した。


「旧C国が無能かどうかは置いとくとして、さっさとボス部屋の敵を倒しに行こう」


「拙者が扉を開けるでござる」


 藍大の言葉にいち早くモルガナが応じて動いた。


 扉の先には何もない小島に続く一本道があり、その周りは水で覆われていた。


 その島はただの足場なのだろう。


「誰も陸上にはいないね~」


「敵は水中にいるみたいね」


『何か来るよ』


 リルがそう言った瞬間、水飛沫を派手にぶち撒けながらケルピーが飛び出した。


 ただし、そのケルピーは普通のケルピーに比べて蔦の鬣や3本の木が捻じれて1本の角になっている点が異なる。


「ヴァインケルピーLv70。中ボス。蔓や木に関連するアビリティも使うぞ」


『お肉置いてけ!』


 リルは一瞬で<雷神審判ジャッジオブトール>によってヴァインケルピーを仕留めた。


 1階は食べられるモンスターが皆無だったこともあり、食べられるモンスターが出て来て考えるよりも先に倒してしまったようだ。


 ヴァインケルピーを倒したリルはご機嫌な様子で尻尾を振りながら藍大に甘える。


『ご主人、お肉ゲットした~』


「よしよし。愛い奴め」


 藍大はリルをわしゃわしゃして労った。


 リルが満足してからヴァインケルピーの解体と回収を済ませ、藍大達はそのまま3階へと移動する。


 移動した先にあったのはボス部屋の扉だった。


「また~?」


「きっと次も中ボスだと思う」


『僕もそう思う』


 藍大もサクラとリルに同感だったがモルガナがそれに補足する。


「拙者、このダンジョンに中ボスが4体いると思うでござる」


「四天王的な感じ?」


「そうでござる。中に入ったら喋れる2体目の中ボスが負けフラグの立つセリフを言うに決まってるでござる」


「そんなベタなことある?」


「ベタを馬鹿にしては駄目でござるよ」


 そんなはずある訳ないだろうと言いながら扉を開けてその中に進むと、そこには気位の高そうなハーピーが枯れた大樹に止まって藍大達を見下ろして来た。


「下の階のケルピーを倒したようだな」


「そりゃ倒さないとここに来れないからな」


「クックック。奴は四天王の中でも最弱」


「主の話を聞かないなんて万死に値する」


 ムッとした表情のサクラが深淵のレーザーを指先から放ち、ハーピーは胸を撃ち抜かれてそのまま墜落した。


 再び立ち上がることはなく、あっさりと二度目の中ボス戦が終わってしまった。


「要らない情報かもしれんけど、ハーピーエリートLv75。種族的にプライドが高く他種族を見下すことが快感らしい」


「サクラに瞬殺されたけどエリートなんだ?」


「ハーピーの中ではエリートってことなんだろうさ」


「10が15になった程度で100には勝てる訳ないでしょ」


「サクラさんまじかっけえ」


 藍大と舞のやりとりにサクラのクールな発言が刺さる。


 サクラも先程のリルと同様に甘えて来るので、藍大はサクラが満足するまで甘やかした。


 正直なところ、戦っている時間よりも藍大に甘えている時間の方が長い。


 ハーピーエリートの回収を済ませて4階に進んだら、藍大達の前にはまたしてもボス部屋だった。


「殿、これは拙者の予想が当たってるのではござらんか?」


「それな。ハーピーエリートの発言からしてもその可能性が高そうだ」


『扉を開けるよ』


 リルが<仙術ウィザードリィ>で扉を開けると、中心にキャンプファイヤーがあるだけの部屋になっていた。


 藍大達がその近くまで移動した次の瞬間、キャンプファイヤーが激しく燃えて民族衣装を着て太鼓を肩にかけたイフリートが登場した。


「イフリートダンサーLv80。やっぱり中ボス」


「踊~れ、踊~れ、踊~れ、踊れよぉぉぉぉぉ!」


「理不尽でござる!」


 急にキレて<火炎雨フレイムレイン>を発動する敵に対し、モルガナが<幾千雨槍サウザンズランス>でそれを打ち消す。


「や、止めてくれ。雨は、駄目なんだ」


 イフリートダンサーは完全にアビリティが威力負けしており、モルガナの攻撃によって見る見るうちに衰弱していく。


「とどめでござる」


 モルガナは<冷獄吐息コキュートスブレス>でイフリートダンサーの残りのHPを削り取った。


 イフリートダンサーはなんとも言えない情けない表情のまま氷漬けになってしまった。


「殿、拙者も倒したでござるよ!」


「よしよし。よくやったな」


 モルガナが自分に抱き着いて来たから藍大も優しく抱き締め返した。


 舞にハグされた時とは違ってとてもリラックスした表情である。


「むぅ、私にもあんな風に甘えてほしいのに」


「それは無理なんじゃないかな」


「なんで?」


「だって舞は本体のブラドだって持ち上げちゃう馬鹿力だもの。ハグされたまま鯖折りされそう」


「そんなことしないもん。ね、リル君?」


 舞は藍大の次にリルのことを撫でたり抱き締めているため、リルに同意を求めた。


 リルは下手なことを言って舞を傷つけないように事実だけを口にする。


『少なくとも僕は鯖折りされたことないよ』


「ほら、仲が良いリルもうんとは言わない」


「藍大~、サクラが酷いよ~」


「ん? おぉ、よしよし」


 藍大は舞が両手を広げて近寄って来るので、モルガナを避難させてから舞を受け止めた。


 舞の力加減は絶対に壊してはいけない藍大や子供達と触れる時に絶妙なコントロールになる。


 それゆえ、今はゲンが憑依しているけれど最近では無防備な家で舞に抱き着かれても痛みを感じたことはない。


 舞を抱き締め返して宥める藍大を見てモルガナが尊敬の眼差しを向ける。


「殿は本当にすごいでござる」


「主がすごいのはこの世の真理」


『ご主人が世界一だよ』


 モルガナの言葉にサクラとリルがうんうんと頷いた。


 舞が落ち着いてから戦利品の回収を済ませて藍大達は5階に移動する。


 予想通り、5階もボス部屋スタートである。


「四天王最後はなんだろうな」


『土とか岩に関するモンスターだと思うな』


「それだと1階のアダマントクイーンもその枠な気がするけどどうなんだ?」


『あれは挑戦者を篩にかける仕掛けみたいなものだよ』


「それもそうか。ハーピーエリートもケルピーを四天王最弱って言ってたし」


 藍大はリルと話している内にリルの意見に賛成した。


 サクラがドアを開けたら答え合わせの時間である。


 扉の奥には教会の礼拝堂であり、そこにはメイスと盾を持った聖騎士の像があった。


 その像はアダマントクイーンのように黒く輝いていた。


 藍大はすぐにモンスター図鑑で敵について調べた。



-----------------------------------------

名前:なし 種族:アダマントパラディン

性別:なし Lv:85

-----------------------------------------

HP:2,000/2,000

MP:2,000/2,000

STR:2,500

VIT:2,500

DEX:1,500

AGI:1,500

INT:0

LUK:1,500

-----------------------------------------

称号:中ボス(N21ダンジョン)

   戦闘狂

アビリティ:<棍術メイスアーツ><盾術シールドアーツ><破壊突撃デストロイブリッツ

      <破壊投擲デストロイスロー><痛魔変換ペインイズマジック

      <自動再生オートリジェネ><全半減ディバインオール

装備:アダマントメイス

   アダマントバックラー

備考:お前等強そうだな。殴り合いしようぜ

-----------------------------------------



「アダマントパラディンLv85。”戦闘狂”持ちの”中ボス”だ。物理攻撃しかしない分STRとVITが高めだ」


「こいつは私に任せな!」


 藍大の鑑定結果を聞いた時には舞が戦闘モードに入っていた。


 アダマントパラディンは像ゆえに顔の表情が変わらないが、舞と戦えるのが嬉しいと言わんばかりにアダマントメイスを振りかぶって突撃する。


「力で勝てると思うなよ!」


 舞は雷光を纏わせたミョルニルでアダマントパラディンの攻撃を迎撃する。


 その結果、ミョルニルが触れた途端にアダマントメイスが粉砕し、それでも勢いが収まることなく舞の攻撃がアダマントパラディンの体もバラバラに砕いた。


 (舞さんマジパねっす)


 ガタガタ震えるモルガナにしがみつかれながら藍大はそんな感想を抱いた。

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