第709話 温い! さっさと私を神にしやがれ!

 舞が戦闘モードからいつものゆるふわな感じに戻って藍大に駆け寄る。


「藍大~、倒したよ~」


「お疲れ様。惚れ惚れするスイングだったぞ」


「でしょ~? 私も良いのが決まった感じしたんだよね~」


 藍大と気持ちを共有できた舞はドヤ顔になった。


 アダマントパラディンの回収後、その魔石はモルガナに与えられた。


 魔石を飲み込んだことにより、モルガナのぬいぐるみボディにモフみが増した。


『モルガナのアビリティ:<全半減ディバインオール>がアビリティ:<全激減デシメーションオール>に上書きされました』


 耐久力は増したけれど、舞が抱っこしたそうに両手をウズウズさせると藍大の後ろに隠れるモルガナだった。


 舞とモルガナが抱っこの攻防を繰り広げている中、礼拝堂の中の仕掛けに気づいたリルがそれを作動させて宝箱を見つけた。


『ご主人、宝箱見つけたよ』


「おぉ、あったのか。今日は出ないのかと思ったぞ」


『そうやって油断させた時に出て来るのが宝箱なんだ』


 リルの言葉にはその道何十年のプロのような重みがあった。


「主、今日は宝箱から何を引き当てる?」


「はい!」


 藍大がサクラに何をリクエストしようかと思っていたタイミングで舞が挙手した。


「舞、何か欲しいものがあるのか?」


「私、藍大に追いつけるアイテムが欲しい!」


「俺に追いつく? どゆこと?」


「私も神様になってずっと藍大と一緒にいたいの」


 舞の願いを聞いて藍大はなるほどと頷いた。


 藍大は色々な功績を積み重ねた結果、神になって寿命がなくなった。


 今のままでは舞だけが年老いてやがて寿命を迎えてしまうから、そうなる前に自分も神になりたいと舞は願ったのである。


 正直なところを言えば、伊邪那美達神様組の見立てで舞は半神と呼べるぐらいには力を秘めているらしい。


 舞の常人離れした力を持っていることに加え、神を関する食材がふんだんに使われる藍大の料理を逢魔家で誰よりも食べて来た結果である。


 だからこそ、後もう一押しのアイテムが欲しい訳だ。


 舞のリクエストにサクラは目でそれで良いのかと藍大に訊ねる。


「舞がそう願ってくれるなら俺も嬉しい。サクラ、頼めるか?」


「わかった。でも、それなら次は私だからね」


「勿論だ」


「なら良し」


 そう言ってサクラが宝箱を開けると中に金色に輝くゴブレットが入っていた。


 すかさずリルが<知略神祝ブレスオブロキ>で鑑定する。


神化しんかの杯だよ。1年に1回だけ特定の条件を満たした生物が触れると杯の中に液体が湧き出るんだって。それを飲み干して気絶しなければ神になれるよ』


 その特定の条件は2つだった。


 1つ目は能力値の平均が3,500以上であること。


 2つ目は7つの大罪や四聖獣等の保有者の数に制限がある称号を保持していること。


 舞はどちらも条件を満たしているため、宝箱から神化の杯を取り出す。


 それによって杯の中に赤ワインのような液体が湧き出た。


「舞、怖くて飲めないならわた」


「私も人間辞める!」


 サクラが喋っている最中に舞は最後まで言わせてなるものかと覚悟を決め、杯の中身を一気に飲み干した。


 その直後、舞の体が雷光に包まれる。


 バチバチと激しく音を立てる雷光の中にいれば、舞もただでは済まないのではないかと藍大は心配になる。


 しかし、その心配は杞憂に終わることになる。


ぬるい! さっさと私を神にしやがれ!」


 戦闘モードのスイッチが入った舞の言葉が聞こえた途端、雷光が消し飛んで意識をはっきり保った舞が藍大達の前に姿を見せた。


『おめでとうございます。逢魔舞は世界で初めて神化の杯で称号”戦神せんじん”を獲得しました』


『初回特典として逢魔舞のアダマントシールドがオリハルコンシールドにアップデートされます』


 舞が”戦神”を得たことで黒光りする盾が虹色に輝く盾に変わった。


 無事に神化が済んだ舞はニッコリと笑みを浮かべて藍大に抱き着く。


「藍大、私も神様になったよ~」


「軽っ!? でも、それが舞らしいか」


 舞の反応が思ったよりも軽かったので驚いたけれど、それはそれで舞らしいと思って藍大はすぐに受け入れた。


『やったね舞! これで舞も僕達の仲間だ!』


「やったよリル君!」

 

 リルが嬉しそうに話しかければ舞もVサインで応じる。


 ”風神獣”のリルにとって家族に神が増えることは嬉しいことだから、ご機嫌に尻尾をぶんぶん振っている。


「舞、おめでとう」


「ありがとう、サクラ。来年はサクラの番だね」


「当然。すぐに追いついてみせるから待ってて」


 藍大から離れた舞がサクラと話している横では舞に怯えたモルガナが藍大に抱き着く。


「と、殿ぉ・・・」


「よしよし。怖くない、怖くない」


 現状でも差が開いている舞に輪をかけて差が開いてしまったせいか、モルガナは舞にすっかり怯えてしまっている。


 藍大は舞がモルガナを食べることはないし、今までと変わらず時々ハグされるだけだと落ち着かせた。


 圧倒的実力差の前ではハグされることは諦めて受け入れるしかないのだ。


『しゅ、主君、吾輩はもっと強くなりたいのだ。強くなって騎士の奥方から身を守りたいのである』


 ブラドが舞の神化を感じ取ったのかテレパシーで強くなりたいと藍大に訴える。


 訴える声が震えていることから、舞の神化を知って怯えているのはモルガナとブラドだけではないのだろう。


 帰宅した時に大変なことにならないと良いがと思いつつ、5階でやることを終えたので藍大達は6階へと進んだ。


 6階も当然の如くボス部屋であり、藍大達は躊躇うことなくその中に足を踏み入れた。


 ボス部屋の中は玉座の間と呼ぶに相応しく、玉座にはオーソドックスな見た目の悪魔がふんぞり返っていた。


 その悪魔は立ち上がってわざとらしく拍手する。


「よくぞここまでやって来た」


「何様のつもりだあいつ?」


「俺さふぎゃ!?」


 悪魔が名乗る途中で雷光を纏ったミョルニルがその悪魔の顔面に命中した。


 その威力は悪魔を玉座にぶつけて力なく座らせる程のものであり、藍大には舞がミョルニルを投げたのが全く見えなかった。


 藍大は悪魔がピクリとも動かなくなったのでまさかと思ってモンスター図鑑で調べた。


「主、あいつ生きてる?」


「死んでる。憐れなガープは舞の実験台としての役割も中途半端なまま力尽きた。ガープはLv100だったんだけど瞬殺だったな」


「神って強いね。運命を操れば渡り合えるかな?」


「頼むから舞と喧嘩しないでくれよ? 冗談抜きで日本が終わる」


 神になってパワーアップした舞とサクラが喧嘩した時のことを想像すると、日本が瓦礫の山になるイメージしか湧かなかった。


 それゆえ、藍大は絶対に2人には喧嘩をさせないようにしようと心に誓った。


「殿、とりあえずN21ダンジョンは掌握したでござる」


「サンキュー」


 モルガナは現実逃避するべくN21ダンジョンの掌握作業を行っていたらしい。


 舞が強くなり過ぎて自分がハグされる未来しか想像できなくなった結果、これ以上考えるのは精神的によろしくないと作業に集中したのだろう。


 藍大は舞がドヤ顔で褒めてくれるのを待っていたので、流すことなく舞を労う。


「舞、すごかったな。ミョルニル投げたの全然見えなかったぞ」


「肩慣らしのつもりで7割ぐらいの力だったんだけどね~」


「拙者、今日からおとなしくぬいぐるみになるでござる」


「モルガナ、早まっちゃ駄目。気をしっかり持って」


 ガープを倒した力が舞の全力ではないと知り、目からハイライトが消えたモルガナがぬいぐるみになると宣言した。


 サクラはそんなモルガナを揺らして正気に戻す。


 モルガナに元気を出してもらうため、戦利品を回収してから藍大とサクラ、リル、ゲンが相談してガープの魔石はモルガナに与えることになった。


 少しでも強くなれば元気が出るかもしれないと思ったからだ。


『モルガナのアビリティ:<竜巻飛斬トルネードスラッシュ>がアビリティ:<吹雪飛斬ブリザードスラッシュ>に上書きされました』


「拙者、復活でござる!」


「おぉ、良かった。元気になった」


 アビリティが強化されて強くなったことにより、モルガナはすっかり元気になった。


「モルガナ~、元気になって良かった~」


「ふぎゅ!?」


 (舞、それは逆効果だって)


 前提として舞に悪意はこれっぽっちもない。


 モルガナが元気になってくれた喜びから抱き締めただけだ。


 舞に抱き着かれるのはモルガナにとって望んでいないことだから、藍大は苦笑するしかなかった。


 モルガナを舞から引き剥がしてから藍大達は帰宅した。


 舞が神になったと知り、仲良しトリオとブラド、ミオが舞からいつでも逃げ出せるような位置取りをキープしていたものの結局ハグされたのは言うまでもない。

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