第707話 それって実体験?

 白雪の探索配信と真奈の探索動画により、フロンティア探索が大いに盛り上がった翌日、藍大は舞とサクラ、リル、ゲン、モルガナを連れてN21ダンジョンにやって来た。


 昨日はダンジョン探索ではなく、E5ダンジョンとシャングリラリゾートの間にいるモンスターの掃除をしており、久し振りにパンドラが藍大と共に行動できてとてもご機嫌だった。


 今日はモルガナが自分も動画に映りたいと主張したため、舞とサクラと一緒に仲良しトリオと交代でメンバー入りした。


 N21ダンジョンは研究施設のような内装であり、通路はガラス張りでガラスの奥の空間にはダマスカスゴーレムが格納されている。


「研究施設の探索はテンションが上がるでござる!」


「モルガナ、テンションが上がるのは良いけど罠を起動させるなよ?」


「わかってるでござる。しかし、こんなガラスだけでダマスカスゴーレムが暴れ出したらどうするでござるか?」


 藍大に応じながらモルガナがガラスをコンコンとノックした直後、藍大達の視界に映る窓ガラス全てが床まで下がり、ダマスカスゴーレム達が通路に出て来た。


『モルガナはうっかりな後輩だね』


「すまぬでござる。本当に申し訳ないと思ってるでござる」


 リルにやれやれと首を振られてモルガナはやらかした自覚があったので謝った。


「ヒャッハァァァァァッ! フライングディスクの時間だぜぇぇぇ!」


 舞はアダマントシールドに光を付与した後、それを縦一列に並んだダマスカスゴーレム達目掛けて全力で投げた。


 MPを注ぎ込んでおけばアダマントシールドは硬くなるので、その特性も活かして攻撃したのだ。


 舞の攻撃で上半身と下半身が綺麗に切断され、そのまま上半身がずり落ちてダマスカスゴーレム達は動かなくなった。


 投げたシールドはリルが素早く回収して舞に渡したため、リルがフライングディスクで舞に遊んでもらっていたように見えてしまう。


「お疲れ様。綺麗に一撃で倒せたな」


「うん、ちょっと気持ち良かった」


 一撃で敵を一掃できた舞はドヤ顔である。


 ダマスカスゴーレムの素材は藍大達に使い道がない素材なのでDMU行きだろう。


 戦利品を回収をした後、藍大達はしばらく空いたガラスを見て進むと思っていた。


 しかし、藍大達が少し進んだ瞬間にダンジョンが激しく揺れ出す。


「何事?」


「地震だね~」


「見て。通路が動いてる」


 サクラが指摘した通り、藍大達よりも少し前の位置から通路がブロックのように取り外されてどこかへ飛んで行く。


『なるほど。そーいうことだったんだね』


「リル、どゆこと?」


『このダンジョンは立方体ブロックを付けたり外したりしてダンジョンを何度も組み直してるんだよ』


「リル先輩の言う通りでござる。拙者もそのように感じたでござる」


 モルガナがリルの意見に賛同してすぐに新しいブロックが藍大達の前に連結していく。


 組み直されたブロックの通路の両脇はガラスが閉まった状態になっており、ガラスの中にはアダマントポーンが格納されていた。


「おぉ、懐かしい。アダマントポーンじゃん。久し振りに見たわ」


「こんな仰々しい登場をするなんて出世したよね~」


 アダマントポーンはこんな演出なんてなくても土曜日のシャングリラダンジョン地下4階で普通に出現する。


 そう考えればN21ダンジョンでブロック組み換えによって現れるのは出世と言えよう。


「次は私が戦う」


 サクラが次は自分のターンと宣言したので藍大達は彼女に任せた。


 ガラスが床下まで下がって今度はアダマントポーンが起動し、通路にその姿を現した。


「邪魔」


 それだけ言ってサクラは深淵のレーザー一撃で全てのアダマントポーンを貫いてみせた。


 たかがLv50のアダマントポーン程度じゃサクラの攻撃を防げるはずがない。


 またしても戦闘は一瞬で終わってしまった。


 サクラが<幾千透腕サウザンズアームズ>でアダマントポーンを回収した途端、またしてもダンジョンが大きく揺れて組み直される。


「今日は移動する手間が省けて良いでござるな」


『その分誘導されてると思うけどね』


「しまったでござる。敵の”ダンジョンマスター”の狙い通りに進んでしまったでござる」


 リルのコメントにモルガナはハッとした。


 その間に組み直されたブロックの通路にはアダマンタイトで構成されたチェスのナイトの駒がいた。


「アダマントナイトLv55。”掃除屋”。騎馬戦なら舞とリルの出番だな」


「よっしゃあ! 行くぞリル!」


『うん!』


 舞は既にリルに跨っており、いつでも戦える態勢だった。


 リルが素早く距離を詰めると、舞はミョルニルに雷を纏わせてフルスイングする。


 アダマントナイトは盾を構える余裕もなく舞に殴られて粉砕された。


「こんな攻略のされ方されたら”ダンジョンマスター”はガクブルでござる」


「それって実体験?」


「実体験でござる。殿達が自分に近づいて来る恐怖は忘れられないでござるよ」


「なんの話してるの~?」


 藍大とモルガナが話しているところに舞とリルが戻って来た。


「ん? モルガナの”ダンジョンマスター”時代に感じた恐怖の話だ」


「よし、わかった。私がハグして震えを止めてあげるよ」


「そっちの方が怖いでござる!」


 モルガナは両手を前に広げた舞から逃げるようにして藍大に抱き着いた。


 自分が頭の上がらないブラドですら舞には敵わないのだから、モルガナが舞から逃げようとするのは仕方のないことである。


 藍大は苦笑しながらモルガナの頭を撫でて気分を落ち着かせる。


 両手を広げたまま固まっている舞がかわいそうに思えたらしく、リルが舞を元気づける。


『舞、元気出して。僕のことをモフモフしても良いから』


 (それは全世界のモフラーが言われたい言葉じゃなかろうか)


 この部分を編集してカットしなかった場合、今のリルのセリフを加工して舞ではなく自分の名前にするモフラーが続出しそうだ。


 特にモフモフが好きな少佐はその筆頭だろう。


 モルガナと舞を落ち着かせた後、戦利品を回収して藍大達は先に進む。


 ボス部屋までにアダマントナイト以上に強いモンスターはおらず、ブロックの組み換えをしても1階の被害が増すだけだと”ダンジョンマスター”が判断したのかこれ以上1階が揺れることはなかった。


 残念ながら宝箱や隠し部屋もなかったため、ボス部屋まで到着するのに5分もかからなかった。


 ボス部屋の扉を開けてみると、その中にはアダマンタイト製のチェスのクイーンが玉座に座っていた。


 チェスのクイーンと言っても、通常の駒よりもサイズは圧倒的に大きくて意地悪そうな女王の顔がしっかりと彫られているから別物と言っても過言ではない。


「アダマントクイーンLv60。見ての通りフロアボスだ。眷属を呼び出すってよ」


 藍大が簡潔にアダマントクイーンのアビリティに説明した直後、アダマントクイーンが一気に眷属を呼び出した。


 アダマントキングを含むチェスの味方陣営全ての召喚を行い、数だけは藍大達よりも優勢である。


 (キング、お前クイーンの尻に敷かれてたのか)


 藍大が心の中でそんなツッコミを入れているとモルガナが前に出る。


「そろそろ拙者のターンでござる」


 モルガナは<幾千雨槍サウザンズランス>を発動してまとめて敵陣営を倒しにかかる。


 アダマントクイーンを守ろうと肉壁になろうとするが、モルガナとの能力値の差があり過ぎて肉壁になる前に力尽きてしまう。


 <幾千雨槍サウザンズランス>が終わった時にはアダマントクイーン以外全滅しており、アダマントクイーン自体もHPが尽きかけていた。


「眷属と同じ場所に送るでござるよ!」


 今度はモルガナが<破壊滑走デストロイグライド>でアダマントクイーンに突撃し、それをバラバラの破片に変えた。


 モルガナは戻って来てカメラを構える藍大に笑顔で報告する。


「拙者、大勝利でござる!」


「よしよし、よくやったぞモルガナ」


 モルガナは藍大に頭を撫でられて嬉しそうに目を細めた。


 だが、藍大に撫でられて気を抜いていたせいでモルガナは背後から迫り来る舞に気づけなかった。


 気づいた時には舞に後ろからハグされていたのだ。


「何するでござるか!?」


「何って戦闘に勝ったお祝いのハグだよ?」


「殿、助けてほしいでござる!」


「舞のためにちょっと我慢してあげて」


「殿ぉぉぉぉぉ!」


 何度も舞をしょんぼりさせたくない藍大の願いにより、モルガナは少しの間ぬいぐるみのように抱き締められた。


 満足した舞はとてもご機嫌であり、解放されたモルガナは藍大に抱き着いて機嫌を直した。


 まだまだ時間に余裕があったので、戦利品を回収した藍大達は地下1階へと移動した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る