第706話 いつ見ても自分の黒歴史を思い出しちゃうよ

 白雪がダンジョン探索配信を行ったのと同じ時間帯、フロンティアのW3ダンジョンに”レッドスター”のモフラー夫妻とその従魔達がいた。


「さあ、私達もダンジョン探索動画を撮るわよ!」


「僕に任せてくれ! 最高の動画を撮ってみせる!」


「プゥ♪」


『はぁ、今日はいつもの倍苦労しそうだよ』


 テンションの高い真奈とリーアム、リーアムを見てご機嫌なニンジャを見てガルフは短く息を吐いた。


 今日はリーアムがカメラマンを担当し、ニンジャ達リーアムの従魔組はリーアムの護衛に専念する。


 それゆえ、基本的に動画に映るのは真奈とガルフ達という訳だ。


 W3ダンジョンは森のフィールド型ダンジョンということで、モフモフな獣型モンスターが現れるんじゃないかとモフラー夫妻は楽しみにしている。


 真奈とリーアムは既にニャンシーとタンクに<超級鎧化エクストラアーマーアウト>を発動してもらっており、いつモンスターが現れても問題ない状態である。


「ほんとにほんとにほんとにほんとにモフモフだ~」


 ご機嫌な真奈はモフリパークのテーマソングを口遊む。


 それに釣られて既に録画を始めているリーアムも乗っかる。


「ほんとにほんとにほんとにほんとにモフモフだ~」


「近過ぎちゃって近過ぎちゃってどうしよう」


「可愛くってどうしよう」


「ほんとにほんとにほんとにほんとにモフモフだ~」


「ほんとにほんとにほんとにほんとに行きたくなって~」


「「久喜~、モフリパーク!」」


 最後は真奈とリーアムがハモった。


 主人達が遊んでいる間にガルフはW3ダンジョン最初のモンスターを見つけた。


『主人、見つけた。クレタベビーLv10だよ。進化するとクレタボアになるんだって』


「テイムしなきゃ! 瓜坊枠はまだモフリパークにいないもの!」


『確かにいないね。足止め必要?』


「私だけで大丈夫」


『だよね』


 ガルフは一応助けが必要か訊ねたけれど、真奈が不要と答えることを予想していた。


 そして、この後起こるであろう頭の痛い展開もガルフは予想していた。


 真奈の身体能力はニャンシーの<超級鎧化エクストラアーマーアウト>のおかげで飛躍的に向上している。


 深呼吸してスイッチを切り替えると、真奈が目を見開いて動き出した。


「ダン〇ン! フィー〇キー! ドゥー〇ディーサーザコンサ!」


 クレタベビーはポカンとしていたがすぐに警戒し、踊っている真奈に近づくものかと気を強く持っていた。


 しかし、2回目にリズムを聞いている内にクレタベビーもリズムに乗って体を揺らし始めてしまう。


 3回目になると、クレタベビーが真奈のダンスに釣られて自分から近寄ってしまう。


「テイム!」


 真奈がクレタベビーの頭にビースト図鑑に被せた直後、その体がモンスター図鑑の中に吸い込まれていった。


『いつ見ても自分の黒歴史を思い出しちゃうよ』


 ガルフは額に前脚をやって頭が痛いと言いたげなポーズを取った。


 真奈のダンスによる被害者第一号は他でもないガルフだ。


 このダンスを見る度に自分はどうしてこんなしょうもないやり方でテイムされてしまったんだろうかと悲しくなるのである。


 それはメルメも同じだったようで遠い目をしていた。


「やったね真奈! モフモフなフレンズがまた増えた!」


「そうね! 早く呼び出してあげなきゃ! 【召喚サモン:ウリスケ】」


「ぷぎゅっ」


「あぁ、もう堪らないわ! よ~しよしよしよしよし」


「ぷぎゅ!?」


 召喚されて早々に真奈にモフられてウリスケは困惑した。


 憐れな新参者にガルフ達先輩従魔は諦めて受け入れろと目で伝えた。


 ウリスケは真奈にモフモフされてクタクタになったのか眠ってしまった。


 マッサージしてケアした後、真奈はウリスケを送還した。


 これで次に召喚される時は元気いっぱいな状態で再びモフられるに違いない。


 それから雌のクレタベビーもテイムしてコリンと名付けた。


 ひとまずモフリパークに雌雄1体ずつのクレタベビーが揃ったので、近い内にモフリパークでデビューすることだろう。


 テイマー系冒険者がテイムする動画はネット上には意外と存在しない。


 ただし、真奈が踊りによってテイムしているということはモフラー界では有名だ。


 だからこそ、この動画がアップされたらモフラー達が歓喜するに違いない。


 マジでやってたのかと戦慄する者もいるかもしれないが、いずれにせよ真奈に対する畏敬の気持ちは増していくはずだ。


「ガルフ、どうしたの? 自分のことも忘れずモフモフしてって?」


『言ってないからワキワキさせた手を降ろして』


「ガルフは喋れるようになってから塩対応が目立つなぁ」


『喋れる前から態度と備考欄で訴えてた。どちらも主人が都合良く解釈してたせいで伝わらなかったけど』


 ガルフは<大賢者マーリン>のおかげで自分の意思をはっきり伝えられるようになった。


 そのおかげで今までよりも過度にモフられることが減っている。


 もっとも、その代わりに他の従魔達がモフられる回数を増やされてしまったのだが、それは仕方のないことである。


 真奈達はテイムしないクレタベビーはできるだけ苦しませないように瞬殺し、木の陰から攻撃してくるトラップスパイダーやウッドスネークを倒して進む。


 何度も戦闘を繰り返したことで雑魚モブモンスターと遭遇することがなくなり、真奈はガルフに索敵を頼む。


「ガルフ、どこに”掃除屋”がいるか探してもらえる?」


『わかった。・・・見つけた。こっち』


「さすガル!」


 仕事のできるガルフに真奈は抱き着く。


 ガルフもちゃんと褒めてくれるのに無視したり逃げたりはしないから、おとなしくハグされた。


 ガルフは真奈が満足してから”掃除屋”のモモンキーLv15のいる場所へ移動した。


 モモンキーはモモンガのような猿のモンスターであり、木から木へ飛び移る際に滑空するだけでなく、微かに桃の匂いが体からする特徴を持つ。


「モモンキーってモフリパークにいない種族ね。テイム決定」


『また犠牲者が出るんだ』


「犠牲?」


『なんでもない』


 不思議な踊りの犠牲だと言おうと思ったけれど、ガルフは真奈が本気でわかっていないようだったので何を言っても仕方ないと諦めて黙った。


 その後すぐにモモンキーも踊りに釣られてあっさりテイムされた。


 モモンキーは雌だったからピーチと名付けられ、匂いが堪らんと真奈に吸われた。


 真奈がニコニコしている反面、ピーチはぐったりした表情になっていた。


「ウキュウ・・・」


「ガルフ、通訳お願い」


『もうお嫁に行けないって言ってるよ。かわいそうに』


「大丈夫。ピーチの相手は私が責任をもって見つけるから」


『違う、そうじゃない』


 真奈ならそれができてしまうけれど、そうじゃないだろうとガルフはツッコんだ。


 ピーチは真奈の手からどうにか逃れて助けて下さいとメルメの泡の中にダイブした。


「メェ!?」


 いきなり泡の中に突っ込んで来る新参者にびっくりしてメルメが鳴いた。


 それでも外に追い出さないあたり、メルメはピーチに同情的らしい。


「おいで~。怖くない。怖くないから」


『主人、モフ欲全開な顔で言っても説得力ない。ほら、深呼吸して』


「え? ガルフに顔を埋めて深呼吸して良いの?」


『何言ってんのこの人?』


「じょ、冗談だから」


 ガルフにジト目を向けられて真奈はこれ以上のおふざけをせずに落ち着きを取り戻した。


 ガルフの注意によって真奈が落ち着いたことで、ピーチはメルメの泡から外に出て来た。


「ちょっとはしゃぎ過ぎちゃってごめんね?」


『ちょっととは? ちゃんと謝らないともうモフらせてくれないよ?』


「ごめんなさい。かなりはしゃいでました」


『よろしい』


 主従が逆転した瞬間だった。


 ピーチも最初は驚いていたが、真奈がちゃんと謝ってくれたので仲直りした。


 真奈達はピーチを送還してからフロアボスを探して先に進む。


 フロアボスもモフモフだったら良いなと期待に胸を膨らませるが、ガルフが探し当てた先にいたのはミミックツリーで植物型モンスターだった。


「モフモフじゃないなら用はない」


 真奈はニャンシーの力を借りて一撃でミミックツリーを倒し、2階に続く階段が現れた。


 2階もこの調子で進んで行き、夜に”レッドスター”のホームページに投稿された探索動画はモフラー達によってガンガン再生された。


 この日、SNSでは白雪に負けないぐらい真奈のテイムする様子が検索ワードとして引っ掛かり、白雪の望み通りにフロンティア開拓が盛り上がった。

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