第705話 私を見ろと副音声が聞こえたのは幻聴?

 ゴールデンインプを倒した後、白雪達は各種インプを倒しながら通路を進んでいく。


 両手では数えられないぐらいの戦闘を終えた時、ドリーに吹き飛ばされたインプタンクが仰向けに倒され、その頭が床に触れた瞬間に床のタイルが沈んだ。


 ガコンという音の直後、通路の奥の天井が開いて鉄球がそこから転がり落ちて来た。


 鉄球はインプタンクを轢いてから白雪達の方に向かって転がる。


『インプタンクお前何やっとるんじゃぁぁぁぁぁ!』


『突っ込んでる場合じゃない! 白雪姫、逃げて!』


「ドリー、よろしく」


「コケッコー!」


 ドリーは白雪の言葉に頷いて<破壊突撃デストロイブリッツ>で鉄球に正面からぶつかった。


 ダマトリスのドリーと鉄球ではドリーの方が硬かったため、鉄球はあっさりとバラバラに壊れた。


『ドリーさん最強かよ (護衛料:1万円)』


『ドリー硬いね。カッチカチやね (護衛料:1万円)』


「ドリー、ありがとう。よくやったわ」


「コケッ♪」


 ドリーは白雪に撫でられて嬉しそうに鳴いた。


 白雪も藍大のように何かある度に仲間を褒めるから、この配信を見ているファン達がどんどん従魔達に嫉妬していく。


『妬ましい。俺だって撫でてもらえないのに』


『貴方は従魔じゃないでしょうが』


『テイムして下さい。なんでもします (出願料:5万円)』


「私がテイムできるのは鳥型モンスターだけです。テイムはできないのでお断りします」


 視聴者から投げ銭してまで伝えたい気持ちがあったようだが、こればっかりはどうしようもないので白雪が粛々と断った。


 仕切り直して白雪達が先へ進むと、通路の真ん中に両側に取手のある壺が安置されていた。


「これ、昨日の逢魔さんの探索動画に出て来たやつとよく似てますね。えーっと、確かリサイクルベースでしたっけ?」


『『『・・・『『リサイクルベース』』・・・』』』


『今までに出て来た各種インプの死体を入れたらどうなるんだろう?』


 視聴者全員の認識が一致し、その中にはリサイクルベースに今日の戦果全てぶち込んでみてはどうかと提案するギャンブラーがいた。


 藍大達の場合は売っても二束三文にしかならないスケルトンの骨だったから良いが、インプはスケルトンと違ってそこそこの値段で売れる。


 しかし、既に投げ銭のおかげで普通の探索よりも収入が出ているため、白雪は賭けに出ることにした。


 リサイクルベースの中に収納袋から取り出したインプの死体をドバドバと入れていく。


 ゴールデンインプは希少なので流石に投入しなかったが、それ以外のインプの死体全て注ぎ込んだ。


 リサイクルベースが光り始めたので急いで離れたところ、それが粒子となって消えた代わりに孔雀が堂々とした態度で白雪達の正面に現れた。


 ただの孔雀ではあるまいと白雪がすぐにバード図鑑で調べ始める。



-----------------------------------------

名前:なし 種族:アンドレアルフス

性別:雌 Lv:65

-----------------------------------------

HP:1,200/1,200

MP:1,200/1,200

STR:1,000

VIT:1,000

DEX:1,500

AGI:1,300

INT:1,500

LUK:1,000

-----------------------------------------

称号:なし

アビリティ:<羽根竜巻フェザートルネード><騒音砲弾ノイジーシェル><雅羽舞踏フェザーダンス

      <上級回復ハイヒール><上級治癒ハイキュア

      <鳥人切替バードマンチェンジ><全耐性レジストオール

装備:なし

備考:私の輝きに刮目せよ

-----------------------------------------



「アンドレアルフスLv65。テイムします」


 アンドレアルフスのステータスを見て白雪はすぐに決断した。


 何故なら、アンドレアルフスには回復系アビリティが2つもアビリティ欄にあったからである。


 回復も状態異常回復もできるモンスターは貴重だ。


 実際、白雪の従魔の中に回復系アビリティを会得している者はおらず、どうにかテイムしたいと白雪が望んでいたのだ。


『おぉ、生テイム見れるのか』


小悪魔インプの死体を捧げて孔雀アンドレアルフスが現れたのが謎』


『アンドレアルフスって鳥型モンスターだけど、ソロモン72柱だから悪魔型モンスターでもあるってことじゃね?』


『なるほど。それなら納得』


 コメントの中には白雪の疑問を解決してくれる仮説を披露する者がおり、そのおかげで白雪は心置きなくテイムできる。


「ヨナ、ドリー、カーム。アンドレアルフスを倒さないように動きを封じて」


「クワッ」


「コケッコー」


「ピヨ」


 ヨナ達はわかったと敬礼してから行動に移る。


「コォケコッコォォォォォ!」


 ドリーが<絶対注目アテンションプリーズ>でアンドレアルフスの注意を完全に自分に向けさせる。


「クエェェェ!」


 アンドレアルフスはドリーに向かって<騒音砲弾ノイジーシェル>を放つが、カームが間に入って<流水反射ストリームリフレクト>を発動する。


 それによってアンドレアルフスが自分の攻撃に吹き飛ばされる。


『ちょw カームさん見せ場横取りw』


『カームに常識は通じない』


『そしてドヤ顔までが安定の流れ』


 アンドレアルフスが<上級回復ハイヒール>で回復している隙を突き、ドリーが<停止霧ストップミスト>でアンドレアルフスの動きを止める。


「今がチャンス!」


 白雪は急いでアンドレアルフスに近寄り、そのままバード図鑑をその頭の上に被せた。


 それによってアンドレアルフスが図鑑の中に吸い込まれていった。


『テイムおめでとー! (祝い金:5万円)』


『アンドレアルフス、ゲットだぜ! (祝い金:2万円)』


『回復役は希少! 羨ましい! (祝い金:1万円)』


 白雪は少し考えてからアンドレアルフスの名前を決めて召喚する。


「【召喚サモン:ルル】」


 ルルは羽をこれでもかとアピールしながら登場した。


『目立ちたがりか』


『私を見ろと副音声が聞こえたのは幻聴?』


『俺も聞こえたから安心しろ』


 コメントが次々に送られてくる中、ルルは白雪が止める暇もなく<鳥人切替バードマンチェンジ>を発動した。


 それによってルルが光に包み込まれ、光の中でルルのフォルムがどんどん人に近づいていく。


 光が収まって姿を現したのは特徴的な尾羽のデザインを踏襲したサンバの衣装の幼女だった。


 髪と目は金髪であり、露出された肌は日に焼けた小麦色である。


『幼女キタァァァァァ! (祝い金:5万円)』


『どう見ても幼女です! ありがとうございます! (祝い金:5万円)』


『まったく、幼女は最高だぜ! (祝い金:5万円)』


『はい、変態紳士大勝利ィィィィィ! (祝い金:5万円)』


 一旦はおとなしく視聴していた”紳士淑女同盟”のメンバーが水を得た魚のようになり、気づけばカームよりもルルの人化の方が投げ銭で稼いでいた。


 というよりも自分で自分を変態紳士と呼ぶのは大勝利なんだろうか。


 その答えは誰にも出せまい。


 とりあえず、白雪はルルの頭の上に手を置きながら注意する。


「ルル、次から勝手に人化しちゃ駄目よ。今はあのドローンのカメラを通じて大きなお友達がルルを見て騒いでるんだから」


「はぁい」


 ルルの声は間延びしたギャルっぽい声だった。


『ギャル幼女・・・。ありだな (おこづかい:5万円)』


『新しい扉を開いてくれました。感謝しかありません (おこづかい:5万円)』


『雌従魔の人化=幼女爆誕の法則は絶対的正義! (おこづかい:5万円)』


 返事をしただけで15万円を稼ぐ幼女、それがルルである。


 カームは人化して張り合わないけれど、内心では個性の強い奴が仲間になってしまったと戦慄しているだろう。


「オホン、では気を取り直してボス部屋を探しましょうか」


 従魔達というよりもどちらかと言えば視聴者に向けて白雪は言葉を発した。


 その後、ボス部屋はすぐに見つかった。


 ボス部屋にいたのはインプではなく悪魔を模った大根だった。


「こ、これは!?」


『大根www』


『どゆこと!? 大根が空飛んでるんだが!?』


『俺知ってる! シャングリラダンジョンに出るって話のデーコンだ!』


「デーコン? 大根じゃないの?」


「クワッ!」


 ヨナは白雪が困惑してるので自ら<吹雪ブリザード>を放ってデーコンを冷凍保存した。


 地面に落ちる前に凍ったデーコンをキャッチし、そのまま白雪に引き渡した。


「ごめんねヨナ。私がしっかりしなきゃだめだった。倒してくれてありがとう」


「クワッ!」


 1階の探索が終わり、それと同時に白雪は初めての配信を終わりにした。


 予想外なことが続けて起きたせいで終盤は混乱してばかりだったが、収入だけ見ればかなり上場の結果と言えよう。


 それはそれとして、白雪は疲れたから仁志達のパーティーと合流してダンジョンを脱出した。

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