第704話 おい、ロリコン共! 白雪姫を困らせるんじゃねえ!

 藍大達がE5ダンジョンの探索動画を”楽園の守り人”のホームページに載せた翌日、”ホワイトスノウ”の白雪は従魔達を連れてフロンティアのS15ダンジョンに来ていた。


 しかも、藍大に言った通りに今日はドローンを使ったダンジョン探索の配信を行う予定だ。


 サブマスター兼白雪のマネージャーである仁志はいざという時に白雪のパーティーを守れるよう、戦えるメンバーと共にドローンに移らない距離で付いて行くことになっている。


 白雪はチャットの文字を音声化するイヤホンを付け、早速配信を始めた。


「皆さんこんにちは! ”ホワイトスノウ”の有馬白雪です! 今日はフロンティアのS15ダンジョンで初めてのダンジョン探索配信にチャレンジします!」


『今日も美しいですね! 女神かと思いました! (参拝料:1万円)』


『忙しい中ファンのためにありがとう! (交通費:1万円)』


 この配信はスパチャ、正式にはスーパーチャットが可能であり、イヤホンを通して白雪には投げ銭された金額まで伝わる仕組みになっている。


 ちなみに、拾われる優先度は投げ銭された金額の高い順であり、それ以外はランダムである。


 ”ホワイトスノウ”の職人達は白雪のためにとんでもない物を作り出してしまったのは間違いない。


「コメントありがとうございます。皆さんにダンジョン探索ってどんなものなのかなるべく答えながら進みますね。さて、今日私と一緒に探索してくれる従魔の紹介です。まずはエルダーハンサのヨナ!」


「クワッ!」


 ヨナはドローンのカメラに向かって翼を腕のように使って敬礼した。


『女神の剣、今日もがんばれ! (護衛料:5万円)』


『ヨナ、お腹空いてない? 大丈夫? (ご飯代:1万円)』


 この配信における投げ銭の上限額は5万円だ。


 それをヨナに払うあたり、視聴者からヨナに白雪の敵を全力で狩れという意思が感じられる。


「次はダマトリスのドリー!」


「コケッコー!」


『女神の盾、今日も女神を守ってくれ! (護衛料:5万円)』


『ドリーがちょっと眠そう。目覚めの一杯でも飲んでね (コーヒー代:1万円)』


 ヨナが剣ならばドリーは盾である。


 タンクをドリーが引き受けているからこそ、ハンナが安心して攻撃できる訳だ。


「そして、モフトリスのカーム!」


「・・・ピヨ?」


 今のカームモフモフな元の姿だ。


 この姿では喋れないからこそ、わざと反応するタイミングを遅らせてマイペースな性格を演出している。


『幼女になって下さい! (おこづかい:5万円)』


『モフモフも良いけど幼女もね! (おこづかい:5万円)』


『焦らしプレイだなんてわかってるじゃないですか (おこづかい:5万円)』


 モフモフな姿で登場しただけでヨナとドリーの倍以上稼いだカームに白雪は心の中で苦笑する。


「・・・投げ銭はとても嬉しいのですが、カームに邪な目を向ける人が多そうなので人化の指示は出しません。ご承知おき下さい」


『なん・・・だと・・・』


『ダンジョンの稼ぎ全部突っ込むから!』


『いや、神対応の白雪姫ならきっとやってくれる!』


『”紳士淑女同盟”全員で投げ銭すればあるいは・・・』


 幼女従魔に飢え過ぎである。


 ”紳士淑女同盟”はなんと業が深いクランだろうか。


 クランぐるみで投げ銭する暇があったらフロンティアのダンジョンを攻略してほしいところだ。


 これには白雪も困り顔を隠せない。


『おい、ロリコン共! 白雪姫を困らせるんじゃねえ! (おこづかい:5,000円)』


『そうだそうだ! 有馬白雪親衛隊の出番だ! (おこづかい:5,000円)』


 なんということだろうか。


 白雪のファン達が”紳士淑女同盟”のコメントが白雪の耳に届かないように投げ銭で封殺しようというつもりらしい。


 だが、5,000円では”紳士淑女同盟”の財力には敵わないだろう。


 そう判断した白雪が釘を刺しに行く。


「皆さん、この配信は喧嘩するための場所ではありません。ファンの皆さん、私を守るために無理に投げ銭しなくても大丈夫です。”紳士淑女同盟”の皆さん、アカウントを凍結されたくなかったら静まりなさい」


『白雪姫まじかっけえ (出演料:5万円)』


『おっふ (出演料:5万円)』


『俺達良い子にします (出演料:5万円)』


 白雪がピシャリと言った瞬間、お金に余裕のあるファンから限度額いっぱいの投げ銭が続いた。


 これは予想外な展開だったため、配信とは難しいものだと白雪は心の中で苦笑した。


「はい、では落ち着いたところで探索に移ります。ご覧の通り、S15ダンジョンはオーソドックスな迷宮タイプのダンジョンのようです。ゲーム好きな人なら共感いただけるんじゃないでしょうか」


『確かに』


『オラ、ワクワクすっぞ』


『ダンジョン内では左手の法則は有効ですか?』


「一般の方からの質問ですね。左手の法則は有効じゃないダンジョンもあります。以前踏破したダンジョンのことですが、この法則通りにやってみてボス部屋に着いたと思ったら行き止まりで、ボス部屋は隠し通路の先に合ったケースがありました」


 白雪はこういうやりとりを想定していたので、先程の争いが完全に収まったことにホッとしながら答えた。


 そうしている内に白雪達の前に初めてモンスター集団が現れた。


「最初に出て来たのはインプの群れのようです。ヨナ、やっちゃって」


「クワッ!」


 ヨナは<吹雪ブリザード>であっさりとインプの群れを凍り付かせた。


『ヨナ、良いぞ! もっとやれ! (おこづかい:1万円)』


『圧倒的じゃないか白雪軍は (おこづかい:1万円)』


 ヨナはインプの群れを倒してから白雪に敬礼する。


「ヨナ、お疲れ様。見事だったわ」


「クワッ」


 ヨナが白雪に頭を撫でてもらって嬉しそうに目を細めていると、イヤホンから次々に声が白雪の耳に届く。


『俺も白雪姫に褒めてもらいたい』


『ヨナ、そこ代わってくれー』


『生まれ変わったらヨナになりたい』


 この後にもヨナが羨ましいという気持ちが続いた。


 美人に褒められて嬉しくない男性は少ないとわかる瞬間だった。


 その後もノーマルな個体以外に各種インプが現れ、ヨナとカームが交代で倒していった。


『俺、冒険者です。このペースで探索できません』


『私も冒険者です。テイマー系冒険者でもない限りこのペースは無理だと思います』


『白雪先生、テイマー系冒険者に転職したいです』


「私が鳥教士になれたのは宝箱で転職の丸薬(鳥教士)を引き当てられたからです。皆さんも頑張って宝箱から引き当てて下さい」


 テイマー系冒険者に転職したいという声に対し、白雪は運の問題だから頑張れとしか言えなかった。


 実際のところ、サクラにお願いできれば確率を無視して転職できるし、既にテイマー系冒険者に転職できる丸薬もいくつか奈美が完成させている。


 この情報は日本でも限られた者にしか知られていないトップシークレットなので、一般的には宝箱で当たるまでチャレンジするしかないだろう。


 白雪達は通路を進んで広間に到着した。


 そこには金色に光るインプがいた。


『ゴールデンインプだ!』


『シルバーインプは見たことあるけどゴールデンインプは遭遇したことないや』


 ゴールデンインプとシルバーインプは雄雌が固定されているモンスターだ。


 ゴールデンインプは雄しかおらず、シルバーインプは雌しかいない。


 どちらもアビリティに差はなく、違いは外見だけだったりする。


「カーム、GO!」


「ピヨ~」


 わかった~と間延びした感じに答えたカームは<尖氷乱射アイシクルガトリング>でゴールデンインプを攻め立てる。


 このゴールデンインプはLv50であり、既にLv100に到達したカームが相手では逃げ切れるはずもなく蜂の巣にされて力尽きた。


『カームさんマジパねっす (懸賞金:1万円)』


『直接攻撃するまでもないんですね、わかります (懸賞金:1万円)』


 カームが白雪の耳に届く投げ銭の額を聞いたとしたら、人化してもっと投げ銭してくれても良いのよと言うかもしれない。


 くすっと笑う白雪に近寄ったカームが首を傾げる。


「ううん、なんでもない。カーム、お疲れ様。楽勝だったみたいね」


「ピヨ」


 カームはふてぶてしいドヤ顔でその通りだと応じた。


『カームのドヤ顔が見れて満足です (おこづかい:5万円)』


『これで美味しいご飯でも買ってもらってね (おこづかい:3万円)』


 カームが配信において稼ぎ頭なのは間違いないようだ。

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