第702話 無免許運転は良くないよ! 無免許でも乗れる僕に乗ってね!

 2階はゴースト系モンスターの巣窟だった。


 実体のないゴースト系モンスターはリルにとってカモでしかない。


「アォォォォォン!」


 リルの<神狼魂フェンリルソウル>にやられてフロアボスのレイスキングLv65が消滅した。


「リル、お疲れ様。”風神獣”のパワーはすごいな」


『ワッフン♪』


「3階はアタシ達に譲るんだからねっ」


「ですです!」


『(ノ◇≦。) 独占しないでよぉぉぉ』


 藍大に頭を撫でられて満足そうなリルに対し、仲良しトリオは3階でリルの出番はないぞと訴えた。


 2階の雑魚モブモンスターや”掃除屋”のスペクターエリートLv60もリルがあっさり倒してしまった。


 録画していた藍大はリル無双なんてタイトルでアップしようかと考えていたくらいだ。


 戦っている時間よりも藍大がリルと戯れている時間の方が長いから、モフラーが血の涙を流すことは必至である。


 フロアボスの戦利品を回収した藍大達はすぐに3階に移動した。


 階段を上って3階に移動したら、見るからに改造済みのバイクに乗った暴走族風の悪魔の群れが藍大達を待ち伏せていた。


「夜露死苦」


「仏恥義理」


「犯罵悪愚」


『ハンバーグ?』


 リルは最後の悪魔の発言を聞き逃さなかった。


「デーモンライダーLv70。喋る言葉に意味はないらしいぞ。リル、気にしても無駄だ」


『そっかぁ。残念』


 話せる奴が現れたと思ったらそうでもなかったため、リルはしょんぼりしてしまった。


 その一方でゴルゴンとゼルはデーモンライダーに対抗心を燃やしていた。


「夜露死苦哭呑世」


『⊂(▼(工)▼メ)⊃百八悪!』


 ゴルゴンは<爆轟眼デトネアイ>で左半分を吹き飛ばし、ゼルは<暗黒支配ダークネスイズマイン>で暗黒のレーザーを薙ぎ払うように放って右半分を殲滅した。


「ゴルゴンもゼルも絶対に子供達の前でそんなこと言っちゃ駄目ですよ? 悪影響です」


「わ、わかってるんだからねっ。ちょっと相手の土俵で戦っただけだわっ」


『(*-ω-)モ*´ω`)チ*-ω-)ロ*´ω`)ン』


 仲良しトリオの良心であるメロに注意され、ゴルゴンとゼルは慌てて普段通りの喋り方に戻した。


 藍大はゴルゴンとゼルを労った後、そこら中に落ちているバイクらしき乗り物をモンスター図鑑で調べてみた。


 しかし、それはモンスターではなかったのでモンスター図鑑には何も表示されなかった。


「リル、このバイクの正体を教えてくれ」


『任せて。・・・MPを燃料にするバイクだって』


「マジで? 悪魔なのにクリーンエネルギーな乗り物に乗ってたの?」


『でもね、これは滅茶苦茶MPの消耗激しいよ。ダンジョンだから周囲の魔素を吸収して乗ってたデーモンライダーのMP消費を抑えてたみたいだけど、一般的な冒険者がダンジョンの外で乗ったら1分も持たずにMP切れになるね』


「そりゃ燃費が悪いな」


 そうは言っても藍大がバイクに興味を持っているのは明らかだった。


 ちょっと乗ってみたそうに見えたため、リルが慌てて藍大に近寄って阻止する。


『駄目だよご主人! バイクよりも僕の方が速いからね! 乗るなら僕の背中にして!』


 藍大の騎獣枠は譲らないとリルが必死にアピールするので、藍大はそんなリルをわしゃわしゃと撫でる。


「愛い奴め。俺は元々バイクの免許を持ってないから乗れないんだ。安心してくれ」


『無免許運転は良くないよ! 無免許でも乗れる僕に乗ってね!』


「よしよし」


「クゥ~ン♪」


 従魔に無免許運転は良くないと言われる主人が世界にどれだけいるだろうか。


 いや、絶対にいないだろう。


 ちなみに、藍大は普通自動車の運転免許だけは持っているから車なら運転できる。


 もっとも、リルをテイムしてその背中に乗せてもらうようになってからというもの、藍大が運転したことなんて一度もないのだが。


 リルが落ち着いたところで藍大はバイクも含めて全て回収した。


 ゴルゴンの<爆轟眼デトネアイ>で左半分のデーモンライダーのバイクは破損した物しかないが、ゼルが倒した個体のバイクには無傷のものが2台あった。


 片方はドライザーへのお土産にして、もう片方は茂経由でDMUの職人班に売り渡すことにした。


 もしも改良に成功すれば、それがまた世界を動かすに違いない。


 とりあえず、回収できる物全て回収して藍大達は先へと進む。


 この後、デーモンライダーの集団が何度か通路の奥から向かって来たが、メロが次々に狙撃して無傷のバイクを調達することに成功した。


 この成果を聞けば、茂も研究サンプルが増えて大喜び間違いなしである。


「暴走族にも見飽きて来たわねっ」


「もう一生分の暴走族を見たです」


『٩(๑òωó๑)۶オラオラ』


 仲良しトリオがもうデーモンライダーは出て来るなと発言をしたことでフラグが立ったらしい。


 藍大達の前にモヒカン悪魔が現れた。


「ブレスデーモンLv75。複数属性のブレスを吐く”掃除屋”だってさ」


「ヒャッハァァァッ! 汚物は消毒だぁぁぁ!」


 ブレスデーモンは言いたいことだけ言って<火炎吐息フレイムブレス>を藍大達に向かって放った。


「甘いんだからねっ」


 ゴルゴンは<緋炎支配クリムゾンイズマイン>でブレスデーモンのブレスの支配権を奪い、それを利用してブレスデーモンを炎で包み込んだ。


「ぎぃやぁぁぁぁぁ!?」


 まさか自分の攻撃で自分を焼く羽目になるとは思っていなかったらしく、ブレスデーモンは焼かれる苦しみで絶叫した。


 逃げ出そうとしてもゴルゴンがコントロールしているせいで炎の外に出ることは叶わず、ブレスデーモンはそのまま真っ黒焦げになって力尽きた。


『(*´∀`*)上手に焼けました』


「いやいや、黒焦げだから」


 ゼルがお約束だと言わんばかりにコメントするものだから、藍大もしっかりツッコんでみせた。


 それからブレスデーモンの表面の焦げを落として解体して魔石を取り出した。


「ゴルゴン、この魔石ほしい?」


「勿論貰うのよっ」


 ゴルゴンは藍大から魔石を貰った。


 魔石を飲み込んだ結果、ゴルゴンの肌がツルツルになった。


『ゴルゴンのアビリティ:<舞踊ダンス>がアビリティ:<神楽グラダンス>に上書きされました』


 (ひ〇ダンスみたいなネーミングで良いの?)


 藍大はゴルゴンの新しいアビリティに心の中でツッコんだ。


 ネーミングはツッコミどころがあるものの、<神楽グラダンス>は踊りを奉納して自分とその神の能力値を強化できるバフアビリティだ。


 つまり、ゴルゴンがこのアビリティで藍大に踊りを披露すれば、藍大とゴルゴンの能力値が強くなるのである。


 他のパーティーメンバーが戦っている隙に踊れるならゴルゴンは安全にバフを発動できるだろう。


「マスターに捧げる踊りを舞うのよっ」


 ゴルゴンはアビリティを試したくなったらしく、早速<神楽グラダンス>を発動した。


 ダンス動画を見て家で踊ることも少なくないゴルゴンだったので、ゴルゴンのダンスにはキレがあった。


 ダンスが終わった直後、藍大は力が漲るのを感じた。


「おぉ、こんな感じで力が湧くのか」


「力が漲るわっ。これなら誰も怖くないのよっ」


 ゴルゴンはパワーアップして気が大きくなったようだ。


 だが、メロの発言でゴルゴンの余裕は吹き飛ぶことになる。


「舞のハグからも逃げられるですか?」


「・・・もっと踊りを練習するわっ」


 今のままでは全然足りないらしい。


 それはさておき、藍大達はやることを済ませてボス部屋まで移動した。


 扉を開けて中に入ると、そこにはヘルメットを被った上裸でムキムキの悪魔がいた。


 藍大達がボス部屋に入って来たとわかった瞬間、その悪魔は大胸筋をビクンビクンさせ始めた。


「キモいです!」


 メロが<元気砲エナジーキャノン>を直撃させてフロアボスが後方の壁まで吹き飛んだ。


『o(・ω・´o)マダマダイクヨ!』


 壁に激しく打ち付けられたフロアボスだが、反撃する暇もなくゼルの追い打ちで放った暗黒の弾丸の連射によって力尽きた。


「メットデーモンビルダーLv80。解説する間もなく討伐終了」


 藍大が記録のためだけに敵モンスターの名前を読み上げて戦闘は終了した。


 壁際で蜂の巣にされたメットデーモンビルダーの顔は意外と整っており、ヘルメットをかぶる必要があったのだろうかと思ったが藍大はすぐに気持ちを切り替えて解体した。


 今度はメロが魔石を貰う番であり、メロは藍大から魔石を食べさせてもらった。


 それによってメロのプロポーションが少し良くなった。


『メロのアビリティ:<脈動再生パルスリジェネ>がアビリティ:<薬酒霧アムリタミスト>に上書きされました』


 (浴びて良し取り込んで良しの霧ってすごいな)


 <薬酒霧アムリタミスト>は薬効のある霧を浴びるか体内に取り込むことで持続的にHPを回復させつつ欠損の再生や状態異常の回復までできるアビリティだった。


 即効性はなくともHP回復と部位再生、状態異常の回復ができるアビリティは貴重だ。


 それがわかっているからメロはドヤ顔である。


「メロ、ピンチの時は助けてくれよな」


「はいです!」


 ニパッと笑うメロの頭を藍大は優しく撫でた。


 そして、次が最上階だろうと予測して藍大達は4階へと進んだ。

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