第701話 こちらゴルゴンなのよっ

 同日の午後、藍大はリルとゲン、仲良しトリオを連れてフロンティアのE5ダンジョンにやって来た。


 E5ダンジョンは”楽園の守り人”が割り当てられた担当区域の中でもシャングリラリゾートに最も近くに位置する。


 仲良しトリオを連れて来たのはダンジョン探索の録画のためだ。


 今日は藍大がカメラマンであり、そんな藍大をゲンが<絶対守鎧アブソリュートアーマー>で守ってリルと仲良しトリオが戦うスタイルである。


 E5ダンジョンは中華風のさびれた屋敷だった。


「こちらゴルゴンなのよっ」


『)))))))))))(・・)/E5ダンジョンの潜入に成功した。敵にはバレてない』


「ゴルゴンもゼルも何やってるですか? わざわざ段ボールまで持ち込んで変ですよ?」


「こういうのは形から入るのが大事なのよっ」


『( ´艸`)ワクワク』


 (初っ端からゴルゴンとゼルがボケたなぁ。ツッコまんけど)


 配信欲が高かった仲良しトリオのガス抜きのための録画なので、藍大は武士の情けで最初はツッコまずにいた。


 ゴルゴンとゼルがボケて少し落ち着いたようなので、段ボール箱は折りたたんで収納リュックにしまった。


 そんなことをしている間にリルがE5ダンジョン最初の敵モンスターの集団を見つけた。


『スケルトンモンクLv30だって』


「肉弾戦と骨って相性悪そうだな」


「私がやるです」


 メロが<植物支配プラントイズマイン>で床から蔓を生やして薙ぎ払い、スケルトンモンクの集団は全滅した。


「メロ、もっと派手にやらなきゃ駄目なのよっ」


『(;A´▽`A撮れ高足りない』


「しまったです」


 ゴルゴンとゼルにメロが納得させられそうになっていたため、藍大はここで口を挟むことにした。


「メロのやり方で良いんだ。MPの無駄遣いは未知のダンジョンでやるべきじゃない」


「ですです」


「よしよし。愛い奴め」


「エヘヘです♪」


 うんうんと頷くメロが可愛かったので、藍大は優しくその頭を撫でた。


 藍大に撫でてもらってメロはすっかりご機嫌だ。


 スケルトンモンクの戦利品をササッと回収して先に行こうとすると、警笛のような音がダンジョン内に広がって奥から各種スケルトン軍団が押し寄せて来た。


「アタシのターンなんだからねっ」


 ゴルゴンは<爆轟眼デトネアイ>でわらわらと集まったスケルトン軍団を一網打尽にした。


 爆発が収まった後に残ったのは大量の骨や貧相な武器だった。


 それらも回収して先に進むと両側に取手のある壺が通路のど真ん中に安置されていた。


「怪しい壺なのよっ」


「見るからに怪しいです」


『(Г・ω・)гワタシ、キニナリマス』


 仲良しトリオが藍大とリルの方を向いた。


 これはギミックか敵だと思っているからである。


「リル、モンスター図鑑に反応しないから鑑定結果を教えてくれ」


『任せて。これはリサイクルベースってギミックだよ』


「リサイクル? 壺の中に何か投げ込めば代わりに何か貰えるってことか?」


『ううん。中に入れた物を壺がスキャンした後、独断と偏見で壺に何かを入れた冒険者と戦わせるモンスターを呼び寄せるんだ。壺はその時壊れるみたいだよ』


「独断と偏見ってところに悪意しか感じないな」


 リルの説明を聞いて藍大は嫌な予感しかしなかった。


 サクラがいれば<運命支配フェイトイズマイン>で呼び寄せるモンスターを自由にできたかもしれないが、今この場にサクラはいない。


 つまり、本当にリサイクルベースの独断と偏見でモンスターが呼び寄せられるのだ。


『別にスルーしても問題ないけど、Lv30の雑魚モブモンスターと戦ってばっかりじゃ面白くないよ。E5ダンジョンの中で倒したスケルトンの戦利品全部壺に入れてみない?』


「それで強いモンスターが出たら戦利品の素材で得した気分になるか。よし、リルの案を採用する」


『やったね!』


 リルの頭を撫でた後、藍大はリサイクルベースの穴に今日手に入れたスケルトンの戦利品全てを注ぎ込んだ。


 リサイクルベースが光り始めたので急いで離れたところ、それが粒子となって消えた代わりに見慣れた骨格が藍大達の正面に現れた。


「スカルワイバーンLv60。骨はワイバーンの物と一緒だからただのスケルトンと比べたら価値があるな」


『・・・許せない。許せないよ! なんでお肉のないワイバーンなの!?』


 リルは激怒した。


 目の前の食べる所がないワイバーンを一刻も早く倒してやると決意し、<雷神審判ジャッジオブトール>で瞬殺した。


 虚しい勝利を得たリルがしょんぼりしていたため、藍大が優しくリルの頭を撫でてあげた。


「元気出せ。帰ったらトリニティワイバーンの唐揚げ作ってあげるから」


『くよくよしてる時間なんてないよ! 元気出していこう!』


 ワイバーンで落ち込んだらワイバーンで元気を出してもらう。


 逢魔家ではこれが平常運転だ。


 トリニティワイバーンともなれば、一般的な冒険者が片手間で倒せるレベルではない。


 きっと藍大が撮っているビデオを見た者達は戦慄するに違いない。


 スカルワイバーンの戦利品を回収した後はレッドスケルトンLv35やブラックスケルトンLv40も出て来たが、藍大達にとっては等しくただの雑魚モブモンスターだった。


 しばらく歩いてダンスパーティーでも開けそうな広間に出てみれば、そこには骨で形成されたミニチュアの墓場が存在していた。


「ボーングレイブLv45。”掃除屋”だな。骨を自在に操るってよ」


 藍大が簡単に解説した直後、墓場を形成していた骨がマシンガンの弾丸のように次々に射出されていく。


『ヾ(・▽<)ノ 無駄無駄ァ!』


 ゼルが<暗黒支配ダークネスイズマイン>で暗黒の幕を自分達の正面に展開した。


 それは弾性に富んでおり、骨の弾丸の勢いを吸収して跳ね返した。


 跳ね返す時にゼルも力を加えていたことにより、ボーングレイブは自分の攻撃を利用されて力尽きる羽目になった。


 ボーングレイブとの戦闘はあっさりと終わり、藍大がゼルを労っているとリルが何かを見つけたようだ。


「リル、宝箱か?」


『違うよ。隠し部屋を開くボタンがあったの。作動させて良い?』


「勿論だ」


『じゃあ作動させるね』


 リルは藍大から許可を貰ったのでボーングレイブの骨の下にあったボタンを押した。


 その直後に壁がガタンと音を立てて開いて隠し通路が現れ、元々開いていた通路が閉まった。


「あれ、あっちは閉まったぞ?」


『元々の通路はフェイクだったんだよ。歩かせるだけ歩かせて行き止まりみたいな感じ』


「陰湿だな。それなら正解の隠し通路を進もうか」


『うん』


 藍大達はリルの案内で隠し通路を進んで行った。


 その先には部屋があり、宝箱を守るようにファイティングポーズのスパルトイが立ちはだかった。


「スパルトイモンクLv50。こいつがフロアボスだってさ」


「狙い撃つです」


 藍大が解説し終えた時にはメロが<魔刃弩マジックバリスタ>でスパルトイモンクを倒していた。


「あっけない。いや、メロが強過ぎただけか」


「ドヤァです♪」


 ドヤ顔のメロは目で褒めてくれと訴えていたので、藍大はそのリクエストに応えてあげた。


 メロが甘えるだけ甘えると、その後ろにリルとゴルゴン、ゼルが静かだが期待する表情で待っていたので藍大は家族のサービスタイムに突入した。


 藍大が期待する家族の目を無視することはできないし、仲間外れにすることもあり得ないから当然の流れである。


 ゲンはその輪に加わらなかったので、帰宅してから労うことにして戦利品回収の時間だ。


 藍大はスパルトイモンクはさっさと回収し、その後ろに置かれた宝箱も回収する。


「今日は帰ったら何を頼もうか」


『調理器具にしないの?』


「ドローンが良いのよっ」


「名案です! 壊れないドローンをサクラにお願いするです!」


『♡(人>ω<*)オネガイシマス!』


 仲良しトリオはまだ配信を諦めていないらしい。


「落ち着け。壊れないドローンが手に入るのは良いけどさ、茂の胃の問題が全く片付いてないぞ?」


「し、茂さんには尊い犠牲になって貰うしかないわっ」


『(;n;)許してしげっち』


「ゴルゴンもゼルもそれは酷いです。茂さんを犠牲にするのは良くないです」


 メロが茂を気遣って配信はやっぱり厳しいと思い直したのだが、ゴルゴンとゼルの配信したい欲求が再燃したようだ。


「何よっ。メロだけ良い子ぶるのは良くないんだからねっ」


『+(0゚・∀・) +ハイシンシヨーゼ+』


「コラコラ、あまり困らせるんじゃないよ。配信の代わりに録画したビデオをアップするんだから、ゴルゴンもゼルもそれで我慢してくれ」


「わかったわっ」


『(・ω・)ゞ』


 これ以上ごねると録画データもアップできなくなると悟り、ゴルゴンとゼルはおとなしくなった。


 1階の探索を終えて藍大達は2階に移動した。

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