第698話 流石はご主人! 須佐之男を完全にテイムしたんだね!

 帰宅した藍大達はエルも連れて地下神域へと移動した。


 そこには藍大がやっと帰って来たと安堵する4柱の神と1柱の問題神もんだいじんがいた。


「兄貴、待ってたぞ!」


「待たせて悪かったな」


「良いんだ。そんじゃ、早速受け取ってくれよな!」


『逢魔藍大は称号”須佐之男命の神子”を獲得しました』


『おめでとうございます。逢魔藍大は世界で初めて5柱の神子の称号を獲得しました』


『初回特典として逢魔藍大の収納リュックに神梅しんばいの種が贈られました』


『逢魔藍大の称号”須佐之男命の兄貴”と称号”須佐之男命の神子”が称号”須佐之男命の主”に統合されました』


『報酬として櫛名田比売クシナダヒメの魂がシャングリラの地下神域に呼び寄せられます』


 伊邪那美のアナウンスが止むと、須佐之男命の隣に黒髪ロングの和装童女が現れた。


 いきなり地下神域に神が増えたため、その場にいた一同は目をぱちくりしている。


「・・・ここはどこですの? 私は確か、出雲の海辺にいたはずですの」


「櫛名田比売! ワイだ! 須佐之男だぞ!」


「あら、須佐之男様ではありませぬか? こちらにいらしたのですね」


 須佐之男命に力一杯抱き締められても平然と微笑んでいる櫛名田比売はかなりマイペースなようだ。


「兄貴、ありがとう! ワイが復活したら櫛名田比売を探そうとしてたんだが、おかげで先に見つけられたぜ!」


「良かったな」


「おう!」


 櫛名田比売を見つけて外見相応に嬉しそうな須佐之男命に対し、伊邪那美達は誰だこいつという視線を向けている。


 特に天照大神は他者を傷つけることしかできない愚弟が櫛名田比売を心配していたという事実を受け入れられていないようだ。


 そんな天照大神の肩を月読尊がポンポンと叩くあたり、月読尊も同じ気持ちなのだろう。


 櫛名田比売は須佐之男命との再会を喜んだ後、改めて藍大に挨拶する。


「挨拶が遅れてしまったんですの。私は櫛名田比売と申しますの。須佐之男様の妻ですの」


「俺は逢魔藍大。最近魔神になった者だ。色々あって須佐之男には兄貴と呼ばれてる」


『僕はリル。ご主人の従魔で”風神獣”だよ』


『ドライザー。”土神獣”だ』


「ミーはミオだニャ。”水神獣”ニャ」


『フィアはフィアだよ。”火神獣”なの』


『私はエルです』


 (エルさんや、そのネタはゼルに仕込まれたんだな?)


 エルの名乗りを聞いて藍大は心の中でコメントした。


 ネタがわからない者に対してネタを説明する状況ではないから口には出さなかったのだ。


「まあ、ここはお義父様とお義母様、お義姉様、お義兄様以外にも神様がいっぱいいるんですの。すごいんですの」


「そうだぜ。兄貴達はすげえんだ」


 須佐之男命はドヤ顔で自慢する。


 誰も何故お前が得意気なんだとツッコむような野暮な真似はしない。


 長い間離れ離れだった妻との会話にツッコむのはかわいそうだと思ったのだろう。


 その代わりに伊邪那美が藍大に話しかける。


「藍大よ、須佐之男命からの加護が変わっておるのじゃ。妾から見て完全に須佐之男命の上にお主が来ておるぞ」


「やっぱり? そんな感じのパスが繋がった気がしたんだ」


『流石はご主人! 須佐之男を完全にテイムしたんだね!』


「藍大、私はいつかこうなるんじゃないかと思ってました」


 リルのコメントを受けて天照大神はとても良い笑顔で続く。


 須佐之男命に手を焼いた身としては溜飲が下がる思いなのだろう。


 ちなみに、”須佐之男命の主”の効果は日本の神々からの好感度上昇と須佐之男命とのテレパシーに加え、藍大がMPを消費して須佐之男命を召喚できるというものである。


 まだ完全に復活していない須佐之男命ではあるが、この効果によって藍大のMPが続く限り神域の外で戦うこともできる。


 これならばリルが須佐之男命をテイムしたと表現したのも頷ける。


「兄貴、ワイはこれから櫛名田比売にこの神域を案内してくるぜ」


「おう。ちゃんと家族サービスしてこい」


「わかった! 行くぞ、櫛名田比売!」


「はいですの」


 須佐之男命は櫛名田比売を連れて地下神域の案内ツアーに出掛けた。


 それから藍大は検証すべきもう一つの事項について検証を始めることにした。


「ドライザーとエル、俺に憑依してくれないか?」


『承知』


『承知しました』


 ドライザーが<上級鎧化ハイアーマーアウト>、エルが<超級鎧化エクストラアーマーアウト>を使えば、元々ゲンが<絶対守鎧アブソリュートアーマー>を発動していたこともあり、藍大は3体に憑依されることになる。


 それにより、藍大は金色の竜人甲冑に身を包んだ戦う魔神フォームへと変身した。


『ご主人強そう!』


 リルが尻尾をブンブン振るって喜ぶ。


 (今度神田さんに披露しよう)


 ゲンとドライザー、エルに憑依されれば普段は戦闘なんてからっきしの藍大も”大災厄”でも軽々屠れる程度の強さになる。


 茂ではなくてロボ好きの同志である睦美に披露しようと思ったのは茂の胃を考慮してのことである。


 幼馴染が人間を辞めただけでも十分驚いているのだから、これ以上茂の胃に負荷をかけるような姿は見せられないのだ。


 空を飛んでみたり地下神域を破壊しないようなアビリティを試した後、ゲン達にアビリティを解除してもらった。


「今日の夜は地下神域でバーベキューするか」


「「『・・・「『バーベキュー!』」・・・』」」


 食いしん坊ズが藍大のバーベキュー開催宣言を聞いて目を輝かせた。


 バーベキューをやると決まった時から食いしん坊ズの動きはすごかった。


 あっという間にクラン内と茂に連絡を入れ、テキパキとバーベキューの準備が進んだ。


 全員集合して後はもう焼くだけというタイミングで須佐之男命と櫛名田比売が合流した。


『地下神域デートによって須佐之男命と櫛名田比売の心が癒されました』


『初回特典として須佐之男命の力が80%まで回復しました』


『初回特典として櫛名田比売の力が10%まで回復しました』


 (デートしただけで力が回復するの!?)


 今までにないパターンで須佐之男命と櫛名田比売の力が一部戻ったことを知り、そんな方法があったのかと藍大は驚いた。


 驚いている藍大の肩をトントンと叩く者がおり、振り返ってみると予想通りそれは茂だった。


「なんか増えてね?」


「あれ? 聞いてなかった? 櫛名田比売もこの地下神域に呼び寄せられたんだけど」


「聞いてない。連絡をくれた健太からそんな大事なこと聞いてない」


 茂は胃の痛みと健太への怒りでプルプルと震え出す。


 そこに千春がやって来て胃薬をテキパキと飲ませて茂が復活し、健太に説教してやると向かっていく。


「逢魔さん、また美味しそうな食材が増えましたね。色々作れて熟練度が上がりました」


「それは良かったです。お土産に少し持って帰りますか?」


「是非!」


 千春は調理士なので高品質な食材に目がない。


 シャングリラダンジョンはレアな食材モンスターの宝庫であり、地下神域はレア食材の宝庫だ。


 それゆえ、千春にとっては最近流行りのモフランドやモフリパークよりもシャングリラの方が魅力的なのである。


 藍大と千春が食材談義を始めようとすると、藍大に背後から舞が抱き着く。


「藍大まだ~? お腹空いた~」


「そうだった。始めよう」


「待ってました~!」


 舞の催促によってバーベキューが始まり、人と従魔、神が立場に関係なく食事や会話を楽しむ。


 その中で余興も行われる訳だが、余興と言えばこの人だ。


「見様見真似のドラゴンブレス!」


「さあ、最初は麗奈のお家芸からスタートだぁ! 審査員のブラドさん、モルガナさん、ユノさん、判定をどうぞ!」


 司会は健太が務めており、ドラゴンブレスの物真似ということでドラゴンズにジャッジを促した。


「3点なのだ。ワイバーンのブレスと称するなら許すのだ」


「3点でござる。ドラゴンブレスを名乗るには威力も威厳も足りてないでござる」


「3点。私達のブレスを宴会芸と一緒にしないで」


「これは手厳しい! 麗奈はワイバーンからやり直しだぁ!」


「そんなぁ・・・」


 ドラゴンズの厳しい採点を聞いて麗奈は悔しそうにしている。


 (見様見真似のワイバーンブレスだと語呂が悪いよな)


 遠くから見ていた藍大は割とどうでも良いことを考えていた。


 そこに隣からサクラがお皿を差し出す。


「主、焼いてばっかりだからちゃんと食べてね」


「いつもすまないねぇ」


「それは言わないお約束だよ」


 このやりとりもバーベキューではいつも行われているお決まりだ。


 ”邪神代行者”討伐と櫛名田比売遭遇記念のバーベキューは最後まで賑やかに続くのだった。

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