第696話 その程度じゃ主人には届かせないよ

 時を少々遡り、真奈は藍大からの連絡を受けてすぐに高速艦黄昏でフロンティアDMU出張所行きの便の出航時刻を迎えた。


 甲板では真奈がリーアムに藍大から受けた電話とメールの内容を共有している。


「リーアム、逢魔さんから”大災厄”の事前情報が来たわ」


「どんな感じなんだい? フォラスとハルファスって言ってたよね?」


「うん。フォラスは白衣を着たフラスコを持った悪魔だって。フラスコを投げて戦うらしいよ」


「フラスコを投げるの? ということは爆発したり中の薬品がヤバい感じ?」


 リーアムは真奈の説明を聞いて自分が思いつくフラスコの危険なイメージを伝える。


「そんな感じみたい。なんでかわからないけど、フォラスのフラスコは投げても投げても底を尽きないらしいわ」


「ゲームみたいだね。所持数∞の初期装備みたい」


「その想定でいた方が良いかもね。ハルファスもそういった意味では攻撃手段の底が見えないみたいだよ。亜空間から飛び道具をガンガン取り寄せてるらしいから」


「思ったよりちゃんとした情報だね。逢魔さんはどうやってその情報を手に入れたの?」


 フォラスとハルファスについて名前と外見がわかれば良いやぐらいの気持ちでいたが、それぞれの攻撃手段についても多少なりとも情報があるのはありがたい。


 だからこそ、今はまだ日本にいるはずの藍大がどうやってフロンティアで戦っている”大災厄”の情報を集められたのかリーアムは不思議に思っていた。


「伊邪那岐様がシャングリラリゾートから確認したんだって。神様ってすごいね」


「その話だとシャングリラリゾートとシャングリラは空間が繋がってるのかな?」


「どうだろうね。私、モフモフ界では有識者だけど神話方面の話には明るくないから」


「それは僕もだけどね。まあ、逢魔さんも魔神なんだしきっと神様なら瞬間移動とか千里眼みたいなこともできちゃうって考えた方が良さそうだ」


 リーアムはそのように結論付けた。


 わからないことをこれ以上悩んでも仕方ないし、そもそも今考えていたことはこれから戦う相手の話から脱線している。


 そんな時、真奈の傍にいたガルフが進行方向の空を見上げた。


「ガルフ、何か見えた? それとも聞こえた?」


『さっきの話からしてフォラスかな? それがこっちに近づいて来てる』


「プゥ」


「ニンジャもそうだって言ってる」


 ガルフとニンジャはフォラスが高速艦黄昏に接近していることを察したらしい。


 それからすぐに艦内放送が聞こえる。


『総員、第一種戦闘配置! 繰り返す! 総員、第一種戦闘配置!』


「船上の戦いって初めてだね」


「沈められたらヤバいね」


「とりあえず、従魔を召喚しましょう。【召喚サモン:メルメ】【召喚サモン:ロック】【召喚サモン:ニャンシー】」


「【召喚サモン:ソード】【召喚サモン:タンク】【召喚サモン:ヒーラー】」


 真奈とリーアムは”邪神代行者”になったであろうフォラスと戦えるであろう従魔をこの場に召喚した。


 そして、真奈もリーアムも召喚しただけでは終わらない。


「ニャンシー、お願い!」


「タンク、頼んだ!」


 ニャンシーとタンクが<超級鎧化エクストラアーマーアウト>を発動し、それぞれ真奈とリーアムに憑依する。


「メルメとロックはこの船を守って。私とガルフで攻撃するわ」


「ソードも同じく船を守るんだ。ニンジャが攻撃役でヒーラーは僕達の回復役だ」


 作戦が決まった時にはフォラスが真奈とガルフの肉眼でも見えていた。


 ぼさぼさで緑がかった長髪に白衣を着た悪魔という見た目で、確かにその手にはフラスコが握られていた。


「ガルフ、<大賢者マーリン>で調べられる?」


『もう調べたよ』


 ガルフは<賢者ワイズマン>を会得した後、テレパシーで会話ができるとバレてしまったから開き直って<大賢者マーリン>になるまで魔石を真奈に欲しいと頼んだ。


 真奈もガルフからおねだりされるのは嬉しかったので、積極的に強いモンスターを狩ってガルフに魔石を与え続けた。


 結果として、ガルフが<大賢者マーリン>を会得するだけでなく大幅なパワーアップも果たせたので万々歳だ。


 ガルフは真奈達に自分の調べたフォラスのステータスを伝える。



-----------------------------------------

名前:なし 種族:フォラス

性別:雄 Lv:100

-----------------------------------------

HP:2,000/3,000

MP:2,400/3,500

STR:2,500(+500)

VIT:2,500

DEX:2,500

AGI:2,500

INT:3,500

LUK:2,500

-----------------------------------------

称号:邪神代行者

   マッドサイエンティスト

   到達者

アビリティ:<剛力投擲メガトンスロー><創薬クリエイトドラッグ><鎖拘束チェーンバインド

      <熔解刃メルトエッジ><琥珀弾アンバーバレット><保管庫ストレージ

      <自動再生オートリジェネ><全激減デシメーションオール

装備:パワードラボコート

   リポップフラスコ

備考:今度はどんな薬品を口にねじ込もうか

-----------------------------------------



「フラスコを全力投球する気満々ね」


「<琥珀弾アンバーバレット>が地味に怖い。琥珀化って石化の亜種だよね?」


 真奈は苦笑してリーアムは<琥珀弾アンバーバレット>を警戒した。


 弾丸を放つだけなら大したことないように思うかもしれないが、触れたものを琥珀化させるとわかれば馬鹿にはできまい。


 勿論、ニャンシーやタンクを憑依している2人は状態異常に耐性があるのですぐに琥珀化することはない。


 ただし、高速艦黄昏に状態異常耐性なんてないから、下手に躱して琥珀化すると運航できなくなるので注意が必要だろう。


「喰らえ」


 フォラスは短く言った直後に紫色の液体が入ったフラスコを<剛力投擲メガトンスロー>で真奈の口を狙って投げつけた。


 しかし、それは真奈に届く前に突然破裂した。


『その程度じゃ主人には届かせないよ』


「ガルフ、ありがとう!」


 ガルフが<不可視爪インビジブルネイル>で迎撃していたからだ。


 真奈はガルフにお礼を言いつつニャンシーの力を借り、<深淵支配アビスイズマイン>で弓矢を創り出すとフォラスに向かってガンガン射出する。


「飛び道具持ちか」


 フォラスは厄介な敵だと眉間に皺を寄せながら真奈の攻撃を躱していく。


 だが、その回避行動を邪魔しようとリーアムが動いた。


「こっちを見ろ!」


 リーアムはタンクの力を借りて<絶対注目アテンションプリーズ>を発動した。


 そのせいでフォラスの意識がリーアムに向いてしまい、今まで完璧に躱していた真奈の攻撃がフォラスに当たり始める。


「プゥ!」


「ぐはっ!? 目がぁっ!?」


 フォラスが怯んだ隙にニンジャが<三重跳躍トリプルジャンプ>で接近し、フォラスの目に闇で形成した手裏剣を当てて視界を奪った。


 目を潰されたフォラスは両手で目を覆う。


『フラスコ貰うね』


 ガルフは<短距離転移ショートワープ>で接近してフォラスの手からリポップフラスコを奪って甲板に戻る。


 リポップフラスコは使用者が投げたり壊した時は手元に戻って来るが、奪われるか譲った時には手元で再生しない。


 ガルフはそれを理解していたため、敵戦力を削るべくリポップフラスコを奪ったのだ。


「良いわよガルフ! ついでに<人従一体アズワン>!」


『了解』


 リポップフラスコを真奈に預けたガルフは<人従一体アズワン>を発動した。


 それにより、真奈の姿が黒い戦闘服を着た狼の獣人になる。


「真奈! 君は最高だ!」


「プゥ!」


 獣人フォームの真奈を見てリーアムのテンションがハイになってしまったため、戦闘中に何やってるのとニンジャがリーアムの顔に飛びついて視界を塞ぐ。


 視界を塞げば落ち着くのではないかと思ったのだろうが、モフモフボティのニンジャがリーアムの顔にくっつけばリーアムはモフモフを吸う。


「プゥ♡」


 この主従は”邪神代行者”との戦いだというのに戦闘中に何をやっているのだろうか。


 残念ながらツッコミは不在である。


「これで終わりよ」


 真奈は<短距離転移ショートワープ>でフォラスの頭上に移動し、ニャンシーの<幸運吸収ラックドレイン>とガルフの<翠嵐砲テンペストキャノン>を連続で命中させた。


 フォラスは海に叩きつけられ、その時にHPが尽きて力なく海面に浮いた。


 戦いが終わって高速艦黄昏の乗組員が浮かんでいるフォラスの回収作業を始めている一方で、甲板に戻って来た真奈は勝利の喜びをメルメとロックをモフることで伝えた。


「メェ・・・」


「フィヨォォォン・・・」


 もう戦いが終わったにもかかわらず、ガルフもニャンシーも姿を現さなければモフられるのはメルメとロックである。


 謀ったなと2体が哀愁漂う声を出したけれど、真奈が落ち着くまでガルフもニャンシーもアビリティを解除しなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る