第690話 リア充爆発した!?
DMU出張所からディガンマに乗って出発した睦美は旧C国エリア上空にやって来た。
「あそこに見えるのがシャングリラリゾートか」
睦美は藍大からピンチの時はいつでもシャングリラリゾートに逃げ込むようにと言われている。
結界で守られているシャングリラリゾートならば、藍大の許可した者以外結界を出入りできない。
睦美は許可されているので、もしもバティンが”邪神代行者”になって逃げるしかないと判断した時に逃げ込める訳だ。
茂からバティンの捜索を依頼された時、藍大がシャングリラリゾートに逃げ込んで良いと言われなかったら睦美は断っていたかもしれない。
現地に休める所がなければ、いくら睦美とその従魔が強くても肉体的、精神的に参ってしまうだろう。
「こっちにいるとされる”大災厄”はフールフールとマルコシアスだったっけ」
睦美は政宗から聞いた情報を思い出した。
フールフールは見た目が赤い尻尾がアクセントの翼を生やした白い牡鹿であり、マルコシアスは鷲の翼と蛇が尻尾の黒い狼だ。
この2体がひっそりと旧C国エリアで”大災厄”に至っていたらしい。
余談だが、”災厄”として現れたモラクスとカイム、サブナックなるモンスターもいた。
この3体は旧C国ではなく旧C半島国にいて現地入りした中小クランに襲い掛かって倒されている。
睦美はフールフールとマルコシアスに加えてバティンを探して見渡すが、それっぽいモンスターは見当たらなかった。
それ以外のモンスターの姿は見て取れるが、残念ながら睦美は人形士で従魔士のモンスター図鑑はないから化けているかどうかの判断がつかない。
「見分けがつかないのは困ったなって、おや?」
睦美はモンスター同士が妙にイチャイチャしている場所を見つけて首を傾げた。
貰った情報によれば、フールフールは性別問わずとにかくカップルを生み出す悪魔らしい。
「あの辺りを吹っ飛ばせば出て来たりして」
物騒な発言をする睦美を止める者はいない。
クランメンバーがいればちょっと待てと止めるかもしれないが、今はストッパーが誰もいないのだ。
「よし、ぶっ放そう」
睦美はディガンマに<
それによってディガンマは機械竜の姿へと変わった。
なお、機械竜の姿になってもコックピットの中は変わらない。
「ディガンマ、撃てぇぇぇ!」
『了解』
ディガンマは睦美の指示に頷いて<
ディガンマの砲撃が着弾した直後、盛大な音と共にその辺り一帯が爆発した。
「リア充爆発した!?」
ここまでの影響が出るとは思っていなかったため、ディガンマの中で睦美が驚きの余り叫んでいた。
上空からははっきりとわからないのだが、実は地上の地面近くに可燃性の気体が滞留していたのだ。
これは天然ものではなく、フールフールの<
これを吸い込むと燃え上がるように異性を求めてしまうのだが、物理的にも燃えてしまうようだ。
「あちゃー、”リア充殺し”なんて恐ろしい称号がディガンマに加わっちゃった」
”リア充殺し”は人間や動物、モンスターを問わず一定数の雄雌の番いやハーレムを倒してしまった際に得られる称号だ。
その効果としてカップルが同じ空間にいる間、全能力値が通常時の125%まで上昇する。
睦美が”リア充殺し”の称号を獲得した直後、焼き払った場所からフールフールと思しきモンスターが空を飛んで来た。
「ちょっとアンタ! よくもアタクシのカワイ子ちゃん達を殺してくれたわね!?」
「フールフールはそっち系かぁ・・・」
予想だにしていない新宿二丁目にでもいそうなバーのママ風キャラに睦美の顔が引き攣った。
いや、ツッコむべきは
見た目もツッコむべきだろう。
ムキムキ剛毛で鹿の角を生やしたおっさん悪魔が化粧して網タイツ姿で現れればそれはモンスターとしか表現できまい。
貰った情報と外見が違うのはそういうアビリティがあるからだとしても、これはあまりにもあんまりである。
「アタクシの美しい体に見惚れるのはわかるけど、ちゃんと反応しなさいよ!」
「ディガンマ、撃てぇぇぇ!」
イラっと来た睦美の指示に頷くよりも先にディガンマは攻撃を優先した。
ディガンマの砲撃をまともに喰らったフールフールは地面に墜落する。
そして、地面への落下ダメージもあってフールフールはそのまま力尽きてしまった。
「えぇ・・・。変身したまま死なないでよ・・・」
睦美はフールフールの死体を見てドン引きした。
しかし、ドン引きしたところで事態は変わらないから諦めて着陸し、ディガンマから降りてフールフールの死体を写真に収めてから回収した。
その時だった。
「アォォォォォン!」
「新手か」
咆哮が聞こえた方向に振り向くと、鷲の翼と蛇が尻尾の黒い狼が睦美に向かって突撃して来た。
「ふん!」
「キャイン!?」
睦美はメリエルの力を借りて<
そのおかげで睦美に突撃中の狼の下から岩が隆起し、狼を突き上げて吹き飛ばす。
「”大災厄”との連戦とはね。良い感じに二つ名が変わりそうな展開だわ」
睦美がマルコシアスを追撃しようとした瞬間、想定外の事態が起きた。
「君達の国では漁夫の利って言葉があったね」
そう口にしたのはタキシードを着た金髪碧眼の男性の悪魔だった。
<
「お前がバティンね」
「その通り。僕、バティンさん。君の前に」
「ディガンマ、撃てぇぇぇ!」
睦美はバティンに最後まで言わせることなくディガンマに攻撃を命じた。
<
バティンが身バレしてA国に潜伏している間、何人も”到達者”が次々に行方不明になった。
これはバティンが邪魔な”到達者”を殺して喰ったと推測されており、バティンが”邪神代行者”になる条件は他の”大災厄”を倒すだけだった。
それが実現してしまった以上、負ける可能性がある相手と下手に戦って情報を持ち帰れない事態は避けたい。
だからこそ、睦美は逃走という手段を選択した。
だがちょっと待ってほしい。
この程度の攻撃だけで倒せるならばそれは”邪神代行者”とは言えない。
逃げる睦美の正面にバティンが<
「どけぇぇぇぇぇ!」
<
雷を纏った睦美と打ち返そうとするバティンのどちらが力で勝つかという局面で、睦美は<
「ごふっ!?」
”邪神代行者”になったことで余裕ぶっていたバティンは顎に向かって飛び出して来た岩の柱にやられ、後ろにバランスを崩した。
その隙に睦美は<
これで引き離せたのなら良かったのだが、あと少しで結界に入れる時にバティンは再び<
「これを見なさい!」
「ん? ぐえっ!?」
睦美はバティンが自分の近くに転移してくるであろうことを推測し、スマホを手に取って先程撮ったフールフールの写真をバティンに見せつけたのだ。
バティンも人間社会に紛れ込んでいたからか、フールフールの外見に気持ち悪いという印象を抱かずにはいられずにはいられなかったらしい。
バティンが仰け反った隙に睦美は結界の中に入り込み、追いかけっこは睦美の勝利に終わった。
睦美はシャングリラリゾート中心部にある別荘に移動し、メリエルに<
そこには天照大神が待っていた。
「よく頑張りましたね、睦美」
「天照大神、魔神様にバティンが”邪神代行者”になったとお伝えください!」
「わかっております。貴女がここに逃げ込んだ時にはそのように連絡してあります。貴方はゆっくりと休んで下さい」
「ありがとうございます」
自分のやるべきことが終わったと思って力が抜けたらしく、睦美は気を失って倒れた。
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