第691話 お前が私の掌の上で踊ってるから

 天照大神の知らせを受けて藍大は舞とサクラ、リル、ゲン、ブラドを連れてシャングリラリゾートの別荘にやって来た。


 サクラの<生命支配ライフイズマイン>によって睦美は完全に回復した状態で目を覚ました。


「魔神様、ご足労いただきありがとうございます」


「これぐらいどうってことない。”大災厄”と連戦して”邪神代行者”から逃げた神田さんの方が大変だったろ? お疲れ様」


「お気遣い痛み入ります」


「この後俺達はちょっとバティンを倒して来るから神田さんは休んでいてくれ」


「軽い感じで倒す宣言するなんてさすまじです。わかりました」


 自分が同行しても足手纏いになると判断し、睦美はバティンの討伐を藍大達に任せた。


 藍大達はそれから本体と入れ替わったブラドの背中に乗って結界の外に移動し、空からバティンを探す。


「リル、バティンを探せるか?」


『任せて』


 リルは五感を駆使してバティンを探す。


 30秒程経ってからリルが首を傾げたため、藍大は何かあったのだろうと判断して声をかける。


「何かあったのか?」


『強力な力を持った物体を感知したよ』


「物体? どんな?」


『もうちょっと近づいてみないと判断できないかな。ブラド、東に進んで』


「わかったのだ」


 リルの頼みを聞いてブラドが東へと進む。


 ブラドの背中から藍大と舞、サクラもきょろきょろと探すけれどバティンらしき存在は見当たらなかった。


 しかし、探し物のプロであるリルは違う。


『見つけたよ。あの丸くて黒い石ころだ』


 リルが示した場所には石がいくつも転がっていた。


 その中にはリルが言う丸くて黒い石があった。


 藍大は視界にモンスター図鑑を表示してその石を調べ始めた。



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名前:なし 種族:バティン

性別:雄 Lv:100

-----------------------------------------

HP:3,000/3,000

MP:3,500/3,500

STR:2,500(+500)

VIT:2,500(+500)

DEX:2,500

AGI:3,000

INT:3,000

LUK:2,500

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称号:邪神代行者

   ゲスの極みグルメ

   歩く武器庫

アビリティ:<武器精通ウェポンマスタリー><創魔武器マジックウエポン><深淵竜巻アビストルネード

      <保管庫ストレージ><形状変化シェイプシフト><短距離転移ショートワープ

      <自動再生オートリジェネ><全激減デシメーションオール

装備:エレガントタキシード

   コクオーシューズ

備考:どうだ、まさか僕が石ころになったとは思っても見なかっただろ?

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 (思ってなくても見つけてるから。というか”ゲスの極みグルメ”ってなんだよ)


 藍大は自信満々なバティンを憐れむのと同時に、”ゲスの極みグルメ”が気になって調べた。


 その結果、”ゲスの極みグルメ”は”外道”と”蠱毒のグルメ”と”到達者”が統合された称号だとわかった。


 この称号は人やモンスターを問わず騙しまくり、強者の血肉を喰らい続けてLv100に至った者が条件で獲得できる。


 相手を騙す動作や卑怯な手段による攻撃に補正がかかるだけでなく、食べた相手の能力値の一部を奪い取れる効果がある。


 余談だが、”歩く武器庫”は自身が使いこなせる武器を5種類以上持ち歩く者が獲得する称号だ。


 <武器精通ウエポンマスタリー>と<保管庫ストレージ>のおかげで獲得した称号だろう。


 少なくとも、<創魔武器マジックウエポン>で作る武器は常に持ち歩く訳ではなく、MPで形成されているから長時間持ち歩けないので”歩く武器庫”には影響しない。


 じっくりとバティンを鑑定したところで、藍大達はバティンを倒すことにする。


「主、作戦はあるの?」


「奴は<短距離転移ショートワープ>持ちだ。それを逆手に取る」


「と言うと?」


「サクラの力を借りて嵌め殺しする」


「OK。わかった」


「私もわかった~」


『僕もわかったよ』


「わかったのだ」


 藍大の説明は端的なものだったけれど、全員が何をするのか理解できたようだ。


「ブラド、開始の攻撃を任せる」


「良いのであるか?」


 本来、ブラドは藍大の移動手段として同行してもらうと事前に話していたため、今回の作戦では見ているだけだった。


 だが、それではブラドも暇だろうと思って藍大はブラドに声をかけたのである。


「勿論だ。ブラドが攻撃をしたらバティンを嵌め殺しする」


「心得たのだ」


 そう言ってからブラドは石に化けているバティンに対して<憤怒皇帝ラースエンペラー>を発動する。


「なんでバレたんだよ!?」


 バティンは石から元の姿に戻り、慌てて<短距離転移ショートワープ>で逃げる。


「ヒャッハァァァッ!」


「へぶっ!?」


 バティンが逃げた先にはリルに乗った舞がいて、舞がミョルニルでバティンを殴った。


 吹き飛ばされつつも<全激減デシメーションオール>でダメージを激減させ、バティンは<自動再生オートリジェネ>でHPを回復する。


 それだけではなく、<短距離転移ショートワープ>で舞とリルから距離を取る。


 いや、取ったつもりだった。


「ぶっ飛ばす!」


「何故!?」


 再びミョルニルでぶん殴られてバティンが吹き飛ばされる。


 バティンは逃げては先回りされて殴られることを繰り返し、<全激減デシメーションオール>があるにもかかわらず恐慌状態に陥った。


「なんでだよ!? なんで僕の逃げる場所がわかるんだよ!」


「お前が私の掌の上で踊ってるから」


「え?」


 バティンが受けている嵌め殺しについて種明かししよう。


 この作戦の肝はサクラの<運命支配フェイトイズマイン>により、舞とリルのコンビが先回りした場所にバティンが<短距離転移ショートワープ>で移動してしまうという点にある。


 加えて言うならば、バティンを何度も先回りして殴れるように舞はミョルニルに雷光を纏わせていない。


 サクラのLUK全開のレーザーやリルの<神裂狼爪ラグナロク>も使っていないから、ぶっちゃけ舐めプレイである。


 勿論、藍大が舐めプレイでも舞とサクラ、リルによって倒れるまでボコボコにされるこの作戦を選んだのには理由がある。


 それは世界に対するアピールだ。


 シャングリラリゾートに手を出そうものなら”邪神代行者”ですら一方的に嬲れる戦力が相手になると世界に対して知らしめる気なのだ。


 どうやって知らしめる気かと言えば、サクラの能力値に頼って動画を撮影してこの戦いの後に”楽園の守り人”のホームページにアップロードして知らしめるつもりである。


 バティンはサクラがどんな手を使って自分をタコ殴りできる状況を作ったかわからず、とにかく逃げなければと<短距離転移ショートワープ>を発動する。


 そして、発動して逃げた先には舞とリルのコンビが先回りしている。


「オラァ!」


「がはっ!?」


 MPが<自動再生オートリジェネ>と<短距離転移ショートワープ>の連続使用のせいで急激に減っており、遂にバティンは<短距離転移ショートワープ>が発動できなくなった。


「これは酷いのだ」


 ブラドがぽつりと呟いた。


 自分がもしもバティンと同じ立場だったとしたら、全く勝てるビジョンが見えないからこその呟きと言えよう。


 攻撃手段があっても使う余裕を与えてもらうことができず、ひたすらにサンドバッグにされるなんてとてもではないが耐えられない。


 ちょくちょく抱き着かれるだけのブラドの立ち位置はバティンと比べれば遥かにマシだろう。


「リル、とどめだ」


『うん!』


 リルは<雷神審判ジャッジオブトール>でバティンにとどめを刺した。


 バティンが力尽きたことにより、<保管庫ストレージ>に入っていた物がどこからともなく放出された。


 それと同時に伊邪那美の声が藍大の耳に届く。


『おめでとうございます。逢魔藍大は世界で初めて”邪神代行者”の心を折ってから討伐しました』


『初回特典として月読の力が90%まで回復しました』


 伊邪那美の声が止んでから藍大達はバティンの死体とたくさんの物の近くに着陸した。


 どこかに飛んで行かないように戦利品を全て回収してから藍大は全員を労う。

 

「みんなグッジョブ。完全な勝利だったな」


「ちょっと物足りなかった~」


「仕方ない。主に逆らうとこうなるって見せしめるために必要だった」


『ご主人、晩御飯はお肉が良いな』


「吾輩もリルに賛成である」


「わかった。今日は特別にハンバーグカレーだ」


「『「ハンバーグカレーさん!」』」


 ハンバーグカレーと聞いた瞬間、食いしん坊ズがとても良い笑顔になった。


 その後、バティンを解体して魔石はブラドに与えられた。


『ブラドのアビリティ:<再生リジェネ>がアビリティ:<自動再生オートリジェネ>に上書きされました』


 ブラドの強化が済んでバティンも回収したため、藍大達はシャングリラリゾートに戻り、睦美を拾ってシャングリラへと帰還した。


 この日の逢魔家の食卓が大盛り上がりだったのと同様に掲示板が大荒れになったのは言うまでもない。

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