第689話 ロマンだな。ロマンなら仕方ないな

 翌日、”近衛兵団”の神田睦美は藍大とドライザーをクランハウスに招待した。


「神田さん、フロンティアに行く前に俺に見せたいものがあるんだって?」


「はい。ちょっと地下に同行願います」


「地下なんてあったのここ?」


「このクランには私の同志が3人います。コツコツ改造して秘密基地っぽくしました。魔神様ならばロマンはおわかりいただけるでしょう?」


「ロマンだな。ロマンなら仕方ないな」


 藍大も睦美もロマンという言葉に惹かれる人種なのでロマンがあれば大抵のことは頷いてしまう。


 藍大は睦美に連れられて地下に向かい、ロボットアニメの宇宙戦艦内部を彷彿とさせる内装に感動した。


「おぉ・・・」


『ボス、満足か?』


「大満足だ」


 ドライザーは藍大が嬉しそうにしているので、今後何か作る時の参考にしようと地下施設を観察することにした。


 それから藍大は睦美が見せたがっている場所へと移動してもっと感動することになる。


「ガ〇ダムじゃね!?」


「ガ〇ダムっぽいですよね!」


 睦美が藍大に披露したのは機動戦士と極めて似ている存在が格納された場所である。


 もしやと思ってモンスター図鑑で調べてみたところ、それはやはりモンスターだった。



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名前:ディガンマ 種族:リュージュ

性別:なし Lv:100

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HP:3,000/3,000

MP:3,000/3,000

STR:2,500

VIT:3,000

DEX:2,000

AGI:2,000

INT:2,500

LUK:2,000

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称号:睦美の従魔

   英雄

   融合モンスター

   ロマンの追求者

二つ名:パイロットの搭乗機

アビリティ:<格闘術マーシャルアーツ><武器精通ウエポンマスタリー><創魔武器マジックウエポン

      <竜機変形ドラゴントランス><魔攻城砲マジックキャノン><闘気鎧オーラアーマー

      <解体デモリッション><全半減ディバインオール

装備:ドレイクライフル

   ドレイクシールド

備考:スタンバイ

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 (”ロマンの追求者”の名前に恥じてない見事な従魔だ)


 藍大が目を輝かせているのを見て睦美はうんうんと嬉しそうに頷く。


 ディガンマはサイバードレイクだったランパードとタロウフレームを融合したモンスターだ。


 余談だが、タロウフレームはマザーフレームとファザーフレームの融合体であり、量産型モ〇ルスーツのような外見である。


 ディガンマは機動戦士としての姿だけでなく、<竜機変形ドラゴントランス>のおかげで機械竜の姿にも変形可能である。


 もっとも、流石にこの場で機械竜の姿に変形してしまうと世界観が崩れてしまうため、今は披露できないのだが。


「お気に召していただけたようですね」


「オフコース!」


「実はディガンマにはコックピットがありまして、人形士である私がそこに入ればディガンマは私と同じ動きをするんです」


「そうか! 三次覚醒時に得た力か!」


「流石です。では、早速搭乗します。【召喚サモン:メリエル】」


 ディガンマのコックピットは操縦席というよりも操縦空間というべき場所だ。


 席や操縦桿がある訳ではなく、あくまで三次覚醒した人形士の力を有効活用できるだけで、本来は守るべきものをその中に入れて戦う仕様である。


 メリエルが<着脱自在デタッチャブル>で睦美のパイロットスーツになると、睦美はディガンマに搭乗した。


 (ファガンだけでもかなり強化されるのにディガンマまでとは贅沢だな)


 それを言うならば藍大も贅沢だ。


 ゲンとエルに纏ってもらうことで高速移動砲台の機動騎士になれるのだから。


 藍大のブーメランコメントはさておき、睦美はディガンマと自分の動きをシンクロさせて藍大に披露する。


「見事なものだ」


「ありがとうございます。それではこのままフロンティアに行ってきますね」


「おう。気を付けて行って来てくれ」


 藍大がそう言った瞬間、天井部分が開く。


「睦美、行きまぁぁぁぁぁす!」


「すげぇ! 芸が細かい!」


 流石に戦艦のハッチを用意することはできなかったが、それでも基地から出発するシーンを再現してみせるあたり、睦美とその同志達の強い拘りを感じる。


 藍大とドライザーにアピールするだけアピールして睦美はバティンのいるであろうフロンティアへと出発した。


 高速艦で日本の領海から出れば結界の外にいるモンスターが襲って来るけれど、空を飛んで行けばモンスターに襲われる可能性は低い。


 無論、フロンティアや他の国を脱出して空を移動するモンスターがいないとは限らないけれど、空を飛べるモンスターの大半が不眠不休で空を飛び続けられる訳ではない。


 それゆえ、睦美の空の旅は極めて順調だった。


 1時間弱でフロンティアの上空に到着すると、睦美は空からバティンもしくはそれと同等の力を持つ”大災厄”を探し始める。


 ディガンマと感覚を共有しているので、コックピットの中からでも探し物ができる訳だが、旧C半島国だったエリアではパッと見た感じではいなかった。


 空から見ているだけでは見つけられないのならば、地上に降りて現地にいる人達に話を聞くしかない。


 そう考えて睦美はDMU出張所の前に着陸した。


「おいおい、なんだ? 特撮か?」


「一体何が起きた?」


「どう見てもガ〇ダムです! ありがとうございます!」


 出張所から飛び出して来た職員達の中にもロボット好きがいたらしく、困惑している職員達を無視して喜んでいた。


 睦美がコックピットから出て来てディガンマを送還する頃になると、出張所から所長代理の天門政宗が出て来る。


「パイロットですね。お待ちしておりました。私はDMU出張所の所長代理を務めます天門です。所長が出ているので私が代わりにお話を伺いましょう」


 職員達が驚いたり喜んだりしている中、政宗は冷静に睦美を迎え入れた。


 政宗が冷静でいられたのは茂から睦美が今日中にフロンティア入りすると聞かされていたからである。


 そうは言ってもこんな派手な登場だと思っていなかったから、窓から降りて来るディガンマを見た時は目を見開いていたのだがそれは今は置いておこう。


「”近衛兵団”の神田です。バティン並びに”大災厄”の情報があればと思って立ち寄りました」


「承知しました。応接室にご案内します。そちらで我々が集めた情報をお渡しします」


「お邪魔します」


 睦美は外では駄目だと言われてメリエルを送還してから政宗の後に続いた。


 応接室に通された睦美が待ってから数分後、政宗が獣人幼女エンリを連れて戻って来た。


「天門さん、紳士だったんですね」


「ちょっと待って下さい。誤解なんです。この子は」


 睦美にジト目で見られたことで政宗が誤解を解こうとする。


 しかし、それを遮るようにエンリが口を開く。


「マスター、紳士、違う。私、嫁」


「おまわりさんこいつです!」


「違います! エンリは私の従魔です!」


 エンリの発言で深まった誤解を解くべく、政宗が声を張り上げた。


 その瞬間、エンリが目に涙を浮かべる。


「私、嫁、違う? マスター、私、嫌い?」


「女の子泣かしちゃ駄目じゃないですか」


「あっ、すまん。エンリが嫌いな訳やないんやで?」


 人前ではあるけれど、周りに誰もいない時は関西弁で喋っていることから思わず政宗は素の口調に戻ってしまった。


 別に標準語で話そうが関西弁で話そうが周りはそんなに気にしていないのだが、本人は気にしているので周りは敢えてそのスタイルを否定していない。


「マスター、私、好き?」


「好きやで」


「マスター、私、嫁?」


「大きくなったらや」


「魔神様もゴルゴン様とメロ様、ゼル様のアピールに負けて娶りましたから、私もその点について警察を呼んだりしません」


「ご理解いただいて何よりです」


 政宗は睦美にイラっと来て引き攣った笑みを浮かべながらそう言った。


 その後、泣き止んでニコニコしているエンリを膝の上に乗せた政宗が睦美に用意した資料を渡す。


「”大災厄”がバティン以外に2体もいたんですね?」


「旧C国エリアにですけどね。旧C半島国エリアにいた”大災厄”2体は妹のパーティーが討伐してくれましたので」


「その件でしたら存じております。では、旧C半島国エリアにはいないと断定して良いのですね?」


「あの件の後、調査と外にいるモンスターの討伐を徹底しましたのでダンジョンの外にいるモンスターは海から上陸するか空から来ない限りいないでしょう」


「わかりました。情報に感謝します。旧C国エリアに向かってみます」


 必要な情報は引き出せたため、睦美はこの後すぐに旧C国エリアへと向かった。

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