第58章 大家さん、邪神代行者を狩る

第687話 言ってくれたらいくらでもコスプレするのに

 2週間後の9月23日の月曜日、藍大とリル、ドライザー、伊邪那美が地下神域に集まっていた。


「さて、ドライザーにはこれから大事な仕事をしてもらう」


『大事な仕事?』


「その通り。シャングリラリゾートの人手不足を解決する手伝いをしてほしい」


『<鍛冶神祝ブレスオブヘパイストス>で何か作るのだな?』


「正解。ドライザーにはホムンクルスを作ってもらいたい」


 藍大はシャングリラリゾートの人手不足に困っていた。


 3つのエリアを完成させたのは良いが、運営する人手が足りなかった。


 クランメンバーだけで楽しむならばなんとか家族で役割分担をすればどうにでもなるが、クランメンバーと孤児院の子供達等の招待客が一気に集まると人手は絶対に足りない。


 では、どのように解決するかという点で2つ方法が考えられた。


 1つ目は従魔をテイムして従魔に運営してもらうという方法だ。


 これは個であり群であるモンスターをテイムすれば解決するのだが、そういった特徴を持つモンスターは人型ではないものばかりで運営できるか怪しかった。


 しっかり探せば人型の群体モンスターがいるかもしれないが、すぐに見つからないので他に方法があるならそちらを検討した方が早いかもしれない。


 2つ目がドライザーに頼んだホムンクルスを作って運営させる方法だ。


 ただし、こちらにはアビリティが使えないという制約があるため、シャングリラリゾートを運営できるようにするには工夫が必要なのは間違いない。


 という訳で、地下神域には大量のエンシェントトレントの木材とミドガルズオルムの骨、ヒュドラフレームの核、リジェネスライムの皮、魔石たっぷりのバケツ、3種類の丸薬が用意されている。


「藍大よ、その丸薬はもしや転職の丸薬かのう?」


「ピンポーン。調理士と騎士、奇術士に転職できるぞ」


「調理士は屋台のスタッフとしてわかるのじゃが、騎士と奇術士はなんで用意したのじゃ?」


 伊邪那美が首を傾げているとリルが口を開く。


『僕にはわかるよ。騎士は見回りで奇術士は荷物を預けられて楽しませてくれるスタッフとして用意したんだよね?』


「流石はリル。俺の考えがよくわかってるじゃないか」


「クゥ~ン♪」


 リルの用意した回答が自分の考えた通りだったため、藍大はリルの頭をわしゃわしゃと撫でた。


「なるほどのう。来れたとしても紹介制とはいえ、見回りが弱いとトラブルを解消できぬから騎士は必要じゃな。奇術士はディ〇ニーのカストーディアルみたいな枠じゃな?」


「そーいうこと」


 伊邪那美はふむふむと頷いた。


 ちなみに、3種類の転職の丸薬は奈美が気になって研究した成果である。


 テイマー系冒険者に転職させることばかりに注目が集まっていたけれど、本来は元々保有していた職業技能ジョブスキルを別のものに変えられるというだけで貴重な物だ。


 藍大パーティーと司パーティーがシャングリラダンジョンからどんどん戦利品を回収してくるから、薬品の素材が足りなくて研究が止まることはない。


 その点で薬士にとって”楽園の守り人”に在籍することはDMUや他のクランに在籍するよりもメリットがある訳だ。


「ドライザー、まずは調理士のホムンクルスから頼む」


『承知した』


 ドライザーは頷いて<鍛冶神祝ブレスオブヘパイストス>を発動し、調理士のホムンクルスを合成し始めた。


 光が生じてその中で全ての素材が重なり、光の中で人型ロボットが形成されていく。


 光が収まるとどういう訳かメイド服を着た黒髪のホムンクルス軍団の姿があった。


「ドライザーさんや、一体どうしてメイドなんだい?」


『ボスはメイドがお嫌いか?』


「お好きでござる。ってそうじゃない!」


 藍大とドライザーのこのやり取りも定番だけれど、メイド型ホムンクルスを好きと言ってしまったことに藍大は後悔してすぐに否定した。


 しかし、既に手遅れだった。


「藍大はメイドが好きなんだ~」


「言ってくれたらいくらでもコスプレするのに」


 背後から声がしたので振り返ってみると、満面の笑みを浮かべる舞とサクラがいた。


「これは違うぞ? ドライザーとのいつものやり取りでうっかりそう答えただけなんだ」


『でも、メイドを好きか嫌いかで言ったら?』


「お好きでござる。待て、慌てるな! これは孔明ドライザーの罠だ」


 ドライザーが余計なことを言うものだから藍大もうっかりそれに乗ってしまう。


「今日の夜はメイドに決定だね~」


「主にたっぷりご奉仕。楽しみにしてて」


 舞とサクラはウキウキした様子で地下神域から地上に戻って行った。


 藍大の今夜が大変なことになると察し、リルは藍大を労わるように頬擦りする。


『ご主人、頑張ってね』


「・・・頑張る」


 藍大は少しの間リルをモフモフして気持ちを落ち着かせた。


 気持ちをリセットさせた後、藍大は完成したメイド型ホムンクルスを観察した。


 一見して人間の女性と変わらない外見をしているが、骨はミドガルズオルムのもので体はエルダートレントのものでできている。


 肌はリジェネスライムの皮で再現されており、頭脳はヒュドラフレームの核を利用しているから少なくとも戦闘において耐久力が高いのは間違いない。


 リルも藍大が観察している間にメイド型ホムンクルスを鑑定していたらしく、その結果を藍大に伝える。


『メイド型ホムンクルス。ヒュドラフレームの核を素材に使ったことでホムンクルス同士は思考を共有できるみたいだよ。護身術もできるし、肝心の調理スキルもちゃんとあるね』


「ひとまず望み通りのホムンクルスが完成した訳か。ドライザー、お見事だ」


『満足してもらえて何よりだ』


 リルの鑑定結果に藍大が満足し、それを見たドライザーもホッとした様子である。


 これで屋台の人手不足という一番の問題点は解消されるだろう。


「ところで、顔も服装も同じだと区別がつかないな。働いてもらう時は名前を付けて名前のバッジでも付けてもらおうか。メイド諸君って呼んでも反応するかな?」


『『『・・・『『お呼びでしょうか、ご主人様?』』・・・』』』


「ご主人様かぁ・・・。そうだよなぁ・・・」


 立場的に自分が主人であることは理解しているため、藍大は深く溜息をついた。


 この様子を健太や未亜が見たら煩そうだとか余計なことを考えつつ、24体で構成されるメイド型ホムンクルスにギリシャ文字を当てた。


「アルファを調理メイド隊の隊長に任命する」


『謹んでお受けいたします』


 これで屋台の方は良いとして、残るは見回りとエリアスタッフの準備だ。


 ドライザーが<鍛冶神祝ブレスオブヘパイストス>でNPCみたいな見回り騎士団と笑顔なお兄さんスタッフ軍団を作り上げた。


『騎士型ホムンクルスとスタッフ型ホムンクルスだよ。どっちも同じ種類のホムンクルスなら思考を共有できるし、スタッフブラザーズの収納スペースは共有空間になってるって』


「何それすごい。それって銀行の真似事もできるんじゃん。やらないけど」


 スタッフ型ホムンクルスの機能を使えば確かに銀行のようなこともできるが、それはあくまでスタッフホムンクルスが日本全国に散らばった場合である。


 シャングリラリゾートでやるならば、荷物をどこかで預ければスタッフのいる場所ならどこでも引き出せるというサービスぐらいだろう。


 ちなみに、スタッフ型ホムンクルスの戦闘力はメイド型ホムンクルスと互角だが、騎士型ホムンクルスは剣と盾を用意されているためその分だけ強い。


「ふむ。シャングリラリゾートが藍大の国みたいになっておるのじゃ」


「いやいや、建国するつもりなんてないからな?」


「そうは言うがのう、掲示板ではシャングリラリゾートは夢の国って言われておるぞ?」


「それこそディ〇ニーリゾートとごっちゃになってるでしょ。というか伊邪那美様はクラン掲示板以外も色々見てるんだな」


「ネットの海は広大なのじゃ」


 (伊邪那美様、ゼルから聞いたこと全部間に受けないで)


 ゼルがこの場にいたら伊邪那美は私が育てたとか言い出しそうな様子が容易に思い浮かんでしまい、藍大はやれやれと苦笑した。


 その後、騎士型ホムンクルスにナイト1号~ナイト48号、スタッフ型ホムンクルスに一郎から二十四郎にじゅうしろうと名付けた後、それぞれナイト1号と一郎を隊長に任命した。


 それから全てのホムンクルスを連れてシャングリラリゾートに向かい、藍大はシャングリラリゾートの運営準備を命じてからリルとドライザーと共に帰宅した。

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