第680話 異議あり! 未亜は俺達側の人間だろうが!

 2階に移動した未亜達の視界は1階と変わらずスポーツジムだった。


 ところが、出て来る雑魚モブモンスターは二足歩行で動けるタイプではないらしい。


 あちこちで床に寝そべっているナマケモノのようなモンスターの姿があった。


「レイジールLv60。STRとVITは他の能力値と比べて高めで基本は温厚で鈍い。怒らせると怖い」


「それはそれとしてモフモフやな。兄さん、1体ぐらいテイムしたらどうや? あそこで寝とるやつなら図鑑をあっさり被せられると思うで」


「せやな」


 未亜が指差した場所にいたレイジールは寝息を立てていたため、政宗は未亜に同意してこっそりとそのレイジールに近づく。


 起き上がって反撃する様子はなかったため、政宗は寝ているレイジールの頭にビースト図鑑を被せた。


 ゲンが甲羅の中に隠れている時のように本体に触れていない場合を除き、図鑑を被せてしまえばテイムできるのがテイマー系冒険者の力だ。


 眠ったままのレイジールはあっさりと政宗にテイムされた。


 テイムしたレイジールは雄でヌルと名付けられた。


 本来はこの場で召喚するべきだが、ヌルを同行すると進行速度が落ちるので亜空間に待機させたまま未亜達は他のレイジールを倒して進むことにした。


 相手の動きが遅いこともあり、エンリは素早く動いて攻撃を重ねてレイジール達を倒した。


 何度かレイジールとの戦闘を終えた後、レイジールがぱったりと出て来なくなった。


 その代わりに現れたのは尻尾の先が手にそっくりなグレーの猫だった。


「ハンテルLv60。尻尾の手を器用に使って来るだけでなく、魔法系アビリティも使う」


「・・・フニャ」


 未亜達の前にいるハンテルはアスタを見て鼻で笑った。


「Hey,アスタ。奴はお前の筋肉を鼻で笑いやがった。そんな奴にはどうすれば良いかわかるな?」


「OK。筋肉だぁい好きぃぃぃぃぃ!」


 <絶対注目アテンションプリーズ>を発動しながらモストマスキュラーのポーズを披露した。


 ハンテルはアスタを見ているはずなのだが、眉間に皺を寄せていてフェレンゲルシュターデン現象が起きていた。


「馬鹿なことやってないで早くとどめを刺しなよ」


「Yes, yes, yes. OK, muscle」


 英語としては間違っているのではと思いつつ、無駄に良い発音をしながら<破壊突撃デストロイブリッツ>でハンテルを吹き飛ばすアスタに何をツッコめば良いのかわからず誰も何も言えなかった。


 ハンテルが吹き飛ばされてヤ〇チャみたいな倒れ方をしたまま動かないのを見て、ようやく政宗が口を開いた。


「未亜、お前達のダンジョン探索っておかしくないか?」


「パンドラとウチは至って真面目やで」


「異議あり! 未亜は俺達側の人間だろうが!」


「勘弁して。僕と未亜が同じ括りなんてあり得ない」


「ほら! パンドラ様もそう言ってるんだ! お前はこっちだぞ!」


 やんややんやと騒がしくなったタイミングで政宗は頷いた。


「未亜が真面目ってのは考えにくいで。いつもは健太さんと同じようにふざけとるんやろ?」


「濡れ衣や! ウチはいつも真面目にやっとるがな!」


 政宗を相手に自分を正当化しようとする未亜に対し、健太はニヤリと笑ってみせる。


「よろしい。ならば証拠の動画をここで流そう」


「ちょい待ち! 一体何を流そうとしとるんや!?」


「日曜日のシャングリラダンジョンでグリルスに余計な言葉を仕込んでる時の動画だ」


「健太、盗撮なんて卑怯やぞ!」


「早く正直に言った方が良いぞ? 正直に生きた方が楽になれる」


「おふざけはそこまで」


「「へぶっ!?」」


 パンドラの制裁尻尾ビンタによって未亜と健太が強制的に口を閉じさせられた。


 その様子を見て政宗はパンドラに頭を下げる。


「いつも未亜が面倒をかけてすまんなぁ」


「うん。家事からダンジョン探索までいつも面倒を見てる」


「・・・未亜、お前パンドラさんに家事まで面倒見てもらってるんか?」


「ちゃうねん! ウチが本気出す前にパンドラが先に注意して来るねん!」


 政宗にかわいそうなものを見る目を向けられて未亜は反論したが、未亜に味方をする者は誰一人いなかった。


 いつの間にかハンテルの集団が集まっており、未亜を見て鼻で笑う。


「「「・・・「「フニャ」」・・・」」」


「おんどれ猫畜生がぁぁぁ!」


 未亜はクエレブレブレスから魔力矢を放って分裂させ、全てのハンテルに命中させた。


 時にボケ、時にツッコむ未亜も”楽園の守り人”のメンバーであるからして、未亜が本気になればハンテルの集団が相手でも容易く倒してしまった。


 エンリは本気の未亜の強さを見て震える。


「未亜、強い」


「大丈夫や。未亜の私生活を見たら強さより呆れる方が勝つと思うで」


「本当?」


「おうともさ! それは俺が保証しよう!」


「アンタはウチの夫やろが! もっとウチをフォローせい!」


「ねえ、まだお仕置きが足らない?」


「「(ブルブル)」」


 パンドラに尻尾を構えられた途端、未亜も健太も背筋をビシッと伸ばして首を横に振った。


 パンドラの制裁を前にすれば2人の言い合いなんて長く続くはずがない。


「わかった。パンドラ、パーティー、一番」


「そうだよ。僕がこのパーティーの司令塔なんだ」


「尊敬」


 今までのやり取りを見てエンリはパンドラに尊敬の眼差しを向けた。


 その対応は正しい。


 未亜と健太がおとなしくなったところで遅れてハンテルがもう1体現れた。


 そのハンテルは今までのハンテルとは異なり、未亜達を見て鼻で笑ったりはせずに警戒態勢である。


「ほぉ、あのハンテルならテイムしても良さそうやん」


「せやな。ちょっとテイムしたろか。エンリ、追い込んでくれへんか?」


「了解」


 未亜の意見に政宗が頷き、そのままエンリにテイムできるぐらいまでハンテルを追い込んでくれと頼んだ。


 エンリは<火手玉ファイアジャグリング>で火の球を5つ創り出してジャグリングし、威力をつけてからハンテルを狙って射出する。


「ニャン!」


 ハンテルはそれらを次々に躱すが、5つ目の火の球を避けた先にはビースト図鑑を開いて政宗が回り込んでいた。


 その結果、ハンテルは政宗にテイムされて戦闘が終わった。


 ビースト図鑑に吸い込まれたハンテルは政宗によってすぐに呼び出される。


「【召喚サモン:ジャンゴ】」


「ニャン!」


 ジャンゴは召喚されると元気に政宗の肩に飛び乗った。


 フワッと着地したおかげで政宗の肩に着地の衝撃はほとんど感じられず、ジャンゴは着地してすぐに政宗に頬擦りする。


「ジャンゴは雄でレベルも高いのに甘えん坊やな」


「兄さん、その偏見は良くないで。クランマスターの従魔は雄雌問わず甘えとる」


「言われてみればそうやった」


 調教士になってから1週間経っていないこともあり、政宗の感覚は従魔に慣れ親しんだ”楽園の守り人”のメンバーとは違った。


 テイマー系冒険者としての感覚を早い内に身につけておかなければ、モフモフ喫茶を開店した時に来店したモフラー達にそんなこともわからないのかと政宗が馬鹿にされてしまうかもしれない。


 そんな調子ではいけないと思って未亜が指摘すれば、確かにそうだと政宗は認識を改めつつ甘えて来るジャンゴの顎の下を撫でた。


「マスター、私、褒める。ジャンゴ、新入り。私、先」


「そうやった。ごめんな。エンリ、ようやってくれた」


「よろしい」


「ププ、兄さんが既にエンリの尻に敷かれとる」


「俺達はパンドラの尻に敷かれてるけどな」


「・・・せやな」


 健太が自虐的だが疑いようのない事実を口にしたため、政宗を笑っていた未亜が真顔になった。


 パンドラも自分が制裁する前に未亜と健太がおとなしくなったので、構えていた尻尾を下ろした。


 偶には未亜と健太も怒られる前に落ち着けるらしい。


 その後、”掃除屋”としてチタマジロLv65が現れたが、モフモフではないという理由でテイム対象から外れてエンリとジャンゴの共闘によりチタマジロは倒された。


 チタマジロの爪や背面の甲羅はチタンでできていたが、エンリに熱されてジャンゴの<暗黒弾ダークネスバレット>に撃たれて力尽きた。


「エンリ、ジャンゴ、ようやった! ばっちり戦えるやん!」


「私、先輩。フォロー、当然」


「ニャン!」


 政宗が先輩風を吹かすエンリと甘えん坊のジャンゴを労っている一方、アスタが退屈しているせいでポージングを始めた。


 暇を持て余してポージングしまくるアスタが視界に映ると鬱陶しいので、パンドラがフロアボスのダマスカスライノスLv70の相手をアスタに任せた。


 アスタは待ってましたとサイドトライセップスを決め、サイドチェストのポーズに切り替えながら<破壊突撃デストロイブリッツ>で敵を吹き飛ばして倒した。


 その倒し方はどうなんだと思わなくもないが、しっかり倒せているからツッコむ者は誰もいなかった。

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