第677話 雌従魔の人化=幼女爆誕の法則は健在だった

 翌日、朝食を取り終えた藍大は天照大神に連れられて地下神域に来ていた。


 月読尊が藍大を呼び出したのは自身の回復率が70%に到達したからだろう。


「月兄、用事ってのは加護の件?」


「その通りです。やっと加護を授けられるまで力が戻りましたから、藍大に差し上げます」


 そう言った直後に月読尊は藍大に加護を授けた。


『逢魔藍大は称号”月読尊の神子”を獲得しました』


「ん?」


「どうしたんですか藍大?」


「いや、なんか目が良くなった気がしてな」


 藍大が首を傾げたところで月読尊が答え合わせをする。


「正解です。僕の加護によって藍大の五感を強化しました。料理に役立つと思いますよ」


「そうだな。ありがたく使わせてもらうよ」


 強化された五感の使い方が平和なのは藍大らしい。


 戦闘系の職業技能ジョブスキルを会得していいれば間違いなく戦闘でどのように活かすか考えるのだが、藍大に限って言えばそうならない。


 そこに舞と優月、ユノがやって来る。


「パパ、ダンジョンいこ!」


「パパ、私、もっと、強くなる!」


「藍大~、用件は済んだ~?」


「今終わったとこだ。準備したら行こうか」


「「やった~!」」


 優月とユノが藍大を急かすのは優月とダンジョンに行くと約束をしていたからだ」


 天照大神と月読尊に行ってきますと伝え、藍大達は地上に戻ってからリルとゲン、ブラドを連れてシャングリラリゾートのE9ダンジョンに移動した。


 E9ダンジョンは別荘であるシャングリラリゾートにいる際、近場で楽しく探索できるようにブラドとモルガナがN12ダンジョンとS6ダンジョンも一緒に改築した。


 今日はE9ダンジョンのテストプレイをすることになっていて、ブラドからその話を聞いた優月がテストプレイに参加したいと言い出したことが始まりだ。


 地下神域に用事を済ませたら出発すると言われていたので、待ちきれなかった優月とユノが舞を連れて地下神域に迎えに来た訳である。


 改築したと言ってもE9ダンジョンのベースは変わらずに海蝕洞のままであり、出現するモンスターを調整しただけだ。


 殺意の高い罠は排除しているから、藍大達がいれば優月とユノは安心して探索ができる訳だ。


「ユノ、あそこにかたそうなエビがいっぱいいる! こおらせちゃえ!」


「うん!」


 ユノは<極光吐息オーロラブレス>を発動してメタルロブスターLv50の群れを凍らせて倒していく。


 優月と同じぐらい大きなメタリックな海老の姿をしたメタルロブスターは次々に冷凍保存された。


「優月、倒したよ!」


「よしよし」


 敵を倒した後に甘えて来るユノの頭を撫でる優月を見て舞はニコニコしている。


「優月ってば藍大みたいだね~」


「そりゃ親子だし同じテイマー系職業だもの」


「吾輩、優月がドラゴン誑しになるのではないかと心配なのだ」


 藍大が従魔誑しであるのは間違いないので、優月もいずれ従魔となるドラゴンをあちこちでひっかけて来るのではないかとブラドは心配している。


「ブラドってば心配し過ぎだよ~」


「ぬあっ!? しまった!」


 考え事をしていたせいで舞に抱き着かれてしまったブラドは身動きが取れなくなった。


 ダンジョンに行く時は本体と分体の位置を入れ替えるようになったが、今日は優月とユノを鍛えるために来たのでブラドは分体のままだ。


 もしも本体で来てしまったら、ダンジョンのモンスターがブラドを恐れて誰も近づかなくなってしまうのだから分体で来るしかなかったのである。


 本体で来れれば舞に抱き着かれずに済んだのにと思わなくもないが、優月とユノの成長のためならば舞に抱き着かれるのも我慢しようと思うぐらいにはブラドは優月とユノのことを気にかけている。


 戦利品の回収を済ませた後、優月はユノに指示を出してメタルロブスターやパイプハーミットを倒していく。


 雑魚モブモンスターをじゃんじゃん倒していけば、当然”掃除屋”が藍大達の前に姿を現す。


「巨大カメノテだ~」


「パリングペルセベスLv60。敵の攻撃を弾くのが得意なモンスターだ」


『ご主人ならあれをどう料理する?』


「塩茹でか味噌汁の具にするかな」


 リルはユノが苦戦するとは思っておらず、倒した後のことを藍大に質問している。


 実際、ただ攻撃を弾くのが得意な程度ではユノに勝てる訳がない。


 ユノは藍大に時間がある時、優月のおねだりでシャングリラダンジョンに行って鍛えていたこともあり、既にパリングペルセベスとレベルが10以上離れているのだから当然だ。


「ユノ、かたそうなぶぶんをきって!」


「わかった!」


 ユノは<衛星光刃サテライトエッジ>を使用してパリングペルセベスの殻を切断して敵の守りを崩す。


 それから<極光吐息オーロラブレス>を使えば食べられる部位を減らさずにパリングペルセベスを倒すことに成功した。


「ユノ、グッジョブ!」


「エヘヘ♪」


 ユノは優月に抱き締められてとても嬉しそうである。


 戦闘が終わる度に従魔を甘やかすところは藍大を見て優月が育ったとしか言いようがない。


 パリングペルセベスを解体した後、魔石を飲み込んだことでユノの<魔力王城マジックキャッスル>と<魔力吸収マナドレイン>が<吸収王城ドレインキャッスル>に統合された。


 <吸収王城ドレインキャッスル>は王城を模した光が使用者を狙う攻撃を吸収してHPとMPに還元するアビリティだ。


 強力なアビリティではあるものの、発動によって消費するMPも馬鹿にならないから防ぐ攻撃の威力によっては大赤字になる。


 使いどころを見極めれば有用なアビリティなので、ユノは良いアビリティを会得できたと喜んでいる。


 なお、空いたアビリティ枠には<全耐性レジストオール>が追加された。


 これで状態異常にも耐性ができたから、いざとなったらユノが体を張って優月を守るだろう。


 ユノのパワーアップが済んで何度か雑魚モブモンスターと戦った後、藍大達の前にフロアボスが現れた。


 それは蝙蝠の翼を背中から生やし、尻尾も生えている蟇蛙ヒキガエルと呼ぶべきモンスターだった。


「ウォーターリーパーLv65。モンスター図鑑によれば食べられるってさ」


「蛙系のモンスターは唐揚げにして食べると美味しいよね」


『唐揚げ~』


「悪くないのだ」


 藍大の鑑定結果を聞いた食いしん坊ズから向けられるお前は食糧なんだという視線にウォーターリーパーはビビった。


 優月とユノがその隙を突かないはずがない。


「ユノ!」


「任せて!」


 ユノは<極光吐息オーロラブレス>でウォーターリーパーを凍らせた。


 一撃では仕留められなかったため、力技で解凍しようとするウォーターリーパーを絶望させるようにユノは再びブレスを放つ。


 それを何度か繰り返した後、ウォーターリーパーは力尽きて動かなくなった。


 優月がユノを労い、ユノも頑張ったよといっぱい優月に甘えてからウォーターリーパーを解体して魔石はユノに与えられた。


 耐性アビリティが強化された後、ユノは優月におねだりする。


「優月、私、進化したい」


「いいよ!」


 優月がユノを進化させることでユノが光に包まれ、その中でユノが大型トラック2台分ぐらいのサイズに成長する。


 <収縮シュリンク>でデフォルメ姿が解除され、光が収まると金色の目をした白銀の竜になっていた。


「優月、ちょっと待ってて!」


 それだけ言うとユノの体が再び光に包まれ、ユノの体が優月と同い年の子供に変わる。


 光が収まった時には金色の目に白銀の髪をした幼女になったユノがいた。


 (幼馴染と許嫁を兼ね備えた幼女って属性過多じゃね?)


 よくわからない感想を頭に浮かべていた藍大はモンスター図鑑でユノを調べ始めた。



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名前:ユノ 種族:ティアマト

性別:雌 Lv:75

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HP:2,000/2,000

MP:2,200/2,200

STR:2,200

VIT:2,200

DEX:2,000

AGI:2,000

INT:2,200

LUK:2,000

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称号:優月の騎竜

   希少種

   ダンジョンの天敵

アビリティ:<衛星光刃サテライトエッジ><超級回復エクストラヒール><吸収王城ドレインキャッスル

      <収縮シュリンク><極光吐息オーロラブレス

      <全半減ディバインオール><人化ヒューマンアウト

装備:なし

備考:人化中

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 (雌従魔の人化=幼女爆誕の法則は健在だった)


 冷静になった藍大は優月まで自分と同じ法則に捕まったことに苦笑していた。


 その隣で舞は人化したユノを抱き締めていた。


「ユノちゃん、これで堂々と嫁入りできるね!」


「はい、ママ!」


「嘘であろう? 騎士の奥方のハグを笑顔で受けるだと?」


 ブラドが戦慄しているのを見てリルがその肩をポンポンと叩いた。


 その後、藍大達が帰宅してユノを見つけた仲良しトリオは彼女を温かく迎え入れたのは言うまでもない。

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