第672話 そこにシビれる! あこがれるゥ!

 4つ目の競技は的当てである。


 前回の大会では最終競技だった的当てが先に来るのは全員対戦型押し相撲が別の競技に変わるため、変更のない競技を優先したからだ。


「10mから始めるぜ! 外した者から脱落し、残り3人で1点、残り2人で2点、最後まで残れば3点をゲットできるぞ! 90mのサドンデスまで残ってくれよな!」


 モフリー武田がそう言った後、ガルフ達はその煽りで取り乱すことなく40mまでノーミスで的に当て続けた。


 50mの回になった時、マロンの攻撃が距離的には届いていたのだが的から外れてしまった。


「ここでマロンが脱落ぅ! <魔弾マジックバレット>を会得して前回から20m記録を伸ばしたが、ここでマロンが脱落してしまったぁ!」


「チュチュ・・・」


「どんまい。よく頑張ったよ」


「チュ~」


 ガルフとニンジャ、カームは危なげなく的に命中させたけれど、マロンは残念ながらここでリタイアとなった。


 しまったとしょんぼりするマロンの頭を結衣が優しく撫でてあげた。


 まずは1体が脱落かと思いきや、次にチャレンジしたダニエルも同じく50mで的を外してしまった。


「なんてこったぁ! ダニエルも脱落! 2体連続の脱落だぁ!」


 マロンが外してライバルが減ったと思って油断してしまったのだろう。


 60mから80mまで外す者はおらず、ガルフとニンジャ、カームによる90mのサドンデスになった。


「待ってましたサドンデス! 今回も3体による争いだぁ! ガルフがトップを守り切るのか! ニンジャやカームが逆転するのか! 本当の勝負はこれからだぜぇ!」


 モフリー武田の言う通りで勝負はここからだった。


 1周目から3周目と外す者はいなかったが、4周目になって焦ったニンジャが外してしまった。


「プレッシャーに負けてしまったかぁ!? サドンデス最初の脱落者はニンジャだぁ!」


「プゥ」


「ニンジャ、お疲れ様。まだ5つ目の競技と最終種目があるんだ。気持ちを切り替えよう」


「プゥ♪」


 悔しそうに足ダンするニンジャをリーアムが宥め、ニンジャは苛立っていた感情を落ち着かせた。


 5週目と6週目はガルフもカームも外さなかったが、7週目にガルフがカラーボールを的から外してしまった。


 その後のカームは安定して的に当てて決着となった。


「カームが強い! 惜しくもガルフは2位だ!」


「ピヨ~」


「偉いわカーム!」


「クゥ~ン」


「よしよし。ガルフはよく頑張ったわ」


 カームは渾身のドヤ顔を披露して白雪にモフられ、ガルフは真奈に慰めてのモフモフを受けた。


 観客達が羨ましそうに白雪と真奈を見ているのは言うまでもない。


 的当ての順位が決まるといよいよスポーツテストの最終競技が発表される。


「スポーツテスト最終競技はボールキャッチャーだぁ! 疲れた時こそ従魔達の真価が試される! ここで根性を見せてくれ!」


 モフリー武田がそう言っている間にスタッフがピッチングマシンを用意した。


 ルールはピッチングマシンから射出されたボールをノーバウンドでキャッチするというもので、球速を徐々に上げて最後まで残った者が3点、ラスト2が2点、ラスト3が1点という配点である。


 順番が来たら主人あるいは従魔が挑戦する球速を宣言し、その者がチャレンジに成功したら後ろの者は前の挑戦者よりも球速を速く宣言しなければならない。


 体を動かすだけでなく、駆け引きもできないと実力を発揮できずにチャレンジに失敗する恐れがあるから普通に走ってボールを追いかけるのよりも難易度がずっと高い。


「さて、ボールキャッチャーはこの大会で初めて行われるからお手本を見せてもらうぜ! リルさん、最高難易度に挑む気はあるかい?」


『勿論あるよ』


「流石はリルさん! じゃあ挑戦してもらおうか、時速300kmに!」


 MOF-1グランプリが開催される前に藍大とリルは番組スタッフからボールキャッチャーのお手本になってほしいと頼まれていた。


 やる気満々なリルを見て藍大がそれを拒否することはなかった。


 リルはピッチングマシンからボールが射出された直後、涼しい表情でボールを口でキャッチして藍大の前に戻って来た。


『はい、ご主人。取って来たよ』


「よしよし。リルは最速の従魔だな」


「クゥ~ン♪」


「流石リル君! 私達にできない事を平然とやってのけるッ!」


「そこにシビれる! あこがれるゥ!」


「アンタ等仲良し過ぎだろ! 打ち合わせなしかよこれ!?」


 藍大に頭を撫でられて嬉しそうに鳴くリルに対し、真奈とリーアムが目配せすらなく息ぴったりなコメントをするものだからモフリー武田がツッコんだ。


 リルのパフォーマンスはあくまでお手本であり、ここで時間を取ってしまうと番組の放送枠を超えてしまう可能性があったからガルフ達の番になった。


 事前に提出されたガルフ達の能力値情報を考慮し、時速80kmからボールキャッチャーが始まる。


 チャレンジする順番はダニエル、マロン、ニンジャ、カーム、ガルフであり、スポーツテストの合計得点が低い者から先に行う。


 ダニエルとマロンは同点だが、ニュービー優先の原則に従ってダニエルが一番手である。


「ダニエル、時速何kmから始めるかい?」


『時速80kmでお願いします』


「堅実なチョイス! 良いだろう! それではダニエルが時速80kmに挑戦するぜ!」


 最初から飛ばした方が後の挑戦者達にプレッシャーを与えられるが、欲をかき過ぎて自分が失敗しては意味がないと判断してダニエルは最低速度を宣言した。


 それを聞いてモフリー武田がダニエルの宣言した球速にピッチングマシンの設定を変更する。


 ダニエルは余裕をもって時速80kmのボールをキャッチしてみせた。


 次は結衣&マロンペアの番だ。


「マロンは時速何kmに挑む?」


「マロン、90kmでどう?」


「チュッチュッチュ~」


 マロンが指を横に振った。


 もうちょっと速くてもいけるという自信があるのだろう。


「100kmいっちゃう?」


「チュ!」


 やってやるとファイティングポーズになったマロンを見て結衣は頷いた。


「時速100kmに挑戦する」


「時速100km! よし来た!」


 モフリー武田は結衣のリクエストに応じてマシンの設定をいじる。


 マロンは時速100kmのチャレンジに成功して結衣とハイタッチした。


「モフタッチ・・・」


「羨まけしからん!」


 観客達は自分もマロンとハイタッチしたいと結衣に嫉妬を込めた視線を送るが、結衣はそれを気に留めない。


「次はプリンスモッフル&ニンジャペア! 時速何kmに挑戦する!?」


「ニンジャなら150kmでもいけるよね?」


「プゥ」


 リーアムの問いに勿論だとニンジャが頷く。


「ブラボー! そのチャレンジ精神は俺達をわくわくさせてくれるぜ!」


「ピヨッヨ・・・」


 モフリー武田のテンションが高まる一方、カームが終わったと言いたげな表情で崩れ落ちた。


 今いる5体でAGIを比べてみると、カームのAGIは下から数えた方が早い順位だ。


 それゆえ、ニンジャにチャレンジされると自分が失敗して記録なしという結果に終わりかねないのである。


 (悪い笑みを浮かべてるじゃん。ニンジャ、恐ろしい!)


 落ち込むカームに対してニンジャが馬鹿にするような笑みを浮かべていたことに気づき、藍大はニンジャに戦慄した。


 結果として、ニンジャは時速150kmのチャレンジに成功したが、次のカームは時速155kmのチャレンジに失敗して記録なしという結果で終わった。


「さあ、現在トップのガルフは時速何kmに挑む!? いけるものなら200kmに挑戦してほしいぜ!」


「ガルフ、本気を見せる時が来たわよ。貴方の実力を知らしめて来て」


『わかった。それなら時速250kmでお願い』


「ここで時速250km! 良い! 実に良いぞガルフ!」


 自分の提示した球速を大きく上回る宣言にモフリー武田のテンションが上がった。


 ガルフが時速250kmを選択したのはこの速度なら失敗することなく確実にとれると判断してのことだ。


 実際、ガルフは時速250kmのチャレンジを危なげなく成功させた。


 結局、この後誰もガルフの記録を上回ることができず、ボールキャッチャーは1位がガルフ、2位がニンジャ、3位がマロンで終わった。


「スポーツテストの結果発表だ! 1位は13点でガルフ! 2位は10点でニンジャ! 3位は9点でカーム! 4位は5点でマロン! 5位は4点でダニエル! ここに来て点差が開いたぁ!」


「やったなリル。パーフェクトの記録は抜かれてないぞ」


『ワフン♪』


 藍大に頭を撫でられてリルはドヤ顔になった。


 いよいよ残るはあと1種目である。

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