第671話 絶対に負けられない戦いがそこにはある

 第二種目は従魔達の身体能力を競うスポーツテストである。


 スクリーンに表示されたスポーツテストの文字を見て、この時が来たかとマロンが戦士の顔になっているのはひとまず置いておこう。


「第二種目はスポーツテスト! 5つの競技にはそれぞれ基準がある! 一部の競技が前回と違うから楽しみにしててくれよな! 最初はウォーミングアップがてら反復横跳びから始めるぜ!」


 ルールは単純で3本の線を左右に動いて跨いだ回数を競うものであり、20秒間でどれだけ跨げるかで得点が変わる。


 50回以上で1点、100回以上で2点、150回以上で3点になるのは前回の大会と変わらない。


「第一種目の点数が低いペアから始めるが4位は被ってる! という訳でニュービーの腹黒王子&ダニエルペアからだ! 用意は良いかぁ?」


『問題ないです』


「よろしい! ならばスタートだ!」


 モフリー武田が合図した瞬間、ダニエルが最初から全力で動き出した。


「残像が見えるくらい頑張れ!」


「良いぞ! もっと速く動くんだ!」


 観客席からは反復横跳びに全力なダニエルを応援する声が聞こえた。


 20秒が経って計測する機械が示した回数は128回だった。


「ダニエルの記録は128回! 2点獲得だぁ!」


『3点には届きませんでしたか』


「ダニエル、ナイスファイトだった」


 重治は悔しそうなダニエルの頭を撫でて労った。


 結果が全てだと考えて重治が厳しいことを言うのではないかと観客達は思っていたため、ダニエルがお咎めなしで彼等はホッとしていた。


「次はコスモフ&マロンペア! 準備は良いかい?」


「チュ!」


 マロンは少しでも素早く動けるようにとウィンプルを外して応じた。


「やる気十分だな! よーい、スタート!」


 モフリー武田が合図を出した瞬間、マロンは明らかに前回を上回るペースで動いていた。


「見える、見えるわ! 私にはマロンの残像が見える!」


「マロンちゃんが影分身を覚えた!?」


 マロン推しらしい観客達にはマロンが反復横跳びで残像を生み出しているように見えるらしい。


 実際のところ、速いことは速いが残像が見える程の速さではない。


 これはあくまでマロンへの愛が残像を幻視させているだけだ。


 与えられていた時間が経った時にカウントされていた回数は150回ジャストだった。


「素晴らしい! 前回の悔しさから記録を大きく伸ばした! マロンは150回で3点だぁ!」


「マロン、グッジョブ」


「チュ~♪」


 マロンがウィンプルを被ってから結衣に甘える姿に観客達はよくやったと頷いていた。


「さあ、今度は白雪姫&カームペアの番だ! 準備は良いかぁ?」


「カーム、今回はスタートダッシュを決めてね」


「ピヨピヨ」


 カームは仕方ないなぁと言わんばかりに首を振る。


 それでもしっかり準備しているのを確認してからモフリー武田が開始の合図を出す。


「OK! よーい、スタート!」


「なん・・・だと・・・」


「カームが最初から全力ですって!?」


 観客達は目の前で繰り広げられるカームの本気の反復横跳びに驚かずにはいられなかった。


 カームのことだからどうせ途中までのんびり線を跨ぐと思いきや、ばっちりスタートダッシュを決めているのだから無理もない。


「そこまで! 主人のために最初から飛ばすカームは立派だった! カームの記録は151回で3点獲得!」


「カームありがと~!」


「ピヨ」


 白雪に抱き締められたカームは3点を取ってやったぜとドヤ顔だった。


 マロンよりも1回だけ多いあたり、3点が貰えてマロンよりも多く線を跨げてれば良いやというカームの意思を感じる。


「次はプリンスモッフル&ニンジャペア! ガルフに追いつくには3点が欲しいところだぁ!」


「ニンジャ、頼んだよ」


「プゥ」


 リーアムに声をかけられてニンジャは任せておけと頷く。


 リルという圧倒的強者が参戦しないため、ニンジャはこの競技で1位を狙えなくないポジションにいるからやる気に満ち溢れている。


「俺にはいつでも良いぜって言ってるように聞こえたぜ。よーい、スタート!」


 ニンジャは素早く線を跨いでどんどん数を稼ぐ。


「ニンジャの影分身が見たい!」


「ニンジャさんがんばえ~!」


 小さい子供からの応援が聞こえた瞬間、明らかにニンジャのスピードが上昇した。


 ラストスパートで本気を出し切り、タイムアップのブザーが鳴った時に機械に示された数を見てモフリー武田が驚く。


「205回! 前回よりも50回多い! ニンジャも3点ゲットだぜ!」


「Good girl, good girl. ニンジャ、素晴らしいパフォーマンスだったよ」


「プゥ♪」


 ニンジャはリーアムに抱え上げられて幸せそうに鳴いた。


「今回はみんなレベルが高い! 向付後狼少佐&ガルフペアは1点のリードを守るだけじゃなく、これ以上の記録を出せるか!?」


『絶対に負けられない戦いがそこにはある』


 ガルフはなんとしてでも1位を死守してやると燃えていた。


「アツいぜ! 激アツだぜ! もっとアツくなろうぜ! よーい、スタート!」


 ガルフが動き出したのを見て藍大の膝の上にいたリルが身を乗り出した。


『ブレるよ』


「おぉ、ブレた」


 リルの言葉を聞いて藍大がガルフに視線をやると、ガルフの体がブレて見えた。


 ガルフのAGIはまだまだリルには及ばないが、残像を生み出せる領域に足を踏み入れたらしい。


「ガルフが2体に見える! モフモフ2倍デーなの!?」


 (違う、そうじゃない)


 真奈がズレた感想を述べると藍大はすかさず心の中でツッコんだ。


 審査員長がコメントを求められた時以外にツッコミを口にすれば、下手をすると従魔達のパフォーマンスに影響する恐れがある。


 そう判断してツッコむのは心の中だけにしたのだ。


 タイムアップのブザーが鳴り、モフリー武田は機械の表示を見ると目を見開いた。


「303回! 300回の壁を突破したぁ! ガルフさんは今回、リルさんと同じ300回の壁を到達したぁぁぁ!」


「ガルフ~! 流石は私のガルフだよ~!」


『うぐぅ、どこにこんな力が・・・』


 真奈に抱き着かれたガルフはどうにか抜け出そうとしたけれど、アビリティを使わなければ脱出できないと悟っておとなしく抱き着かれたままでいた。


『ガルフ、頑張れ』


 リルは天敵の餌食になっているガルフを見て同情した。


 若干震えているリルをリラックスさせるために藍大は優しくその背中を撫でてあげた。


 真奈がガルフをモフっているのはさておき、第一種目はダニエルだけが2点でそれ以外が3点という結果に終わった。


「次の競技は500m走! 前回と違って特別に用意した1周100mのトラックを5周してもらうぜ! 1位に3点、2位に2点、3位に1点が与えられるんでよろしくぅ!」


 500m走の結果はガルフ、ニンジャ、ダニエルの順番だった。


 カームとマロンが中距離走で速いイメージはなかったからか、観客達が予想外だと騒ぎ立てることはなかった。


「3つ目の競技は玉入れだ! 他の従魔を邪魔しなければアビリティは自由に使ってOK! 3分以内に入れた玉の数が33個以上で1点! 66個以上で2点! 100個で3点だ! それじゃあ自分のフィールドに移動してくれ!」


 ガルフ達は移動すべき場所に目印があったため、それに従って移動した。


「準備は良いな? よーい、スタート!」


 今回はリルがいなかったことにより、開始早々に満点の結果を叩き出す者はいなかった。


 逆に言えば、リルのような花形の選手がいなかったことで前回と同レベルの盛り上がりはなかったとも言える。


 強いて言うならば、カームが今回も一定のペースで籠の中に玉を入れていたことに注目が集まったぐらいである。


 タイムアップのブザーが鳴って球入れが終わった。


「そこまで! これからスタッフと一緒に数えていくぜ!」


 5人のスタッフが籠に近づき、その中から玉を1個ずつ外に投げていく。


 最初に玉が籠からなくなったのはダニエルだった。


 33個でギリギリ1点のボーダーラインを超えた。


 次がマロンの53個でニンジャは64個で球がなくなった。


 残るはガルフとカームだが、ガルフが74個で籠から球がなくなり、カームは90個で籠から玉がなくなった。


「やはりカームが追い上げた! 3つの競技の結果、1位は8点でガルフ! 2位は7点でニンジャ! 3位は6点でカーム! 同率4位は4点でマロンとダニエル! 残り2つの競技で逆転も狙えるから頑張ってくれ!」


 (リルがいないとそこそこ良い感じの勝負だな)


 全くもって藍大の考える通りである。

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