第670話 これを倒したら一人前と言われる手頃なお肉のモンスターは何?

 スクリーンに表示された第一種目はクイズだった。


 モフリー武田はクイズのルール説明を始める。


「各審査員からそれぞれ5問の問題が出される! それを従魔の皆さんにフリップもしくはタブレットで答えてもらう種目だ! 回答時間は30秒なんでよろしくぅ!」


 喋れる従魔とそうでない従魔のどちらもいるので、今回も前回と同様フリップやタブレットで答える方式である。


「それでは第1問! 出題者は逢魔さん&リルペア!」


『○×問題だよ。円周率の小数第五位の数字は9である〇か×か?』


 最初の問題はリルから出した。


 〇×問題は50%の確率で正解を選べるのでボーナス問題と言えよう。


 円周率の3.14から先を知っているかという点に加え、小数第五位の意味を正確に把握していなくとも、運が良ければ当たるのだからボーナス問題であるという考えに異論は認められない。


「時間だ! 一斉に答えを発表してくれ!」


 モフリー武田がそう言った直後に全ての従魔が〇と答えているのがスクリーンに映し出された。


「リルさん、答えをよろしくぅ!」


『みんな正解だよ。答えは〇。ちょっと簡単だったね』


「全員正解とは幸先良いぜ! 次行こうか!」


 次の出題者である志保にバトンが回って2問目に移る。


「問題です。次の英文を訳して下さい。I love Mrs.Yoshida.」


「ここで英語の問題だ! アカデミックな質問が続くぅ! これに答えられる従魔はいるか!?」


 (吉田本部長、それは職権乱用じゃないですかねぇ)


 藍大は志保の出した問題を聞いてジト目を志保に向けた。


 リルや理人も同様に彼女にジト目を向けている。


 志保は藍大達にジト目を向けられても澄まし顔であり、それから少しして回答時間が過ぎたのでモフリー武田が口を開く。


「時間だ! 一斉に答えを発表してくれ!」


 スクリーンに映し出された全ての答えが”私は吉田さんを愛している”になった。


 ニンジャは嫌そうな表情を浮かべているけれど、自分の主張のために減点されるとリーアムに優勝をプレゼントできないかもしれないと思って我慢しているようだ。


「またしても全問正解! 役得な吉田さん、今の気分を一言でよろしくぅ!」


「感無量です」


「でしょうね! さあ、続いて3問目だ! 青空さんよろしくぅ!」


 満面の笑みで答える志保をサラッと流して次は理人の番である。


「問題です。素数を小さい方から数えて6番目の数は何か答えて下さい」


「アカデミック! アンタ等勉強大好きかよ!?」


 モフリー武田のツッコミが炸裂した。


 観客席ではモフリー武田のツッコミにそうだそうだと頷く者もいたが、この程度で勉強大好きと言うには難易度が低い気がしないでもない。


 回答時間が過ぎて一斉に回答がスクリーンに表示されると、全員13と回答していた。


「素晴らしい! 1周目は全員ノーミスだぁ! ここから先はミスした者から差をつけられそうだぜ!」


 モフリー武田が煽ったことで参加者達の緊張感が増した。


 藍大は自分のターンになったことに気づいて出題する。


「次は私からの出題です。称号”ダンジョンの天敵”は何と何の称号が統合されたものでしょうか?」


「この問題は答えておきたいんじゃないだろうか! この場にいる従魔ならば獲得してたはずだぁ!」


 挑戦的なモフリー武田のコメントに参加者達はせっせと答えを書き込む。


 時間が来て全員の回答が一斉に開示されたが、どの従魔も”掃除屋殺し”と”ボス殺し”と答えられていた。


「皆さんおめでとうございます。正解です」


「良いぜ良いぜぇ! 次は5問目だ! このままパーフェクトなるか!?」


「私のターンです。現在、DMUのビジネスコーディネーション部長は芹江さんですが、彼の下の名前はなんでしょう?」


 (茂が問題になった!?)


 志保が真顔でふざけた質問を出すものだから藍大は目を丸くした。


 今日も大会の前にドーピング検査を任された茂は代々木競技場にいるため、会場のどこかでこの問題を聞いて驚いていることだろう。


 回答時間が過ぎて一斉に全員の回答がスクリーンに映し出される。


「全員正解です。芹江さんの下の名前は茂です」


「マロンだけしげっちって書いてから二重線で消して書き直してるぞぉ! 随分とフレンドリーだなぁ!」


 (茂、やっぱりお前ってしげっちだったのか)


 マロンの回答を見て藍大はよくわからない感想を抱いているが、進行に影響はないからスルーしよう。


「次の問題です。日本にあるクランの数は本日午前8時時点でいくつでしょう?」


「2週目を括るとするならば雑学! さぁ、答えてくれ!」


 シンキングタイムが始まるがここに来て答えをすぐに書く者とそうでない者に分かれた。


 今回参加した従魔はいずれもトップクランに所属しており、自分達よりも立場の低いクランと関わる機会が最近では滅多にないから最新の情報を得られているか怪しい。


 理人は審査員3人の中で最初に参加者達に揺さ振りをかけた。


 回答時間が過ぎてモフリー武田が口を開く。


「時間だ! 一斉に答えを発表してくれ!」


 スクリーンにそれぞれの答えが映し出された。


 ガルフとニンジャ、カームが50と答えたのに対し、マロンの答えは51でダニエルの答えは49だった。


「ここでガルフとニンジャ、カームが1点リード! マロンは何を足し、ダニエルはどこを削ったんだ!?」


 正解したのはガルフとニンジャ、カームの3体だ。


 中小クランは合併や分裂がちょくちょく起きており、今朝も新聞やネットニュースに小さい記事で合併の結果日本のクランが全体で50になったと記されていた。


 ガルフ達は自分の予想が外れていなかったと安堵した。


 それから、3周目4周目と続いてガルフが12点のパーフェクト、ニンジャとカームが11点、マロンとダニエルが10点と僅差のまま5週目を迎える。


「いよいよ泣いても笑っても結果は変わらない5週目だ! 次の問題よろしくぅ!」


『これを倒したら一人前と言われる手頃なお肉のモンスターは何?』


 リルが問題を告げた瞬間、これもボーナス問題だと言わんばかりに従魔全員が答えを書き始めた。


 回答時間の半分が過ぎる前にどの従魔も答え終えていたため、モフリー武田は回答を公開する。


「全員”ワイバーン”と回答したぁ! リルさん答えをどうぞ!」


『正解! 答えはワイバーンだよ!』


 (ワイバーン先輩もこれで満足してくれるだろう)


 認知度が高ければワイバーンは満足するのかという点と手頃なお肉扱いで認知されても良いのかという点がツッコミどころだが、そこにツッコむ者はいなかった。


「ワイバーンは手頃なお肉! モフリー学んだ! 次行くぜぇ!」


 リルの回答を復唱してモフリー武田は志保に出題を促す。


「選択問題です。DMU本部の探索班に所属する等々力沙耶の二つ名はうろ覚え鱗操士とうっかり鱗操士のどちらでしょうか?」


 (どっちでも嬉しくない。二つ名を変える努力してるんだろうか?)


 藍大は口にしなかったけれど疑問に思った。


 不名誉だと本人が訴えれば有名人について語るスレで二つ名を取り下げてもらうことはできる。


 しかし、そんなことがあった記憶は藍大にはなかった。


 この状況は二つ名がなくなったら認識してもらえなくなると沙耶が思ったから放置していることで起きているのだが、そんなことを藍大が知る由もない。


「毎度のことながら吉田さんの最後の質問はマニアック過ぎてわからない! 皆さんわかったら答えてくれ!」


 モフリー武田がガルフ達に回答を促したところ、全員がうっかり鱗操士を選択した。


「残念ながら不正解です。等々力さんの二つ名はうろ覚え鱗操士です。これを機に覚えてあげて下さい」


「なんということだ! いや、だからこそうろ覚え鱗操士ってことかぁ! 次よろしくぅ!」


 モフリー武田のコメントに大半の観客がなるほどと頷いた。


 微妙な空気になることなくバトンは理人に託された。


「○×問題です。本日午前0時時点の”ブルースカイ”のホームページの閲覧者数は100万を突破している。〇か×かお答え下さい」


「宣伝じゃねえか! はい、答えてくれ!」


 制限時間が過ぎてスクリーンに回答が映ると全員が〇を選んでいた。


「正解は〇です。現在の閲覧者数は300万人です。これからも是非見て下さい」


「自慢は他所でよろしくぅ! さて、結果発表に移るぜ! 1位は14点のガルフ! 2位は13点のニンジャとカーム! 同率4位は12点でマロンとダニエル! まだまだ種目は残ってるから頑張ってくれ!」


 第一種目はツッコミどころのある終わりだったが、勝負はまだこれからである。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る