第669話 ほんとにほんとにほんとにほんとにモフモフだ~♪

 MOF-1グランプリ当日、代々木競技場の体育館の観客席は満員だった。


 全国からモフラーや参加者達の応援団が集まり、モフモフを思う存分楽しむつもりらしい。


 第1回の時に応援に来ていた”楽園の守り人”のメンバーだが、今回はモフモフ好きな広瀬家しか来ていない。


 舞達は自分達が行くと目立ってしまうことから、今日は参加者ではなく審査員として藍大が出るので遠慮したのだ。


 それはさておき、ステージの上には前回の大会からモフモフと言ったら彼と言われるモフリー武田が暗闇の中でスポットライトを浴びている。


 番組の開始時刻になってスタッフから合図が出るとモフリー武田が口を開く。


「モフモフの中のモフモフ、出て来いや!」


 その掛け声の直後、BGMが流れて体育館内にアナウンスが流れ始める。


『エントリーナンバァァァ、ワァァァン! 前回は審査員! 今回は参加者として登場! 従魔は本邦初公開! 黒川重治&ダニエル!』


『どうも皆さん。ダニエルです』


「キェェェェェェアァァァァァァシャベッタァァァァァァァ!!」


「ダニエルさん喋るんかい!」


「挨拶したぁぁぁぁぁ!」


 初めてクラン外の人達に存在を知られたダニエルだったが、挨拶したのが観客達にとっては予想外だったらしい。


 一部発狂している者がいるけどアナウンスは続く。


『エントリーナンバァァァ、トゥゥゥ! コスプレと言えばコスモフ! 従魔は聖女の地位を狙う愛されキャラ! 菊田結衣&マロン!』


「コスモフこっち向いてぇぇぇ!」


「巫女の結衣たん可愛いぃぃぃ!」


「マロンちゃぁぁぁん!」


「シスモフさんどストライクだろこれ!」


 歓声を浴びながら巫女服の結衣がウィンプルを被ったマロンを肩に載せて体育館に入場する。


 コスプレ効果は確かにあるらしく、観客達にちゃんとウケているようだ。


『エントリーナンバァァァ、スリィィィィィ! 綺麗な女優冒険者は好きですか!? 従魔は前回のダークホース! 有馬白雪&カーム!』


「白雪姫~!」


「ふつくしい・・・」


「カームさん、モフみが半端ないよ!」


「無反応! だがそれが良い!」


 歓声の中、白雪とカームは堂々と体育館に入場する。


 白雪は先日公開された映画の登場人物に扮した服装であり、カームはカームで声援を華麗にスルーしている。


『エントリーナンバァァァ、フォォォォォ! 愛とモフモフが友達であるこの男! 従魔は主人を愛する忍者兎! 赤星リーアム&ニンジャ!』


「リーアム! リーアム! リーアム!」


「カワイイヤッター!」


「ニンジャさんがんばえ~!」


 小さい子供から応援されたニンジャはその声の主を特定して手を振った。


 リーアム最優先な彼女も応援されて嬉しくないはずがなく、特に純粋な子供からの応援にはちゃんと応じるようだ。


『エントリーナンバァァァ、ファァァイブ! モフリパークとモフランドの最高経営者! 従魔はそんなハチャメチャモフラーを支える苦労狼! 赤星真奈&ガルフ!』


「「「・・・「「少佐殿! 少佐! 代行! 代行殿! 大隊指揮官殿!」」・・・」」」


「ほんとにほんとにほんとにほんとにモフモフだ~♪」


「ガルフ頑張れぇぇぇぇぇ!」


「まだゴールしちゃ駄目だからねぇぇぇ!」


「アォン!」


 ガルフは応援してくれた女性モフラーに感謝するように吠えてから真奈の後に付いて行った。


 真奈達が席に着いて出場者が揃うとBGMが止んだ。


「さあ、始まりました! 第2回MOF-1グランプリ! 今回も司会はモフリー武田だよ! 3! 2! 1! モッフルモッフル!」


 会場のモフラー達はカウントダウンとモッフルモッフルの流れに乗っており、一体感をしっかりと演出できている。


 モフリー武田が自己紹介をした後、今度は審査員の紹介が始まる。


「次は審査員を紹介するぜ! まずは”ブルースカイ”からこの男!」


「こんにちは。アクアリウムこと青空理人です。よろしくお願いします」


 1人目の審査員は前回に引き続いて釣教士の理人である。


 審査員として迷言を残したことから今回も起用されたのだ。


「シンプルな挨拶ありがとよ! 2人目はDMUからこの人!」


「こんにちは! DMU本部長の吉田志保です! 今日も素敵なモフモフを楽しみにしてます! よろしくお願いします!」


 審査員長からは降りたけれど、審査員の座を譲るつもりはないらしい。


 どんなに忙しくともモフランドやモフリパークに視察の名目でリフレッシュに行くことを忘れない志保はとても生き生きしている。


「モフモフ愛の伝わる挨拶だったぜ! 最後は前回の大会で優勝したこのコンビ!」


「こんにちは逢魔藍大です。今日はリルと一緒に審査員長を務めます」


『ワフン、僕達は審査員として代々木に帰って来たよ♪』


「リルくぅぅぅぅぅん!」


「「「・・・「「ありがたや~! ありがたや~!」」・・・」」」


 いつも通りな真奈は置いておくとして、来場したモフラー達は御本尊でも目の当たりにしたかのように拝んでいる。


 前回のMOF-1グランプリでは”風聖獣”だったが、今は”風神獣”なのだから拝まれても不思議ではないだろう。


「さぁ、これで自己紹介は終わりだ! ここからはMOF-1グランプリのルールを説明するぜ!」


 モフリー武田がMOF-1グランプリのルールについてカメラ目線で説明し始める。



 ・審査員1人あたりの持ち点は5点の合計15点満点

 ・勝負する種目は賢さと身体能力、モフモフアピールの3つ

 ・出場する従魔は事前に茂(鑑定士)にドーピング検査される

 ・出場する主人と従魔は執拗に他の参加者の従魔を脅すような真似を禁止する



 以上4つのルールに則ってMOF-1グランプリは運営される。


 最後のルールが修正された理由だが、従魔同士が競う過程で弱い者いじめが起きないようにするためである。


 前回の大会で弱い者いじめが起きた訳ではないが、起きなかったからと言ってそれが起きるリスクを放置するのは良くないのでルールが修正された訳だ。


「ルールの説明は以上だ! さて、今度は出場者達のコメントを貰うぜ! エントリーナンバー順によろしくぅ!」


 モフリー武田に言われて重治が口を開く。


「今日は参加者としてやってきました。皆様にダニエルの魅力を伝えられるよう頑張ります」


『よろしくね』


 重治とダニエルがコメントすると、会場内であれはあれでいけるという声が聞こえた。


 最初の印象は驚きで埋め尽くされていたが、落ち着いてみると綿毛のモフモフは新しいタイプのモフモフだとモフラー達の興味を引いたらしい。


「次のペア、よろしくぅ!」


「マロンは更に可愛くなって帰って来た。パワーアップしたマロンに乞うご期待」


「チュ~♪」


 マロンが前脚を上げて愛想を振りまくと会場内でちらほらと可愛いコールが聞こえた。


「確かに可愛さが増したように見えるぜぇ。次のペア、よろしくぅ!」


「前回カームは3位でした。今回は優勝目指してもっとカームの魅力を伝えます」


「・・・ピヨ?」


 えっ、何か言ったと言わんばかりにカームは鳴いた。


 相変わらずマイペースに見えるがこれも演技だと思うとカームは策士である。


 実際、会場内はカームのマイペースっぷりにすっかり騙されている。


「相変わらずマイペースだぜぇ。次のペア、よろしくぅ!」


「今度こそ僕達が優勝するんでよろしくぅ!」


「プゥ♡」


 リーアムが今回もモフリー武田の口振りを真似て応じる。


 ニンジャはそれを見てリーアムは今日も素敵だと言わんばかりにリーアムの頬にキスをした。


 ニンジャもある意味マイペースなのだろう。


「やっぱり雌の顔だがそれもまた良し! 最後のペア、よろしくぅ!」


「諸君、私はモフモフが好きだ! そして、モフモフの頂点にガルフを据えてみせよう!」


『本当に困った主人だなぁ』


「ガルフが喋った!?」


「ガルフ君、喋れたんかワレ!?」


「ガルフ君もっと喋ってぇぇぇ!」


 MOF-1グランプリ当日の今日を迎えるまで、ガルフが喋れることは一部の者しか知らなかった。


 だからこそ、会場内ではガルフが喋れると知ってダニエルが喋れるとわかった時よりも騒然とした。


 (ガルフはこれからもっと大変な目に遭いそうだ)


 喋れないよりも喋れた方が意思の疎通ができるから、ガルフが喋れると知って藍大はガルフに同情した。


 リルも藍大の膝の上でガルフに同情的な視線を向けている。


 会場が騒がしくなってもモフリー武田が一向に構わないと言わんばかりにニヤリと笑う。


「面白くなって来たぜ! さあ、第一種目から始めようか!」


 モフリー武田が向けた手の先でスクリーンに第一種目が表示された。

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