第667話 私が、私こそが、シスターだ!

 カームが人化できるようになった翌日、”グリーンバレー”のクランハウスにある結衣の部屋に楽は呼び出されていた。


「楽、MOF-1グランプリ当日の私とマロンの衣装は何にしたら良いと思う?」


「チュ?」


「前回の大会でもそんな話しなかった? 結局いつも通りが良いって結論になった気がするんだけど」


 楽は結衣とマロンの疑問に対してもう答えは出ていたはずと言った。


 その答えを聞いた結衣とマロンがひそひそと話し合う。


「マロン、今の聞いた? 楽はマロンが全裸でテレビに出れば良いって」


「チュー・・・」


 マロンは結衣の話を聞いて楽にジト目を向ける。


 しかも、両腕で胸を庇うような仕草までしている辺り芸が細かいと言えよう。


「いやいや、マロンは元々全裸だったろ。俺は変態じゃないんだから、そのジト目は止めてほしい」


「チュ?」


 そうだっけと惚けるマロンにこいつめと楽がマロンの頭を撫でる。


「チュ~♡」


「むぅ、いくら夫とはいえマロンを雌の顔にさせるとは許されない」


「待て待て。俺は普通に撫でただけだ。俺は悪くない」


「私も撫でろ」


「はいはい」


 このままマロンだけ撫でて結衣に拗ねられると面倒なので、楽は結衣の頭もしっかり撫でた。


 前回のMOF-1グランプリの時はまだカップルだったけれど、日本の全てのダンジョンをテイマー系冒険者が管理したタイミングで結衣と楽は結婚していた。


 2人は長い付き合いであり、これから別れる気もなくなんだかんだで仲良くやっていたからいっそのこと籍を入れてしまおうと覚悟を決めてゴールインしたのだ。


 したがって、今の結衣は小森結衣ではなく菊田結衣であり、第2回MOF-1グランプリにも菊田結衣の名前で参戦する。


 それはさておき、結衣とマロンが満足したところで衣装の話に戻る。


「衣装のことだけど、結衣がポ〇モントレーナーのコスプレでマロンはありのままじゃ駄目なの?」


「シンプルイズベストだと思ってたけど、あのメンバーの中だと私もマロンも個性が弱い」


「うん。うん?」


 結衣の発言に一旦は頷いた楽だったが、よくよく考えてみると本当にそうか怪しかったので首を傾げた。


 重要な話題では必ず中心にいる藍大と食いしん坊な神獣のリル。


 モフラー界で知らぬ者のいない真奈と彼女に付き合わされて苦労するガルフ。


 真奈と結婚するためだけにCN国から飛び出して来たリーアムとリーアム大好きなニンジャ。


 テレビで見かけない日はない女優の白雪とどこまでもマイペースなカーム。


 確かにそれぞれキャラが濃いのは間違いない。


 だが、コスプレイヤーとしても有名な結衣とうっかりヒーラーのマロンがその中に混ざって霞むかと言えばそうでもないというのが楽の正直な感想だった。


 それに加え、今回は殿堂入りした藍大とリルに代わって”ブラックリバー”の黒川重治が参戦する。


 重治の戦略のせいで重治の従魔はまだ明かされておらず、テレビ局もその方が視聴率を上げられると思ってそれを良しとしている。


 だとすると、重治は注目を集めているものの従魔のキャラは定められていない訳で、結衣がコスプレを頑張らなくても良いのではと楽が思うのも仕方のないことだろう。


「ということで、いつものスタイルに加えて2つ候補のスタイルがあるから楽には見てもらいたい」


「へいへい。じゃあ、外出てるぞ」


「結婚したんだし、別に後ろ向いててくれれば良い」


「さいですかってポチとタマがさり気なくドアの前で待機してる。通す気はないのね」


 ポチとタマはわかってくれたかと頷き、楽に近寄って自分達のことも撫でろと言わんばかりに擦り寄る。


 楽がポチとタマをモフっている間に結衣とマロンの着替えが終わった。


「楽、こっち見て」


「はいよ。・・・正気か?」


「おい。それは私のどこを見てそう言ってる?」


 楽のコメントにバニーガール姿の結衣がドスの利いた声で訊ねた。


 残念ながら、結衣はバニーガールの衣装を着るには身長が低いしスレンダーである。


 楽が思わず結衣の胸元に目をやってしまったのは仕方ないとしても、コメントが結衣を傷つけてしまうものなのは減点である。


 その一方、マロンのバニーガール姿は着ぐるみが無理矢理バニーガールのコスプレを着ているようにしか見えなかった。


 これではアピールにならないという判断は間違っていないだろう。


「これは駄目だ。結衣がこんなコスプレしたままテレビに出るのはよろしくないし、マロンに至っては無理矢理感が出てる」


「・・・わかった。次の衣装に着替える」


 自分が楽に大事にされていることはわかったので、結衣は笑みを堪えてムスッとした表情を保ちつつ着替え始めた。


 数分後、自分とマロンの着替えが終わったので結衣は再び楽に声をかける。


「楽、振り返って良いよ」


「了解。巫女服? マロンは頭にシスターっぽい頭巾を被ってるじゃん」


「頭巾はダサい。ウィンプルって呼んで」


「チュウ」


 楽の表現が残念だったため、結衣とマロンは感想を求めるよりも先に楽の認識を正した。


 楽も名前を知らないだけで悪気はなかったのですぐに謝る。


「ごめん。ウィンプルな、ウィンプル。うん、マロンによく似合ってると思うぞ」


「チュ~♪」


 マロンは楽に褒めてもらえて嬉しそうに鳴いた。


 自分にも何かコメントがあるんでしょと目で訴える結衣を見て、楽は続けて結衣のコスプレについてもコメントする。


「結衣も似合ってるぞ。バニーガールは違和感あったけど、巫女服姿は服に着られてるって感じがしなくてしっくり来る感じだ」


「当然。学生時代は巫女のバイトもやってたからね」


「それがコスプレに目覚めたきっかけ?」


「否定はしない」


 結衣がコスプレするきっかけを知ることになるとは思っていなかったが、楽は結衣からコメントに及第点を貰えたらしい。


「インパクトを求めるなら結衣が巫女でマロンがウィンプルで良いと思うぞ。今までと違った服装だから注目も集まるだろ」


「そうする」


「それはそれとして、肝心のマロンのステータスはどうなんだ? MOF-1に向けてLv100に到達させるのはマストなんだろ?」


「楽もマロンのステータスを一緒に見て」


 結衣はビースト図鑑のマロンのページを開いてそれを楽に見せた。



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名前:マロン 種族:アークプリースリス

性別:雌 Lv:100

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HP:2,300/2,300

MP:3,300/3,300

STR:1,500

VIT:1,500

DEX:3,000

AGI:2,000

INT:2,250

LUK:2,250

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称号:結衣の従魔

   ダンジョンの天敵

   物乞い

   到達者

二つ名:コスモフのうっかりシスター

アビリティ:<上級回復ハイヒール><上級治癒ハイキュア><吸収半球ドレインドーム

      <生命接続ライフコネクト><魔弾マジックバレット

      <保管庫ストレージ><自動再生オートリジェネ

装備:シスターなりきりウィンプル

備考:私が、私こそが、シスターだ!

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「こんなに成長してたのか。攻撃手段もちゃんとあるしすごいじゃないか」


「チュチュチュ~♡」


 楽にお腹をこしょられてマロンはとても気持ち良さそうに鳴いた。


「楽がマロン誑しになってる」


「言いがかりは止めてくれ。一体いつ俺がマロン誑しになったって言うんだ?」


 と言いながらも楽はマロンをこしょる手は止めていない。


 わざとやっているので、結衣にジト目を向けられれば冗談だと言って楽はその手を止めた。


「今回の大会は優勝も狙えるんじゃね?」


「勿論狙う。リルさんが殿堂入りして抜けた今、優勝候補のガルフさんに是が非でも食いつく」


「チュ!」


 結衣とマロンの考えは正しい。


 前回のMOF-1グランプリで準優勝だったガルフと11点差だったのだから、食らいつく覚悟で挑まなければ容易に差をつけられてしまうだろう。


「そっか。じゃあ、今回も観客席からクランのみんなと応援に行くわ」


「うん。あっ、そうだ。楽に観客席で着てほしい服があるの」


「おっと、急にトイレに行きたくなって来たぞ」


「大丈夫。抵抗しなければすぐに終わる」


「抵抗って何!? 頼むから俺にまでコスプレを求めないで!」


 この後、楽はI♡結衣&マロンと書かれた緑色の法被を着させられた。


 クランメンバーの分もあると言われたため、楽は自分だけ法被を着るのは恥ずかしいので当日は一緒に応援に行くメンバーに絶対に着させてやると心に誓った。

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