第666話 大変だわ。カームが大きいお友達に狙われちゃう

 翌日の月曜日、有馬白雪はカームを連れて下北沢ダンジョンのルーの部屋に来ていた。


 このダンジョンは”アークダンジョンマスター”のルーが管理しており、”ホワイトスノウ”のお膝元にある。


「ルー、今日もよろしくね」


『了解』


 ルーは<念話テレパシー>を会得しており、白雪との意思疎通に困ることはない。


 白雪が”今日も”と言ったが、これはMOF-1グランプリの2週間前から女優としての仕事を入れずにカームの育成に集中するべく下北沢ダンジョンに通っているからだ。


「カーム、準備は良い?」


「ピヨ」


 いつでも大丈夫とカームは頷いた。


 前回の大会以降、白雪はカームのこともちょくちょく育てており、今のカームはレッサーモフトリスからモフトリスに進化している。


 今はLv95まで成長し、Lv100まであと少しの所まで迫っている。


 これならば他の大会参加者に能力値で負ける可能性も減らせる。


「ルー、早速お願い。Lv90の爬虫類型モンスターにして」


『わかった』


 ルーは白雪に頼まれてノーミードコブラLv90を召喚した。


 ノーミードコブラとはノームの恩恵を受けていると思うぐらい土、岩、金属に関するアビリティを会得している強面の蛇のモンスターだ。


 それに対してカームは中学生ぐらいの大きさの純白のモフモフした雛の見た目をしているため、外見だけ比べてしまうとノーミードコブラの方が強そうに思えてしまう。


「シャアァァァァァ!」


 ノーミードコブラはカームに向けて<鋼砲弾メタルシェル>を放つ。


 カームは慌てることなく嘴で鋼の砲弾を突いて壊した。


 <破壊刺突デストロイスタブ>を使ったのだ。


 しかし、そんな破壊力のあるアビリティを使う素振りを見せずに使ってみせたから、カームにとって<鋼砲弾メタルシェル>を壊すのは余裕のように見える。


 それに加えてカームがアビリティ発動後にドヤ顔を見せたことも誤解を後押ししている。


「シャア゛?」


 ノーミードコブラは沸点が低いようだ。


 丸っこいモフモフした敵に馬鹿にされたと思ってすっかり頭に血が上っている。


「カームって煽るのが上手だよね」


『上手い』


 白雪とルーはカームを見て苦笑した。


 その視線の先ではカームがとても楽しそうに笑っている。


「ピヨッピヨッピヨ~」


 翼を手のように扱い、まるでノーミードコブラを指差してプギャーと笑っているかのようである。


 ノーミードコブラは怒りに我を忘れて<黒剛突撃アダマントブリッツ>を仕掛ける。


「ピヨ」


 カームは<流水反射ストリームリフレクト>で応じ、流れる水を導くように敵の突撃を別の方向へと捌いた。


 それでもノーミードコブラはめげずに突撃を繰り返し、カームはそれをおちょくるように反射していく。


 何度も攻撃を反射されれば流石に頭が冷えると思いきや、ノーミードコブラの怒りはどんどん増していく。


 どうしてこんなふざけた奴に一撃も与えられないのかと悔しがる気持ちが怒りに結びついているらしい。


 ノーミードコブラは点の攻撃、線の攻撃が通じないならば面の攻撃で攻撃してやると<隕石雨メテオレイン>を発動した。


「ピヨ!」


 カームは<尖氷乱射アイシクルガトリング>で小さい隕石の雨を砕いた。


 その隙を狙ってノーミードコブラはカームに突撃して丸呑みにしてやろうとする。


 ノーミードコブラはこれで勝ったと油断した。


 カームはこの時を待っており、ニヤリと笑みを浮かべて<流水反射ストリームリフレクト>で突撃して来るノーミードコブラを地面に叩きつけた。


「シャア!?」


 隙だらけのように見えて誘っていたカームの策略に気づき、ノーミードコブラは驚きを隠せなかったがもう遅い。


 <破壊刺突デストロイスタブ>で集中的に頭部を攻撃され、やがてノーミードコブラは力尽きた。


「ピヨ」


 少しだけ手間取ってしまったと言いたげに見えるけれど、白雪は戦いを終えて戻って来たカームを労うのを忘れない。


「カーム、お疲れ様。無傷でLv90のモンスターを倒せるなんてやるじゃん」


「ピヨ♪」


 白雪に頭を撫でてもらってカームは嬉しそうに鳴いた。


 他人相手では全く動じないカームも白雪の前では素直なのだ。


 白雪はモフラーではないから、カームが嫌がるまでモフモフすることはない。


 カームが満足するまでモフモフした後、白雪達はノーミードコブラを解体する。


 そして、魔石は当然のことながらカームに与えられた。


 カームが白雪から魔石を与えられて飲み込んだ直後にモフみが増した。


「またモフみが増しちゃったね」


「ピヨ?」


 真奈にモフられる心配があるからそう言ったが、カームはMOF-1グランプリに向けてモフみが増すのは良いことではと首を傾げた。


 白雪はカームの頭を優しく撫でてからバード図鑑でそのステータスを確認し始めた。



-----------------------------------------

名前:カーム 種族:モフトリス

性別:雌 Lv:96

-----------------------------------------

HP:1,940/1,940

MP:1,840/2,440

STR:1,940

VIT:1,840

DEX:1,940

AGI:1,840

INT:1,640

LUK:1,740

-----------------------------------------

称号:白雪の従魔

   ダンジョンの天敵

二つ名:白雪姫のふてピヨ

アビリティ:<破壊刺突デストロイスタブ><尖氷乱射アイシクルガトリング><自動竜巻オートトルネード

      <流水反射ストリームリフレクト><口笛ホイッスル

      <鳥人切替バードマンチェンジ><全耐性レジストオール

装備:なし

備考:アビリティ欄に注目!

-----------------------------------------



 白雪は備考欄に記された通りアビリティ欄を詳しく見て驚いた。


「カーム、人化できるようになったの!?」


「ピヨ!」


 短く鳴いたカームは早速<鳥人切替バードマンチェンジ>を発動した。


 それによってカームが光に包み込まれ、光の中でカームのフォルムがどんどん人に近づいていく。


 光が収まって姿を現したのは腕から羽毛が生え、モコモコした白いタンキニを着た白髪の幼女だった。


「大変だわ。カームが大きいお友達に狙われちゃう」


「私、可愛い?」


「可愛いのは間違いないよ」


「ドヤァ」


「よしよし」


 ドヤ顔を見ると人化した今でもカームっぽい感じが出るのは不思議である。


「でも、どうしよっか。まさかカームが幼女になるとは思ってなかったわ。PVも今の姿を盛り込んだ方がインパクトの面で負けないよね」


「満点不可避」


「すごい自信ね。まあ、その通りなんだけど」


 普段はピヨピヨ言っているだけだったから、いざ人語を話せるとなった瞬間にカームの自信家な発言に白雪は少しだけ驚いた。


『カーム、MOF-1グランプリは大会なんだから満点で当然なんて態度は駄目だ。ちゃんと擬態しなよ?』


「わかってる。というかルーの言い方酷い」


『擬態と言っても過言じゃない』


「否定はしない」


 白雪よりもルーの方が元々カームの鳴き声の意味を理解していた。


 それゆえ、カームがあざとく擬態しているのならバレないように演じきれと言った訳だ。


 このやりとりには白雪もどうコメントして良いかわからなかった。


「白雪、どうしたの?」


「カームのキャラをわかってたつもりなんだけどわかってなかったなって思ってたところ」


「大丈夫。白雪を見て育ったから演技は得意」


「そうだけどそうじゃない」


 女優の従魔は女優だった。


 白雪は頭では理解できても納得はできていない。


「演じないと誰も私のことを見てくれないでしょ?」


「モフラーは見てくれるよ? というか、MOF-1グランプリはモフラーばっかりが集まるよ?」


「そうだった・・・。でも、モフモフ界を生き残るにはキャラ付けが大事」


 カームの言い分を白雪は否定できなかった。


 モフモフ界も人気がある従魔はどれもキャラが必ずある。


 リルならば無邪気な食いしん坊。


 ガルフならば苦労人気質。


 ニンジャならばソフトヤンデレ。


 マロンならばうっかりヒーラー。


 そう考えるとカームも図太くマイペースなキャラはなくてはならない。


 ただ可愛いとか強そうなだけではファンができないのだ。


 MOF-1グランプリではキャラの強いモフモフが集まるのだから、ここでキャラを自分からなくすのは下策でしかない。


「・・・決めた。人化はPVだけにしましょう。ギャップでインパクトを与えるのもそうだけど、PVを流すよりも前に人化したらインパクトに欠ける」


「わかった。じゃあ元の姿に戻るね」


 カームは白雪の言い分に納得してモフトリスの姿に戻った。


 今回の大会ではそれぞれの参加チームがパワーアップしているのは間違いなく、激しいものになるのは間違いないだろう。

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